合同合宿編
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「ふぁぁ~…、ねみー…」
「僕もです…、眠いです…」
私たちお手伝いメンバーは、現在厨房にて朝食の準備中。
だけど、男の子たちはみんな眠そう。
壇くんは特に。
壇くんは、初日に遅れたことをすごく気にしているみたいで、あれからずっと何をするにしても張りきってる。
それはいい事だと思うけど…ちょっと心配。
気を張りすぎてなければいいんだけど…。
今日だって、一番乗りでここに来てたし。
「情けないわねー、あんたたち。
シャキッとしなさいよ、シャキッと」
相変わらず、ものすごい速さで包丁を操る小坂田さん。
見てるだけで目が覚めそう。
「そんなこと言ったってよ~」
「ほらそこ!だらけた声出さないの!」
小坂田さん、本当にしっかりしてるなぁ。
『小坂田さん、普段も朝ごはん作ったりするの?』
「あ、はい。
毎日じゃないですけどね」
『そっかぁ。
将来いい奥さんになれそうだね』
「えっ。そ、そうですか?」
小坂田さんは私を見て、パッと顔をほころばせた。
『うん、そう思うよ』
「あ、ありがとうございます」
ちょっとだけモジモジしながら、小坂田さんはお礼を言ってくれた。
うーん、女の子って感じで可愛いなぁ。
「でもよー、いい奥さんになるには誰かと結婚しないといけないんだぜ?
小坂田もまず相手を探さないとな。大変だろうけど」
「ほ、堀尾くん!」
「ダメだよ、そういうこと言っちゃ!」
私の隣で、小坂田さんが静かにわなわなと震えているのが分かった。
ま、まずい…。
「あんた………」
「と、朋ちゃん。お…落ちついて」
『お、小坂田さん…』
竜崎さんと二人で、なんとか落ちつかせようと試みたんだけど…。
「~~うっさいのよ!!
あんたに言われたくないわっ!
ほんっっっとーに、デリカシーないんだから!!」
小坂田さんは堀尾くんに詰め寄って怒鳴りつけた。
ビクッと震える堀尾くん。
…堀尾くんて、悪気なくこういうこと言っちゃうみたい…。
と、とにかく、なんとかこの場を収めなきゃ。
えーっと、えーっと…。
『ま、まあまあ。
これからそういう相手が見つかるんだから、いいじゃない。
わ、私にもそういう人ができるといいな。
ね、ねぇ、ねぇ?竜崎さん、そうだよね?』
私は救いを求めて竜崎さんを見つめた。
お願いっ。力を貸して、竜崎さん!
「えっ?あ、そっ、そうですね。
わ、私もそう思いますっ」
竜崎さんはコクコクとうなずいた。
私たちの言葉に、少し怒りが収まった様子の小坂田さん。
よ、よかった…。
…でも、本当にそう思う。
これからそういう存在がみんなにそれぞれできていくといいなーって…。
全然想像ができないけど、私にもいつかそんな人が……好きな人が、できるのかな。
ずっと一緒にいたいと思うような人。
……………。
うーん。
…やっぱり想像できないなぁ。
私には当分縁のない話かも。
「小坂田さん。
僕も、名無しさんの言うとおりだと思うですよ」
ふいに壇くんが口を開いた。
「僕も小坂田さんはいい奥さんになると思うです」
「えっ。ほ、ホント?」
小坂田さんが驚いたように尋ねると、壇くんは笑顔でうなずいた。
「はい。
確かに小坂田さんは料理も上手だし、すごくしっかりしてるです。
堀尾くんも、そう思いますよね」
「えっ?
あ、まぁ…それはそうだな」
「ほら、堀尾くんもこう言ってるです。
だから、名無しさんの言うとおりですよ」
「あ、ありがと…」
おお…。
壇くん、すごい…。
完璧に全方位をフォローしつつ、丸くおさめた…。
壇くんのおかげもあって朝食の準備も順調に進み、後はみんなが来るのを待つだけになった。
担当を決めると、隣の場所は壇くんに。
『ね、壇くんてすごいね』
「?
何のことですか?」
壇くんはきょとんとして首をかしげた。
うーん…。
さっきのは意識してのことだったのかな。
それとも…天然?
どっちにしても、壇くんて…大物かも。
…あっ、そうだ。
『壇くん、疲れてない?大丈夫?』
「え?僕ですか?」
『うん。
壇くんずっと一生懸命だし…、ほら、今日もすごく早くここに来てたでしょ?
