合同合宿編
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「はは、壇くんにいいところ持っていかれちゃったな~」
「え?どういう意味ですか?」
「壇くんもなかなかやるね」
「???」
全然意味が分かってなさそうな壇くんは、腕を組んで首をかしげた。
それがなんだか可愛くて、千石さんと私は顔を見合わせて小さく笑った。
「それじゃあ二人とも、また後でね」
壇くんと私に手をふると、千石さんは他のみんなのところへと歩いていった。
それにしても…。
千石さん、急にあんな…す、すごいこと言うから…。
しばらく思考回路が止まっちゃったよ。
「もう、朝からラブラブですねー!」
『うわっ、小坂田さん』
び、びっくりしたー!
もっと離れたところにいたはずなのに、いつのまに…。
…って、違う違う。
ちゃんと否定しなきゃ。
『そんなんじゃないってば』
「またまた~。
“別れ際のキミが可愛すぎて…”とか言われてたじゃないですか。
ねぇ、桜乃」
「う、うん」
りゅ、竜崎さんまで…。
「千石さんって、積極的なんですね…。
周りに人がいるのに、名無しさんしか見えてないっていう感じで…」
「ちょっと桜乃、なんであんたが顔赤くしてるのよ」
「だ、だって…見てるだけで恥ずかしくなっちゃって」
ああ…。
完全に誤解されちゃってるよ。
『ねぇ二人とも、誤解してるよ。
可愛いなんて、千石さんは二人にも言うでしょ?』
室町くんともこんな話になったけど、千石さんは私にだけそういう言葉を使うわけじゃない。
現に小坂田さんや竜崎さんにも言ってるし。
「それはそうですけど…」
『ね?だから違うってば』
「確かに桜乃にも私にも言いますけど、名無しさんに対しては違うと思いますよ」
そう言って、うんうん、とうなずく小坂田さん。
『えー?
なんでそう思うの?』
「勘ですよ。
オ・ン・ナ・の、カ・ン!」
『………あ、そう…』
自信満々な顔で何を言うかと思ったら…。
でも、面白いなー、小坂田さん。
あんなに力説したのに、勘だって。
「…でも」
なんだかおかしくて笑ってたら、竜崎さんが真剣な表情で小さな声で話し始めた。
「私も朋ちゃんの言ってることが当たってると思います。
言葉は同じでも、それを言うときの気持ちが違うっていうか…」
「そうそう、それよ!
さっすが桜乃!」
『もう、考えすぎだよ、二人とも』
そうそう。
千石さんは初めて会った瞬間からもう優しかった。
ずっと、優しかった。
だから違うよ。
千石さんは、みんなに優しい人。
そういうところ、千石さんのすごく良いところだと思うなぁ。
……と私は思うんだけど。
「えーっ。
絶対、桜乃と私のほうが合ってますって」
…小坂田さんは納得がいかないみたい。
うーん…、困ったなぁ。
「もう、付き合っちゃえばいいのに」
『え!?』
ちょ…、またとんでもないことを。
「せっかく同じ屋根の下にいるんですから、チャンスを活かさなきゃ!」
『チャンスって…。私はべ、べつに…』
「絶対うまくいきますよ!
千石さんは名無しさんのことすっごく気に入ってるみたいだし、そもそもお似合いだし!
ね、桜乃もそう思わない?」
「う、うん。
私もすごくお似合いだと思うけど…。
でも朋ちゃん、名無しさんの気持ちが大切だよ?」
「うーん、確かにそうね。
名無しさんは千石さんのこと、どう思ってるんですか?」
『え…』
小坂田さんと竜崎さんに食い入るように凝視されてしまう。
えーっと…気持ち、だよね。
私の、気持ち…。
千石さんのこと、どう思ってるかって…。
千石さんは……一緒にいると楽しくて、面白くて、優しくて…、ドキドキする。
というか、させられる。
なのに、嫌じゃない。
それはきっと、千石さんが相手のことを考えて行動する人だから。
だから、ちょっと軽く思えるような言葉も行動も、千石さんらしくていいなって感じるんだと思う。
…………………。
私は…千石さんのこと、どう思ってるんだろう。
私の気持ちは………。
「おい」
誰かに声をかけられて、私は我に返った。
いけない、完全に自分の世界に入り込んでた。
「なにボーッとしてるんだよ」
『あ…日吉くん』
そこにいたのは日吉くんだった。
すごく不機嫌そう……って当たり前か。
ごはん取りに来たのに、私がボーっとしてて気づきもしないんだもんね。
ふと気がつくと、壇くんがいない。
小坂田さんと竜崎さんがこっちに来たから、代わりに他の場所に行ったみたいだった。
二人で担当するところに一人だと大変だし、私は二人に元の場所に戻ってもらいつつ、日吉くんに謝った。
『ごめん、日吉くん』
「いいから、早くしろよ」
『う、うん』
急がなきゃと思うと、手が震える。
日吉くんがなんだかいつもより怖くて…。
「おはよう、ななしちゃん、日吉」
突然聞こえてきた声に顔をあげると、少し離れたところに忍足先輩がいた。
先輩はゆっくりと日吉くんの隣まで歩いてくる。
「おはようございます、忍足さん」
『お、おはようございます』
「あぁ、お腹すいたわ。ええ匂いやなぁ」
忍足先輩は日吉くんと私を見て、ほほえんだ。
「ななしちゃん、朝早くから大変やったんちゃう?
