氷帝での出会い編
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「名無しさん、おはよう」
『あ、おはよう、鳳くん』
きのうの突然の席替えから一夜明けた。
いつまでも考え込んでいてもしょうがない。
私はこの席でがんばるぞ!と腹をくくって登校した。
そして朝練を終えてきたらしい鳳くんと、朝の挨拶。
うーん、すごく爽やかな人だ。
このちょっとした挨拶にも品を感じる。
雰囲気とか、表情とか…。
もしかしていいところのお坊ちゃんだったりするのかな?
別にどっちでもいいけど。
『鳳くん、朝練だったの?』
「うん、そうだよ」
『毎日でしょ?大変だね』
「朝練は強制じゃないんだ。自分が好きでやってることだから、楽しいよ。
でも、気遣ってくれてありがとう」
…今の最後の一言を中学生で何気なく言えるのがすごい。
こういう所が育ちがいい感じする所なのかもしれない。
――――――ガラッ。
「長太郎」
鳳くんを呼ぶ声が聞こえたと思ったと同時にわき上がる、女の子達のキャーッという声。
「宍戸さん」
ドアを勢いよく開けて入ってきたのは、宍戸先輩だった。
宍戸先輩は周りにいる女の子達に少し戸惑いながら、キョロキョロと教室の中を見回している。
「宍戸さん、ここです」
鳳くんが軽く手を挙げる。
それに気づいた宍戸先輩はこちらに歩いてきた。
「どうしたんですか?宍戸さん」
「これ、さっき返すの忘れちまってたからよ」
「それでわざわざ?すみません」
どうやら宍戸先輩は何かを鳳くんに返す為にここに来たみたい。
私はというと、宍戸先輩がこっちに来ると分かったときから教科書をひらいて、適当なページをじっと見つめていた。
みんながこっちを見てるし…きのうの今日だからまだ慣れないんだよね、この視線…。
私を見てるわけじゃないっていうことは分かってるけど…。
「それにしても、長太郎。特等席じゃねーか」
「そうなんですよ」
鳳くんの嬉しそうな声が聞こえてきた。
…なんか、イヤな予感。
うっ…………………。
なんだか宍戸先輩に見られてるような気がする…。
はっ……………しまった!
周りがこんなにざわついてるのに、隣でじっと動かないでいたら逆に目立つのかも。
あぁ、私、なにやってるんだろ……。
「あ、宍戸さん。彼女、紹介します」
「え、あ、いや。別に俺は…」
「いいじゃないですか、俺が紹介したいんですよ」
この流れは…やっぱり…。
「名無しさん、ちょっといい?」
キタ――――――――!!
「俺の先輩にキミのこと紹介したいんだけど、いいかな?」
『あ、うん。いいよ、もちろん』
「よかった。ありがとう」
何とかそ知らぬ顔して答えたけど、心臓すごくバクバクいってる。
なんかきのうからイヤな予感バンバン当たってるなぁ。
でも相手は初対面な上に上級生なんだから、きちんと挨拶しないと。
自分の気が向かないからって、関係ない鳳くんや宍戸先輩に対して失礼な態度とるようなことはしたくないし、しちゃダメだ。
鳳くんが宍戸先輩と私をお互いに簡単に紹介してくれた。
『宍戸先輩、はじめまして。名無しななしといいます。
鳳くんとは席が隣同士なので、これからまた先輩とも顔を会わせることがあるかもしれません。
その時はどうぞよろしくお願いします』
鳳くんの紹介が終わったので、私は先に挨拶をして頭を下げた。
先輩への挨拶って、こんな感じでいいのかな?
部活に入ったことがないし上級生と関わることなんてほとんど無いから、さじ加減が難しい。
「そんなに堅苦しくしないでくれ。もっと適当でいいぜ」
少し不安だった気持ちも、宍戸先輩が小さく笑いながら言ってくれたから消えていった。
「俺は宍戸亮だ。こっちこそよろしく頼むな」
『はい』
鳳くんとはちょっとタイプが違うけど、宍戸先輩も爽やかな人だなぁ。
硬派で怖そうなイメージだったけど、こうして実際に話してみると、硬派なのは硬派そうだけど気さくで頼れる先輩って印象…。
「じゃ、長太郎。俺そろそろ戻るな」
「はい、これ、本当にありがとうございました」
「気にすんな。すぐ返さねーと、何かモヤモヤするからな」
宍戸先輩、自分の教室に帰るみたい。
もうこんな時間だもんね。
そのまま私の前を通りすぎていくと思ったけど、何故か宍戸先輩は私の席の前で立ち止まった。
…………あれ?
どうしたんだろう。
手に持っていた教科書から目を離して、宍戸先輩を見てみる。
先輩は少し気まずそうに私から視線をそらした。
………??
なんだろう?
「…さっきから気になってたんだけどよ」
『…?はい、何ですか?』
「教科書、逆さまだぜ」
『えっ』
………………………。
はっ、と我に返って手元の教科書を見ると、確かに上下が逆だった。
イヤ――――――――!!
…ま、まさか先輩がここに来たときからこの状態だった?!
先輩が私のほうを見てたのはこのせい?!
あ゛ぁぁぁぁぁぁ。
恥ずかしい…恥ずかしすぎる。
「名無し」
あまりの恥ずかしさに顔をあげられずにいる私に、宍戸先輩が声をかけてきた。
う……。
今先輩の顔見たくないけど、無視するわけにもいかないし…。
仕方なく、私はもう一度先輩を見上げた。
「またな」
笑うのを思いっきり我慢している様子の宍戸先輩は、それだけ言うと女の子達の間をすり抜けるようにして私達の教室から出ていった。
…………。
はぁ…。
もう絶対、変なやつだと思われただろうなぁ。
またな、って言ってくれたけど、初対面がこれじゃ、また顔合わせるのも恥ずかしいよ。
…なにやっちゃってるの、私。
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