合同合宿編
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話を聞くと、室町くんは30分くらい前から練習していたらしい。
散らばったボールを一緒に拾い集めて、ちょうど休憩するつもりだったという室町くんに話しかけた。
『室町くん、きのうはありがとう』
「?
どうしたの、急に」
『きのう千石さんのこと話してくれたとき、嬉しかった』
あんなに楽しく過ごせたのは室町くんのおかげでもあるから、ありがとうって言いたかった。
『室町くんがあんなふうに言ってくれて…、それまで少しだけ不安もあったんだけど、会うのが楽しみになったんだ』
「不安…?」
『あっ、でも千石さんのこと悪く思ってたわけじゃないんだよ。
むしろ逆っていうか…』
「?」
『あ、えっと…』
う…。
ここまで話すつもりなかったんだけど…。
でも室町くんは千石さんと私のこと、いろいろ知ってるみたいだし…。
『…千石さんにまた会えて嬉しかったけど、よく考えてみたらどんな人なのか私はほとんど知らないなって…。
そう思ったら、嬉しかったからこそ、不安になっちゃって』
「……」
『…でも、すごく楽しかった。
やっぱりまた会えてよかったなって、思ったよ』
室町くんは私の話を何も言わずに聞いてくれた。
『室町くんて、優しいんだね』
「はっ?」
室町くんがバッとこっちに顔を向ける。
よく分からないけど、すごく驚いてるみたい。
『だって、千石さんのこと誤解されたくないから私にあんなふうに言ってくれたんでしょ?』
「いや……まぁ…」
『あのとき、室町くんて優しい人なんだなぁって思ったし、千石さんは後輩に慕われてるんだなぁって分かって、なんだか嬉しかった』
「………」
『?
室町くん?』
黙りこんだまま私をじっと見ている室町くんに、声をかけた。
「…ああ、ごめん。なんでもないよ」
そう言って私から視線を外す室町くん。
「名無しさんにちょっと聞きたいことがあるんだけど、いいかな」
『?う、うん。いいよ』
室町くんが私に聞きたいことって…なんだろう?
「…名無しさんて、今までデ…」
?
途中で言うのをやめられてしまった。
『えっ、何?』
「あー…、ごめん。
女子に聞くような話じゃなかった」
そう言って室町くんは小さくため息をついた。
『えー!
なになに?気になるよ』
「いや、だから…。
女子に気安く聞いていいことじゃ…」
いやいや、そんなこと言われたらますます気になっちゃうよー。
『私のこと、女子だと思わなくていいから!』
「はぁ?!」
『だから何言おうとしたか、教えて?
すっごく、気になる!』
つい前のめり気味になってしまった私とは反対に、若干のけぞる室町くん。
「名無しさん…すごいこと言うね、案外…」
そ、そうかな?
だってあんなところで止められたら、誰だって…。
「まぁ…そこまで言うなら言うけど…。
答えるのが嫌なら答えなくていいからな」
『う、うん』
「絶っっ対、答えなくていいからな」
『わ、分かった』
改めて、室町くんと向かい合う。
ドキドキ。
「名無しさんて、今までデート、したことある?」
えっ…。
…………………………………………………………………………。
「………やっぱり言うべきじゃなかった…、ごめん……」
……ハッ!
全然予想してない質問だったから、つい無反応になってしまった。
『あっ、ううん。大丈夫!
私が無理矢理言ってもらったんだし、謝らないで』
「いや、でも…」
『ホントに、大丈夫だよ。
えぇーっと、なんだっけ。えっと…あ、そうそう。デートだよね、デート。うん、デートデート。そう、デート』
あー、びっくりしたー。
デートしたことあるかなんて聞かれるとは思わなかったよ。
『えーっとね、一回もないよ』
「そうなのか、ふぅん…、へぇ……」
『?
でも、なんでそんなこと…?』
……あ、そうか。
同じ部屋だってことはもしかして…。
『千石さんから聞いたの?
きのうのこと』
「うん、そう。
ああ、でも勘違いしないで。
他のことまで事細かに聞いてるわけじゃないから」
『あ、ううん。それはいいよ』
仲がいいんだったら、話してたっておかしくないし。
「…あのさ」
室町くんが突然、なぜか少し言いにくそうに話し始めた。
「俺、実は合宿に来る前から知ってたんだ。
名無しさんと千石さんが一回会ったことがあるってこと」
『えっ…。そうなの?』
「…ごめん」
?
なんで謝るんだろう。
「千石さんが自分から話したわけじゃなくて、俺が聞き出したんだ。
季節外れのストラップをつけてることが、部のみんなの間で話題になったことがあってさ。
それでなんとなく気になって、二人になったときに聞いてみたんだ。
千石さんはたぶん、誰かに話す気なんてなかったと思う」
『…そっか、そうだったんだ』
「ほとんど興味本意で踏み込んだようなものだから。
二人にとって大事な思い出だったのに…。
千石さんにも名無しさんにも、悪かったなと思ってる。
だから…、ごめん」
『あの、室町くん。
いいよ、そんなに謝らなくても』
私はあわててそう言った。
だって、本当に謝られるようなことじゃない。
室町くんは何も知らなかったんだし、そこに悪意なんてあるはずもない。
それに二人にとって大切な思い出だって言ってくれたことが嬉しい。
「…ありがとう」
…はー、びっくりした。
室町くんて…真面目なんだなぁ。
「あ、でもデートのことは違うよ」
『え?』
「デートの話は千石さんのほうから勝手にペラペラ話してきたんだ。
部屋に帰ってくるなり、名無しさんがOKしてくれたって、大喜びで延々話してきてさ。
もう、うるさいのなんのって」
……………………。
室町くんて…。
結構……、毒舌?
「それで、デートのことなんだけど」
『う、うん』
き、切り替え早いなぁ。
「よくOKしたなぁと思って」
『え?どうして?』
「どうしてって…そりゃあ…」
なんだか口ごもる室町くん。
『あ、わかった。
千石さんが女の子に接するのに慣れてる人だからでしょ』
「!」
室町くん、そのこと気にしてたもんね。
宍戸先輩も言ってたし。
「……名無しさん、変わってるね」
『?』
「それ分かってて、嫌じゃないの?」
?
どういう意味だろう。
『全然嫌じゃないよ。私も遊びたいし』
「えええっ!!?」
室町くんの声が練習場に響き渡った。
近くにいるからか、サングラス越しにも分かるくらいに目を見開いてる。
『な、何?
どうしてそんなにびっくりするの?』
「いや、だって…」
口をパクパクさせる室町くん。
な、なんだろう、一体。
『私はただ、千石さんと遊びに行くの楽しそうだなぁって…たくさん話せるし…』
「え…?
…………ああ、なんだ。そっちの意味か…。
この流れで遊びっていったら普通は…」
『流れ?そっちの…意味?』
「っ!
いやいやいやいや、何でもない」
『???』
変な室町くん。
ま、いっか。
『千石さんは女の子の友達多そうだからこういうの慣れてるんだろうけど、私は慣れてないから、デートだなんて言われて最初はびっくりしちゃった』
「……え?」
『本当のデートなわけないのにね、あはは』
「?デートだろ」
『うん。
だから、一緒に遊びに行こうっていうことだよね』
「……」
『でも勘違いされたらどうするんだろう、千石さん。
私はちゃんと分かったし、嬉しかったけど』
デートしようっていうのは、千石さんにとっての遊びに行こうっていうことなんだろうけど…。
言葉のまま受けとめられたら大変なことになっちゃうよ。
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