俺らは食べるだけやから、楽させてもらっとるけど。
なぁ、日吉」
黙ったまま忍足先輩をじっと見る日吉くん。
しばらくして、小さくため息をついた。
「…そうですね」
私…やっぱり、日吉くんに嫌われてるんだな…。
そんなの分かってたけど…。
今回だって私が悪いんだけど、すごく怒ってて…。
もし私以外の誰かだったら、こんなに怒らないんじゃないかな。
「ななしちゃん」
『あ、はい』
「まさかとは思うんやけど…」
『…?』
な、なんだろう?
忍足先輩、すっごく真剣な顔してるけど…。
「納豆…、ある?」
……………え?
『納豆、ですか?』
「せや」
『す、すみません、ないんです』
「ほんま?そらよかった」
『え?』
「納豆嫌いやねん、俺。ほんまに、めっちゃ嫌いやねん。あんなん好きや言う人がこの世におるなんて、信じられへん」
忍足先輩は眉間にシワをよせて、早口言葉みたいな早さでそう言った。
忍足先輩がこんなふうに取り乱すなんて、珍しい。
よっぽど嫌いなんだなぁ。
「あ、ひどいなぁ、ななしちゃん。
笑わんでもええやん」
『え?あっ、すみません。つい…』
「まぁ、べつにええけど」
…私、いつのまにか笑ってたみたい。
「日吉は確か好きやったやろ、納豆」
「えっ。…ええ、まぁ」
突然話をふられた日吉くんは、戸惑ったように答えた。
「ななしちゃんは?」
『わ、私もわりとよく食べますけど…』
「なんや、二人とも変わり者やなぁ」
「…それは忍足さんのほうですよ」
あ、日吉くん、笑った…。
…よかった。
私のせいで怒らせちゃったから。
これから練習があるのに、嫌な気持ちにさせちゃって悪い影響が出たら大変だ。
私が怒られても、私のせいだからしょうがないけど…。
「まぁ、ええか。
一番の心配事が解決したわけやし、これで気分よく食事できるわ」
一番の心配事が納豆…。
ふふ、面白いな…、忍足先輩。
「ほな行こか、日吉」
「ええ、そうですね」
二人にごはんを渡す。
今度は手は震えなかった。
「おおきに、ななしちゃん」
忍足先輩がほほえみかけてくれる。
それが嬉しくて私も自然と笑っていた。
だけど…日吉くんのほうは見られない。
勇気ないな…私。
「……悪かった」
『え…?』
日吉くんの声…。
おそるおそる日吉くんのほうへと顔を向けると、目が合った。
「強く…言いすぎた」
日吉くんは私をまっすぐに見ていて、なんだか胸がキュッと痛くなる。
『あ…ううん。
私が悪かったんだから。
こっちこそごめんね、日吉くん』
日吉くんはただ私を見たまま、もう何も言わなかった。
それから、日吉くんは忍足先輩と一緒にその場を離れていった。
入れ替わるようにして戻ってきた壇くんと、また隣同士で配膳を始める。
だけど手を動かしていても、私は日吉くんのことが気になってしょうがなかった。
なんか…日吉くんにものすごくじっと見られていたような気がするけど、なんだったんだろう。
やっぱり、怒ってたから…?
…でも、そういう感じじゃなかったような気もする。
…よく分からない。
日吉くんの気持ちが…分からない。
今のことだけじゃなくて、今までもずっと…。
すごく怒ってるみたいだったり、私を拒絶したり…なのに私の気持ちを思いやってくれたり、優しくしてくれたり……。
日吉くん……私のこと、どれくらい嫌いなのかな。
どんなに頑張っても、何をしてもダメなくらいに嫌われてるのかな。
私は…日吉くんともっと話してみたいよ。
どんな人なのか、もっと知りたいよ…。
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