合同合宿編
主人公(あなた)の姓名を入力してください。
ご利用の端末、あるいはブラウザ設定では夢小説機能をご利用になることができません。
古いスマートフォン端末や、一部ブラウザのプライベートブラウジング機能をご利用の際は、機能に制限が掛かることがございます。
*千石side
覚えててくれたんだ…。
ストラップのことも、…オレのことも。
忘れられてたと思ってたのに。
「…覚えててくれたんだね、あのサンタのこともオレのことも」
『え?
そんなの、当たり前ですよ。
忘れるはずないです』
名無しさんは少しあたふたしてそう言った。
オレが迷惑してるんじゃないかって思ってたから…。
「こっちこそ、迷惑なはずないよ。
あのとき、オレはすごく嬉しかったんだから」
名無しさんの顔から不安の色が消えていく。
「タオルも部活のときに使ってるよ。ここにも持ってきてるし。
実はもったいなくて最近までとっておきにしてたんだけど、我慢できなくて使っちゃったんだ。
サンタはもらった日からずっとつけてるんだよ。もうどっちもすっかりお気に入りなんだ」
オレがそう伝えると、名無しさんははにかみながらも答えてくれた。
『ありがとうございます。
すごく…嬉しいです』
…………………。
可愛いなー…。
…こうして向かい合うと、よく分かる。
久しぶりに会った名無しさんは、オレの記憶の中の彼女より少し大人っぽくなっていた。
ミーティングルームで再会したときに思わず見入ってしまったくらいで。
女の子ってホントにあっという間に可愛くキレイになっていくなーって…。
だけど今オレの前ではにかんでる名無しさんは、あのときと変わらない。
変わらずに……可愛い。
「…オレ、キミにもう一度会えたら伝えたいことがあったんだ」
名無しさんがオレと目を合わせてくれる。
…やっと伝えられるんだ。
ずっとオレの中にあった気持ちを。
オレの一方的な気持ちかもしれなくても、伝えると決めていた。
もう後悔したくない。
だから……ゴメン。
聞いてね、名無しさん。
「…名無しさんとの思い出は、オレにとってずっと特別だったんだ。
キミと出会えて一緒に過ごすことができて…、短い時間だったけど、すごく楽しかった」
驚いたように名無しさんがオレを見つめる。
「あのクリスマスを思い出すといつも、オレは気持ちが暖かくなった。
あの子は今頃どうしてるかなって…また会えたらいいなって、そんなふうに名無しさんのこと、考えてたんだ」
名無しさんは固まったまま、何も言わなかった。
…やっぱり、びっくりするよなー。
名無しさんにとってはきっと、もう通りすぎた過去のことだろうし。
覚えてくれてたのは嬉しいけど、たくさんある思い出のうちのひとつにすぎないんだろうと思う。
でも、それでもいい。
それでもやっぱり、オレにとっては特別な思い出だから。
「ゴメンね」
だけど、オレはよくても名無しさんにとってはこんな話、寝耳に水だろうから…。
「こんなこと急に言われてびっくりしたでしょ?
キミを困らせたくはなかったんだけど…、どうしても知っていてほしかったから」
オレがそう言うと、名無しさんはハッとしたように何度かまばたきをして、左右に首を振った。
『い、いえ…あの…困ってはいません。
びっくりはしましたけど…』
そう言って視線を落とした彼女から次に聞こえてきた言葉は、オレにとって夢みたいな言葉だった。
『私も…同じなので』
「え…」
『私にとっても千石さんとの思い出は、ずっと…ずっと、特別でした』
本当に…あまりにも理想的すぎて、嘘みたいだ…。
『あのとき千石さんと会えてなかったら、せっかくクリスマスだったのに、悲しかった気持ちがそのまま記憶に残ってしまっていたと思います。
でも千石さんが助けにきてくれたから…。
一緒にいるうちにいつの間にかそういう気持ちが消えて、楽しい気持ちになれたんです』
穏やかな表情でそう話しながら、名無しさんはかすかにほほえんだ。
『だからあの日のことを思い出すと、いつも前向きな気持ちになれました。
それに私も…今頃あの人はどうしてるかなって、考えてました』
名無しさんが言葉を紡ぐたび、オレの心は嬉しさで満たされていく。
『私も千石さんにこのことを伝えられて、よかったです』
そう言うと、名無しさんは少し恥ずかしそうにニコッと笑った。
その笑顔が、クリスマスに見た笑顔と重なる。
……………………。
やっぱり…すごく可愛い。
…オレは、この笑顔がずっと見たかったんだ。
「…デート、しない?」
オレはほとんど無意識にそう言っていた。
『えっ…』
彼女の口から、小さな驚きの声がもれた。
「…オレと、デートしてくれない?」
………あ、言っちゃった。
名無しさんを見ていたら、つい…。
あまりにも可愛くて。
再会したときから誘うことは決めていたけど、今ここで言うつもりはなかった。
すぐに言うと驚かせてしまうだろうから、もう少し話をして一緒に過ごして…。
彼女が断るにしても気まずくないように、最終日に誘うつもりだったのに。
あー…オレ、舞い上がってるなー。
名無しさんがオレと同じこと考えてたって知って、ずっと見たかった笑顔をまた見ることができて…。
一度に夢がたくさん叶った。
…うん、まぁこれじゃ気が高ぶるのもしょうがない。
でも……。
こんな急な誘い、やっぱり断られちゃうかな…?
そんな後悔をかすかに覚えながら、沈黙の中、名無しさんの様子を伺いつつ返事を待つ。
彼女は頬を赤く染めて視線をさまよわせていたけど、しばらくするとチラッとオレを見てから小さくうなずいた。
『あの…、よろしくお願いします』
え…。
今、うなずいた?
「ほ、ホント?」
『は、はい』
「やった、ラッキ~!」
はぁぁぁ、よかったー!
玉砕覚悟してたけど、OKしてくれた~。
まぁ、一回断られたぐらいで諦める気なんてさらさらなかったけど…。
それでもやっぱり嬉しい。
これでもっと、名無しさんと一緒に過ごせるんだなー…。
…………………。
オレは…。
オレはもっと、名無しさんのことが知りたい。
名無しさんにもオレのこと、もっと知ってほしい。
…もっと、名無しさんに近づきたい。
今はまだ遠いこの距離を縮めたい。
もっともっと、仲良くなりたい。
そんな思いがあふれてくるのを感じながら名無しさんを見つめていると、ふとオレに視線を向けた彼女と目があった。
オレがほほえみかけると彼女もほほえみかえしてくれて、それだけでまた気持ちが暖かくなる。
…オレの中にあるこの気持ちが何なのか、今はまだ自分でも分からない。
だけど、オレにとって名無しさんが大切な女の子だってことだけは分かってる。
…きっと、答えを急ぐ必要はない気がする。
今はただ、こうして名無しさんと一緒にいられることを…もう一度出会えたことを、大切にしよう。
そうすればきっと、いつか自然とこの気持ちに名前がつくときが来るはずだから。
.