合同合宿編
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*日吉side
朝食を終えて、俺は部屋へと戻ってきた。
これから練習だ。
集中しないといけない。
…強くなるために。
そのためにここに来ているんだから。
俺はもっと、強くなりたい。
それなのに…。
あいつの顔が…頭から離れない。
ベッドに腰かける。
無意識のうちに、大きなため息をついていた。
そのことに気がついて、心が波立つ。
………………くそっ。
どうなってるんだ、俺は。
なんで……。
なんで、名無しのことばかり考えてるんだ。
こんな状態じゃ、練習に…テニスに集中できない。
…………………。
あいつに…あたったからか?
そうだ、あれは…八つ当たりだった。
自分のイライラをもてあましていた。
――“なにボーッとしてるんだよ”
――“いいから、早くしろよ”
……あんなこと、言うつもりじゃなかった。
あんな言い方、するつもりじゃなかった。
――“ごめん、日吉くん”
……………………。
あんな顔……させるつもりじゃなかった…。
…この合宿の話を聞いたときから、名無しが参加することに決まったときから、俺は…分かっていた。
名無しと、あの人が…千石さんが再会することになると。
そして、あの二人のことだ。
おそらくあっという間にその距離を縮めるということも。
そんなこと…。
そんなことくらい、…分かっていた。
…予想どおり、名無しと千石さんは再会してすぐに打ち解けた。
あのとき、ミーティングルームで…。
再会した驚きの中にも喜びを隠しきれずにいたあの二人を、俺はただそばで見ているしかなかった。
千石さんが名無しとの関係を皆に問いつめられているときも。
名無しが問いつめられているときも。
夜に二人で会うらしいと噂に聞いたときも。
俺はただ、その現実の中に身をおいていることしかできなかった。
…俺は、嫌だったのかもしれない。
こうなることを知っていたから。
名無しがこの合宿に参加すると、騒々しくなって、ペースを乱される。
ただでさえ、俺はあいつをよく思っていない。
そして、あいつも…俺をよく思っていない。
そんなやつに参加されて、自分のペースを乱されるのが、嫌だったんだ。
だが、いざ合宿が始まってみれば、千石さんだけじゃすまなかった。
黒羽さんや天根、一年のやつらともすっかり仲良くなったみたいだ。
おまけに今朝は室町と…。
脳裏に朝早くに偶然見た光景がよみがえる。
他に誰もいないコートで、あいつは室町と二人でテニスをしていた。
……室町が、あいつの肩や腕に触れて…。
あんな…近い距離で……。
……………………。
…分かってる。
あいつは室町からテニスを教わっているようだった。
名無しみたいな完全な初心者に教えようと思ったら、言葉だけじゃ足りない。
あのくらいしないと伝わらない。
だけど…。
分かっていても…。
ザワザワと心が騒ぐのを止められなかった。
…あんなふうに触れられても、嫌そうな様子が微塵も見られないあいつも。
心から楽しそうに室町と笑いあうあいつも。
俺には…。
………………遠い。
――――――ガチャ
そのとき、部屋の扉が突然開いた。
「あっ、日吉いたのか。
ごめん、急に開けたりして」
俺がいるとは思っていなかったらしい同室の鳳が、ハッとしたように謝ってきた。
「…いや、別にいい」
くだらない考え事をやめるには、丁度いいタイミングだった。
「ありがとう。
でもやっぱりマナー違反だ。次からは気をつけるよ」
「…ああ」
鳳は自分のベッドに座って、荷物を整理し始めた。
「今日の練習、何するんだろうな」
「さあな」
「直前まで分からないっていうのも、緊張感があっていいな」
「…そうだな」
「きのうみたいな練習もいいけど、せっかくこんなすごいメンバーが集まってるんだから、やっぱり試合もしたいよ。
日吉もそう思わないか?」
「そうだな…」
「やっぱりそうだよな。
それにしても、一日中テニスしてられるって楽しいな。
合宿に来ると、つくづくそう実感するよ」
「………」
「?」
「……………………」
「日吉?」
……っ。
今、また……。
「日吉、何かあったのか?
様子が変だけど…」
鳳から不安げな眼差しを向けられる。
「いや…、なんでもない。
少し寝不足なんだ」
「そう…か?」
「ちょっと目を覚ましてくる」
「ああ…うん、分かった」
鳳の視線から逃れるように、俺は足早に部屋から出た。
……駄目だ…、俺は…。
今……。
また名無しのこと、考えてた……。
俺は廊下を一人、ただあてもなく歩いていた。
とにかく気持ちが落ち着かない。
合宿に来てから…いや、あいつの合宿への参加が決まったときからずっと騒がしかった気持ちが、八つ当たりしてしまったことで、さらに膨らんでしまった。
あいつ…震えてた。
おびえた目で俺を見て、しまいには俺のほうを見なくなった。
全部、俺のせいだ…。
…名無しは悪くない。
あいつがボーッとしてることなんか、べつに珍しいことじゃない。
たかだかそれぐらいのことで、俺だってあんなに苛立ったりしない。
あのとき、あれほど心が乱れたのは…。
――“もう、付き合っちゃえばいいのに”
――“千石さんのこと、どう思ってるんですか?”
あいつがボーッとしていた理由が…。
あのとき、あいつの心の中が…千石さんで埋めつくされていたから…。
それが分かって…。
どうしようもなく、苛立った。
…そんなこと、俺には関係ないことだ。
名無しが千石さんと…いや、他の誰が相手であっても、付き合おうがどうしようがそれはあいつの自由で、俺には関係ない。
それが分かっていて、なぜここまで心が乱される?
……………………。
……分からない。
俺は…あいつに何を望んでいる?
俺はあいつと…どうなりたいんだ。
「おっ、日吉」
ん…?
「桃城…」
後ろから声をかけられて振り返ると、桃城と…海堂、それに不二さんと菊丸さんがいた。
気のせいか、桃城がニヤついているような…。
「いやー、ちょうどいいところに来てくれたぜ!」
「?何の話だ」
気味が悪いな。
「桃城、お前…。
まさか日吉にまでそんなくだらない話をするつもりじゃねぇだろうな」
「はぁ?何言ってんだ、マムシ!
重要な話だろ、重要な」
「何が重要だ、くだらねぇ」
「なんだとっ?
おまえだってちょっとくらい気になってるだろうが」
「なってねぇよ。
お前と一緒にするんじゃねぇ」
「何をー!?」
「フシュー!」
…………………。
なんなんだ、一体。
「こらこら、二人とも、日吉くんが困ってるよ」
にらみ合う二人を見ながら、不二さんがクスッと笑った。
「ボクたち今ね、名無しさんの話をしてたんだ」
「え…」
不二さんの口から名無しの名前が出てくるという予想外の出来事に、徐々に鼓動が速くなっていく。
なんで不二さんたちがあいつの話を…。
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