合同合宿編
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午前の練習が終わって、お昼ごはんの時間になった。
私たちお手伝いメンバーの手際もずいぶん良くなって、準備はバッチリ完了。
配膳も終わって、今はみんなと一緒に食べ始めたところなんだけど…。
「名無しさん、もしかしてどこか具合が悪いんじゃないですか…?」
竜崎さんが心配そうな表情で私の顔をのぞきこんだ。
『えっ…。
そ、そんなことないよ、大丈夫』
「そう…ですか?
なんだかさっきからうわの空っていう感じで、ごはんもあんまり食べてないし…」
『そ、そう?
今日早起きしたから、今頃になってなんだかちょっと眠くなってきちゃったみたい…あはは』
……心配してくれてるのに、嘘ついてごめんね、竜崎さん。
でも、こうとでも言わないとみんなにもっと心配かけちゃうし…。
あの試合…日吉くんと手塚さんの試合は、結局大差で手塚さんが勝つ結果で終わった。
私は休憩の間はずっと誰かの試合を観るつもりだったけど、まだ少し残っていた時間を切り上げて仕事に戻った。
何かしてないと日吉くんのことばっかり考えて、苦しくなっちゃうから…。
遠く離れた席に座る日吉くんに目を向ける。
日吉くんは一人でごはんを食べていた。
やっぱりなんだか表情が暗いというか…固いような気がする。
……………………。
心配だな…。
不安な気持ちで日吉くんを見ていたそのとき、日吉くんがトレイを手に席を立った。
えっ…、もうごはん終わったの?
まだみんなが食べ始めてからそんなに時間たってないのに。
一瞬おかわりかなとも思ったけど、厨房のところにトレイを置いた日吉くんはそのまま食堂を出ていってしまった。
私はその様子をただびっくりしながら見ていたけど、ふとあることに気がついた。
………ハッ!
これは…もしかして、チャンス?!
今追いかければ、日吉くんと二人で話ができる!
………って、ダメだ…。
何考えてるんだろう、私。
ごはんが終わったら後片付けしなきゃいけないのに。
やるべき事を放り投げてまで自分の都合優先で追いかけるなんて、ダメに決まってる。
私はお手伝いする為にここに来てるんだから。
「あっ、そうだ。
朋ちゃん、さっきみんなで話してたこと名無しさんに言わなきゃ」
「え?あぁ、あのことね。
そうだった、うっかりしてたわ」
「なんだよお前ら、まだ言ってなかったのか?」
「うっさいわね。
じゃああんたたちが言えばよかったじゃない」
なんだか分からないけど、一年生たちが私のほうを見つつ軽くもめ始めた。
???
何?どうしたのかな。
不思議に思っていると、竜崎さんが私に話してくれた。
「名無しさん。
今日のお昼ごはんの後片付けは私たちでするので、名無しさんは休んでいてください」
『えっ。
そういうわけにはいかないよ。
私は大丈夫だから気にしないで』
「あ、違うんです。
そうじゃなくて、朝からみんなで話してたことなんです。ね、朋ちゃん」
「そうそう。
名無しさん、今日の朝私たちより早く準備にとりかかってくれたじゃないですか。
それですっごく助かったので、せめてものお礼です」
あぁ、なるほど…、そういうことか。
……………あ!
後片付けの時間が自由になったら、日吉くんと話ができる!
…いやいや、でもやっぱり……。
「名無しさん、遠慮はいらないですよ。
僕たちも何かお礼がしたかったですから、休んでもらえたほうが嬉しいです」
そう言って、ニコッと笑ってくれる壇くん。
うーん…、悪いなとは思うけど、ここまで言ってくれるなら…甘えちゃってもいいのかな…?
『みんな、本当に…いいの?』
「はい、もちろんです」
「たまには私たちに任せちゃってください!」
ほほえむ竜崎さんと、ガッツポーズをつくる小坂田さん。
ウンウンとうなずいてくれてる男の子たち。
うー…、やっぱりちょっと迷うけど、ここは…。
……うん、みんなの気持ちをありがたく受け取ろう。
『みんな、ありがとう!
それじゃ、お願いします!』
「はい、分かりましたっ」
「私たちのことは心配しないでくださいね」
『うん、ありがとう!』
よーし、そうと決まれば…。
――バクバクガツガツモグモグ
早く食べちゃおう!
それで日吉くんのところに行くんだ!
「あ、あの…どうしたんですか、急に」
『モグモグ…うん、なんだか急におなかがすいてきちゃって』
「も、もっとゆっくり食べないと、身体に悪いですよ」
『ありがとう。
でも大丈夫、超高速でちゃんと噛んでるから。モグモグモグモグモグモグ……』
「そ、そうみたい…ですね」
ごはん、残すのはダメ。
もったいないし、力でないし。
一年生たちが若干ひいてるような気はするけど…まぁいっか。
――バクバクガツガツモグモグ
よしっ、ごはん終了!!
