合同合宿編
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「…あのさ。
なんで本当のデートじゃないと思うんだ?」
『だってデートっていうのは、お互いに…あ、どっちかだけっていう場合もあるんだろうけど…。
とにかく、その…えーっと…。れ、れん……』
「恋愛感情?」
『う、うん、そう。
それがないとデートとは言わないでしょ?』
恋愛感情とか…なんだか口にするのはちょっと恥ずかしい。
室町くんはあっさりしてるなぁ。
「まぁ、そうかもね」
『でしょ?
だから千石さんと私のはデートじゃないよ』
「なんでそう言いきれるんだ?」
『え?だって…』
「名無しさんにはなくても、千石さんにはあるかもしれないし」
千石さんが私に…恋愛感情?
『まさか。
そんなの、あるわけないよ』
「だから、なんで言いきれる?」
『だって、千石さんは小坂田さんにも竜崎さんにも私にも、同じように優しいよ?』
「デートに誘ったのは名無しさんだけだ」
『それは、私は二人と違ってこんなふうに部活に関わることはたぶんもうないし、変わった出会い方をして久しぶりにまた会ったからだと思うよ』
「…………………」
室町くんは私の顔をじっと見たあと、大きなため息をついた。
「はぁ……、なるほど…」
?
なるほど?
「これはなかなか…厄介だな。
あの人の自業自得とはいえ…」
室町くんは、うーん、と唸りながら器用にラケットをくるくる回し始めた。
その様子を見て、ずいぶん練習を中断してしまっていたことに、ハッと気がついた。
『あ、ごめんね。
つい話し込んじゃって、長話になっちゃった』
「ああ、名無しさんが気にすることじゃないよ。デートの話は俺がふったんだし。
…なんかこの短時間に、デートって単語、一年分くらい言った気がする」
『あ、私も』
なんだかおかしくなって、顔を見合わせて二人で笑いあった。
「そういえば、名無しさんはテニスするの?」
『ううん。
全然したことない』
「えっ。全く?」
『うん、全く』
「ふぅん、意外だな。
氷帝の人達と仲いいみたいだし、教えてもらったりしてるかと思ってた」
私は普段テニス部とは無関係だからなぁ。
この合宿に来て、初めてちゃんとみんながテニスしてるところを見たくらいだし。
といっても今日は班分けの関係で、全員を見たわけじゃないけど。
でも今日テニスしてるみんなを見て、テニスって面白そうだなって思った。
ちょっと、やってみたいなぁって。
でもみんなは合宿で来てるんだから、ちょっと教えてなんて、迷惑になりそうで言えなくて。
「今、少しやってみる?」
『えっ』
「俺でよければ、教えるよ」
『え、ホント!?
わーい、やったー!ありがとう!』
嬉しくて、思わず手をパチパチと叩いてしまった。
「大げさだな。
そんな喜ぶことでもないだろ」
『だって、嬉しいもん。
実はちょっとやってみたかったんだけど、邪魔しちゃうかと思ったら誰にも言い出せなくて』
「そっか。
じゃあ、ちょうどよかったな」
ラケットをまたくるくると回しながら、室町くんは笑った。
『あっ、でも本当にいいの?
