合同合宿編
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葵くんを見ていると、何かしてあげたい、喜ばせてあげたいっていう気持ちが自然と大きくなっていく。
私相手にこんなに照れたり一生懸命になってくれるのは素直に嬉しくて、そんな葵くんを可愛いなと思う。
他の男の子にはなかなか出来ないようなことも、葵くんにだったら出来る気がする。
…………………。
よ、よーし!
ここは年上の私が頑張るところだ!
私は葵くんとの間にあった微妙な距離を、意を決して一気に縮めた。
お互いの肩がピタリとくっつく。
「えっ!!!!!!!!!!!」
びっくりした葵くんがこっちを見ているのが分かる。
だけど私は絶対に葵くんのほうは向けない。
だって今私まで隣に顔を向けたら…。
顔が近すぎて…。
………………………。
うぅ~、どうしよう。
想像以上にドキドキするよ…。
「おおっ!
み、見たか?ダビデ!」
「うぃ。今まさに見てる」
「ハハッ、大胆なんだなぁ、名無しさんって」
「…名無しさんもサエには言われたくないと思うのね」
「クスクス…。
しょうがないよ、いっちゃん。サエだから」
「そうだったのね…。
でも名無しさんのおかげで、剣太郎も楽しそうなのね」
「クスクス…。そうだね。
…名無しさん、ありがとう」
六角のみんながワイワイと盛り上がってるのが視界の隅に映ったけど、今はそれどころじゃなかった。
大丈夫だと思ってたし覚悟を決めたつもりだったけど、いざ実行してみるとやっぱり恥ずかしい。
くっついたままの肩と腕から、私の緊張が伝わっていませんように…。
「…ありがとうございます」
『え…』
隣から聞こえてきた、いつもより少し落ち着いた葵くんの声に、反射的にそっちへと顔を向けてしまった。
『あっ…』
ど、どうしよう…。
顔が……。
思っていたよりずっと近くにある葵くんの顔。
それはさっきの声と同じように普段と比べて大人っぽくて、ちゃんと男の子で…。
そう意識した途端、心臓の音がどんどん速くなっていく。
気がつくと、私は葵くんから離れてしまっていた。
またそこに微妙な距離が生まれて、何も言えないまま葵くんをただ見つめていると、そのきれいな目がまっすぐに私を見つめ返してくれた。
「名無しさん…、ありがとうございます。
本当は男の僕が勇気を出さなきゃいけないのに」
『あ…。い、いえ…大丈夫です…』
なんだかフワフワした気持ちのままそう答えると、葵くんは照れたように、でも幸せそうに笑った。
「どうして、敬語なんですか?」
『あっ、そうだよね。
ご、ごめん、つい…なんとなく…』
「そうなんですか?
でも…僕は得した気分です」
『えっ。ど、どうして?』
「エヘヘ、いつもと違う名無しさんを見ることができました」
私を見つめてほほえんだまま、一段と赤く染まる葵くんの頬。
…………………。
葵くん……。
なんて可愛い子なんだろう………。
「よしっ、いいぞ、剣太郎!」
「もうひと押し」
「ハハッ、いい感じだなぁ、二人とも」
「すっかり仲良しなのね」
「クスクス…。
頑張ったね、剣太郎」
葵くんのその笑顔は心からのものだと伝わってきて、向けられた私まで幸せな気持ちにしてくれて…。
ふと気がつくと、いつのまにか私も一緒に笑っていた。
「クスッ。
うん、すごくいい写真が撮れそうだよ。
二人とも、準備はいい?」
「はい!」
『はいっ』
葵くんと顔を見合わせてほほえみ合ったあと、不二さんのほうへと向き直る。
今度はお互いに少しずつ歩み寄って、一旦生まれた距離はまた無くなった。
そしてすっかり肩の力が抜けた私たちは、自然に笑うことができて、そのまま不二さんに何枚か写真を撮ってもらうことができた。
それにしても…。
うーん…、今更だけど私、よく自分から男の子にくっつくなんてできたなぁ。
私はあのとき、葵くんに何かしてあげたいって思ったし、年上の私が頑張らなきゃって思った。
その気持ちは確かにあったけど、でもそれだけじゃないのかもしれない。
たぶん、きっと…。
少し図々しいかなって思うようなことも、葵くんなら受け入れてくれるっていう気がするから…。
…そう、きっとそうだ。
そういうふうに安心できるから、あんなことができたんだ。
…あれ?
