合同合宿編
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や、やっと解放された…。
私は軽くふらつきながら廊下を歩いていた。
お昼ごはんの準備が終わって、私たちお手伝いメンバーはみんなで一緒に食べ始めた。
千石さんとの関係について小坂田さんからの追及もとりあえず一段落して、安心してたのもつかの間…。
今度は氷帝のみんなや他校の人達にいろいろ聞かれて、なかなか離してもらえなかった。
ミーティングのあと私はすぐに厨房に来たから、壇くんの話だと千石さんがみんなに質問攻めにされてたみたいだし…。
さっきはそんな様子、全然見せてなかったけど…千石さんも大変だっただろうな。
午後から本格的に練習が始まるから、その時間が迫ってきたおかげでようやく解放されたけど…。
はぁ…、どっと疲れた…。
こういうことにあんなに興味があるのって女の子だけかと思ってたけど、男の子でも結構気にするんだなぁ。
今日の練習は、各校の部長をリーダーにして、学校関係なく部員をシャッフルした班での練習。
うーん…。
葵くん、一年生なのに大変だな…。
余計なお世話だろうけど、ちょっと気になる…。
葵くんのことが気にかかりつつそれからいくつかの雑用を終わらせると、手塚さんの班について手伝うように跡部先輩から言われて、私はさっそく手塚さん達がいる場所へと向かった。
…えーっと、確か手塚さんの班の人達がいるのはここのはず…。
跡部先輩から聞いた場所へと来た私は、手塚さんを探した。
手塚さんの班の芥川先輩もいるからここで間違いないはずだけど、手塚さんの姿がない。
あれ?
どこかに行ってるのかなぁ…。
「何か用?」
『えっ?…あっ、越前くん』
背後から声をかけられて振り返ると、越前くんがいた。
すごく汗をかいてる。
『越前くん、手塚さん知らない?』
「部長なら今いない。
もうすぐ戻ってくると思うけど」
『そっか、ありがとう』
越前くんは静かに息をつくと、私のとなりで座った。
『タオル、持ってこようか』
「あぁ、うん。助かる」
『分かった。取ってくるね』
「あ、ちょっと待って。
部長、戻ってきた」
越前くんに言われて出しかけていた足をとめると、確かに向こうから手塚さんが歩いてくるのが見えた。
うーん、やっぱりすごい落ち着き…というかオーラ。
自分とひとつしか違わないとはとても思えない。
思わず見入っちゃうなぁ。
「名無し、どうした。
何かあったのか」
うわ…。
やっぱり大人っぽい。
「……?」
…ハッ。しまった!
不審な目で見られてる!
ボーッとしてる場合じゃなかった…!
『あの、えっと…きょ、今日は手塚さんの班を手伝うように跡部先輩から言われました。
よ、よろしくお願いします』
「そうか。
こちらこそ、よろしく頼む」
はー、危ない危ない。
不審人物になっちゃうところだった。
なんとかギリギリセーフ。
……だと思っておこう、うん。
タオルを取りに行って戻ってくると、越前くんはみんなとコートでの練習をしていた。
越前くんもみんなも、一生懸命だ。
…みんな、かっこいいなぁ。
大変そうだけど、楽しそうで。
…なんかいいな、こういうの。
芥川先輩も今日はバッチリ目が覚めてる。
強い人がたくさんいるから、ワクワクしてしょうがないって感じ。
すっごく楽しそう。
すると私に気づいた越前くんが、コートから出てきた。
『はい、どうぞ』
「どうも」
越前くんは私からタオルを受けとると、顔の汗をぬぐった。
その様子がなんだか猫みたいで。
「…何?」
『えっ?』
「笑ってるけど」
うっ…。
こ、困った…なんて答えよう?
今、かわいいって思ってたからなぁ。
『えーっと…、みんな楽しそうだなって』
「…ふーん」
よ、よかった。セーフ!
また不審者になるところだった。
はー、ドキドキ。
「ななしちゃーん!」
ホッとしていると、芥川先輩がタタタッと走ってきた。
「俺、のど渇いたC~」
『あ、ちょっと待ってくださいね』
ドリンクを渡すと、芥川先輩はおいしそうに飲み始めた。
「おいC~!」
基本的に普段は眠そうにしてることが多いから、こんなふうにパァッとした顔の芥川先輩を見る機会は結構貴重。
眠そうな…というか寝てるときの先輩も、今みたいな先輩も、どっちも芥川先輩らしいなと思う。
先輩は自分に正直で、すごく素直な人だ。
だから私も芥川先輩といるときは肩の力が抜けて…、うまく言えないけど、気持ちがフワッと軽くなる。
「ありがと~、ななしちゃん。
それじゃまた行ってくるね~!」
『はい、がんばってくださいね』
コートに向かって走り出した芥川先輩は、笑顔で私にブンブンと何度も手を振ってくれた。
私も笑って手を振り返す。
…こういうの、相手が先輩だと私にはちょっと勇気がいるんだけど、芥川先輩には自然にできちゃう。
きっと芥川先輩の人柄がそうさせてくれるんだろうな。
「…ねぇ」
越前くんが、芥川先輩が走っていった方向に目を向けたまま尋ねてきた。
『ん?なに?』
「あの人達とは結構前から知り合いなの?」
あの人達って…テニス部のみんなのことだよね?
『知り合いになったのはそんなに前じゃないよ。
私が二年になってからだから』
「ふーん…、そうなんだ」
……?
越前くん、なんでそんなこと聞くんだろう。
「あんた、なんでここにいるの?」
『えっ?
それは手塚さんの班を手伝うように言われたから…』
「そうじゃなくて」
『?』
「なんでこの合宿に来たの?」
あれ?
確か最初に説明したはずだけど…。
まぁ、いっか。
『私は生徒会に入ってるし、テニス部のみんなとも顔見知りだからやってみないかって跡部先輩が言ってくれたんだ。
それで私もやってみたいと思ったから参加することにしたんだよ』
「………」
『…?
越前くん?』
何も言わない越前くんを不思議に思っていると、越前くんは帽子のつばの下からのぞく目で私を見つめ返してきた。
「本当にそれだけ?」
『え?そ、そうだけど』
「…………」
『あの…、越前くん?』
越前くんが何を言いたいのか分からなくてその視線に戸惑っていると、越前くんはしばらくしてやっと視線をはずしてくれた。
「…ちょっと気になっただけ」
『?』
「テニス部じゃないのに随分仲良さそうだから」
『…あ、そうなんだ』
なんだ、そっか。
そう言われると、確かにちょっと不思議に見えるかもね。
『あ、そうだ。仲いいと言えば』
「?」
『青学の一年生、みんないい子たちだね』
「何、急に」
『さっき一緒にお昼ごはん作ったから。
みんな優しくてがんばり屋さんだなって思って』
「…ふーん、そう」
ごはん作るのも一生懸命だったし、壇くんにも優しかったし。
私のこともすぐに受け入れてくれた。
越前くんのことも楽しそうにいろいろ話してたなぁ。
『いい友達だね』
「……」
越前くんは帽子を目深にスッとずらして、
「まぁね」
そう一言だけ答えると、コートへと歩いていった。
そのとき越前くんがほんの少しだけ微笑んだように見えて、なんだか私は嬉しい気持ちになった。
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