合同合宿編
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「跡部さん、持ってきました」
「ああ。
二人とも、ご苦労だった。助かったぜ」
抑えきれないドキドキを抱えつつ、運んできた荷物を跡部先輩に渡した。
…よかった、間に合った。
これも日吉くんが一緒に来てくれたおかげだな。
――――――ガタッ
そのとき、椅子がずれたような大きな音が辺りに響いた。
反射的にその方向を見ると、一人の男の子が立ち上がって私をまっすぐに見ていた。
『…!!』
一瞬、息がとまりそうになった。
その男の子は、さっきからずっと頭から離れなかった、あの思い出の男の子だったから…。
その人は私を見据えたまま、こっちに向かって歩いてきた。
距離が狭まるほど、間違いないと分かる。
真っ正面に立った男の子は私と同じようにすごく驚いてるみたいで、何も言わずにただ私を見ていたけど、しばらくしてゆっくりと口を開いた。
「オレのこと…覚えてる?」
『あ……』
もちろん覚えてる、覚えてるけど…びっくりしすぎて、言葉が出てこない。
すると男の子は初めて会ったあのときみたいに、その場に膝まづくようにしてしゃがんで、私の膝のあたりを見た。
「もうすっかりキレイになったね」
そう言うとスッと立ち上がって、ニコッと微笑んだ。
あのときと同じ笑顔…。
目の前の笑顔が、記憶の中のそれと重なる。
『えっと…あの…。
…あのときは、本当にありがとうございました。
おかげで、すぐに治りました』
「ホント?それはよかった。
オレのことも思い出してもらえたみたいだし、ラッキ~!」
この笑顔を見てると、こっちまで自然と楽しい気持ちになってくる。
あのときに感じたのと同じ感覚だ。
…不思議な、感覚。
「ね、キミはどうしてここに?
もしかして、氷帝のテニス部なのかい?」
『いえ、私は――』
「こいつはテニス部じゃありませんよ」
私が答えようとした瞬間、日吉くんの声が聞こえてきた。
…うわっ、どうしよう!
あまりにもびっくりしすぎてすっかり頭から抜けてたけど、ここ、みんながいるんだった…。
…イヤーーー!
はははは恥ずかしい!
そーっと辺りを見渡すと、みんなこっちを見ていた。
いつの間にかシーンとしてるし…。
…日吉くんが話し出すまで、今のやりとりを全部見られてることに意識がいってなかった。
「こいつは手伝いで来てるだけですから。
普段テニス部とは関係ありません」
日吉くんは、私と男の子の間にスッと入りながら言った。
男の子の姿が日吉くんの背中に遮られる。
…も、もしかして、この恥ずかしすぎる状況から救おうとしてくれてるのかな。
「ほら、行くぞ」
『え?』
行くってどこに…。
「もうミーティングだろ。
氷帝の席はこっちだ」
『あっ、うん』
「千石さん。
俺達はこっちなので。…失礼します」
……千石さん?
この人の名前、千石さんっていうのか…。
日吉くんが敬語使ってるっていうことは、三年生だよね。
やっぱり年上だったんだ。なんとなく、そんな感じはしてたけど。
「名無し。早く来いよ」
『う、うん』
私は千石さんに会釈してから、日吉くんと一緒に席に向かった。
日吉くんのおかげで、なんとかあの状況を切り抜けられたな。
………ほっ。
ミーティングが始まると、跡部先輩が改めて私をみんなに紹介してくれた。
どうやら私以外はみんなもう顔見知りみたい。
さっきのことを思い出すと顔から火が出てしまいそうだから、出来るだけ考えないように頑張った。
こういうのは最初が肝心だから、きちんとしなきゃ。
なんとか挨拶をし終えると、パチパチパチと拍手が聞こえてきた。
あ!真っ先に拍手してくれたの、六角の人達だ。
優しいなぁ。いい人達だ…。
葵くん、かわいいよー。
それから本格的に合宿の内容の話になると、みんな一気に真剣な雰囲気になった。
私は事前に説明を受けてるけど、もう一回しっかり聞いておこう。
……とは思うんだけど…。
つい、山吹の人達と一緒に座ってる千石さんのほうを見てしまう。
どうしても気になって…。
だって、まだ信じられない。
あの男の子がすぐそこにいるなんて。
しかも、まさかテニス部だったとは…。
私がみんなと知り合いになってなかったら、こんなふうにもう一回会うこともなかったんだよね。
そう思うと、なんだかすごいなぁ。
世の中、すごい偶然ってあるものなんだなぁ…。
そのとき、ふと、さっき久しぶりに見た千石さんの笑顔が思い浮かんだ。
初めて会ったときと変わらない笑顔だった。
話し方も、立ち振舞いも、あのときと同じ。
でも…。
なんだか、雰囲気が大人っぽくなったような気がする。
背も高くなった感じがするし…。
何ヵ月かたつと、男の子ってこんなに変わるんだなぁ。
同じ学校にいる人だと、ほとんど毎日顔を合わせるからなかなか気がつかないけど…。
そんなことを考えながらチラチラ見ていたら、ふと千石さんもこっちを見て、目が合った。
…わっ!
ずっと見てたから、気づかれちゃったのかな!?
き、気まずい…。
なんだか気恥ずかしくて目をそらしちゃったけど、千石さんの様子が気になって、おそるおそるもう一回視線を向けてみた。
すると千石さんはまだ私のほうを見ていて、ニコッと笑って、小さく手を振ってくれた。
――ドキッ
顔が熱くなるのを感じる。
…なんか、初めて会ったときの別れ際のこと思いだしちゃう。
あのときのことがあるから、こんなにドキドキするのかもしれないな。
…あ。
千石さん、隣の人に頭小突かれてる。
その人が私に、ごめんなって感じの仕草をしてるけど…。
その横で相変わらずニコニコしてる千石さん。
なんだかコントみたい。
おかしくて、つい笑ってしまう。
「…おい」
隣の席の日吉くんに、肘でつつかれた。
『ご、ごめん』
小声で謝ると、日吉くんはため息をついて視線を戻した。
もう一度千石さんのほうを見ると、大丈夫?っていう表情をしてる。
私が笑ってうなずくと、千石さんも安心したようにうなずいた。
楽しくてつい調子にのっちゃったけど、これじゃ千石さんにも迷惑がかかっちゃう。
話すのはまた後でも出来るんだし、今はミーティングに集中しなきゃ。
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