『ごちそうさまでした!みんな本当にありがとね!それじゃ行ってきます!あとよろしくお願いします!またあとでね!バイバイッ!』
「え?
あ、は、はい。行ってらっしゃい……ってどこに?」
「さ、さぁ…」
ポカンとしているみんなに手をふると、私はダッシュで食堂を出た。
……日吉くん、どこ?
どこにいるんだろう…。
食堂を出てから、まず日吉くんの部屋に行ってみたけど、いなかった。
だから宿舎の中をあちこち探してみたんだけど、どこにもいなくて。
……どうしよう、このままじゃ…時間が無くなっちゃう。
今日のお昼休みは六角のみんなと遊ぶ約束があるし、それまでに見つけないと…。
明日は最終日だからバタバタするかもしれないし、チャンスがあるとしたら今日だよね、やっぱり。
夜でもいいけど、日吉くんに何か予定があったら無理だし…。
……………………。
この合宿が終わったら、部活もクラスも違っていて友達でもない日吉くんとは、ときどき顔を合わせるだけの毎日にまた戻っちゃう。
そうなったら、テニスに忙しい日吉くんにわざわざ時間をつくってもらってまで二人で話したいなんて、言える勇気…出せないかもしれない。
それに…今、この合宿中に言わなきゃいけないことがある。
朝のこと、謝るなら…今じゃなきゃ。
…そうだよ。
日吉くんと普通に話せるようになりたいなんて言ってる場合じゃない。
そんなことより、日吉くんがいつもどおりの日吉くんのテニスをできるようになることのほうが、何倍も何十倍も大事。
だから早く…早く日吉くんを見つけないと!
建物の外に出て、日吉くんの姿を探す。
コート、屋内練習場…。
駐車場や門のところにもいない。
あと見てないところは…建物の裏手だけ。
お願い、日吉くん、いて…!
私は祈るような気持ちで走った。
……ハァ、ハァ…。
たどり着いた私は、はやる気持ちを抑えつつ辺りをぐるっと見回した。
………あっ!
いた!日吉くん!
視界の中に、探していたその姿をやっと見つけた。
日吉くんは建物の裏側、桜の木が立ち並んだ場所にある川べりに、こっちのほうに背を向けて一人で座っていた。
もう息を整えている時間も惜しい。
私は日吉くんのところへと走った。
どんどん狭まる日吉くんとの距離。
……ハァ、ハァ。
早く…日吉くんと話したい。
そのとき、日吉くんがゆっくりとこっちへと振り返った。
この辺りは静かだから、きっと私の足音に気がついたんだと思う。
いつもの私ならもっと息をととのえてから歩いていくところだけど、今はそんなこと構っていられない。
私を見た日吉くんの目が見開かれる。
さっきの試合のときと同じように。
だけどその次に見た日吉くんの顔は、さっきの苛立ったような表情とは違って、少し悲しげなものだった。
やっと日吉くんのところまで来た私は、座ったままの日吉くんに声をかけた。
『ひ、日吉くん…』
…ハァ、ハァ、ゼェ、ゼェ………。
うぅ、く…苦しい。
「…何しに来たんだよ」
視線を川へと戻す日吉くん。
その横顔が俺に関わるなと言っているようで、一瞬怯んでしまう。
でも…、ちゃんと謝るって決めた。
…決めたんだから。
私は日吉くんに気づかれないように、スーハーと小さく深呼吸した。
走ってきたせいか、これからしようとしていることのせいか、ドキドキがおさまりそうにない自分を何とか落ち着けようとする。
そしてこっちを見ようともしないその横顔を見つめた。
…よし、勇気出せ、私!
『あ、あのね』
「………」
『わ、私…』
「………」
『私っ…、日吉くんと――』
――話がしたくて来たんだ
そう続けようとしたとき。
「おーい、名無しさーーん!」
えっ……。
突然、後ろのほうから私を呼ぶ声が聞こえてきた。
この声……葵くん…?
振り向いて声の主を探すと、思った通り、遠くに葵くんの姿が見えた。
こっちに向かってブンブンと手を振っている。
「亮さーん、こっちにいましたよ!」
違う方向に今度は手招きをする葵くん。
するとその先から木更津さんがスッと出てきて、こっちのほうへと顔を向けた。
私に手を振りながら走ってくる葵くんと、ポケットに手を入れて歩いてくる木更津さん。
そんな二人の姿を、私はただ立ちつくして見つめていた。
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