合同合宿編
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まずは石選び。
やっぱり、何でもいいっていうわけじゃないらしい。
形とか重さとか、こういうのがいいよ、と佐伯さんは一緒に探しながら教えてくれた。
そして投げ方。
まずは自由に投げてみるように言われて、とりあえず思った通りに投げてみたんだけど…。
「うん、今のはスピードがあってすごく良かったんだけど、もう少し腕はこんなふうに…」
説明しつつ、私に腕の振り方を見せてくれる佐伯さん。
それを見て、真似をしてみる。
『えっと…。こう、ですか?』
「そうだなぁ…うーん。
もうちょっと、こういう感じかな」
『あ、はい。
うーんと、……こう?
あれ?なんだか佐伯さんのとは違うような…』
むむ…。
結構むずかしいなぁ。
えーっと、うーんと……。
「名無しさん、ちょっといい?」
『え?』
困り果てていた私に一声かけると、佐伯さんは私の後ろへとまわった。
「ごめんね、ちょっとだけ我慢してくれる?」
『えっ。あ、あの…?』
突然のことに戸惑っていると、後ろから佐伯さんが私の腕にそっと自分の手を添えた。
「あのね、この高さから…こういう感じ。
さっきまで名無しさんはこう腕をふってたけど、高さはもっと低いほうがいいんだ。
…こう、だよ。わかるかな」
う……。
す、すぐ後ろに佐伯さんが…。
声も近いし…、き、緊張する……。
……って、違う違う!
何考えてんの、私!
こんなに親切に佐伯さんが教えてくれてるんだから、集中しなきゃ!
背後の佐伯さんにおもいっきり気をとられていた私は、教えてくれている内容のほうへとなんとか意識を移した。
「…っていう感じなんだけど、分かった?」
言いながら、そっと私から離れる佐伯さん。
最初のところはちょっと上の空になっちゃってたけど、佐伯さんが丁寧に説明してくれたおかげで、さっきまでよりかなりコツが分かったような気がする。
『はい。
なんだかずいぶん分かったような気がします』
…ちょっと罪悪感があるけど…。
「よかった。
それじゃあ実際にやってみようか」
『はい!』
私は気合いを入れて水面を見つめた。
よーし、がんばるぞ!
『…えいっ!!』
教わったポイントを意識しつつ思いきり投げると、小石は心地良い音をたてて今までよりずっと遠くまで跳ねていった。
『やった!!』
嬉しくて、私はガッツポーズをしながら後ろにいた佐伯さんを振り返った。
『やったー!やりました、佐伯さん!
見ててくれました!?』
すると佐伯さんはニコッと笑ってうなずいてくれた。
「もちろん!
やったね、名無しさん!」
そして私に向かって片手を掲げる。
…あ!
これって!
その意味に気がついた瞬間、私は佐伯さんのところに駆け寄ってとびはねながらハイタッチした。
「あーっ!
いいなー、サエさん。
名無しさん、あんなに嬉しそうにハイタッチしてる…」
「しょうがねぇさ、剣太郎。サエはあれが通常運転だからな。
つうかお前、なんだったんだ?さっき名無しを誘おうとしたときの蚊のなくような声は」
「うぅ、あれは…。
だって、緊張しちゃって…」
「はぁ…。
そんなこと言ってたら永久に仲良くなんてなれねぇぞ。
な、ダビデ」
「そう。思いきりが肝心」
「うー、分かってるけど…」
練習時間も終わって、いよいよ勝負のときが来た。
あれから何回かやってみたけど、全部前よりうまくできたし、結構自信がついた。
これも佐伯さんのおかげだなー。
練習する前はどうなることかと思ったけど、ハンデもあることだし、これなら結構いい勝負ができるかも!
じゃんけんで順番を決めると、私は一番最後になった。
みんなが順番に投げていって、ついに私の番に。
わー、緊張する…。
慎重に選んだ小石を握りしめて、川の向こう岸を見つめる。
流石にあんなに遠くまでは届かないだろうけど、やるからにはそれくらいの気持ちを持たなきゃね。
せっかく佐伯さんに教えてもらって練習したんだし、その成果を出したいもん。
……………。
…よしっ、やるぞ!
