合同合宿編
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葵くんと木更津さんと一緒に六角のみんなと約束していた場所へと向かった私は、到着すると黒羽さんたちに笑顔で出迎えられた。
「よぉ、よく来たな」
「待ってたぜ」
黒羽さんと天根くんが声をかけてくれる。
佐伯さんも樹さんも…待たされたのに、誰一人嫌そうな顔をしてない。
私は自分勝手な理由で遅れちゃったのに…。
『すみません、遅くなってしまって…。
私、約束の時間が迫ってるって分かってたのに…あの…』
とにかくちゃんと謝らなきゃと思って、でもなんて言えばいいのか分からなくて、うまく話せない。
「名無しさん、気にしないで」
まるで私を助けようとしてくれるみたいに、佐伯さんの柔らかい声が聞こえてきた。
「俺たちは名無しさんが無事でいてくれただけで嬉しいから」
『え?無事って…』
「ここは自然が多くてすごくいい所だけど、そのぶん少し危険な場所もあるからね。
だから、もしかしたらどこかで君が危ない目にあってるんじゃないかって、みんなで心配してたんだ」
…!
そうだったんだ…。
確かにこの合宿に来て最初に案内してもらったとき、跡部先輩からもそんなことを言われた…。
「だからもういいんだよ。
それより、来てくれてありがとう」
「名無しさんもいろいろ忙しいから大変なのね。
だけど一緒に遊べて嬉しいのね」
「サエといっちゃんの言うとおりだ。
名無し、細かいことは気にすんな。せっかくの楽しい時間が無駄になっちまうぞ」
「そう、何も気にしなくていい」
……………………。
…どうしよう。
どうしよう……。
みんなの視線が集まるなか、私は思わず目を伏せてしまった。
「名無しさん?どうしたの?」
佐伯さんの声がするけど、私は顔を見られなかった。
だって、みんなが私に気をつかって親切にしてくれて…。
今の私には、それがどうしようもなく…気持ちの中に入り込んでくる。
日吉くんのことで落ち込んでしまっていた気持ちを、そっと包んでくれる。
何とか押し込めたはずの悲しい気持ちが、またあふれだしてきそうになる。
今みんなの顔を見たら、きっと泣いてしまう。
そんなの、だめだよ。
みんなにまた迷惑かけちゃう。
なのに、どうしよう…。
涙が…出てきそう……。
「…これ、何だと思う?」
そのとき突然、うつ向いた私の視界に手が差し出された。
この声……、天根くん?
その大きな手のひらの上には…貝がらがひとつ、ちょこんと乗っている。
結構ゴツゴツした、巻き貝。
これが何かって……。
『…………貝…?』
「惜しい。もう一声」
…もう一声?
もっと具体的にっていうこと…かな。
『……巻き貝?』
「そう、当たり」
私は無意識に顔をあげて、目の前に立つ天根くんを見た。
すると天根くんは真顔のまま私を見つめた。
「せっかく一緒に遊べるんだから、時間が許すかぎり目一杯楽しもうぜ。
だから巻いていこう。
巻きがいい………巻き貝だけに。…………プッ」
自分で言ったギャグに吹き出した天根くんは、それからまた私を見つめると、満足そうな笑顔をうかべた。
その笑顔が、どうだ面白いだろ、って言ってるみたいで…。
『……ふふっ』
私は思わず笑ってしまった。
「…!笑った……。
やっぱり、面白かっただろ?
今のは我ながらうまいなと思ってたんだ…!やった……!」
私が笑ったのがよっぽど嬉しかったのか、天根くんは静かに喜びを噛みしめるように拳を握りしめた。
『ううん、ギャグはべつに面白くなかった』
「……え?」
『ギャグを言ったあとの天根くんが面白かったんだ。
そんなに面白くないのに、すごく自信満々な顔してて』
「うっ…。
面白くないって二回も言われた…。
長年あたためてた、とっておきだったのに……」
『あっ、ご、ごめん!
でも………ふふっ』
一瞬にして顔を曇らせた天根くんに私は急いで謝ったけど、笑いが込み上げてきて、つい吹きだしてしまった。
だって、長年あたためてたって…。
『もしかしてその巻き貝、いつも持ち歩いてたの?』
「うぃ。
いつ今みたいなチャンスが来てもいいように、毎日肌身離さず」
『……。
もしかして、寝てるときも持ってたの?』
「いや、さすがにそれは。
こいつ、ゴツゴツしてるし寝てるときに持ってたら結構危険。寝返りうったときとか。
だから枕元のちょっと離れた所にスタンバイ」
枕元に巻き貝……。
『ぷっ…。あはははっ』
天根くんって、変わってて面白い…!
おかしくて笑っていた私は、ふとあることに気がついた。
いつもなら天根くんがギャグを言ったあと、黒羽さんが……。
――バシッ!
何度か見た黒羽さんのあのツッコミが来るんじゃないかと心配したけど、そのタイミングで黒羽さんは天根くんの背中を勢いよく叩いた。
「ダビデ、お前のギャグもたまには役に立つじゃねぇか!」
「うぃ」
「クスクス…。
たまにはっていうの、否定しなくていいんだね」
「ハハッ、いいんじゃないかな。
おかげで名無しさんの笑顔が見られたんだしね」
…っ。
笑顔……。
「そうですよ!やったね、ダビデ!
それにしても名無しさんの笑顔……素敵だったなぁ…」
「剣太郎、後半心の声ダダもれなのね。
でも気持ちは分かるのね」
…天根くん、あんなタイミングでギャグ言ったの、わざとだったんだ。
わざと私のために…。
どうして遅くなったのか、どうしてうつむいたりしてたのか、私は何も説明してないのに。
みんなは何も聞かずに、ただ私を気遣ってくれた…。
「よしっ。それじゃあさっそく遊ぶとするか!
