合同合宿編
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私は最後の砦、越前くんをすがるような思いで見つめた。
すると、さっきからのやりとりをずっと黙って見ていた越前くんは、私の視線を受けて分かりやすくため息をついた。
…今のは一体何のため息なんだろう。
でもさすがに越前くんは泣いてなかった。
ありえないとは思いつつも、そのまさかが一瞬脳裏をよぎったから…とりあえず、よかった…。
「いいんじゃない?おとなしく感動されてれば」
『で、でも…。
ここまで感動されるようなこと、してないよ』
「それ決めるのは、あんたじゃないでしょ」
『え?』
「あんたがどういうつもりだったかなんて関係ないってこと。
受けとる側が決めることだから」
それは…確かにそうかもしれないけど…。
目元を手でこする二人を見ていると複雑な気持ちになる。
「そうだ!いいこと思いつきました!」
葵くんが急に大きな声をあげた。
「名無しさんも、メンバーになってくれませんか?」
『え?メンバー?』
「葵くん、それはいいアイディアです。
ぜひお願いしますです、先輩!」
メンバーって……何??
『メンバーって、何の?』
「“一年生、みんなで一緒に仲良くやろう会”のメンバーです!」
葵くんが目を輝かせてはりきった様子で答えた。
まだ鼻をグスグスいわせてるけど…。だ、大丈夫かな。
それにしても、なんだっけ。
えーっと、一年生、みんなで一緒に……。
「葵くん、違うですよ。
“一年生、みんなで一緒に仲良く頑張ろう会”です」
そう言って身を乗り出す壇くん。
…うーん、壇くんもまだ目が赤い。
胸が痛むなぁ。
そのとき、越前くんがものすごく大きなため息をついた。
「…二人とも違う。
“一年生、みんなで一緒に仲良く頑張ってもっと強くなろう会”でしょ」
ソファーに深く腰かけたまま、スラスラと言いきった越前くん。
「あーーっ!!そ、そうだった!
越前くん、さすがですねっ」
「僕も見習うです!
越前くんみたいに、完璧にマスターするです!やり遂げてみせるです!」
「……………はぁー」
…越前くん、さっきからため息ばっかりついてるなぁ。
「というわけで、“一年生、みんなで一緒に仲良く…”えぇっと、略して…“一年生の会”に入ってくれませんか?」
「お願いしますです!」
葵くんと壇くんが私にぐぐっと詰め寄る。
二人の目から放たれる、純粋なキラキラビームが…すごい…。
『で、でも…。
気持ちは嬉しいけど…』
「嫌ですか…?」
「ご迷惑でしたですか…?」
私が少しためらうと、途端にシュンとして目を潤ませる二人。
……うっ。
そ、そんなウルウルした目で見られると…。
何にも断れなくなっちゃいそうだ…。
純粋って…、すごい…。
『い、嫌とか迷惑とかじゃないよ。
でも私、一年生じゃないし、そもそもテニス部じゃないし…』
私は今回の合宿には臨時でお手伝いに来てるだけ。
だから、そういうのに加わるにはふさわしくないと思う。
そう思って断ろうとしたんだけど…。
私の答えに、二人はホッとしたように笑顔になった。
「なんだー、そんなことですか」
「僕達は気にしないですよ」
『えっ?でも…』
それじゃあ、一年生の会の意味が無くなっちゃうんじゃ…。
せっかく学校関係なく一年生同士で一緒に頑張っていこうとしてるのに。
「分かりました!
じゃあ、名無しさんは氷帝からの特別ゲストっていうことでどうですか?」
『特別ゲスト?』
「それ、いいですね!氷帝からは参加者がいなかったですし。
葵くん、今日すごく冴えてるですね!」
「えっ、そうですか?
そんなにほめられると、なんだか照れちゃうなー。えへへ」
「……………はぁー」
これでもかっていうくらい目がキラッキラの二人と、遠い目をしてため息がたえない越前くん。
…ふふ、越前くんの顔。
やれやれ、って声が聞こえてきそう。
…でも、越前くんもなんだかんだ言って二人といるのが嫌いじゃないんだよね、きっと。
こうしてここにいるのがその証拠。
もし嫌なら、とっくにここからいなくなってそうだもん。
…………。
あぁぁー!
三人とも、ほんっとに可愛いなぁ、もう!
「…あんたさ」
一年生の可愛さに心を奪われていると、越前くんに声をかけられた。
目を向けると、さっきの練習のときみたいにじっと見つめられていた。
な、なんだろう。
越前くんて勘がよさそうだから、こんなふうに見られると見透かされてるみたいでなんだか緊張しちゃう。
『な、なに?越前くん』
「さっきから何ニヤニヤしてるの?」
うっ…!
…見透かされてるとかいう次元の問題じゃなかった。
わざわざ見透かさずとも、前面に思いっきり出てしまっていたようだ…。
…別にみんなのことが可愛くてって言っちゃえばいいんだけど、男の子って可愛いって言われるの嫌だって聞くし…。
それに今日会ったばかりの人にそんなこと言われたら、やっぱり変な人だと思われちゃうよね…。
練習のときはなんとか乗りきったけど…。
「越前くん、なんて失礼なこと言うんですか。
ニヤニヤじゃなくて、ニコニコですよ」
「そうですよ。
名無しさんはニコニコしてるです」
どう答えるべきかと困っていると、葵くんと壇くんが一生懸命に越前くんに言い返した。
二人は真剣な顔だ。
あぁ…、すごい罪悪感。
ご、ごめんね、二人とも…。
きっと越前くんの言う通り、ニヤニヤしてたんだと思う…。
「はぁー………。
…まぁ、そういうことにしておいてあげてもいいけど」
……越前くん、そういうことにしてくれてありがとう。
おかげで葵くんと壇くんにとっての私が、変な人にならずにすんだよ…。
「それで、名無しさん。
どうでしょう、一年生の会、入ってくれませんか?」
「ぜひ入ってほしいです!
越前くんもですよね!ねっ?」
「……ソウダネ」
おおぅ…。
……越前くん、すっごい棒読みだ…無表情だし。
これはもう、越前くんにとっての私は完全に変な人だなぁ…アハハ。
まぁ、それはともかくとして…。
こんなふうに誘ってもらえるなんて、嬉しいな。
学年も部活も当てはまらない私を、こんなに熱心に。
『…ありがとう、みんな。
私でよかったら、ぜひ仲間に入れてください。よろしくね』
一年生の会なるものに加わることに決めた私は、三人に向かって頭を下げた。
すると、葵くんと壇くんがソファーから飛び上がるみたいに喜んでくれた。
「ほ、ほんとですか!?
やったぁー!」
「ありがとうございますです!
僕、すごく嬉しいです!」
「…まぁ、一応よろしく」
……ほんとに、なんて可愛い子たちなんだ。
でも、よく考えてみたら…一年生の会って、一体なにするんだろう?
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