合同合宿編
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「バカ、ダビデ!話あわせろ!」
「…あ。つい、うっかり」
?
黒羽さん、葵くんに見えないように天根くんの背中を小突いてる…?
「えーっと…、剣太郎。
…俺たちは名無しとしょっちゅうは会えないけど、こうして一緒に過ごして楽しいと思った気持ちは、俺たちだけじゃなくあいつの心にも残るはず。
その気持ちがお互いにあれば、この合宿が終わっても…離れてても、大丈夫。
きっと友達でいられる。ずっと」
「う、うん。
…そうだよね、きっとそうだよね」
「あぁ。
だから、焦らずがんばれ。
さっきみたいなのじゃなくても、剣太郎が剣太郎らしくあいつと接していれば、ちょっとずつ距離は縮まると俺は思う」
「ダビデ……!
ありがとう!僕、がんばるね!」
「うん。
憧れの人ともっと仲良くなれるといいな」
「ダビデーー!」
わぁっ!
葵くん、ジャンプしながら天根くんに抱きついちゃった!
よく分からないけど、感動して泣いてるみたい…?
「いいこと言うじゃねぇか、ダビデ!」
「うぃ」
今度は黒羽さんが天根くんの肩にガシッと自分の腕をまわして、嬉しそうに笑った。
…うーん。
なんだか分からないけど、三人とも楽しそう。
…でも天根くん、ちょっと大変そう。
「おーい、三人とも!そろそろ戻ってこいよ!
さっきの話の続きをしよう!」
佐伯さんの呼びかけに、黒羽さんたちが小走りで戻ってくる。
「いやー、ワリィ。
つい盛り上がっちまって」
「すみません」
「みんな、ごめんなさい!」
みんなに頭を下げたあと、葵くんが私をチラッと見た。
ん…?
どうしたのかな。
目があって、なんとなく私が小さく笑うと、かすかに頬を赤くした葵くんはサッと視線をそらした。
うーん…。
もしかしなくても、これはさっきのこと気にしてる…よね?
そんなに気にしなくてもいいのに。
あれは不可抗力っていうか、わざとじゃなかったんだし…。
…確かにちょっと恥ずかしかったけど。
でもさっきは結局笑いあえたし、今だって元気そうだし、大丈夫だよね。
…それにしても、葵くんて結構身長高いんだなぁ。
近くにいたとき、視線の高さが…。
「それで関東大会っていうのはね…って、あれ?
名無しさん、聞いてる?」
『えっ!あ、すみません!』
うわ、ダメダメ!
ちゃんと話を聞かなきゃ。
水切りの練習のときもこんなことあったし…。
はぁ、私、なんて失礼なことを…。
「クスクス…。
なーに考えてたのかな」
――ギクッ!
『き、木更津さん?!』
いつの間にか背後に木更津さんが…っ!
気配…全然感じなかった…!
「ふぅん…。
へぇ…、なるほどね…」
『な、なんですか?』
まるで私を観察するように真顔で見つめたあと、木更津さんはクスッと笑って小声で言った。
「剣太郎のこと、かわいい弟みたいだと思ってたのに、近くで見たらちょっと違ってた…とか?」
『…!?』
「クスクス…。
どうやら正解だったみたいだね」
『!
ち、ちちち違いますっ!』
「ほら、やっぱり当たりだった」
『な、なんでそういうことになるんですか。
違うって言ってるのに…!』
「君って、面白いね。
知りたいことの答えあわせは簡単だし」
『無視しないでください!』
木更津さん…、何者……!
「こら、亮。
また名無しさんのことからかってるんだろ。駄目だよ」
「はいはい」
佐伯さんに釘をさされて、少し気だるそうに答えた木更津さんをつい見てしまっていると、バチっと目があった。
またギクッとしてしまった私の心を知ってか知らずか、おかしそうにクスッと笑う木更津さん。
…なんだかよく分からないけど、やっぱり只者じゃない!
「ごめんね、名無しさん。
亮は気に入った相手のことをからかっちゃうんだ。
だから悪気はない…、というより、むしろ亮のは好意の裏返しだから、許してあげてもらえると嬉しいんだけど…」
『は、はい。大丈夫です』
「そう…、ありがとう。本当にごめんね」
『いえ、気にしないでください』
すごく申し訳なさそうに謝る佐伯さんに、私は迷わずそう答えた。
私も、木更津さんが嫌がらせで言ってるとは思ってないし…好意の裏返しかどうかは別として。
私を探しに来てくれたときも、自分たちのことより私の気持ちを汲んで、私が日吉くんと話せるようにしようとしてくれたりして、なんていうか…。
木更津さんはさりげなく周りに気を配る人なんだろうなぁと思う。
「サエ、余計なこと言わなくていいよ」
「全然余計なことなんかじゃないだろ。
名無しさんに悪いし、亮のことだって誤解されたくないし」
「そんな心配いらないよ。名無しさんは分かってくれてるはずだから。
そうでしょ、名無しさん」
『あ、えっと……はい』
「ほらね」
涼しげにほほえむ木更津さんのその表情はどこか優しくて…。
佐伯さんがさっき教えてくれた、木更津さんのからかいは好意の裏返し、という言葉をほんの少し信じたくなった。
それから関東大会について佐伯さんがしてくれた説明によると…。
この場合の関東大会というのはもちろんテニスの大会で、県の代表校になると出場できる大会らしい。
つまり氷帝と六角がどっちも順調に勝ち進んだ場合、最初に同じ大会に出場することになるのが関東大会になる。
そしてその関東大会が、今年は東京で開催される。
だから私も足を運びやすいんじゃないかと思って、樹さんは提案してくれたということだった。
その話を聞いた私は、あっけにとられていた。
どうしてかというと、大会に行って観客としてみんなの試合を観戦するという選択肢が頭に浮かんでなかったから。
もともとテニス部と関係のない私は、この合宿が終わればもう二度とテニス部に同行する形で他校の人と会うことはない。
青学や山吹の人たちとは生活圏がそんなに離れていないから、またどこかで顔を合わせることもあるかもしれないと思ってたけど、千葉に住んでいる六角のみんなとは、もしかしたらもう会えないんじゃないかって…。
…でも、そっか。
練習試合とか合宿にはもう参加できないけど、試合は観に行けるよね…!
