合同合宿編
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*千石side
はやる気持ちを抑えつつ人混みをかき分けて、ようやく彼女の元へとたどり着いたオレは、彼女に手を差し出した。
「大丈夫かい?」
すると彼女はゆっくりと顔をあげて、オレを見た。
……!
その瞬間、心臓がドキッと強く鳴った。
彼女の目には涙がたまっていた。
今にもこぼれ落ちそうなくらいに。
ズキン、と胸が痛む。
ついさっきまで、あんなに幸せそうだったのに…。
彼女はぼんやりとした様子で、何も言わずにただオレを見上げていた。
心配がどんどん増していく。
「…キミ、大丈夫?
どこか痛むのかい?」
オレはもう一度声をかけた。
すると彼女はハッとしたように返事をした。
『あ、いえ、大丈夫です。…ありがとうございます』
初めて聞く彼女の声は、弱々しかった。
ためらいがちにオレの手に重ねられた彼女の手が、立ち上がるのと同時に離れていく。
…………。
手…、冷たいな……。
オレは足元に落ちていた袋を拾い上げた。
彼女のものだとは分かっていたけど…、今気がついた。
これ、オレがさっきまでいたあの店のだ。
この子も行ってたんだ。
軽くはらって手渡すと、彼女はありがとうございますと言いながら、少しかたい表情でオレを見た。
そのとき、初めてちゃんと彼女と目があったような気がした。
さっきはただオレを眺めていただけみたいに感じたから…。
『あの…助けてくださって、ありがとうございました。ご迷惑おかけしました』
「いえいえ、どういたしまして」
少しでも元気になってほしくて、わざと軽い調子でそう答えると、彼女の表情がほんの少し柔らかくなった。
よかった……。
その様子にホッとした次の瞬間、今度は転んでしまった彼女の身体が心配になってザッと全身を見て怪我がないか確認すると、膝から血が出ているのが見えた。
オレはしゃがみこんでワンピースのすそをほんの少し、たくしあげた。
…よし、そんなに深い傷じゃない。
これなら、ちゃんと手当てすればすぐに治るはずだ。
それからオレは怪我の手当てをするのにちょうどいい場所を探して、彼女と一緒に近くのビルの一階へと移動した。
ここなら暖かいし、自由に使えるテーブルもイスもある。
それに周りに人も結構いるから、初対面のオレと二人でいても彼女も不安にならないはずだ。
それにしても…、ちょっと強引だったかな?
もう家に帰るから大丈夫だと言っていた彼女を、引きとめたわけだし。
でも…。
あのまま帰したくはなかった。
目を潤ませた悲しげな顔で、膝に血をにじませて…。
あんな状態のまま、帰したくなかったんだ。
膝の怪我だけでも手当てすることができれば、気持ちも少しは元気にしてあげられるかもしれない。
彼女にイスに座ってもらって、オレは手当てを始めた。
いくら治療の為とはいえ、見知らぬ男に触れられるのは抵抗があるかもしれない。
でもオレは彼女にも言ったとおり、こういうのは結構得意だ。
だからせめてできるだけ早く終わるように、それと痛くないように注意してあげないと。
~~♪~♪~~~
途中、耳慣れた携帯の着信音が鳴った。
「あ、オレだ。
ちょっとゴメンね」
『はい、どうぞ』
カバンから携帯を取り出して、彼女に背を向ける。
も~、こんなときに誰だ?
今忙しいのに。
「はいはーい」
“おい、千石”
…げっ!!
こ、この声は……南!
“おまえ、今どこにいるんだよ。
とっくに約束の時間は過ぎてるぞ”
マ…、マズイ。
遅れるって連絡するの、忘れてた…。
あらら~…。
「あー、ゴメンゴメン」
“まったく…。遅れるなら連絡くらいしろよ。
みんな心配してたんだぞ。分かってるのか?”
「…うん、もちろん分かってるよ。出がけにちょっとバタバタしちゃってさー」
う~、みんな……ゴメン!
“千石…、本当に反省してるのか?
おまえときたら、いつもいつもそんな調子で――”
うっ。
南、怒ってるなー。
「そんなに怒らないでくれよ」
“はあ?
怒るに決まってるだろ!”
そ、そうだけどさ~。
まぁ怒るのも当たり前だし、ちゃんと連絡しなかったオレが悪いのも分かってるけど、今はちょっと…。
後でちゃんとみんなに謝るから、今はその辺で許して、お願い!
“……まさかとは思うが、おまえ…。
またナンパしてるんじゃないだろうな”
「えっ?」
――ドキッ!
……いやいや、なんでそこでドキッとするんだ、オレ。
確かにナンパはよくしてるかもしれないけど、今日はみんなとの約束があるからそんなつもりなかったし、彼女と今一緒にいるのだってナンパしたからじゃない。
この子は…。
ナンパとか…そういうんじゃ…、ない……。
「…ヒドイな~、ナンパなんかしてないって」
“本当か?
…まぁ、ただ遅くなっただけならいいけどな。
じゃあ、みんな待ってるから気をつけて来いよ”
「うん、分かった。
じゃ、また後でね~」
“ああ、後でな”
……ふぅ。
なんとか納得してくれた。
南、ありがとう!
でも、みんなには悪いことしちゃったなぁ…。
みんななんだかんだ言って優しいから、本当に心配させちゃっただろうし…。
ホントにゴメン、みんな!
そっちに行ったらちゃんと謝るよ!
だから、今はとにかく彼女の手当てに集中集中。
オレは携帯をカバンにしまって、彼女のほうに向き直った。
「ゴメンね」
『あの!もう大丈夫ですから、行ってください』
手当てを続けようとしたら、突然彼女が少し声を強めてそう言った。
「え?」
オレは彼女がそんなふうに言った理由が分からなくて、思わず彼女を見つめた。
困惑したような、思いつめたような…そんな顔だ。
…………………。
オレ、何かしちゃったかな…?
もしかして、痛かったのかな?
彼女は何も言わなかったけど、ずっと我慢してたのかもしれない。
いや…、そもそもこうして手当てすること自体、ほとんどオレが無理矢理――。
『その…約束があるんですよね?相手の方に悪いですから…。
ごめんなさい、気がつかなくて』
…………え?
約束……相手の方………。
…………。
もしかして、これって……。
オレは思わず、大笑いしてしまった。
彼女の顔を曇らせていた理由が、あまりにも可愛い誤解だったから。
彼女はさっきのあの電話を、女の子からの…オレの恋人からの電話だと思ったんだ。
そもそもオレにそんな子いないし、さっきの電話は女の子ですらない南からだし。
「はー、おなか痛い」
彼女が可愛くておかしくて、なかなか笑いがとまらない。
だけど、訳がわからず首をかしげてる彼女にちゃんと説明してあげないと。
それからオレは、事情を全部説明した。
「というわけで、キミがオレに気を使う必要なんて全然ないからね」
『で、でも…お友達が待ってるんじゃ…』
「ちょっとくらい平気平気。
クリスマスだから大目にみてもらうよ」
そんなに気を使わなくてもいいんだよ。
もしキミの怪我のことを知ってたら、みんななら絶対、ちゃんと手当てしてこいって言うはずだから。
それにオレも…。
もう少し、キミと一緒にいたい。
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