合同合宿編
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「名無し、これ跡部に渡してきてくれ」
『あっ、はい、分かりました』
「おーい、名無しさーん」
『はいっ!今行きます!』
昼休みが終わって、午後の練習が始まった。
午前から引き続き、練習試合が主に行われる。
時間が空いているときは、自主練習するなり休憩するなり、それぞれの意思で自由に過ごしていいことになっている。
他校の人達にも気兼ねなく声をかけてもらえるようになって、私は忙しく仕事をしていた。
はー、つ、疲れた…。
でも、午前の練習のときよりもみんなの役にたてるようになった気がする。
嬉しいなぁ。
…よし、頑張ろう!
えーっと、次は……。
「おっ、いたいた」
気合いを入れ直して歩き出したとき、後ろからポンッと肩を叩かれた。
『あ、桃城くん』
「よっ」
振り向いた私に、笑顔で片手を軽くあげる桃城くん。
「忙しそうなとこワリィけど、お前に頼みたいことがあるんだ」
『うん、何でも言って』
「俺、今から千石さんと試合すんだけど、来てくれねーか」
『うん、大丈夫だよ。でも途中で私、休憩時間になっちゃうから、そこからは誰か他の人に頼んでもいい?
たぶん誰か手が空くと思うから』
「そっか、そりゃちょうどよかった」
『え?』
てっきり練習試合の手伝いをしてほしいっていうことだと思った私は、聞き返してしまった。
「俺の言い方が悪かったな。
手伝いじゃなくて、見に来てほしいんだよ」
というわけで…。
なんだかよく分からないけど、休憩時間に入った私はとりあえず桃城くんたちがいるコートへと向かった。
見に来てほしいって、どうしてだろう。
観客が多いほうが燃えるとかそういうことかな?
いろんな人の試合を見てみたいと元々思ってたし、私はいいんだけど。
目的のコートに近づくと、まさに試合の最中で、見学している人たちの中に越前くんの後ろ姿を見つけた。
『越前くんも見学?』
「…どうも。
俺、次ここで試合だから」
『あ、そうなんだ』
たいして表情も変えずに振り向いた越前くんの隣に立つ。
『一緒に見てもいい?』
「別にいいけど」
『ありがとう』
そのとき、コートの中から桃城くんの大きな声が聞こえてきた。
「おー!名無し、来てくれたのか!待ってたぜ!」
こっちに向かって笑顔でブンブン手をふる桃城くん。
その場にいるみんなの視線が、一気に私に集まった。
うっ…。
は、恥ずかしい…。
だけどそのまま何もせずにいるわけにもいかず、私は桃城くんに手をふりかえした。
……越前くんの後ろに隠れて。
そしてそのままなんとなく千石さんのほうを見ると、この場に私がいることに驚いたのか、かすかに目を見開いた千石さんと思いきり目が合った。
私が会釈すると、千石さんはニコッと笑って手をふってくれた。
「…ねぇ。
いつまでそうしてるつもり?」
『あ!
ご、ごめん。つい…』
慌てて越前くんから離れる。
「…まぁ、いいけど」
咄嗟のことだったとはいえ馴れ馴れしく近づいてしまって、怒ってないかと不安になって越前くんの表情をうかがってみたけど…。
帽子の下からのぞくその目からは、やっぱりよく感情が読めなかった。
「アンタ、桃先輩に呼ばれたんだ」
越前くんから冷静な声で質問される。
『うん、そうだよ。
桃城くんて、見てる人が多いほうが燃えるんでしょ?』
「桃先輩がそう言ったの?」
『ううん。
違うけど、わざわざ私にまで声かけるくらいだからそうだろうなって』
「ふーん…」
越前くんが何か考えながら返事をしているように見えて、少し不思議に思ったけど…。
コートのほうに視線を移した越前くんにならって、私もコートへと目を向けた。
すると、コートの中央で桃城くんと千石さんがネットを挟んで何か話していた。
「桃城くん、どうして名無しさんをここに連れてきたんだい?」
「決まってるじゃないすか。本気の千石さんに勝つためですよ」
「え、本気のオレ?」
「そうっすよ。
練習試合っていってもやるからには勝ちたいんすけど、相手が本気じゃなきゃ意味ないんで」
「へ~。考えたね、桃城くん」
「でしょー?
あいつがいれば千石さんは負けるわけにはいかないっすもんね」
「そうだね~。
でもそれはキミも同じなんじゃないかい?」
「えっ?どういうことっすか?」
「キミ、名無しさんのこと、ちょっといいなと思ってるんだって?」
「なっ!なぜそれを…」
「菊丸くんから聞いたんだよ」
「クチ軽っ!英二先輩、クチ軽っ!