大きく深呼吸して、私は持っていた小石を投げた。
……と、そこまではよかったんだけど…。
『…えっ。わぁっ!!』
足元に広がる河原の小石に足をすべらせて、私は体勢を崩してしまい…。
投げた小石は、すぐ目の前の川の中にほとんど垂直に突っ込んでいった。
そして全力で投げた勢いも手伝ったせいか、私はよろけて河原に手をついてしまった。
はー…!
び、びっくりした…!
「おい、大丈夫か、名無し!」
「大丈夫!?名無しさん!」
みんなが私に駆け寄ってくる。
大丈夫かと聞かれて手や足を動かしてみたけど、少しだけヒリヒリする以外はどこにも痛みはなかった。
…よかった、怪我はしてないみたい。
『大丈夫です、すみません』
そう答えて立ち上がると、みんながほっとした表情に変わった。
「そうですか…、よかった」
「本当によかったのね」
ほんと、よかったー…。
もし怪我でもしてたらみんなに心配かけちゃうし、もちろん私だって痛い思いはしたくないし。
でも……。
私は川のほうへと目を向ける。
すぐ目の前の水面にあっという間に消えていった小石を思うと、ため息が出た。
……はぁ。
せっかく練習したのにな…。
「よし、それじゃあもう一回投げろよ」
……え?
黒羽さんの言葉に、思わず一瞬固まってしまった。
「ん?どうした?
やっぱりどっか痛いのか?」
『あ、いえ!
あの、いいんですか?もう一回投げてみても』
「?
あ、もしかしてお前、一発勝負っての気にしてんのか」
私がうなずくと、黒羽さんはいつもみたいに豪快に笑った。
「お前、真面目なやつだな。
だがそこまでガチガチに考えることもねぇさ」
「そうっすね。
名無しはまだ勝負できてないから」
「クスクス…。
さっきのは投げたっていうより、叩きつけたっていう感じだったしね」
「亮、そんな言い方したら名無しさんがかわいそうだろ。
一生懸命頑張ったんだから」
「そうですよ、亮さん」
「クスクス…。分かってるよ」
と、とにかくもう一回挑戦してもいいみたい。
や、やった…!
次こそ練習のときみたいにうまくできるように、落ちついてがんば――。
「ちょっと待つのね」
心のなかで喜びを噛みしめていると、それを樹さんがさえぎった。
「どうしたの?いっちゃん」
「駄目なのね」
「え?駄目って…何が?」
「名無しさんは最下位なのね。もう勝負は終わってるのね」
「おいおい、いっちゃん。そんな堅いこと言うなよ。
これは遊びなんだぜ?みんなで楽しめるのが一番だろ」
「ルールはルールなのね。
名無しさんが最下位、俺が1位。これで決定なのね」
樹さんの言葉を最後に、誰も何も言わなくなってしまった。
みんなの様子が気になってチラリとうかがってみると、不思議そうな、何かを考えているような、そんな顔をしていた。
みんなのこの表情を見る限り、かたくなに駄目だと主張する今の樹さんは、もしかしたらいつもとちょっと違っているのかもしれない。
でも、言ってることは正しいし…やっぱり諦めたほうがいいよね。
うー、しょうがない…けど、残念……。
「さぁ、最初に決めたとおり、名無しさんには俺の言うことをひとつ聞いてもらうのね」
『…あ、はい!』
そ、そうだ…!
そういえば、1位の人が最下位の人に何でも命令できるっていう決まりだった!
少しでも上手になりたくて夢中で、すっかり忘れてた…。
うわー、命令ってなんだろう。
ちょっと緊張するなぁ。
「俺から名無しさんへの命令は…」
ドキドキ…。
「関東大会で六角の試合が組まれる日に観戦に来ること、なのね」
………………。
……え?
関東……大会……?
その瞬間、みんなの沈黙が途切れて一気に騒がしくなった。
「なんだ、そういうことか!
やるな、いっちゃん!」
「クスクス…。なるほどね」
「何か考えがあるんだろうとは思ったけど…ハハッ、いっちゃんらしいな」
「これぞいっちゃん」
「いっちゃーーーん!