だから疲れてるんじゃないかなって』
「先輩…。僕のこと、心配してくれてたですか?」
『う、うん』
大きな目でじっと私を見つめる壇くんに、ちょっと照れくささを覚えながらそう答えると、壇くんは何かを決意したような顔でハッキリと言った。
「ありがとうございます。でも僕は大丈夫です。
それより名無しさんは大丈夫ですか?」
『えっ、私?』
「僕は男ですから。でも名無しさんは女の子です。
僕より先に名無しさんが疲れてしまうですよ」
『……』
「疲れたら、いつでも言ってください。
僕が名無しさんの分まで頑張るですから」
……………………。
「?
名無しさん?」
…ハッ。
『あ…、えっと…。
ありがとう、壇くん』
「はい!」
壇くんは嬉しそうに笑った。
その表情はもういつもどおりの可愛い壇くんで…。
でもさっきの壇くんは、すごく、男の子らしかった。
可愛い可愛いって思ってたけど…、やっぱり男の子なんだなぁ。
…一瞬、キュンとしちゃったよ。
「名無しさん、壇」
声をかけられて振り返ると、そこには室町くんがいた。
「あ、室町先輩!
おはようございます!」
「おはよう、壇。
名無しさん、さっきはどうも」
『こちらこそ、ありがとう』
「ちょっと早く来ちゃったかな。
ごはん、大丈夫?」
『うん、大丈夫だよ』
室町くんにごはんを渡すと、「サンキュ。じゃあまた」と言ってスタスタと先へ進んでいった。
「名無しさん、さっきって何ですか?」
『え?ああ、室町くんのこと?
朝、テニスを教えてもらったんだ』
「へぇー、そうだったんですか」
『室町くんて面白い人だね。いい人だし』
「はい!
先輩たちはみんないい人ですよ」
『ふふ、壇くんは先輩たちが好きなんだね』
「え?あ、はい!」
少し照れくさそうにほほえむ壇くんを見ていると、なんだかこっちまで幸せな気持ちになれたような気がした。
室町くんが合図だったみたいに、それからどんどん人が来はじめた。
昨日より少しだけみんなが気軽に話かけてくれるようになった気がする。
なんだか嬉しいなー。
「おはよう、名無しさん、壇くん」
『あ、千石さん!
おはようございます』
「おはようございます!」
食堂にずいぶんみんながそろって、配膳もそろそろ終わりかなと思い始めたころ、千石さんが来た。
「きのうはホントにありがとう。すごく楽しかったね」
『はい、楽しかったです』
千石さんが笑いかけてくれた瞬間、きのうの気持ちがよみがえった。
「きのうはよく眠れた?
朝一緒に練習したって室町くんから聞いたけど」
『はい、そうなんです。
なんだか早く目が覚めちゃって。
千石さんは?』
「オレは逆に寝坊しそうだったよ。
なかなか寝つけなくて」
『えっ。そうなんですか?
大丈夫ですか、体調は…』
し、心配…。
今日は一日中練習なのに。
「身体は大丈夫だよ。
心配かけてゴメンね」
『いえ…、それならよかったです』
「でも、寝つけなかったのはキミのせいかな」
『えっ…!』
出会ってからずっと優しかった千石さんの口から“キミのせい”だと責めるような言葉を言われて、思わず身体が固くなる。
「だって、眠る直前までキミと一緒だったから」
『…あ、あの……』
私を見る千石さんは真顔だ。
…もしかして私、きのう何かしちゃった?
て、でも…。
さっきは楽しかったって言ってくれたし…。
「名無しさんのことを思い出して、なかなか眠れなかったんだ」
千石さんが何を言おうとしてるのかはっきり分からなくて不安で、無意識に見つめてしまっていた。
「…別れ際のキミが、可愛いすぎて」
……………………。
…………え?
「あ、もちろん別れ際だけじゃないよ?
名無しさんはいつでも可愛いけどね」
ついさっきまで真顔だった千石さんは、そう言うと、ぱっと笑顔に変わって軽くウィンクした。
私の頭は最初現実に追いつけずにいたけど、ようやく思考が動いて理解した瞬間、今度は心臓がうるさいくらいに鳴り始めた。
何も言えなくて、千石さんをただ見つめたまま硬直してしまう。
「僕も名無しさんのこと、可愛いと思うですよ」
隣から聞こえてきた声に、思わず顔を向ける。
すると、壇くんがにこっと笑ってくれた。
『壇くん…』
その無垢な笑顔を見ていたら、なんだか身体の力が抜けていって。
『ありがとう…、壇くん』
エヘヘ、と少し照れたようにはにかむ壇くん。
可愛いのは壇くんのほうだよ。
ああ、もう。可愛いなぁ。
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