合同合宿編
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「名無し、他にはどんなことがあった?」
『え?』
「お前の話、もっと聞かせてくれねぇか。
今日、どんなことがあったか話してくれよ」
「あ、俺ももっと聞きたいな。
名無しさん、よかったら教えてくれる?」
『あ…、うん!』
ここに来たときと同じように胸の奥がほわんとするのをまた感じながら、私は二人に今日の出来事を話した。
それで練習中に会った芥川先輩と向日先輩のことを話していたら、いつのまにか春休みにレギュラーメンバーで行ったっていう、お花見の話題に。
「それでね、風が吹くと桜の花が本当にきれいに舞うんだ。
その花吹雪の中を向日さんがすごく楽しそうに跳びはねてたんだけど、それがまた見ててハラハラするくらいすごい高さでさ」
「ジローもいつもより気持ちよさそうに寝てたな。
まぁ実際、きれいな風景だったしな。
幻想的っていうんだろうな、ああいうの」
二人の話を聞いてるとまるでその光景が目に浮かんでくるようで、それに楽しそうに話してくれるから、気がついたら私も笑ってた。
というか私、宍戸先輩と鳳くんと一緒にいるときはこういうことが多いかもしれない。
「…もう少し、早く仲良くなれてたらよかったのにね」
ふと、鳳くんが少し寂しげな顔で私を見つめた。
『え…?』
鳳くんが言おうとしていることがすぐには分からなくて、思わず少し考えこんでしまう。
「名無しさんもあの場に一緒にいてくれたら、きっともっと楽しかっただろうなと思って」
『…!』
「なんて、贅沢なこと言ってるね、俺。
今こうして仲良くなれて一緒にいられるんだから、不満なんて言ってちゃいけないのに」
ハハ、と笑う鳳くん。
『…ううん、そんなふうに言ってくれてすごく嬉しいよ。
ありがとう、鳳くん』
…不思議だな。
春休み……。
鳳くんと初めて話した日の、ほんのちょっと前にみんなはお花見に行ったんだ。
その頃の私は、少し先の未来にこんなことが待ってるなんて、頭の片隅にも無かった。
こんなふうに、鳳くんや宍戸先輩と一緒にごはんを食べて、いろんな話をして…。
「何言ってるんだよ、長太郎。名無しもだぜ。
二人そろって辛気くさい顔しやがって」
「宍戸さん?」
「来年、一緒に行けばいいじゃねぇか」
来年…。
そう言った宍戸先輩は、鳳くんと私を見て続けた。
「桜は来年も咲くんだ。
だから来年、みんなで行こうぜ。
俺だって…長太郎と同じだしな」
『?』
「その…、名無しがいてくれたほうがいいってことだよ」
宍戸先輩は少し頬を赤くしながら、そう言ってくれた。
……本当に、全然想像してなかった。
こんなふうに言ってもらえるなんて…、一緒にいてこんな気持ちになるなんて。
『…ありがとうございます、宍戸先輩。
私もみんなと一緒に行きたいです、お花見。
…って、みんなが了解してくれるか分からないですけど』
「そんなの大丈夫に決まってるじゃねぇか。
よし、じゃあ約束だぜ。忘れんなよ」
『忘れたりなんかしないです』
「来年かぁ。今から楽しみだね」
『…うん』
……私、わかった。
二人と一緒にいてさっきから何度も感じた、胸の奥がほわんとする、あの感覚の正体。
今日はいろんな学校の人に出会って一緒に過ごしたから、新しいことをたくさん経験したから、今までに自分の中にもうあった気持ちも、いつもより新鮮に感じることができたんだと思う。
だから宍戸先輩と鳳くんに会ったとき、すごくほっとしてる自分を、いつもより強く感じたんだ。
「名無しさん、…やっぱり疲れてるんじゃない?
なんだか、ぼんやりしてるし…」
「お前にとっては今日は朝から慣れないことの連続だからな。
気を張ってるから自覚がないだけで、本当は疲れてるのかもしれないぜ。大丈夫か?」
私……。
『…大切だなって』
「え?」
「名無し?」
二人が私のことを心配そうに見る。
『宍戸先輩と鳳くんが、大切だなって…そう思って』
二人が何も言わないから少し不安になったけど、伝えたい気持ちの方が上回って、私の口は自然と動いていた。
『最初に疲れてるんじゃないかって心配してくれたとき、おなかがすいてるだけだって言いましたけど、あれ嘘なんです。
あのとき…二人に会ったとき、なんだか変な感じがして…それが気になってたんです』
「変な感じ…?」
『うん…。
それが何なのか自分でも分からなかったんだけど…、でもさっき分かった』
私の顔をのぞきこむようにしている鳳くんは、少し不安そう。
宍戸先輩は無言で、ただじっと私を見てる。
…急にこんなこと言い出して、二人ともびっくりしてるだろうな。
でも…、二人にはこの気持ち、聞いてもらいたい。
『今日は私にとって新しいことがたくさんあって…、そういうことにずっと囲まれてたからか、いつもよりはっきり分かったんです。
私、宍戸先輩と鳳くんのこと…大切だって思ってるなって。
二人と一緒にいるときが、なんだかすごく、大切だなって』
……………。
本当に、いつのまにこんなふうに思うようになってたんだろう。
二人といると、自然な自分でいられる。
ずっと昔からの、小さい頃からの友達といるときみたいに気持ちが落ち着いて、ほっとする。
この気持ちにぴったり合う言葉が私の中には無いけど…、ただすごく大切だってことは分かる。
「名無しさん……」
鳳くんが私のほうにスッと身体を向けた。
あ…、なんか、急に恥ずかしくなってきた。
で、でも本当の気持ちだし。
いやいや、でもやっぱりちょっと恥ずかしいかもしれない…。
「…俺も、同じだ。
お前と長太郎と三人でいるのはすげぇ居心地いいっつうか…、その…本当に楽しいと思ってるぜ」
私が一人でオロオロしていると、宍戸先輩がそう言ってくれた。
そのおかげで、少しだけ気持ちが落ちつく。
「…あっ!だからって別に、お前と二人なのが嫌だってわけじゃねぇぞ?!
