合同合宿編
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「じゃあ、取り引き、だな」
『と、取り引き?』
「あぁ」
取り引き……。
…天根くんて、なんだか変わった人だからなぁ。
一体、どんな取り引きを…。
……ゴクリ。
「明日、俺達と…六角と遊ぼう。
そしたら教えてあげるぜ」
えっ……。
六角のみんなと遊ぶ?
『え、それだけ?』
「うん。
名無しが来てくれたら、剣太郎が喜ぶ。他のみんなも、歓迎する。
バネさんも言ってたとおり」
『………』
天根くん、葵くんのことを気にかけてたんだ。
それで取り引きを…。
そんなに葵くんが喜んでくれるかどうかは分からないけど…。
“取り引き”だなんてちょっと強い感じの言葉を使ったのも、私が六角のみんなの中に混じっていきやすくする為なのかもしれない。
………。
…天根くん、優しいんだね。
『…その取り引き、のった!』
「じゃあ成立、だな」
私の言葉に、天根くんは真顔を少し崩して笑ってくれた。
「ダビデ、よくやった!
明日が楽しみだな」
黒羽さんがバシッと天根くんの背中を叩く。
「うぃ」
「だがな…」
…ハッ。
な、なんだか不穏な空気が…。
「くだらねーギャグは余計なんだよっ!!」
黒羽さん、さっきのナイトのくだりを覚えてたんだ……って、あ!黒羽さんが空中に……!
「ちょ、だめだってバネさん!
テーブルとかあるからだめだって!」
「うるせー、ダビデっ!」
「ぐえっ」
…………。
テーブルがあるとかないとかそういう問題じゃないような…。
「にしても、宍戸も苦労するな」
黒羽さんは何もなかったみたいに普通に宍戸先輩に話しかけてるけど、天根くんは少し離れたところに倒れたままだ。
だ、大丈夫かな…。
最初に会ったときもこんなことがあって、六角の人たちはなんだか慣れてるみたいでみんなスルーしてたけど…。
「苦労?なにがだ?」
「こんな可愛い後輩なら、そりゃ心配にもなるだろうと思ってな」
可愛い後輩…。
私を見ながら言ってるってことは、まさか私の事?
「さっきからずっと渋い顔してるぜ。
心配なんだろ?千石とのこと」
えっ…。
思わずバッと宍戸先輩の顔を見てしまった。
「べ、べつに、そんなんじゃねぇけどよ」
「嘘つけ。
まぁ、気持ちは分からなくもないけどな。
でも大丈夫だろ、千石なら」
ハァ、とため息をつく宍戸先輩。
「分かってるけどよ。
ったく…、なんでよりによって千石なんだ。
これが長太郎ならな…」
「え?なんですか、宍戸さん」
「…いや、べつに」
「ははは、世の中そんな上手くいかねぇよ、宍戸」
…なんか、とにかく宍戸先輩が、私が千石さんと会うことを心配してくれてる?
…やっぱり、あれかな。
千石さんは軽いノリの感じの人だし、宍戸先輩からすればちょっと合わないと感じるところもあるのかもしれない。
嫌いっていう感じじゃなさそうだけど…。
「心配いらないですよ、宍戸さん。
千石さんはいい人だと思いますし」
そっか…鳳くんは千石さんのこと、良く思ってるんだ。
「へぇ、鳳は歓迎してるのか」
「もちろんですよ、黒羽さん。
千石さんは名無しさんを助けてくれた人でもありますし、ここからまた関係を繋いでいけるなら、すごく素敵な事ですよね」
「おお、鳳、大人だな。
ダビデ、お前はどう思う?」
「そうですね…」
うおっ!
いつのまにか天根くんが復活してた。
しかも平然と隣に座ってるし。
全然気がつかなかったよ。
「いいんじゃないですか。
すごい人ですよ、あの人は」
…すごい人、か。
今のはきっと選手として、だよね。
だって、天根くんの目が真剣だった。
この合宿でたくさん見る、みんなのこういう目。
みんな、この目をしてるときが一番カッコいいと思う。
「ダビデのはなんかちょっと違う気もするが…。
まぁとにかく、二年はこう言ってるぜ、宍戸」
「…言われなくても分かってるよ。
……名無し、悪いな」
『え?』
「俺がこんなだと、お前を不安にさせちまうよな。
千石は困ってるお前を助けてくれたやつだってのに…。
くそ、俺…、激ダサだぜ」
宍戸先輩…。
私の事、すごく気にしてくれてる…。
「あいつは女子に対してはいいかげんなやつだが、…あ、いや、軽いやつだが…あぁ、これも違うな。
あー、まぁ、そうだな…そう、考えるより先に行動っていう感じのやつだが…確かに、悪いやつってわけじゃないぜ。
だから安心して…いや、ろくに知らない男に会うんだ、少しくらいは警戒心を持ってたほうがいいかもしれねぇが…あー、まぁ、そんなに不安に思うことはないぜ。
だから、普通に…そう、普通に楽しんでこいよ」
宍戸先輩は言葉につまりながらも、私にそう言ってくれた。
その様子から、言葉以上に私の事を心配してくれていることが伝わってくる。
それが嬉しくて、でも、あたふたしてるその様子がすごくおかしくて…、つい吹き出してしまった。
「あ、ひでぇな。そこで笑うか?
これでも俺は一応…お前を心配して…」
『すみません、先輩。
それと…ありがとうございます。私、嬉しいです』
「…っ。
べ、べつに、そんなのはいいけどよ」
宍戸先輩がそう答えるとほとんど同時に、黒羽さんが大笑いしだした。
「なんかいいな、お前ら。
宍戸みたいな苦労なら、俺もしてみたいぜ」
「お前な、他人事だと思って」
「大変っすね、宍戸さん。
がんばってください」
「天根…お前まで。
つうか、何をがんばるんだよ」
「まぁ、いろいろと」
黒羽さんや天根くんの言葉に、困ったようにため息をつく宍戸先輩。
そんな宍戸先輩を見て、みんな笑ってしまった。
こんなに私のことを気にかけてくれる人がいるって…。
……幸せ者だな、私。
みんなと一緒に笑いながら、私は心の中にそんな思いが広がっていくのを感じていた。
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