合同合宿編
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*日吉side
年が明け、冬休みが終わり、新学期が始まった。
また毎日学校へと通う日常が戻ってきて――。
――そして、1週間が過ぎた、ある日の昼休み。
「…………………チッ」
学園内のカフェテリアは、昼食をとるために集まってきた生徒で今日も賑わっていた。
そんな中、俺は水を一口飲んだあと、イライラしながらテーブルに肘をついた。
「あいつ…、なんでいないんだよ」
カフェテリアにいる女子、新たに入ってくる女子も全員、一人残らず確認しているのに…目的の女子はいない。
「氷帝の生徒じゃないのか…?
…いや、そんなはずはない。確かにあいつはこの学校にいるはず」
この1週間、学校の行く先々で、俺はクリスマスに街で見たあの女子を探していた。
と言っても、すべての教室を見てまわったり、人に聞いてまわったりしたわけじゃない。
べつに…、そこまでして見つけたいってわけでもないからな…。
だから、移動教室のときや昼休み、放課後、そして自分の教室にいるときも。
視界に入る女子をこれでもかというほど入念に…。
…いや、サラッと、確認してきた。
だがそんな俺の努力もむなしく、いっこうに見当たらない。
「あぁ、くそ。
一体どうなってるんだ」
1週間ものあいだ女子を見続けるという不慣れなことをしてきたせいか、いい加減気分が悪くなってきた。
「ごめんなー、昼メシ食いながらになっちゃって」
『ううん、大丈夫だよ。
放課後は部活で忙しいんだし、今のうちに話し合っておこう』
後ろのほうから、席に今着いたらしい男女の会話が聞こえてきた。
…あぁ、駄目だ。
集中が切れてしまっていた。
何人か見逃したな…。
「ありがとな。
そう言ってもらえると助かるぜ」
『バスケ部、気合い入ってるみたいだね』
「そりゃあな。
テニス部に負けてられないってな」
……テニス部?
というか、今しゃべってる男のほう…。
「俺らの学年で一番モテるのって、やっぱ鳳か日吉だろ?」
このくだらない話題…、やっぱりあいつか。
頭に浮かんだのは、同じ学年のバスケ部の奴だ。
テニス部と同じく全国レベルのバスケ部において、1年にしてエースと呼ばれている。
よくあちこちで大きな声で話しているから、声を覚えてしまった。
「あいつらスゲーモテるから、俺ももっとバスケ頑張って、あいつらよりモテるようになりたいんだよなー。
だから負けてられない!」
『え!?そんな理由!?』
「そう。モテるの大事」
『えー!
でも、もう充分モテてると思うけど…』
「まぁなー。
けど、男のモテたい願望に果ては無いんだぜ」
『そ、そうなんだ…』
…相変わらずバカバカしいこと言ってるな。
「ちなみに名無しちゃんは、誰がタイプ?」
『誰って?』
「だから、鳳か日吉か俺か、誰が好き?」
『えっ!』
…はぁ。
何か話し合う為に一緒に昼食をとりに来たんじゃなかったのかよ。
「鳳みたいな優等生タイプとー、日吉みたいな堅物タイプとー」
…………。
堅物タイプ……。
「あと、俺みたいなチャラ男タイプ。
さぁ、誰が一番好み?」
チャラ男…。
自覚はあるんだな、こいつ。
『そ、そんなの分かんないよ。
3人とも、ちゃんと話したこともないし』
…まぁ、それはそうだ。
話したことすら一回も無いなら、きちんと比較できるはずもない。
ん…?
3人とも?
「まぁなー。
俺たちがまともにしゃべったのも、きのうの委員会が初めてだったしな」
『そうだよ。だから分からないよ』
…って、おい。
馴れ馴れしく話しかけてたからそれなりに親しいのかと思えば、まともに話してから1日もたってないじゃないか。
……これだからチャラ男は。
「ハッ…!なんだこの感じ…」
『?
どうしたの?』
「なんか今、どこからともなくスッゲー冷めたような軽蔑してるような気配を感じた…」
『そうなの?
