合同合宿編
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「ほ、ホントにいいんですか…?」
『あ、うん。
えーっと、葵くんさえよかったら…』
少し不安を覚えつつそう答えると、葵くんは一瞬で笑顔になって身を乗り出した。
「いいに決まってます!嬉しいです、僕!
すごくすごく嬉しいです!
あー…、夢みたい…」
感動にうち震えているらしい葵くん。
…なんだかすっごく喜んでくれてるみたい。
よかったー…。
葵くんの反応にホッとしていると、黒羽さんがおかしそうに笑うのが聞こえてきた。
「おいおい、いいのか?そんなこと言っちまって。
剣太郎のやつ、お前に甘えて朝でも夜でも構わずに電話してきたりするかもしれねぇぞ」
「バ、バネさん、僕そんなことしないよ!」
「どうだかなぁ」
「剣太郎はちゃんと分かってるのね。大丈夫なのね。
でも、ついついってこともあるかもしれないのね」
「えー!!
いっちゃん、どっち!?」
「クスクス…。
人間誰しも魔が差すってことはあるしね」
「うーん、それはあるかもな」
「無いとは言い切れない」
「ちょっ、待ってよー!
みんなまで…!」
慌てて否定する葵くんと、からかうようにそれに返すみんな。
葵くんはすごく礼儀正しい子だから、そんなことしないと思うけど…。
でも、もしそういうことがあったとしても…。
『大丈夫ですよ』
みんなにそう言うと、葵くんが助かったという表情を私に向けた。
「ありがとうございます、名無しさん!
僕のこと、信じてくれるんですね!」
『えっ。…あ、うん、そうだね。
でも、そうじゃなくてね』
「?」
『べつに朝とか夜に電話があってもいいなって思ったんだ。
もし葵くんが甘えてくれたら、なんだか嬉しいなって』
「えっ…」
『だから、もし何かあったらいつでも連絡してね。
私で力になれるなら嬉しいし』
「…………………………………………………」
……………ん?
あ、あれ?
なんか…葵くん、固まってる。
「お、おい。今の聞いたか?ダビデ」
「バッチリガッツリ。一言一句逃さず」
「天然無自覚ド直球の威力を見たな…」
「光の速さで的確な攻撃」
「見ろよ、剣太郎のやつ、魂がどっか行っちまってるぜ」
「イチコロとはまさにこの事」
葵くんはボーッとしたまま微動だにしない。
ど、どうしよう!?
「クスクス…。
やっぱり面白いね、名無しさんは…いろんな意味で」
「ハハッ、剣太郎よかったな。甘えてもいいって」
「サエ、そんなのんきなこと爽やかに言ってる場合じゃないのね。
剣太郎が大変なことになってるのね」
「えっ、そうかな」
「クスクス…。
無駄だよ、いっちゃん。
サエはこういうところ、昔からちょっとずれてるだろ」
「…そうだったのね」
一向に動く気配のない葵くんの肩を軽く揺さぶりつつ、声をかけてみる。
『葵くん、ねぇ、葵くん』
「……ハッ!
あ、あれ?僕は一体……」
よ、よかった!
葵くんが動いた!
『葵くん、大丈夫?』
「!!
名無しさん………」
…あれ?
また動かなくなっちゃった。
ていうより、葵くんの顔、真っ赤だ。
今はさっきみたいな照れるようなやりとりなんて無かったよね?
ていうことはもしかして…具合悪い?
た、大変だ!
私は慌ててみんなに伝えた。
『大変です!
葵くんの具合が悪いみたいです!』
だけど、みんなはなんだかのんびりしていて…。
「あー、まぁ大丈夫だ」
『え?で、でも』
困ったように苦笑いを浮かべる黒羽さんに、樹さんが続ける。
「名無しさん、ちょっとこっちに来るのね」
『でも葵くんが…』
「いいからいいから」
『は、はい…分かりました』
「えー。いっちゃん、もう助けちゃうの?
面白いから、もう少し見てたかったのに」
「亮、そんな意地悪言ってちゃダメなのね。
そろそろ助けてあげないと、剣太郎の心臓がもたないのね」
葵くんから離れがたく思いつつ、とりあえず言われたとおりに樹さんのところに行く。
『あの、葵くんが…』
「心配しなくても大丈夫なのね。もうじき元にもどるのね」
『え…?』
樹さんの言葉に葵くんのほうを見ると、私と入れ替わるように黒羽さんがそこにいた。
「おーい、剣太郎。戻ってこいよー」
「……ハッ!
