合同合宿編
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*千石side
「仲間のことはもちろん好きだし大切に思ってるけど、今日くらいはせっかくだからカワイイ女の子と一緒にいられたらいいのになーって思ってたんだ」
まだよく意味が分かっていない様子の彼女を、じっと見つめる。
「キミみたいな子と、ね」
オレはそう言って、ウインクした。
彼女はオレを見つめ返したまま固まっていたけど、しばらくすると顔を赤くして視線を外した。
恥ずかしそうに頬に手をやる、その仕草も可愛い。
「願いが叶っちゃったな~」
この子…本当に可愛い子だな。
こんなふうにすぐに顔に出るのも素直で可愛いし、それに…優しい子だ。
さっきの電話のときも、オレとか友達とか、いないけど恋人のこととか気遣ってくれてたし、手当てをしてるときもタオルが汚れることをすごく気にしてた。
そんなの、オレから言い出したことなんだから全然気にする必要ないのに。
………………。
こんな子だと、きっと……。
そのとき、気になることがひとつ、頭に思い浮かんだ。
いや、気になるっていっても、オレには関係ないことなんだけど…。
視界に、あの店の袋が入る。
「でも…。
ひょっとしてオレの方こそ、キミの邪魔してる?」
『え?』
「それ、誰かへのプレゼントなんじゃない?」
……オレ、どうしてこんなこと聞いてるんだろう。
だけど……。
この子に彼氏がいるかもしれないと思ったら、少し…ほんの少しだけ、胸の辺りが苦しくなった。
…いてほしくないと思った。
そんなオレの思いを知らない彼女は、これは自分のために買った物で、せっかくだからラッピングしてもらったんです、と嬉しそうに答えた。
「へぇ、そうなんだ。
……じゃあ、彼氏、いないの?」
…ああ、もう。
だから、なんでこんなに気になるんだろう?
いるって言われたら、また苦しくなるって分かってるのに。
なのに聞かずにいられない。
『い、いないですよ。彼氏なんて』
彼女は慌てたように首を横にふった。
その答えを聞いて、オレは自分でも不思議なくらいにホッとしていた。
それと同時に、意外だと思った。
「そうなのかい?
う~ん………」
彼女を見つめながら、つい考え込んでしまう。
『な、なんですか?』
「見落としてるんだろうなー、たぶん。
でもきっと、そのうち誰かが見つけちゃうだろうけどね」
オレは無意識に、そうつぶやいていた。
そのつぶやきは彼女には聞こえなかったみたいで、オレはまた手当てを再開した。
だけどオレの頭の中では自分で言ったそのつぶやきが尾を引いていた。
普通に考えて、こんなに可愛くて優しい子が近くにいたら、周りの男が放っておくはずないよな~。
絶対この子に気がある男の一人や二人、いるはず。
なのに彼氏がいないってことは、ひょっとしてこの子…。
………………鈍感?
男に好かれてても気がつかないとか…。
自分の魅力にも全然気づいてなくて、自分には恋愛なんてまだまだ関係ないことだと思ってるとか…。
……う~ん、あり得る。
さっき彼氏がいるかどうか聞いたときも、すごくびっくりして慌ててたし。
自分に彼氏がいるなんてありえないです、って感じのリアクションだった。
………………。
もしそうなら、何かきっかけさえあればきっとすぐに…。
彼氏、できちゃうんだろうなぁ…。
……って、何考えてるんだろう、オレ…。
さっき出会ったばかりなのに、なんでこんなにこの子のことが気になるんだろう。
「はい、これで完成!」
『ありがとうございます』
「どういたしまして」
彼女のことを考えるたび、自分の気持ちがいろんなふうに揺れ動くのを不思議に思いながらも、無事に手当てを終えることができた。
彼女といろいろ話ができて楽しかったし、もっと一緒にいたいのはやまやまだけど、もう行かないと。
みんなが待ってくれてる。
オレは辺りを片付けて立ち上がった。
と同時に彼女もスッと椅子から立つ。
「それじゃ、そろそろオレ行くよ」
『はい、ありがとうございました。
…あの、私のせいで遅くなってしまって本当にごめんなさい。
お友達にも、申し訳ないです』
「そんな事気にしなくても大丈夫だよ。オレが好きでやったことなんだからさ。
そんなことより、帰り道気をつけてね。人、多いから」
『はい、ありがとうございます。
あの、あなたも気をつけてくださいね』
「うん、ありがとう」
…最初よりずいぶん元気になってくれたみたいだ。
表情も明るくなったし。
………よかった、本当に。
オレにできることはやったし、もうこのまま別れればいいんだろうけど…。
もう少しだけ、オレが思っていたことだけ、伝えたい。
「………あのさ。
オレ、楽しかったよ」
『…え?』
「偶然キミが転んで怪我しちゃったから、オレはキミとこうして話をすることになったわけだし、不謹慎だとは思ったんだけど…。
やっぱりちゃんと最後に伝えておきたくてさ」
彼女は少し驚いたように聞いていたけど、オレが話し終えると、オレの目をまっすぐに見てほほえんでくれた。
『私は…嬉しかったです。
実はあなたが声をかけてくれる少し前まで、すごく悲しい気持ちでいたんです。
でも今はもう平気です』
――今はもう平気です。
彼女からその言葉を聞くことができて、本当に嬉しかった。
『全部あなたのおかげです。
助けてくれて、ありがとうございました』
また彼女の幸せそうな顔をみることができて…嬉しかった。
オレは彼女に背を向けて、歩き出した。
もう会うことはないだろうし、またね、とは言えない。
オレが一歩一歩踏み出すたび、彼女との間に距離が広がっていく。
そしてそのうち、振り返っても姿が見えなくなる。
そんな当たり前の事が、どうして…。
…どうして、こんなにさみしいんだ。
『あ、あのっ!』
?
