合同合宿編
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その言葉を聞いて、私はようやく冷静になることができた。
というか、軽くパニックになっていた自分に気がついた。
室町くんがそんな私のために話を元の話題にそらそうとしてくれたことにも。
でも…。
私が言ったことに対してはどう思ってるんだろう。
さっきのことを思い出して、また鼓動が速くなりかける。
すると、室町くんがフフッと笑った。
「さっき言ってた事と頼み事って何か関係あるんだろ?
名無しさんのこと未熟だとか言ったのは冗談だけど、遠慮なく何でも言ってっていうのは本当。
だからほら、言ってみてよ」
……すごい。
あんなにハラハラしてたのに、それが全部無くなっちゃった。
私が話しやすい空気を作ってくれたんだ…。
『…うん、ありがとう。
それじゃお言葉に甘えて』
「どうぞ」
やっぱりちょっと緊張するけど、最初よりはずっと言い出しやすい。
室町くんのおかげだな。
断られた場合のことは…、あんまり考えない!
よーし!
『合宿が終わったあとも、私にテニス教えてくださいっ!』
「いいよ」
『あ、ホント?ありがとう』
「いいえ。
じゃあ後で連絡先交換しないとな」
『うん、そうだね……………………って……。
えーーーーーーっ!?』
素早く耳をふさぐ室町くん。
今朝もこんな光景見たな…とか冷静に考えてる場合じゃなかった。
『速っ!即答!?』
思わず普通に会話続けちゃったよ。
「別に普通だったと思うけどな。
それより、びっくりしすぎだって。誘ってきたのは名無しさんのほうなのに」
『それは、そうだけど…』
室町くんらしい淡々とした受け答えに、すっかり拍子抜けしてしまった。
「俺への頼みってそれだけ?」
『えっ?あ、うん…』
「そっか、それならよかった。
俺が叶えてあげられる事だったな」
『うん、ありがとう…』
「それじゃ、カレー食べようよ。
なんかさっきより腹へってきた」
もぐもぐもぐもぐ…。
「うん、うまい」
……………………。
やっぱり室町くんて…、なんだか面白い人だ…。
『室町くん』
「んー?」
もぐもぐしながら私を見る室町くん。
『急にこんなこと言われて、迷ったり困ったりしなかったの?』
答えがどっちだったとしても、少しくらいは迷うと思ったのに。
すると室町くんは飲み込んでから、またまたあっさり答えた。
「しなかった」
『そ、そうなんだ』
「明日の朝の約束で、もう抗体できてたし」
『あ、なるほど…』
そっか、それはあるかも。
私、今朝もお願いしたんだもんね。
…いやいや、でもやっぱり、合宿中に関わるのと終わってからも関わるのとじゃずいぶん違うと思うけどな。
「迷ったり困ったりしてほしかった?」
『え!まさか。そんなわけないよ』
「だろうな」
『えっ?』
「名無しさん、すごく緊張してたし。
不安だったんだろ?俺を迷ったり困ったりさせるんじゃないかって」
う…。
やはりバレていたか…。
「…あのさ。
俺相手にいちいち緊張なんてしなくていいよ」
『えっ』
「知り合ったばっかりだけどさ、同じ二年なんだし、もっと気楽にしなよ」
『でも…』
「まぁ、急に言われても無理か」
『そうだよ、無理無理』
「じゃあ、少しずつってことで」
室町くんはサラダをちょいちょいといじりながら、小さく笑った。
「これからもまた会うことになったわけだし」
室町くんの笑顔とその言葉がすごく嬉しくて。
私は即座に返事をしていた。
『うん、そうだね!』
あー、嬉しい!
勇気だしてよかったなー。
はぁ…、緊張がほぐれたら、なんだかお腹すいてきちゃった。
私はまだお皿に残っていたカレーとサラダをどんどん口に運んだ。
『あー、おいしー!』
「名無しさんはどれ作ったの?」
『私は竜崎さんと二人でサラダを作ったんだ。
カレーは小坂田さんと男の子たちが作ったんだよ』
「へぇ。
それじゃ小坂田さん大変だっただろうな」
『うーん、どうだろう。
だけど楽しそうだったよ。ビシバシ指導してた』
「…………………。
大変だったのは男子のほうみたいだな」
それから私と室町くんは他愛ないことをいろいろ話しつつ、ごはんを食べた。
その中で室町くんは、カレーとサラダをおいしいと誉めてくれた。
ただおいしいって言ってもらえるだけで十分嬉しいのに、こういうところが好みだとか具体的に言ってくれて。
練習で疲れたみんなに少しでもおいしく食べてもらおうとお手伝いメンバーのみんなで頑張って作ったから、すごく嬉しかった。
『ねぇ、室町くん。
室町くんが言ってくれたこと、お手伝いメンバーのみんなに話してもいい?』
「いいけど…、なんでわざわざ?」
『ふふ、絶対みんなすごく喜ぶから』
一年生たちが喜ぶのを想像しただけで、口元がほころぶ。
『あとで伝えてあげようっと。楽しみだなー』
「………」
『?
室町くん、どうかした?』
「…ううん、何でも。
そっか、喜んでくれるといいな」
『うんっ』
ウキウキした気持ちで食べているうちに、お皿は空っぽに。
もう少し食べたいし、おかわりしてこよう。
そう思ったとき、ちょうどいいタイミングで室町くんから尋ねられた。
「名無しさん。
まだカレーとサラダ、残ってる?」
『あ、おかわり?
まだ残ってるはずだし私もおかわりしようとしてたところだから、室町くんのぶんもよそってくるよ』
そう言って室町くんを見ると、なぜかものすごく怪訝な顔をしていた。
『あれ…、もしかしておかわりじゃなかった?』
「それは合ってるけど…。
まさかトレーふたつ持つつもり?」
『え?う、うん』
室町くんが遠い目をしてる気がする…見えないけど。
「トレー落としたらどうする気?」
『うっ…、そ、それは…なきにしもあらず…』
「注意散漫になって転びでもしたらどうする気?」
『それも…なきにしもあらず……』
「というわけで、俺も行くよ」
『はい、お願いします』
「うむ。
では私についてくるがいい」
『はいっ、師匠!
自分はどこまでも師匠についていく所存であります!』
おかしそうに笑いながら席を立つ室町くん。
私も立ち上がって、トレーを手に二人で厨房のほうへと向かった。
「名無しさん、ノリよすぎじゃない?
まさか瞬時に乗ってくるとは思わなかった」
『室町くんこそ。
まさか突然あんな振りしてくるとは思わなかったよ。
…さすが師匠です!』
「うむ。私にかかれば赤子の手をひねるようなものだ」
すました顔でそんなセリフを言う室町くんが面白くて、私は笑いだしてしまった。
「ちょっ、トレー持ってるのにそんな笑ったら危ないって」
『だ、だっておかしいんだもん……ププッ』
「はぁ、もう…しょうがないな」
ふと気がつくと、室町くんが私のトレーにさりげなく手を添えてくれていた。
…………………。
合宿の後の約束、できてよかった。
いつか室町くんとも、鳳くんみたいに友達だって思いあえるようになれたらいいな。
「俺、大盛りにしよ」
『えっ、そんなに?』
「だって腹へってるし、うまいし。
サラダもー、大盛りー」
こころなしかリズミカルに言いながら、料理をどんどんお皿に盛っていく室町くん。
そんな様子を見て、私はまたまた笑ってしまうのだった。
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