合同合宿編
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『室町くん、お待たせー』
「あぁ、いらっしゃい」
『あれ?
もしかして食べるの待っててくれたの?』
「まぁ、一応ね。
一緒に食べるって約束したし」
『ごめんね、先に食べててって言えばよかった』
「いいよ、このくらい。
じゃあ食べようか」
『うん、そうだね』
「いただきます」
『いただきます』
今、私は室町くんと二人で一緒に夕食のカレーライスを食べている。
どうしてこういう状況になったかというと……。
――午後の練習終了後。
無事に今日の練習も終わって、選手のみんなが引きあげていく。
私はその中に室町くんの姿を探していた。
というのも、室町くんにお願いしたいことがあるからなんだけど…。
……あっ、いた!
『室町くーん!』
よかったー、一人だ。
誰かといたら声かけづらかったし。
「…ん?
あ、名無しさん。お疲れさま」
私に気づいた室町くんは、タオルで汗を拭いながら笑顔を向けてくれた。
『室町くんのほうこそ、お疲れさまでした!』
「いえいえ。
それで、どうかした?何か俺に用?」
『あ、うん。
実はね、ちょっと室町くんにお願いしたいことがあって』
「俺に頼み事?」
『うん。あのね、えーっと…。
よかったら今日の晩ごはん、一緒に食べない?』
…と、今の状況は私が室町くんを誘って、室町くんがOKしてくれた結果なのだ。
とはいえ、私の誘いに室町くんが何の迷いもなく応じたわけじゃなく…。
―――――――――
「俺と?
それはいいけど…、ちなみに他にも誰かいるの?」
『ううん、いないけど…。
あ、えーっと…他にも誰か、誘ってみるね』
「あ、違うよ。二人なのが嫌ってわけじゃないんだ。
ごめん、ちょっとびっくりして」
―――――――――
…というやりとりがあったのだ。
室町くんが戸惑うのは当たり前だと思う。
食堂でみんながいる中で男子と女子が二人で一緒に食べてたら目立つし、そりゃ抵抗あるよね…変な勘違いされたら嫌だろうし。
私もそれを全然考えなかったわけじゃないけど、朝に一緒に練習してたこともみんなにもう知られてるし、今さら誤解されることはないかなぁと思ったんだよね。
でも室町くんはやっぱり嫌だったのかな…。
そもそも頼み事をするだけなら立ち話でもいいんだけど、単純に私が室町くんと一緒にごはん食べてみたかったっていうか…。
そういう気持ちもあったから、それがいけなかったのかも…。
うー…。
やっぱり誘うべきじゃなかったかな?
だけど室町くんて面白いし、一緒にごはん食べられたら楽しいだろうなって…。
お願いしたいこともあったから、その場で言えるわけだし…。
…………………。
どうしよう……。
普通にごはん食べるだけにするべき?
ま、迷ってきた……。
「おーい、どうしたー」
突然、すぐ目の前でヒラヒラと手が振られた。
『あっ…。
ご、ごめん。ちょっと考え事してた』
いけない、いけない。
自分から誘っておいてボーッとするなんて。
いつのまにか止まってしまっていた手を動かして、カレーを口に運ぶ。
「…ごめん、俺のせいだよな」
『え?』
「考え事って、さっきのことだろ?