ありがとうっ!!」
みんなが笑って、葵くんは涙ぐみながら樹さんにガシッと抱きついた。
???
この状況は一体……なに?
どうしてみんなこんなに楽しそうなんだろう?
『あ、あのー…』
私は盛り上がるみんなの輪の中におそるおそる割って入った。
『おとりこみ中、すみません…。
あの…この騒ぎは一体……?』
すると一斉にみんなの視線が私に集まる。
…うわっ!
び、びっくりしたー…。
「名無しさんっ!」
『は、はいっ!』
ものすごい速さで目の前まで走ってきた葵くんに、ガシッと両手を握られてしまった。
『えっ、あ、葵くん?』
「僕たち、また会えますよ!」
『え…?』
また会える…って…。
…この合宿が終わったら、私はもうテニス部の活動には関わることも無くなるから、千葉に住んでる六角のみんなとは会えなくなると思ってたけど……違うの?
あ、でも…。
関東大会に、六角が出ることになったら…。
私がそこに行ったら、会えるってこと?だよね…?
えぇっと…。
「僕、すっごく嬉しいです!
名無しさんにまた会えるなんて…!」
いろいろ考えていると、葵くんは私に抱きつきそうな勢いでさらにググッと近づいてきた。
『あの、えっと…葵くん。
その…、ちょっと…近い、よ』
「え?」
『あの…だから顔が…』
「顔…??」
私を見つめながら、不思議そうに首をかしげる葵くん。
なんだか恥ずかしさがこみ上げてきて、今更ながらに顔が熱くなる。
すると私の顔が赤くなったのを見た葵くんはようやく気がついたみたいで、あ!!!と声をあげると、みるみる顔を真っ赤にして、大慌てで私の手を離して飛びのいた。
「すっ、すみません!!!
僕、白昼堂々なんてことを…!」
「剣太郎、その言い方だと白昼じゃなきゃいいみたいだぜ?」
「!!?
ちっ、違うよ、バネさん!
違うんです、名無しさん!僕、そんなつもりじゃ…!」
すがるように私を見る葵くんは耳まで赤くなっていて、なんだか可哀想で可愛くて、守ってあげたいような気持ちになった。
『大丈夫だよ、葵くん。分かってるから』
「ほ、本当ですか?」
『うん』
私がうなずくと、葵くんの表情が和らいだ。
「よかったぁー…!」
『ふふっ』
「…えへへ」
照れくさそうに笑う葵くんはすっかり安心したみたいで、私もなんだか嬉しくなった。
「剣太郎、お前すげー大胆だな」
「やるな」
「えっ、なに?バネさん、ダビデ」
そこに来た黒羽さんと天根くんは、葵くんが不思議そうにしているのを見ると、葵くんの腕を両側から掴んでズルズルと引きずるように少し離れたところまで連れていってしまった。
「おいおい、なに?じゃねぇだろ。
有無を言わさず接近して、ちゃっかり手まで握っといて」
「そうそう。
白昼堂々あんなことしといて、しらばっくれてもダメ」
「あんなことって…!」
何を話してるのかここからじゃ聞こえないけど、葵くんの顔がまたあっという間に真っ赤になっていくのが分かった。
「あ、あれは…わざとじゃ…!
あんな破廉恥なことを人前でなんて、僕は絶対しません!」
「いやいや、してたじゃねーか、実際。
つーか、破廉恥って」
「しかもまるで人前じゃなければするような言い方」
「ち、違うよ!もー、二人とも!
うわーん!
サエさん、亮さん、いっちゃん、助けて~!」
「まぁそう言うなって。
これで名無しとの距離、随分縮まったんじゃねぇか?」
「えっ。そ、そう…かな?」
「そうだろ。
名無しも赤い顔してたしな。な、ダビデ」
「うーん…。それはどうだろう。
あいつはたぶん相手が誰だったとしても、よっぽど嫌いなやつでもない限りはああいう顔しそうな気が……」
………ん?
なんだか天根くん、こっち見てる?
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