せっかく練習してたのに…』
「ああ、それは大丈夫。
初心者に教えるのはいい薬になるから」
『薬?』
「基本に立ち返ることが出来るってこと」
『なるほど。なんか偉いね』
「また大げさな」
かすかに笑いながら、室町くんはその場で立ち上がった。
「それじゃ、外のコートに行くか」
『えっ、外?』
「もう明るいし、外のほうが気持ちいいし」
『うん!』
それから外のコートへと二人で移動すると、室町くんは私にいろいろ教えてくれた。
私はちゃんとラケットを持つのも初めてだったから、その持ち方から。
ひとつひとつ、丁寧に優しく教えてくれた。
それがすごく分かりやすくて、ほんのちょっとできただけでも褒めてくれて。
普段からこんなふうに後輩に教えてあげたりしてるのかなと思ったら、なんだか少し嬉しいような気持ちになった。
本当にテニスが好きなんだなって。
練習後、室町くんと私はそのままコートの上に座ってひと息ついていた。
もう外はすっかり明るくて、私たち以外には誰もいない広いコートに吹きわたる風が気持ちいい。
『室町くん、ありがとう。すごく楽しかった。
テニスって、面白いね』
「まあな。
それが分かってもらえたなら、よかったよ」
室町くんはそう言うと、嬉しそうに笑った。
「これで基本はだいたい教えられたと思うけど…。
大丈夫?ちょっと駆け足だったし、疲れただろ」
『ううん、大丈夫。平気だよ、ありがとう』
……うーん、どうしよう。
本当はまた機会があったら教えてほしいけど…。
それを頼むのはさすがに図々しいかな。
でも…。
言うだけ言ってみようかな。
迷惑そうだったら、すぐ取り下げて…。
『む、む、室町くん。
あの…ちょっとお願いがあるんだけど…』
「何?」
『あのね、この合宿中に室町くんの都合のいいときがあったらでいいんだけど…。
また、テニス教えてくれないかな…?』
「え?」
『あっ、ご、ごめん!
やっぱり今教えてもらえただけで十分!ごめんね?』
や、やっぱり迷惑だよね。
そりゃそうだよ。
今は合宿中なんだし、私にかまってる場合じゃないよね。
「あれ、いいの?
俺は構わなかったのに」
予想してなかった言葉が聞こえてきて、思わず室町くんの顔を見つめてしまった。
「名無しさんが俺でいいなら、時間が合えば教えてあげるよ。
あ、でも、もういいんだっけ」
ふふっと、いたずらっぽく笑う室町くん。
『よくないよくない!
ありがとう、室町くん!
やっぱり室町くんって、優しいね』
「名無しさんはいちいち大げさな上に、変わってるな」
『え、そうかな?』
「ここにはたくさん選手が来てるのに、わざわざ俺に頼むっていうのがね」
『だって室町くんの教え方、すごく分かりやすかったよ。丁寧で優しくて。
きっといい先輩なんだろうなって思った』
私がそう伝えると、室町くんは一瞬固まったあと、私を見た。
『?』
「やっぱり名無しさん、千石さんと少し似てるな。
さっきから何回かそう思ったけど」
えっ。
ぜ、全然似てないと思うけどな。
千石さんはすごく社交的で頼りになる感じで…。
私がそう考えていると、室町くんはおかしそうに笑った。
「似てるよ」
『そ、そうかなぁ』
「俺から見るとね」
そう言う室町くんはなんだか嬉しそうで。
よく分からないけど…。
もし本当に千石さんに似てるところが私にあるなら、嬉しいなと思った。
「千石さんのこと、よろしく頼むよ」
『え?』
「デート、してくれるんだろ?あの人と」
『あ、うん』
「最初に言ったとおり、いい人だってことは保証するから。
まぁ、できたら仲良くしてあげて」
言い方は淡々としてるけど…。
…室町くんだって、いい人だ。
『ありがとう、室町くん』
「どういたしまして」
次にテニスを教えてもらう時間は、また後でお互いに自分の都合のいい時間を擦り合わせて決めようということになった。
二人で後片付けをして宿舎に戻る途中、室町くんは朝食の準備を手伝うと言ってくれた。
テニスを教えてもらったうえに朝食の準備までなんて、このあとも練習がある室町くんにはさせられないから断ったんだけど…。
一番最初に声をかけてくれたときに思ったとおり、優しい人だっていうことが分かって、嬉しかった。
飄々としてるのになんだか妙に取り乱すこともあって、ちょっと毒舌っぽいのに優しい。
室町くんって、面白い人だなー。
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