これってもしかして……。
「それじゃあ最後に、もう一枚撮ろうか」
もしかして、私……。
「葵くん、名無しさん、いい?撮るよ」
葵くんに……甘えてる?
「はい!お願いします!」
『あ、お、お願いします!』
私、葵くんが甘えてくれるのは嬉しいと思った。
葵くんは頑張りやさんで一生懸命でまっすぐで素直な、すごく可愛い男の子。
そんな男の子に慕われて、嬉しくないはずがなくて。
だから私もできることはしてあげたいなって思ってた。
もし葵くんが喜んでくれるなら、甘えてくれたら嬉しいなって。
だけど、それは少し違ってたみたい。
私が何かしてあげられるはずだって思わせてくれたのは、葵くんだ。
葵くんが本当に純粋に慕ってくれるから、私は安心して接することができてたんだ。
そんなふうに安心させてくれたのは、葵くん。
…そっかぁ……。
私のほうが先に、もうとっくに葵くんに甘えてたんだなぁ…。
―――――ガシッ
そのとき、背後から肩に腕をまわされた。
一瞬葵くんかと思ってびっくりしたけど、ついさっきまで照れてた葵くんがまさか急にこんなことしないよね?!と思った瞬間、もうずいぶん耳慣れた明るい声がすぐそばで聞こえた。
「おまえら、最後の一枚は俺たちも混ぜろよ」
いつの間にか私たちのすぐ後ろに六角のみんながいて、黒羽さんが葵くんと私の肩に腕をまわして笑っていた。
すると他のみんなも私たちに声をかけていく。
「邪魔するぜ」
「剣太郎、名無しさん、俺たちも一緒に入れてね」
「よろしくなのね」
「クスクス…。
もちろん、いいよね?
さんざん二人で撮ったんだから」
みんなの勢いに押されて葵くんと私がすぐに返事できずにいると、木更津さんが優しく…、たぶん優しくほほえんだ…と思う。
「…もちろん、いいよね?
さんざん二人で撮ったんだから」
!!?
二回言った……!!
な…、なんだろう。
今、寒気が……。
「も、もちろんいいですよ、亮さん」
『ど、どうぞ』
葵くんも何かを感じとったらしく、引きつった笑顔で即座に答えた。
すると木更津さんが満足げにうなずいた。
「そう、どうもありがとう。
なんか悪いね、気を遣わせたみたいで」
「いっ、いえ…」
『いえ……』
木更津さん…。
いろいろ話して、どんな人なのかちょっと分かったような気もしてたけど、やっぱり…。
つかめない人だ………。
それから私たちは不二さんにも一緒に写ってもらうべく、みんなで三脚の代わりに使えそうな場所を探し出して、そこにカメラを置いた。
「本当に僕も入っていいの?
