合同合宿編
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『手塚さん、何か手伝うことありますか?』
手があいた私は、何かすることがないか手塚さんに聞いてみることにした。
もっとテニスに詳しかったり気が利く人なら、こんなこと聞かなくてもいろいろ自分の判断で動けるんだろうけど…。
私にはそれはできないんだから、邪魔になるようなことをしないためにもちゃんと聞かなきゃ。
手塚さんはなんだか近寄りがたくて、声をかけるのは緊張するけど…。
私は手伝いに来てるんだから、そんなこと言ってられない。
「そうだな…。
ではひとつ頼んでもいいだろうか」
『はい、なんですか?』
すると手塚さんは何か言いかけたけど、そのまま考えこむように黙りこんでしまった。
?
どうしたのかな。
『…手塚さん?』
「ああ、いや…」
『あの、遠慮なく言ってくださいね』
「……そうだな。
すまないが、倉庫からいくつか備品を持ってきてもらいたい」
.
えーっと、あとは確かここに…。
手塚さんから頼まれた物を取りに、私は倉庫に来た。
ここ、すっごく広いからなぁ。
急がないと全部揃えるのに結構時間がかかっちゃいそう。
それにしても…手塚さん、さっきどうして一回言うのやめたんだろう。
表情があんまり変わらないから、何を思ったのかよく分からなかったけど…。
やっぱり頼み事しづらかったのかな?
私だけこの合宿で初めて会ったわけだから、なんとなく気をつかっちゃうのかも。
でも私はこの合宿を手伝うために来てるわけだし、他校の人からももっと気楽にいろいろ言ってもらえるようにならないとダメだよね。
うーん……。
誰かの役に立つって、難しいなぁ…。
「わっ!!!」
そのとき突然、背後から大きな声が聞こえてきたのと同時に、誰かに肩をガシッとつかまれた。
『ぎゃーーーーーっっ!!!』
その感触と声の大きさに驚いて、私は反射的に身体を震わせて叫んでしまった。
バッと振り返ると、そこにはおなかを抱えて大笑いしている向日先輩がいた。
『む、向日先輩!
なっなな何するんですか!』
び、びっくりした……!
心臓…めちゃくちゃドキドキしてる。
はー…。
「ワリィ、ワリィ。
まさかこんなに驚くと思わなかったからよー」
そう言って、また笑い出す向日先輩。
…絶対、悪いと思ってないな。
「そんな怒るなって。
お前がすげー無防備だったから、つい」
とか言いつつ笑ってるし。
…まぁ、向日先輩らしいけど。
もう…。
.
『そういえば、先輩はどうしてここに?』
まだドキドキしている心臓を落ちつかせるように静かに息をはいてから、私は先輩に尋ねてみた。
「ん?俺?
これだよ、これ」
向日先輩は隅に置いてあるカラーコーンをペシペシとたたいた。
「一個足んなくてさ」
『あ、そうだったんですか』
「そういやななしは誰かの班に行ってんのか?
俺達のところには壇が来てるけど」
『私は手塚さんの班の担当になりました』
「へー、手塚か」
あ、そうだ!
向日先輩って確か…。
『あの、向日先輩の班のリーダーって葵くんですよね』
「あぁ、そうだぜ」
やっぱり!
『葵くん、どんな感じですか』
「ん?どんな感じって?」
『今日の練習、葵くんはまだ一年生だからちょっと心配で…。どうしてるかなって。
余計なお世話かもしれないですけど』
今日の練習の説明を聞いてから、ずっと気になってたんだよね。
この合宿に来てる学校は、部長も副部長も、葵くん以外はみんな三年生。
いくら普段から部長だっていっても、他校も入り交じっての練習でリーダーっていうのはすごく大変なんじゃないかなって…。
一年生で部長に選ばれるくらいの選手なんだから、私が気にする必要なんかないんだろうけど、やっぱりちょっと心配。
.
