氷帝での出会い編
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きのうは大変だった。
宍戸先輩が帰ったあと、鳳くんまで笑いだすし、クラスの女の子からは鳳くんや宍戸先輩と仲が良くて羨ましいって言われたりして。
仲がいいっていうか、ただ笑われてただけだと思うんだけど…。
でもきのうの事があって、少しだけ肩の力が抜けたような気はする。
あまり意識してなかったけど、新しい環境の中で、やっぱり緊張してたみたい。
そういう意味では良かった…のかな?
あれからクラスの女の子ともよく話すようになったし、新しい友達もできそう。
なんだか嬉しいなー。
ルンルン気分で休み時間に職員室の前を通りかかったとき、ちょうど職員室から出てきた他のクラスの先生とバッタリ会った。
「お、名無しじゃないか」
『先生、こんにちは』
「ああ、こんにちは。
ところでお前、確か鳳と同じクラスだったよな」
『はい、そうですけど』
「よし、じゃあこれ、鳳に渡しといてくれ」
先生から、少し大きめの本を渡される。
これって………画集?
表紙には油絵が載ってる。
「鳳が興味あるって言ってたからな、貸してやろうと思って」
『そうですか、わかりました。渡しておきます』
「悪いな。よろしく頼むぞ」
先生から預かった画集を手に、教室へ向かう。
鳳くん、こんな画集に興味あるんだ…。
鳳くんらしいっていうか…。
私はこういう芸術のたぐいはさっぱりだから、全然分からない。
確かピアノとかバイオリンも弾けるんだっけ。
友達がそんなこと言ってたような気がする。
…ちょっと、弾いてるところを想像してみる。
………………………。
うわー!
すごく似合う!
想像の中の鳳くんに勝手に感心しながら、教室に入る。
もし機会があったら、弾いてるところを実際に見てみたいなぁと思いつつ鳳くんの席に目をやると、そこに鳳くんは座っていた。
よし、さっそく渡そう。
『鳳くん』
声をかけてから気がついた。
そこに、もうひとりいたことに。
『あっ、ごめん。話し中に』
私が謝ると、鳳くんはクスッと笑った。
「いいよ、そんな重い話してたわけじゃないから。
気にしないで」
『あ、うん。ありがと…』
言いながら、視線を鳳くんからその向かいに立っている人物のほうに向けた。
その人はさっきからずっと私をじっと見ている。
…な、なんだろう。
なんでこんなに見られてるんだろう。
今まで全然接点もなかったはずだし…。
「日吉」
その様子に気がついたらしい鳳くんが、彼の名前を呼んだ。
「ダメだろ、女の子をそんなふうにじっと見たら」
「…………フン」
日吉くんはスッと視線を外した。
ほっ………。
緊張が解ける。
「名無しさん、こいつのこと知ってる?同じ2年で、テニス部なんだよ。
日吉若っていうんだ」
『う、うん、知ってるよ』
「そっか、知ってたんだ。
日吉、彼女のこと知ってる?
彼女は名無し――」
「――ななし」
「え?」
「名無しななし、だろ。知ってる」
……え?
…どうして日吉くんが私のこと知ってるんだろう。
1年生のときも違うクラスだったし…うーん…。
ひょっとして……知り合いの知り合いの知り合い、とかなのかな。
鳳くんも驚いてるみたい。
「もしかして二人とも、知り合い?」
「違う。ただ知ってるだけだ」
「でも日吉、関わりがない人の名前とか覚えないだろ。
女の子ならなおさら…」
「うるさいな。たまたまだよ」
「へぇ、そうなんだ。珍しいな」
…やっぱり、珍しいんだ。
日吉くんて、興味ないものはどうでもいい、って感じだもんね。
でもそうだとすると、私のこと知ってるのがますます謎だ…。
やっぱり、知り合いの知り合いの知り合い説が濃厚か…。
「おい」
『えっ』
急に日吉くんに話しかけられて、ビックリした。
声、裏返っちゃったよ。
『な、何?』
「…鳳に何か用があったんじゃないのか」
『あ!そうだった!』
私は持っていた画集を鳳くんに差し出した。
『これ、さっき鳳くんに渡すように頼まれたんだ。
先生、貸してくれるって言ってたよ』
「本当?嬉しいな」
鳳くんはパラパラとページをめくってる。
鳳くん、嬉しそう。
「重かったでしょ?ごめんね」
『ううん、平気だよ』
ありがとう、と言って鳳くんは笑ってくれた。
『鳳くん、こういうの好きなんだね』
「うん。
あの先生と話してたら好きな画家が一緒だって分かってね」
『へぇ。
ね、鳳くんて楽器も弾くって聞いたことあるんだけど、本当?
ピアノとバイオリン』
「本当だよ。
そんなにうまくはないけど、好きなんだ」
『学校でも弾くの?』
「ピアノは時々学校でも弾くよ。バイオリンは家でかな」
『本当?
今度もしピアノ、学校で弾くことがあったら、聴かせてもらってもいい?』
「えっ」
一瞬、鳳くんが困ったような顔をした。
『あ、ごめん…。
図々しいこと言って』
鳳くんがこんな顔することなんて、滅多にないのに…。
「いいよ。俺の演奏でよかったら」
『え?』
「そんなふうに言ってくれて嬉しいよ。
図々しいなんて思ってない。全然予想してなかったから、ちょっとびっくりしただけだよ」
よ、よかったぁ…。
『本当?すごく嬉しい。ありがとう、楽しみにしてるね』
「うーん、そんなに楽しみにしてもらえると、嬉しいけどプレッシャーだなぁ」
ハハッと笑う鳳くん。
「…おまえら、仲いいんだな」
ポツリとつぶやくように日吉くんが言った。
「え?あ、うん、そうだね。
きのう宍戸さんもここに来てたんだけど、その時名無しさんがちょっとおっちょこちょいな事をしてね。
それがきっかけで仲良くなれたかな。
ね、名無しさん」
…鳳くん、ものすごくニコニコしてる…。
「ね、日吉にも話していい?」
…言うと思った…。
『絶対、ダメ!』
「いいじゃないか。可愛らしい事だし」
『全然、可愛くない!』
「えー」
『えー、じゃない!
…今日の鳳くん、なんか意地悪だよ』
「そう?」
『そうだよ。
もう…、からかわないで』
「わかったよ。…ごめん。謝るから、怒らないで?」
しゅんとする鳳くん。
そんな顔されたら怒れないよ。
もう怒ってないと言ったら、安心してくれたみたい。
あ、そういえば!
『日吉くん』
「なんだよ」
こっちを見た日吉くんの視線が鋭くて、一瞬ひるんでしまう。
『私ばっかり話しててごめんね。
何か鳳くんに用があって来たんだよね?』
「…別にいい。お前が来たときにはもう話は終わってたからな。
鳳、じゃあまた部活のときに」
「うん、また」
日吉くんは最後にもう一度だけ私を見ると、何も言わずに教室を出ていった。
『鳳くん、話の邪魔しちゃってごめん。
日吉くんのこと、怒らせちゃったかもしれない…』
「大丈夫だよ。日吉も言ってただろ。もう話は終わってたし、あいつは元々あまりしゃべらないから」
…あまりしゃべらない、か…。
私はさっきの日吉くんの目を思い出していた。
日吉くんて………なんだか武士みたいな人だ。
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