名無しさんが一緒に食べようって声かけてくれたとき、俺が変なこと言ったりしたから」
室町くんの眉尻が少し下がっていて、心配そうな表情に見える。
『そ、そんなことないよ。
室町くんは変なことなんて言ってないよ』
できるだけ冷静に返したつもりだったけど、思いっきり図星を言い当てられた私は、きっと動揺を隠しきれていない。
「本当に、嫌だったわけじゃないんだ。
女子にそんなふうに言われるとか、やっぱりびっくりするって、普通の男は」
それは…確かにそうだよね。
私だって逆の立場なら同じように思うかもしれない。
「だからたぶん他にも誰かいるんだろうと思ったんだけど…。
でも俺に頼み事があるなら二人だっていうのもあり得るよなーって、後から思ってさ。
それくらいすぐ気づけって感じだよな、本当にごめん」
申し訳なさそうに私に謝る室町くん。
『そ、そんな、謝らないで。
私のほうこそ、まぎらわしいことしてごめんね』
私はただそう言うしかなかった。
単純に室町くんと一緒にごはんを食べたかったっていう、もうひとつの願望があったとは恥ずかしくて本人にはとても言えない。
だけど私の言葉に室町くんは少し安心してくれたみたいで、表情が和らいだのが分かった。
その様子を見て、私もホッとした。
室町くんは何も悪くないし、おまけに隠してる本音はあるしで、胸が痛かったから。
「名無しさんのほうこそ謝る必要なんてないよ。
でもそう言ってもらえるなら、頼み事についてさっそく話してみてよ。
俺が叶えてあげられる頼みならいいんだけど」
『う、うん。
というか、室町くんしか叶えられないお願いだよ』
「え、そうなのか。
それは責任重大だな。聞くの、ちょっと緊張してきた」
こっちも緊張するよ。
だって室町くんへのお願いは…。
室町くんはスプーンを置いて、私の言葉を待ってくれている。
早く言わなきゃと思うけど、サラッとは言えない。
今日の朝、一緒に練習したときに感じた、あのすごくワクワクした気持ち。
テニスが面白いって知ることができたのは、もちろんその理由のひとつ。
でもそれだけじゃないなって、後から考えるとすごく思う。
あのとき教えてくれたのが室町くんだったから。
だから余計に楽しかったんだ。
室町くんの教え方は本当に分かりやすいし、その上面白い人だし、話しやすいし。
もっとあんな時間を持つことができたらなーって、そう思った。
だから明日の朝も教えてもらう約束をしたわけだけど…。
明日の朝が終わったら、きっと思うはず。
終わっちゃったな、って。
きっと、絶対そう思うはずだから、先回りしてお願いしておこうと思ったんだ。
この合宿が終わったあとも、またテニス教えてください!って。
『えっと…、もう明日で合宿終わりだね』
私は内心ものすごくドキドキしながら口火をきった。
「そうだな」
そんな私の心境を知ってか知らずか、相変わらずサラリと答える室町くん。
『あの…ね。
合宿終わっても、また室町くんに会えるかな』
「えっ」
室町くんの口から驚いたような声が漏れた。
…あ!
な、なんか変な言い方しちゃった!
これじゃまるで、また会いたいって言ってるみたい…。
…って、確かにまた会いたいんだけど!
でも今のは違う!
今の言い方じゃ、なんだか…。
なんだかちょっと…告白しようとしてるみたい……。
は、恥ずかしい…!
「あのー、名無しさん?」
ど、どうしよう、何か言わなきゃ。
「ちょっとー?名無しさん?」
えーっと、えーっと…。
あぁ、もうどうしよう!?なんて言ったら……。
「名無しさーん、聞こえてる?…って、全然聞こえてないな、これは。
しょうがない、この手を使うか」
そのとき、恥ずかしくてうつむいていた私の視界の色が、突然変わった。
『え……』
何が起きたのか分からなくて硬直してしまっていると、すぐ近くで笑いが混じったおかしそうな声が聞こえてきた。
「さて、あと何秒で気がつくかな」
………………………………。
…………ハッ!
こ、これはっ!!
それが室町くんのサングラスをかけられたからだと分かった私は、慌てて顔をあげた。
まだ見たことのない、幻の?室町くんの素顔が見られる…!
――シュタッ
だけど顔をあげて室町くんの顔を見たときには、既にサングラス装着済みで。
『は、速いっ!』
「フフーン。甘いな」
元通りの色に戻った視界の中で、室町くんは自慢げに大げさな仕草でクイッとサングラスを上げてみせた。
「さぁ、そんなまだまだ未熟な君の願いをこの俺が聞いてあげよう。
遠慮なく何でも言ってごらん」
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