…あ、バネさん」
「大丈夫か?」
「う、うん。
……………………」
「ハハハ、ボーッとしやがって。
そんなに名無しが可愛かったか?」
「…うん。
すごく可愛くて…素敵だった……」
「そうかそうか」
「僕、まだ心臓がドキドキしてる…」
「ハハ、そりゃ良かったな」
「バネさん…。僕…、名無しさんに会えてよかった」
「そうか。お前、青春してるな」
「うん…。僕、青春してる」
黒羽さんと葵くんが何か話してたけど、声が小さくて私のところからは聞こえなかった。
でも黒羽さんと一緒にみんなのところに来た葵くんは元気そうで、私はひとまずホッとしたのだった。
それから、佐伯さんが仲良くなれた記念にみんなで写真を撮ろうと提案して、写真が趣味だという不二さんを呼んできてくれた。
そうしてみんなで写真をとってもらったあと、私は不二さんに声をかけた。
『不二さん、ありがとうございました』
「お礼なんていいよ。僕も楽しかったから」
『カメラ、こういうときいつも持ってくるんですか?』
「うん、そうだね。だいたい持ってきてるかな。
日常とは違う思わぬシャッターチャンスがあるかもしれないし」
『なるほど…』
今までほとんど接点がなかった不二さんに話しかけるのは、私としては実は結構勇気が必要だったけど…。
もともと不二さんと仲が良さそうな六角のみんなとは違って、私は今きちんとお礼を言わないとそのまま顔を合わせる機会もなくなってしまいそうで、思いきって声をかけた。
不二さんはそれを知ってか知らずか話しかけてきた私に優しくほほえみかけてくれて、穏やかな声で言葉を返してくれた。
不二さんって、ふと見かけるといつもこんなふうにほほえんでるよね…。
手塚さんとはまた違った意味で、大人って感じがする人だなぁ。
そんなことを考えながら不二さんと話していると、後ろから名前を呼ばれた。
「あ、あの!名無しさんっ!」
振り返ると、そこには緊張した面持ちの葵くんがいた。
『葵くん?どうしたの?』
「がんばれ、剣太郎!」
「剣太郎、ファイトっ!」
「今こそ男の見せどころ」
「勇気だすのね」
「クスクス…。
その子にははっきり言わないと伝わらないよ」
…ん?
今みんなのほうから何か聞こえたような…。
気のせいかな?
「あのっ。
ぼ、僕と、二人で…。ふ、ふ、ふた、二人で…、えっと、あの……」
そう言ったきり、真っ赤な顔でうつむいてしまう葵くん。
???
葵くん、何を言おうとしたのかな。
葵くんと二人で…?
えっと……うーん……。
うぅーん………。
何かを言いにくそうにしてる葵くんの気持ちを分かってあげたくてあれこれ考えてみるけど、どうしても分からない。
すると、そばにいた不二さんがクスッと笑った。
「良かったら、君たち二人の写真、撮ろうか?」
「…!!」
不二さんの提案に驚いたように顔をあげた葵くん。
「い、いいんですか?」
「もちろん、僕はかまわないよ」
そして今度は私のほうへと身体を向けて、ビシッと姿勢を正す。
「あのっ、名無しさん!
僕と二人の写真、とってもらってもいいですか?
お、お願いします!!」
たたみ掛けるようにそう言って、深々と頭をさげた。
写真…。
そっか……。
『そんな、頭さげたりしないで、葵くん。
二人で写真、撮ってもらおう?』
「ほ、本当ですか?」
『うん!』
「あ…、ありがとうございます!」
本当に嬉しそうに笑う葵くんを見て、私も嬉しかったけど、ほんの少し胸が痛んだ。
まさかそこまで私との写真が欲しいと思ってくれてるとは予想してなかったとはいえ…、普通に流れから考えたら分かることだよね。
不二さんは気づいてあげられたのに…。
分かってあげられなくてごめんね、葵くん。
「よし、それじゃあさっそく撮ろうか」
『はい。
不二さん、よろしくお願いします』
「よろしくお願いします!」
二人で並ぶと、不二さんがカメラを構える。
少し離れたところに、他の六角のみんながなんだか見守るようにニコニコしているのが見えた。
ちょ、ちょっと緊張しちゃうなぁ。
「うーん…」
不二さんが小さくうなりながら、構えていたカメラをおろした。
?
何かあったのかな。
「二人とも、もっと肩の力を抜いてリラックスしてね」
『あ、はい』
「は、はいっ」
そっか、やっぱり緊張してるの分かっちゃうんだな。
よし、リラックス、リラックス…。
「それと、もう少し近づける?」
『え?』
「えぇっ!?」
「もう少しくっついてくれたほうが、いい写真になると僕は思うんだけど…。無理かな?」
く、くっつくって……。
不二さんのその言葉に、頬が熱くなっていく。
チラリと隣を見ると、ちょうど葵くんもこっちを見ようとしていたところだったらしく、バチッと目が合った。
「…っ!!」
ものすごい速さで目をそらす葵くん。
その葵くんの頬は、まるで私のそれを写したみたいに赤かった。
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