氷帝での出会い編
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*宍戸side
俺にはつい最近、2年の知り合いができた。
女子の知り合いだ。
長太郎から借りたものを返しに行ったとき、長太郎の隣の席にいたやつだ。
別になにか気にかかるような所なんか無かった。
だけど、ふとなんとなく隣に目をやったとき、気がついた。
そいつの持っている教科書が逆さまだって事に。
すげー凝視してるくせに逆さまって…。
…変なやつ。
そんなことを俺が考えてる事なんか知らない長太郎は、その女子を紹介すると言ってきた。
一瞬戸惑ったけど、まぁ、これからこのクラスに来たとき世話になることもあるかもしれないと思った俺は、紹介してもらうことにした。
最初の印象とは裏腹に、そいつはしっかりとした挨拶をしてきた。
ちょっと面食らったが、悪い気はしねぇ。
やっぱ挨拶は大事だからな。
帰り際、俺は少し迷った。
逆さまだということを伝えるかどうか。
わざわざ言わなくてもいいようなことだったけど、言ったらこいつはどんなリアクションをとるのか、少し見てみたくなった。
さっきのギャップがあったからかもしれない。
俺が逆さまだと伝えると、そいつはものすごい速さで手元の教科書を確認した。
で、そのまま動かなくなっちまった。
よく見ると、ほほの辺りが赤い。
恥ずかしいと思ってんのかな。
…なんだ、普通のリアクション。
……けど、教科書逆さまとか、漫画とかでしか見たことなかったぜ。
初めて生で見たな。
名無しななし…。
………ハハッ、おもしれーやつ。
変なやつって第一印象と、あのしっかりした挨拶と、今の普通のリアクション。
どれが本当のこいつだ?
そんなことを考えていたら、ほとんど無意識に「またな」と言っていた。
自分のクラスへと向かう途中、俺は自分が口にした言葉に驚いていた。
…また、か。
女子にまた会ってみたいなんて、今まで思ったことなかった。
…まぁ、いいか。
嫌な気分じゃねぇしな。
あれから2日。
俺はまた長太郎のクラスに向かっている。
今日の昼飯をレギュラー全員で食べようという跡部の提案を伝える為だ。
樺地はもう跡部から聞いて知ってるからいいとして、あと日吉にも言わなきゃならねぇが、ここからだと長太郎のクラスのほうが近いからな。
目的の教室に着いて中をのぞいてみると、長太郎の席は空いていた。
あれ?いねーな。
すると、その手前の席に座っていた名無しがふいにこっちを見た。
目が合う。
長太郎はいねーけど…。
俺は教室に入っていった。
『宍戸先輩』
「よぉ、また会ったな」
……………ま、まずい。
名無しの顔を見たら、こないだのことを思い出しちまった。
俺がここを出たあと長太郎も笑っちまって、こいつは恥ずかしがって、結構大変だったような感じのことを後から長太郎に聞いた。
ま、そのことがあってお互いにあった緊張がほぐれて、打ち解けるきっかけみたいなものにはなったらしいが、名無しからすれば恥ずかしい思いをしたことには違いないからな…。
…俺のせいでもあるし。
謝るってのも余計なことな気がするから、その話題には触れずに通すつもりだったんだけどな。
ダ、ダメだ。
我慢しようとすると余計に笑いそうに…。
「わ、わりぃ」
『もういいですよ』
結局笑いを堪えきれなかった俺は、名無しに謝った。
会うのはあのとき以来だから、実は少し不安な気持ちもあった。
…嫌われてるんじゃねぇかって。
でも名無しは、あの事がいいきっかけになったと、笑って言ってくれた。
なんか…いいやつだな。
長太郎は職員室に行っているが、すぐに戻ってくるらしい。
それなら待っていようかと、俺は長太郎の席に座った。
ふと視線を感じて隣を見ると、名無しがこっちをじっと見ていた。
「?
どうかしたか?」
『いえ…なんだか新鮮だなって。宍戸先輩がそこに座ってると、不思議な感じがします。
先輩なのに、同級生になったみたいです』
………………………。
…なんでそんな嬉しそうな顔で言うんだよ。
…調子狂うぜ。
女子は苦手だけど…。
こんな女子なら悪くないかもなとか、思っちまったじゃねーか。
「…それはこっちのセリフだぜ」
『え?』
きょとんとした顔しやがって。
名無しといると、今までの俺にはなかった新鮮な感覚が生まれるような気がする。
………………………。
女って、こんなんだったか?
俺が苦手なやつらとはなんか違うな…。
さっぱりしてるっつーか…あっさりしてるっつーか…。
…なんでもいいか。
こいつがこういうやつだって事は確かだ。
それでいいよな。
「あ、そうだ」
いいこと思いついたぜ。
「今日の昼飯、テニス部のレギュラーメンバーで食うんだ。
お前も来いよ」
我ながらいい考えだと思った。
何となく、あいつらと…俺の仲間と名無しを、引き合わせてみたいと思ったから。
けど……………。
名無しは微動だにせず固まっている。
「あれ?宍戸さん」
そこに長太郎が戻ってきた。
「よぉ、邪魔してるぜ」
「それは構いませんけど、何かあったんですか?」
俺は今日の昼飯の事と、名無しをその場に誘った事を説明した。
長太郎は最初驚いてたが、すぐに俺の提案に賛成してくれた。
「名無しさん、よかったら一緒にどう?
名無しさんなら、きっとみんな歓迎してくれるよ」
「ああ、俺達もいるしな。
そういや、日吉とも顔見知りなんだよな?あいつもいるぜ。だから来いよ」
名無しは何故か、これでもかってぐらいにしぶい顔をしている。
『あの、すみません…。
誘ってもらえるのは嬉しいんですけど、遠慮させてください…』
そのあと何度か来るように言ってみたが、結局断られちまった。
もう休み時間も終わるし、日吉には長太郎が伝えといてくれるって言うから、俺は自分のクラスへと向かった。
…少し無神経だったかもしれねぇな。
俺からすれば気心しれたやつらだが、名無しにとってはほとんどが初めて会う上級生、しかも男ばかりだ。
…あいつの気持ちももっと考えるべきだったな。
……………激ダサだぜ。
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