二人でいるのも楽しいけどよ…って、何言ってんだ、俺!
あー、ほら、お前はやっぱ女だし、男といるのと全く同じってわけには…」
しどろもどろになる宍戸先輩。
そんなこと言わなくても誤解なんてしないのに、わざわざきちんと説明しようとするところが、真面目な宍戸先輩らしい。
『大丈夫です、分かってますよ、先輩』
「そ、そうか」
宍戸先輩がほっとしたように息をはく。
「名無しさん、俺もだよ。
三人で一緒にいるとすごく落ち着くし、もっとずっと前からこんなふうに過ごしてたような気もするくらいなんだ」
鳳くんの声がいつもよりもっと優しく聞こえる。
「でも名無しさんが言ってくれたから、宍戸さんも俺も改めて言葉にすることができたと思う。
勇気がいるけど…伝えるって大切だね。
だって今、俺…すごく嬉しいから」
『うん、私も…。
えっと…、宍戸先輩、鳳くん、ありがとうございます』
二人が同じように思ってくれてたことが嬉しくて、でもやっぱり照れくさくて、顔が熱くなるのを感じながら私は二人に頭を下げた。
「バカだな、なんでお前が礼を言うんだよ」
『だ、だって…本当に嬉しくて…』
「…………今度…」
何かを言いかけて、口ごもる宍戸先輩。
『…?』
「…今度、三人でどっか遊びに行くか」
『えっ』
「あー、まぁ…お前が嫌じゃなけりゃ、だけどよ」
言いながら、恥ずかしそうに頬をかく宍戸先輩。
『全然イヤじゃないです!
遊びに行きたいです!
絶対絶対、遊びに行きたいですっ!!』
「お、おう…、そうか」
つい大きな声で言ってしまった私に、宍戸先輩はびっくりしたみたいで目を丸くして固まってしまった。
そしてしばらくすると「そんな大声で言わなくても聞こえるぜ」と言って笑いだした。
う…。
すごく嬉しかったから、つい…。
鳳くんまで笑いだしちゃうし……恥ずかしいなぁ、もう。
「じゃあ、合宿が終わったらってことでいいか?
うまくいけば来週行けるかもしれねぇな」
「そうですね」
『はい』
「名無し、来週だぞ、忘れんなよ。
…って、さっきも同じこと言ったような気がするな」
…なんか、本当にすっごく楽しみ。
絶対絶対、楽しいだろうなー!
…ん?あれ?
そういえば、宍戸先輩や鳳くんと遊びに行くなんて今まで考えたことなかったな…。
「来年と来週の予定が一気にできちゃったね」
『あ、うん、そうだね。
どっちもすごく楽しみ』
「俺もだよ。
名無しさんと出掛けるのは初めてだし、余計にね。
でも、なんで今までこういう話にならなかったんだろう?不思議だな」
『私も今そう思ってたんだ。
なんでだろうね』
学校では鳳くんとは毎日顔を合わせてるし、宍戸先輩ともしょっちゅう会ってるのに。
うーん…。
「ちょっと待てよ。
もしかして、お前ら一緒に遊びに行ったことねぇのか」
鳳くんと二人で考え込んでいると、宍戸先輩が私達に尋ねた。
「はい、ないですよ」
「へぇ、そうなのか。意外だな。
てっきり二人では遊んだことあると思ってたぜ」
そうなんだよなぁ。
新しいクラスになってから仲良くなった子とはもう結構一緒に遊んでて……って。
『あ!そっか』
「どうしたの?」
『鳳くんが男の子だからだよ』
「?
どういう意味だ?」
『あ、えっと、今まで鳳くんと遊びに行ってなかった理由です。
私側の、ですけど』
そうだ。
考えてみたら単純なことだった。
『私、普段男子と遊びに行くことなんてほとんどないんです。
たまにあっても、仲良くなった班のみんなで、とかで。
だから鳳くんと遊ぶっていう選択肢自体が、そもそも頭の中に全然無かったんです』
「あ、そっか。
俺も女子と出掛けるのはみんなに誘われたときくらいだよ。
だから思いつかなかったのか」
「そういや俺もだな。
クラスのやつらと大人数でどっかに行ったりするくらいだ」
一瞬、シーンとなる。
その次の瞬間、三人とも吹き出すように笑いだしてしまった。
『ふふっ、なんかおかしいですね』
「だな。
これじゃ、今までこういう話にならないはずだぜ」
「三人とも同じだったんですね。
でも、今日一緒にごはん食べることにして本当によかったですね。
そうじゃなかったら、気がつかないままもっと時間がすぎてたかもしれませんし」
「言えてるな」
『そうだね』
やっぱり自然と笑っちゃう。
楽しいなー。
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