まずは川に行こうぜ!」
「行きましょう、行きましょう!」
「本当は海がいいけど、ここからだと遠すぎるのね」
「名無しもいることだし、海で遊べたら良かったんすけど」
「クスクス…。
俺たちは海のほうが本領発揮できるしね」
「そうだなぁ。
でもみんな一緒ならどこでも楽しいよ」
みんなが歩き始める。
だけど私はその場から動き出せずにいた。
みんなに、ありがとうっていう気持ちがあふれてくる。
その気持ちを伝えたくなる。
でも……。
「どうしたんですかー、名無しさん!
早く行きましょう!」
「ほら名無しさん、早く来なよ。
君が来ないと、剣太郎がこんなふうにうるさくてしょうがないから」
「りょ、亮さん!」
葵くんと木更津さんのやりとりを見て、みんなが笑う。
そんな中でふと目があった天根くんが、私にちょいちょいと手招きした。
………………。
…きっと、何も言わないほうがいい。
みんなは私の気持ちを考えてくれて、あえて何があったのかを深く聞かないでいてくれてる。
この時間を楽しい時間にしようとしてくれてる。
なのに私が今ここでありがとうなんて言ったら…。
また話が逆戻りして、みんなに気を遣わせることになっちゃう。
本当にありがとうって思うなら、私がすべきことは…。
気持ちが決まると、私は天根くんに笑顔でうなずいて、みんなのところに向かった。
私が今すべきことはお礼を言うことじゃなくて…。
みんなと一緒に、この時間を楽しむことだよね…!
それからみんなと一緒にしばらく歩くと、流れのゆったりした広い川へと出た。
向こう岸までずいぶん遠い。
「この辺りでいいな」
そうつぶやいた黒羽さんが、足元にたくさん転がっている小石の中からおもむろにひとつを拾い上げた。
「うーん、こいつでいいか」
『あの、黒羽さん。
それ、どうするんですか?』
「ん?まあ見てろよ」
黒羽さんはかすかに笑うと、ポンポンと何度か小石を投げあげてはキャッチしつつ、川のほうへと視線を向けた。
「よし、行くぜっ!」
その言葉と同時に小石をグッとつかむと、勢いよく川に向かって投げた。
するとそれは水面をリズム良く何回か跳ねたあと、ポチャンと川の中に消えた。
あ!これって、確か…。
『水切り、でしたっけ』
「お、知ってたか」
『はい、テレビで見たことあります。
自分でも何回かやったことありますし』
家族旅行とか遠足で河原に行ったときにやったことは一応あるけど、全然うまくできなかったなぁ。
それに比べて…!
『黒羽さん、上手なんですね!
あんなに何回も跳ねるなんて』
本当にすごかったなー!
私もあんなふうに上手にできたらいいのになー。
「いや、俺はたいしたことねぇさ。いっちゃんに比べたらな」
『え?樹さん?』
樹さんのほうに振り返ると、樹さんはフフンと得意気に笑った。
「それほどでも……あるのね」
それから樹さんが見せてくれた水切りは、本当に本当にすごかった。
すごいスピードで水面ギリギリを小気味良く跳ねて、向こう岸までもう少しというところまでいった。
す……。
すごい………!!
「相変わらずスゲーな、いっちゃん!」
「さすがだね、いっちゃん」
「職人技っすね」
「カッコいいなぁー!」
「俺たちの中じゃ、やっぱりいっちゃんが一番だな」
「ありがとうなのね」
みんなが樹さんに次々言葉をかける。
そんな中、私は感動すら覚えていた。
テレビで水切りの名人だって紹介されてる人が投げてるところを見たことがあるけど、それに負けないくらいすごかった。
まさか生で見られるなんて……!
『樹さん、すごいです!』
「名無しさん、ありがとうなのね」
『本っ当に、すごかったです!
もうちょっとで向こう岸に届きそうでしたよ!すごい!』
「あ、ありがとうなのね」
つい興奮して、樹さんが少し身を引くのも構わず、私は熱く伝えてしまっていた。
「あーっ!
いいな~、いっちゃん。
名無しさん、あんなにはしゃいでる…」
「しょうがねぇさ、剣太郎。
いっちゃんは実際すげぇしな。な、ダビデ」
「そう、あきらめが肝心」
「うー、分かってるけど…」
それから、みんなで水切りで勝負することになった。
一番多く石をはずませることができた人が勝ち。
私は下手だし少し心配だったけど、ハンデをつけてくれることになったから、それなら何とか頑張ってみようと思って参加することにした。
ハンデは、樹さんは実際にはずませることができた回数からマイナス5回。
私はプラス5回。
他のみんなは回数そのまま。
ちなみに優勝者への特典は、最下位の人に何でも1つ命令することができる、というもの。
そして本番は一発勝負、その前に10分間の練習時間がとられることになった。
私はぶっちぎりで最下位候補だろうから、練習も本番もがんばらなきゃ!
そう気合いを入れて、さっそく練習にとりかかるため、石を探し始めた。
うーん、どれにしようかな…。
「あ、あのっ…。
もしよかったら、僕が――」
「――名無しさん。
俺でよければ、少しコツを教えようか」
顔をあげると、佐伯さんがいた。
『えっ、いいんですか?』
正直なところ、練習時間もそんなにないし、誰かに上手く投げるポイントを教わったほうがいいかなと思ってた。
「もちろんだよ。
君はあまり水切りをやったことがないみたいだし、さっきのハンデだけじゃ大変かなと思ってたんだ」
『本当ですか?ありがとうございます!
すごく助かります、よろしくお願いします!』
よかったー!
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