今、彼女の声がしたような…。
…なんて、彼女のことばかり考えてたから、空耳かな?
そう思いながらも、オレは足を止めて振り返った。
『あの…』
彼女はさっきと同じ場所に立ったままで、困惑したように視線をさまよわせた。
そして、そのままうつむいてしまった。
………?
どうしたんだろう。
心配になって、オレは彼女のもとへと戻った。
もしかして、他にも痛むところがあるのかな?
あ、それとも…またこの人混みの中に一人で出ていくのが怖いのかもしれない。
オレはそう思って、何か助けられることがないか聞いてみたけど、うつむいたままの彼女は何も言わない。
不安になって、彼女の顔をのぞきこもうとした、そのとき…。
『こ、これっ』
目の前にバッと勢いよく何かが差し出された。
それは彼女が自分用に買ったと言っていた、あの店の袋だった。
『よかったら、もらってください』
「え?…でもこれはキミが…」
…よく事態がのみ込めない。
どうして、これをオレに…?
突然の予想外の状況に、オレはしばらく何もできずにいた。
だけど…。
ふと気がつくと、彼女の肩が微かに震えていた。
……………。
この子はオレの為にこうしてくれているんだ。
きっと、オレへの手当てのお礼なんだ。
オレは彼女の手からそっとそのお礼を受け取った。
その瞬間驚いたように顔をあげた彼女と、出会ってから一番近い距離で目があった。
間近に見る彼女はオレをじっと見つめていて、ただ率直に、可愛いと思った。
「ありがとう」
お礼なんて、いらないんだけどな。
だけど、その気持ちが嬉しい。
だからその優しい気持ちと一緒に、これはふたつめのプレゼントとして受けとるよ。
「すごく嬉しいよ。
オレのサンタクロースは、キミだったんだね」
キミを最初に見かけたあのときから、キミはオレの気持ちをずっと暖かくしてくれていた。
だから、ひとつめのプレゼントはもうとっくにもらってたんだ。
「…それとも、キミがプレゼントだったのかな」
そう…、キミと一緒に過ごせたこのひとときが、キミと出会えたことが、オレにとってクリスマスプレゼントだったんだよ。
あれからオレは、そう間をおかずに彼女のもとを離れた。
みんなを待たせてるっていうこともあったけど、それだけじゃなかった。
彼女のそばにいると、どんどん離れがたくなっちゃって…。
…そのぶん、別れるのがもっとさみしくなりそうだったから。
だから別れ際、真っ赤な顔をしていた彼女のその可愛さを心に焼きつけるようにじっと見つめてから、名残惜しさを引き連れてオレは通りへと戻った。
一人になって冷たい空気の中を歩き出したオレは、それでも胸が暖かいのを感じていた。
みんなとのパーティーを終えて家へと帰ってきたオレは、彼女からもらったプレゼントをあけてみることにした。
袋の中からきれいにラッピングされた包みを取り出して、そっと開いていく。
自然と彼女の顔や声が思い浮かんできて、また胸に暖かい気持ちが広がる。
そうして包みを完全に開いたとき…。
オレは、思わず息をのんだ。
慌ててカバンの中からもうひとつの包みを取り出す。
こっちはオレがあの店で買ったほうのだ。
簡易的に包装してもらっただけの包みからは、すぐに中の物が確認できた。
やっぱり…同じだ。
彼女がくれたほうには、降ったばかりの雪みたいに真っ白なタオルと、サンタクロースのストラップが入っていた。
そしてオレが買ったほうにも…サンタクロースのストラップ。
それは、同じストラップだった。
―――――――――
約束の時間、5分前。
オレは名無しさんを待っているうちに、いつのまにか出会ったときのことを思い出していた。
あのストラップ、彼女からもらったほうはいつも持ち歩いてるカバンにつけて、自分で買ったほうは部屋に飾ることにした。
ちなみに自分で買ったほうには、50%OFFのタグがついたままだ。
はずしてもよかったんだけど、それはそれで味があるし…あの日のままで残しておきたいような気もして、はずさなかった。
それにしても…あのときはホントにびっくりしたな~。
あんなにたくさんあった商品の中から、まさか同じものを選んでたなんて。
う~ん…。
もしかして、これって運命?
……なーんちゃって。
だいたい、ミーティングルームで会ったときのリアクションからして、名無しさんはオレのこと忘れてたみたいだしな~。
きっとあのストラップとタオルのことも…。
…………………。
あー、やめやめ!
思い出してくれただけで、オレはじゅうぶん。
もう一度こうして出会えただけで、オレの願いは叶ったんだから。
だから…今はただ、早く名無しさんに会いたい。
会って、話がしたい。
キミとの思い出は、あの日からずっと、オレの心の中で暖かく優しく輝き続けていたんだよ。
キミに、そう伝えたいんだ。
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