ひでーな、ひでーよ」
「まぁ、いいじゃない。女の子の前でカッコつけたいのは男のサガだしね~。
それが気になる子なら、なおさら」
「べ、べつに俺はそこまでは…」
「そうなんだ。
じゃあこの試合、オレが勝つって決まったね」
「む…。自信満々っすね」
「もちろん。
だってオレは、名無しさんのことがすごく気になるから」
「なっ…」
「だから負けないよ」
?
なんか…二人ともチラチラこっちを見てるような…?
『越前くん、二人ともどうしてこっち見てるんだろうね』
「…………」
越前くんは何も答えずに、私をじっと見つめてきた。
えっ。
な、なに?
「…やっぱり俺の考えすぎか」
ポツリとそうつぶやいて、ため息をつく越前くん。
『あ、あの…。
越前くん、どうしたの…?』
「アンタにだけは言えない」
『え!ど、どうして?
もしかして私、何かしちゃった…?』
さっき越前くんの後ろに隠れたりしたから、やっぱり怒らせたんだろうかと不安になっておそるおそる聞いてみる。
だけどそんな私とは正反対に、越前くんはあっさりと答えた。
「べつにアンタは何もしてない。
俺がアンタのこと考えすぎてただけ」
『えっ』
私のことを考えすぎてた、って……。
それって…。
脳裏をあり得ない考えが一瞬よぎった。
…けど。
その次の瞬間、それを振り払う。
わ、私のバカ!
そんなことあるわけないよ!
あー、もう!ホントにバカバカ!
この動揺を私が隠しきることができるはずもなく…。
それが越前くんにも伝わってしまったらしい。
「あ…!
ち、違う。そういう意味じゃ…ないから」
越前くんが珍しく慌てた様子でそう言った。
気のせいか、その頬がかすかに赤い。
『だ、大丈夫、分かってるよ』
「なら…いいけど」
『う、うん…』
「…………」
『…………』
会話が途切れて、ふいっと顔を背けた越前くんの耳が赤いことに気がつく。
越前くんが赤くなるなんて…。
うー…、き、気まずい…。
『ね、ねぇ。
二人とも、すごくうまいね。ねっ!』
重い沈黙をなんとかしようと、私は試合を再開したコートの二人に話題を移した。
越前くんがそれに乗ってくれることを期待してたんだけど…。
返ってきたのは予想外のリアクションだった。
越前くんは小さく吹き出すと、肩を揺らして笑いだした。
「…何?その話のそらし方。ヘタすぎ」
『う…』
「噛みすぎ。焦りすぎ。顔ひきつってる。冷や汗かいてる。声うわずってる。早口になってる。目が泳いでる」
『ううっ…!』
バレバレだった…………。
ガーン……。
「まぁ、いいんじゃない?
ずいぶんマシな顔になったし」
『え?顔…?』
「そう。
午前中、アンタひどい顔してたから」
『…っ』
午前中……。
日吉くんとのことが頭をすぎる。
……………………。
ダメだな、私…。
もう諦めようって決めたのに、六角のみんなのおかげでだいぶ元気になれたのに、思い出すとやっぱり…胸が痛い。
『ごめんね、越前くん』
「何のこと?」
『そんなひどい顔で周りをうろつかれてたら、迷惑だったでしょ?』
「………別に」
『ううん、迷惑だよ。だから…ごめんね』
「…俺はただ、ひどい顔してるなと思ってただけだし」
いつもはもっとスラスラ言葉にする越前くんの歯切れが悪い。
私に気を遣ってるんだと分かる。
『越前くんはあんまり顔に出ないよね』
「そう?」
『うん、羨ましいな。
私も越前くんみたいだったらよかったのに』
「なんで?」
『それは…やっぱり恥ずかしいし』
「恥ずかしい?」
『思ってることとか周りの人にすぐ伝わっちゃうのが恥ずかしくて』
「ふーん」
でも、それだけじゃなくて…。
『それとね、迷惑かけたり気を遣わせたりしたくないから』
そう…。
今だって越前くんに、さっきは六角のみんなに、気を遣わせた。
『暗い顔してたら、やっぱり周りの人は心配したり気遣ったりすると思うんだ。
だから、そういうのうまくコントロールできたらいいのになーって』
「それって、誰かに直接迷惑だって言われたの?」
それまでしばらく静かに聞いていてくれた越前くんが、突然そう尋ねてきた。
『それは、ない…けど』
「俺、言わなかった?
それ決めるのはアンタじゃないって」
『え?あっ…』
そういえば…、確かに言われた。一年生の会のときに。
葵くんと壇くんが私のした事に大げさすぎるくらいに感動してくれて、ちょっと戸惑ってたとき…。
――“いいんじゃない?おとなしく感動されてれば”
――“それ決めるの、アンタじゃないでしょ”
――“受けとる側が決めることだから”
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