合同合宿編
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練習開始の時間になってみんなが集合すると、今日は試合をすると跡部先輩から発表された。
くじ引きで対戦相手が決定する。
そのくじは、ちゃんと違う学校の人が相手になるように調整済み。
さっき跡部先輩から知らされて、お手伝いメンバーで一緒に作ったんだよね。
私たちは試合をスムーズに進められるようにいろいろ雑用をすることになってるんだけど、交代でちゃんと休憩をとるように跡部先輩から言われた。
みんなが試合してるところはまだ見たことがなかったから、自分の休憩の順番がきたら見てみようかな。
…私もいろいろ気になることはあるけど、今はあんまり考えないようにしよう。
『あ、鳳くん』
少し離れたところに見慣れた背中を見つけた私は、駆け寄って声をかけた。
「名無しさん」
『よかったね、試合ができて。鳳くん、試合したいって言ってたもんね』
「うん、楽しみだよ。
俺さっそく今から試合なんだ」
『そうなんだ。相手は?』
「菊丸さんだよ」
『そっか、頑張ってね』
「ありがとう。名無しさんも」
『うん』
コートに向かう鳳くんと、手を振りあった。
そっかぁ、菊丸さんと試合するんだ。
鳳くん、すごく嬉しそうだったなー。
…さぁ、私も担当の仕事、始めよう!
あちこちのコートでそれぞれ試合が進んで、私は自分の担当の仕事や誰かに頼まれた事をこなすのに夢中になっていた。
そんなふうに時間が過ぎて、ようやく仕事にも慣れてきた頃、遠くから私を呼ぶ声が聞こえてきた。
「名無しさーん!」
顔をあげると、すごい勢いでこっちに走ってくる壇くんが目に入った。
私のところにたどり着いた壇くんは、肩で息をしてる。
「名無しさん、休憩してください!僕が替わりますから」
『ありがとう、壇くん。
でもそんなに走らなくてもいいのに』
「名無しさん疲れてるかなと思って、早く伝えたかったです」
壇くんは少しずり落ちたバンダナをぐいっと上げながら、ニコッと笑った。
…なんて可愛いんだろう。
いい子だなぁ。
『それじゃあ私、休憩してくるね。
お願いします、壇くん』
「はい!ゆっくり休んできてください!」
壇くんに見送られてその場を離れると、私はそのまま試合状況が書かれているホワイトボードがあるところへと向かった。
「休憩か?」
『あっ、跡部先輩。樺地くんも』
「お疲れ様…です」
ホワイトボードを見ていると、跡部先輩と樺地くんに会った。
『二人のほうこそお疲れ様です。
私は今休憩に入ったので、せっかくだから試合をみようかなと思ってたんです』
「そうか。
なら、ここで観ていくといい」
『え?』
「ちょうど試合が始まるところだ」
跡部先輩はまっすぐにコートのほうを見ていて、それを追うように私も目を向けた。
目の前のコートには、一人がもう立っていた。
あ、手塚さんだ…。
その姿を見た瞬間、反射的に頬がかすかに熱くなる。
練習前の出来事を思い出してしまって、なんとなく恥ずかしい。
コートに立つ手塚さんは私とは対称的に落ち着いた様子で、なんだか威圧感があるような…、こういうのをオーラをまとっている、というのかもしれないと思った。
相手が誰なのか気になって反対側のコートを見ていると、しばらくしてそこに日吉くんが入ってきた。
『えっ…、日吉くん?』
私は無意識につぶやいていた。
「おまえは日吉がテニスをしているところは見たことねぇだろ」
『は、はい』
「せっかくの機会だ、見ていけよ。
手塚とは俺がやりたいところだったが、まぁこればっかりはしょうがねぇ。
日吉のやつ、くじ運がいいな」
跡部先輩は楽しそうにククッと笑った。
…手塚さん、きっとすごく強いんだろうな。
跡部先輩がこんなふうに言うくらいだもん。
…………。
…日吉くんはどんなテニスするのかな。
朝のこと、影響ないといいんだけど…。
日吉くんの様子が気になりつつ、私は跡部先輩と樺地くんの隣で試合を観ることにした。
試合が始まって、私は初めて日吉くんがテニスをしている姿を見た。
当たり前かもしれないけど、学校で会ったときに見る日吉くんとは全然違う。
…ううん、静かな雰囲気は同じ…。
でも…。
静かだけど、…熱い。
なんだか日吉くんの違う一面を知った気がして、私はいつのまにか見いってしまっていた。
試合は一進一退だった。
でも、徐々に手塚さんが押し始めてきた。
手塚さんがすごく強いっていうことは、素人の私にも分かるくらいで。
でも今こういう試合展開になってるのは、実力差があるとかそういうことじゃないような気がする。
だって…。
「チッ…。
あいつ、何してやがる」
「………」
日吉くんはボールをネットにかけたり、サーブをアウトにしてしまったり…、そういうミスを何度も繰り返していた。
それがいつもの日吉くんらしくない事だということは、跡部先輩と樺地くんの様子から伝わってきた。
「…集中できてねぇな」
「……ウス」
…………………。
やっぱり、そうなんだ…。
日吉くんは苦しそうで、苛立っているように見えた。
…私のせいかもしれない。
私が怒らせるようなことをしてしまったから…。
そのとき、額から流れる汗をぬぐった日吉くんが、ふいにこっちのほうへと顔を向けた。
その瞬間目が合って、日吉くんが驚いたように目を見開く。
突然のことにびっくりして私も固まってしまっていると、日吉くんは眉間にシワをよせて私にクルッと背を向けた。
…今、私を見て、さっきまでより表情が険しくなった。
やっぱり…。
「…ハァ。
ったく…しょうがねぇやつだな」
「………」
…やっぱり、私のせいだ。
『……あの、跡部先輩』
「アーン?どうした」
『日吉くんの調子が悪いのは…、私のせいだと思います』
「…?どういうことだ」
私は今朝の出来事を跡部先輩と樺地くんに話した。
このままじゃ、日吉くんが日吉くんのせいで集中できてないってことになっちゃう。
「…………」
私の話を、跡部先輩と樺地くんは静かに聞いてくれた。
『すみません…。
合宿をより良くするために来てるのに、私がちゃんとやるべきことをしてなかったせいで日吉くんを怒らせてしまいました…。
本当に…すみません』
跡部先輩は私のこと、適任だって言ってくれたのに…。
その気持ちを裏切って、選手を怒らせて調子を悪くさせるなんて、ただ足を引っ張っただけ。
日吉くんだけじゃなくて、跡部先輩にも…テニス部のみんなにも迷惑かけちゃった。
どうしよう……。
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