「そういうことなら心配ないぜ。
あいつ、ちゃんとやってるし」
『あ、そうですか』
そっか…、よかった。
葵くん、がんばってるんだなぁ。
『あの、向日先輩』
「ん?」
『それなら大丈夫だと思いますけど…、もし葵くんが何か困ってたら、助けてあげてもらえませんか?
先輩に気にかけてもらえたら、それだけできっとすごく心強いと思うんです』
「…………」
…珍しく、向日先輩が無反応だ。
ちょ、ちょっと図々しかったかな…。
でも私は何もしてあげられないし、向日先輩なら明るくパパッと助けてくれそうだし…。
少し不安に思いながら向日先輩の表情をうかがっていると、先輩はなんだか嬉しそうにうなずいて笑った。
「わかった、いいぜ!
俺にまかせとけ!」
……失礼な言い方かもしれないけど…。
今…、向日先輩、すごく男らしく見えた。
いつもが男らしくないっていうわけじゃないんだけど…。
.
「なぁ、ななし」
『はっ、はい』
急に向日先輩のことを男らしいって思うなんて…不思議だ。
今まであんまりそんなふうに思ったことなかったのにな。
突然のことに、ちょっと動揺してるのが自分でも分かる。
…今の返事、なんか変になってなかったかな。
「お前ってやっぱりなんかさ…」
向日先輩の大きな目が私をとらえる。
「いいやつだよなー」
そう言うと、先輩はニッと笑った。
『えっと…あ、ありがとうございます』
うー、なんか…すごく照れるよ。
「それじゃ、俺、そろそろ戻るぜ。
あっ、葵のことは心配すんなよ」
『は、はい』
「ななしも何かあったら周りのやつらに助けてもらうんだぜ。
違う学校だからって遠慮するんじゃねーぞ」
『はい、わかりました。
ありがとうございます』
「がんばれよ、そんじゃなー!
またあとでなー!」
カラーコーンを脇に抱えて、向日先輩はすごい速さで走っていった。
……いい人って言うなら、向日先輩のほうが当てはまるよ、絶対。
…………………。
やっぱり私、みんなのことまだまだ知らないんだな。
今のこの短いやりとりだけで、向日先輩のまた違う一面を知った気がするし…。
……なんだか嬉しいかも。
これからもこんなふうに、ちょっとずつでもみんなのこともっと知っていけたらいいな。
.
…よし、これで全部だ。
あれから急いで頼まれた物を集めて、それをカゴに入れた。
早く戻ろうとそのカゴを持ちあげたとき、思ったよりカゴが重くてよろめいてしまった。
なんとか踏んばって、転ぶのだけは避けられたけど…。
カゴの中の物がものすごい音をたてて散らばってしまった。
うわー!
ははは早く拾わないと!
あわてて近くに落ちたものを拾っていると、倉庫に誰かが入ってくる気配がした。
「大丈夫か、名無し」
『て、手塚さん』
手塚さんは冷静に辺りの様子をざっと確認すると、まっすぐに私のところへと歩いてきた。
「怪我はないか」
『はい…大丈夫です。
あの、すみません。遅くなってしまって』
「いや…こちらこそ、すまない」
『えっ』
どうして手塚さんが謝るんだろう。
こうなったのは私の不注意のせいなのに。
「お前に頼むとき、女子に運ばせるには量が多すぎるかもしれないと思ったが、そのまま頼んでしまった」
あ…。
だからあのとき一度言いかけてやめたんだ。
それで様子を見に来てくれたのかな。
「本当にすまなかった。
お前に無理をさせてしまった」
『い、いえ。手塚さんのせいじゃありません。
私の不注意ですから』
本当に手塚さんのせいじゃないのに、手塚さんは“俺の責任だ”と言って、散らばった物を素早く拾い集めると、そのほとんどを持ってしまった。
私も残りの物を持って手塚さんと一緒に戻ったんだけど…。
…私、結局全然役にたってないな。
それどころか迷惑かけてるし…。
これじゃ人のこと心配してる場合じゃないよ。
はぁ…。
もっとがんばらなきゃ。
.