私、何も感じなかったけど』
…結構鋭いな、チャラ男のわりに。
…はぁ、つくづくくだらない。
もうここはいいか…、あいつも見当たらないしな。
さっさと他の場所に行こう。
空になった食器が並んだトレイを持って、席をたつ。
そして、トレイの置き場所へ行こうと後ろを向いた。
「ところでさ」
『なに?』
「あえて言うなら、でいいからさ。誰が一番タイプか教えて?」
まったく、いつまで中身の無い話を――
―――なっ……!!?
喉まで出かかった声をギリギリのところで飲み込む。
そこにいたのは、探していた女子――。
クリスマスに見た、あの女子だった。
「聞きたいなー。
俺が一番好きだって、名無しちゃんのカワイイ声で聞きたいなー」
『え、えっと……』
…………………………………………………………………ハッ。
か、完全に意識が飛んでいた。
「なぁ、俺が好き?
それとも日吉が好き?それとも鳳?」
『え…、あの……』
……す、少しだけ聞いていくか。
べ、別に気になるわけじゃないが、俺に関わることだからな。
一応…、そう、一応聞いておいてやる。
その場でくるりと方向転換して、もう一度椅子に座る。
『わ、私の答えなんか聞いても面白くないよ』
「そんなことないって。
名無しちゃんみたいに真面目で優しい子に好かれるなんて、男冥利につきるし」
『私はべつにそんな…誉めすぎだよ。
それに日吉くんと鳳くんとは一言も話したことないんだってば』
「直接しゃべったことなくてもさ、なんとなくいいなぁとか思ったりするじゃん。
同じ学年なんだし、それに俺たち3人とも超有名人だし。
ぼんやりした印象くらいはあるだろ?」
『う…、それは…』
「さぁ、名無しちゃん。
俺と日吉と鳳、誰が好き?」
…心臓がうるさい。
興味なんかないはずだ。
なのに、全神経が背後に集中していた。
『わ、私は…』
「うんうん」
………………………。
『……3人とも好きじゃない』
「え」
え。
『……………………』
「……………………」
………………………。
「え……、えーーーっ!!!
全員ダメなの!!?俺ら、フラレた!?」
『ちょっ、声大きいって!
しかもフるとかじゃないでしょ!』
「…あ、ごめん!
で、でもなぁー、マジかー」
…………………マジかよ。
「あー…。
俺、女の子に好きじゃないとかハッキリ言われたの初めてだ…」
『ご、ごめん。
だって…やっぱりよく知らないから…』
「…よし、やっぱもっとバスケ頑張る!
そんで、今よりもっとモテる男になって、名無しちゃんにもう一回チャレンジする!
次こそは俺が一番好きだって言わせてみせる!
なんかやる気みなぎってきたー!!」
『ちょ、ちょっと、声大きいってば!
みんな見てるよ!』
「そんなの平気だってー。へっちゃらへっちゃら」
『私は全っ然へっちゃらじゃないの!』
それから…。
俺はカフェテリアを出て、教室へと向かうことにした。
もうこれ以上とどまる必要は無かったからだ。
昼食はとっくに終わっていたし、探していた女子を見つけることも出来た。
名無し……か。
名無し…、名無し……。
…あいつ…俺のこと知ってたんだな……。
ついさっき知ったばかりの名前を、頭のなかで何度も繰り返す。
すると、同じように知ったばかりの声が思い出された。
――“3人とも好きじゃない”
…………………フン。
俺だってあいつのことを好きなんかじゃない。
だから、好かれていなくても一向に構わない。
あいつのことを探していたのは、ただ…。
あのとき、泣きそうな顔をしていたから…。
そして…それを助けてやれなかった後ろめたさがあったから…。
そう…、ただそれだけのことだ。
だから、べつに困らない。
全く、困ったりしない。
――“好きじゃない”
……………………。
「……チッ」
教室へと続く廊下を歩きながら、ポケットに乱暴に手を突っ込む。
「………………。
ひざ…、見えなかったな」
ずっと気になっていた。
ひざの傷はどうなったんだろうか。
きちんと治っているといいが…。
「名無し…」
初めてその名前を口にする。
すると、なぜだかわずかに胸の奥が熱を帯びた気がした。
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