せっかく君たちの記念なのに」
そんな遠慮気味な不二さんをみんなで説得して、ようやく了解してくれた。
不二さんのおかげで楽しい思い出が増えたし、私も不二さんが一緒に写ってくれたら嬉しい。
「名無し、お前は真ん中な」
『えっ?』
端のほうにいると、黒羽さんに真ん中に連れてこられた。
『あ、あの、私はもっと端で…』
「剣太郎、お前はこっち」
「えっ?ダ、ダビデ?」
何か言う間もなく、私の隣に葵くんが連れてこられる。
「じゃあ、不二はこっちだね」
「え?木更津、僕は…」
今度は不二さんが葵くんとは反対側の私の隣に連れてこられた。
「これで完璧なのね」
『あの、私は…』
真ん中っていうのがなんだか落ち着かなくて、違う位置に行きたいと言おうとしたけど、それは佐伯さんに遮られた。
「だーめ」
私の肩に手を置いて、そっとほほえむ。
「君と出会えた記念の写真でもあるんだから、みんな名無しさんの近くに写りたいんだよ。
君がここにいてくれたら、みんなと近いから」
そして私をカメラのほうに向かせた。
「だから、ここにいてね。
ね、お願い」
『…っ。は、はい…』
後ろから聞こえてくるどこまでも優しい佐伯さんの声とあたたかい手の感触に、それ以上逆らう気にはなれなくて、私はおとなしくその場にいることにした。
「…サエ、分かっちゃいたが……」
「ん?どうかした?バネ」
「お前…、やっぱスゲーな」
「???」
後ろの列にいる黒羽さんと佐伯さんの会話が聞こえてくる。
私も、黒羽さんに同感…。
佐伯さんて、爽やかにさらっとすごいことしたり言ったりするし…。
今だって、私の肩に手…、置いたままだし…。
……うぅ、ドキドキしちゃうよー。
「それじゃあタイマーセットしてくるよ」
『は、はい。お願いします、不二さん』
い、今はとにかく写真に集中しなきゃ。
えーっと、笑顔笑顔…。
う…。
意識するとうまく笑えない…。
「…ねぇ、ダビデ」
「何すか、亮さん」
「こういうときこそ、何か面白いこと言ってよ」
「おおっ。亮、いいこと言った!」
「ダビデ、ダジャレ、ダジャレ!プリーズ!」
「今こそ有意義に使えるのね。
みんなを笑顔にするのね」
「ハハッ。頑張れ、ダビデ」
「む…」
後ろを振り返ると、天根くんが真剣な眼差しで考え込んでいる。
『天根くん、頑張って』
「むむ…」
タイマーをセットし終わった不二さんが戻ってきて、シーンとしたまま時間が過ぎる。
そ、そろそろシャッターが……。
………。
…………………………。
…………………………………………………。
「……って、こんなときにかぎって言えねーのかよっ!」
「イタッ」
待ちくたびれた黒羽さんが、天根くんにチョップした。
チョップバージョンもあるのか…。
「ひどい、まだ何も言ってないのに…」
若干涙目になりながら頭をさする天根くん。
「何も言わねーからだろ!ったく、今は言えっての」
「血も涙もないバネさん。……バネだけに。
……………………プッ」
「今さらかっ!」
「アタッ」
涙目でもギャグを言う天根くんの背中に、すかさず蹴りを入れる黒羽さん。
…天根くん、こんなときでもギャグを言わずにいられないんだな。
そしてツッコミを入れずにいられないんだな…、黒羽さん。
……………………。
「ふふっ」
なんだか面白くて、つい吹き出してしまった。
見ると、いつの間にかみんなも笑っていて。
そのことに気がついて、また胸におかしさがこみあげてくる。
そのとき…。
――カシャッ
タイミングをはかったみたいに、シャッターがおりた。
昼休みの終わりが近づいて、きっとさっきのはいい写真になってるだろうねと話をしながら、みんなで一緒にのんびりと宿舎に向かって歩く。
みんなと遊ぶ前まではすごく悲しい気持ちだったし、今だってそれが完全になくなったわけじゃない。
だけどみんなと過ごして、そのおかげで今はもう自然に笑える。
本当はお礼を言いたいけど、今この時間はありがとうって言うのはやめようと決めていた。
だから、せめて少しでもこの気持ちがみんなに伝わりますように…。
…みんな、本当に…本当にありがとう……。
想いを込めて、心のなかで私は静かにつぶやいた。
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