どうして思いつかなかったんだろう。
今までどこかの部の大会を観に行ったことなんてなかったし、テニス部に関わるのはこの合宿が最後だって考えすぎてたからかな…?
…でも、とにかく嬉しい!
またみんなに会えるんだ!
……って、あれ?
嬉しいのはいいけど、でもこれじゃ…。
『あの…』
「どうかしたのね」
私は頭に思い浮かんだことをみんなに話した。
『これじゃ罰ゲームにならなくないですか?
私からすればただ嬉しいだけですし…』
「1位になった人から最下位の人への命令が罰ゲームである必要はないのね。
ただ命令できるっていうことしか決まってなかったのね」
そう言われてみれば…そうだったかも。
「それにこの命令が名無しさんにとって罰ゲームになるか嬉しいものになるかは君次第だったのね」
『え?』
「罰ゲームじゃないけどいいのか、なんて言ってもらえて、俺のほうこそ嬉しいのね。
関東大会に向けて、俺たちも今までよりさらにモチベーションがあがるのね」
ニコッとほほえむ樹さんを見て、私はハッとした。
確かに、樹さんの命令をどう受けとめるかは私次第。
でも私はただ嬉しいとしか思わなかった。
「僕、嬉しいです!
名無しさんにまた会えることももちろんですけど、名無しさんも僕たちとまた会うことを嬉しいって思ってくれたこと」
「俺もだぜ。
ただ嬉しいだけ、なんて言ってもらえるとは思わなかったしな」
「クスクス…。
君って案外直球だよね。
言ってるときは無自覚みたいだけど」
「さっき叩きつけた石もド直球」
「こらこら、ダビデ」
こ、これは…。
また結構恥ずかしいことを口走ってしまったのでは…。
みんなの言葉でそう自覚した途端、恥ずかしさが込み上げてくる。
すると、佐伯さんがクスッと笑った。
「赤くなっちゃって、可愛いな」
…!!
ニコニコしながらさらっととんでもない一言を放つ佐伯さん。
そ、そんなこと言われたらますます恥ずかしくなっちゃうよ…!
恥ずかしさに耐えきれず、うつ向いたままガチガチに固まってしまう私。
「あーあ。
サエ、そういやお前も無自覚ド直球だったな。
だが今はそういうこと言ったらダメだろ、状況的に」
「えっ。どうして?」
「クスクス…。
見れば分かるでしょ」
「見れば分かるって…。
……?」
…!!!
ちょっ…!
そんなこと言わないで、木更津さん!
また佐伯さん、私のこと見てるよね……!
み、見ないでー!
「見ても可愛いだけだけど…?だから可愛いって言っただろ?
何かおかしかったかな」
~~~~~~っ!!
も、もうやめてー!
そんなに可愛い可愛い言われたら…。
あぁー…、もう倒れそう…。
「ぼ、僕だって、名無しさんのこと、か…かかか…かわ…かわ…」
「剣太郎、ファイトっ!
今ならサエさんのどさくさに紛れて言えるっ!」
「か、か、かわわわわわ…」
「……無理みたいなのね」
「あぁ、貴重なチャンスが…。
やっぱりサエさんはすごいんすね」
「同感なのね」
そのとき私に救いの手が差しのべられた。
「まぁ、あれだ。
残りの時間はのんびりするか。名無しも疲れただろ。
あの木のあたりにでも座ろうぜ」
黒羽さん…!
まさに天の助け…!
『は、はいっ』
「クスクス…。
バネは優しいね」
私は間髪入れずに返事をして、黒羽さんが指し示したほうへと一緒に歩きだした。
少し遅れてみんなも歩いてくる。
「名無し、ワリィな。
サエのやつ、ああいうところだけは天然っつーか…鈍いんだよ。
それ以外じゃ聡いんだがな」
『あ、いえ…大丈夫です。
ちょっと…結構、恥ずかしかったですけど』
「ハハッ、そりゃ見てて分かったぜ。
だがお前、照れ屋なのな」
『えぇーっ、そうですか?
あんなこと言われたら誰だって照れますよ。
ただでさえ言われなれてないですし』
「へぇ、そうなのか?
なら俺も言ってみるかな」
『ちょっ…、やめてください、黒羽さんまで』
「そうか?そりゃ残念」
冗談ぽく肩をすくめてみせる黒羽さん。
もう…、心臓に悪いよ。
『それより黒羽さん、ありがとうございます。
おかげで助かりました』
「いや、気にすんな。
つーか気づかれちまってたのか」
『はい。
絶妙のタイミングだったので、助けてくれたのかなって』
「へぇ、お前もサエと同じだな」
『え?何がですか?』
「そういうところにだけ鈍くて天然無自覚ド直球。
で、それ以外は聡い」
そう言って、黒羽さんはいたずらっぽく笑った。
???
私は天然でも無自覚でも直球でもないと思うけど…鈍くもない…と思う、たぶん。
しかも聡くもないし…。
普通だと思うけどな。
「ハハハ、やっぱ自覚ナシか」
今度は楽しそうに笑う黒羽さん。
そのカラッとした笑顔が黒羽さんらしいなと思いつつ、私は首をかしげるばかりだった。
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