合同合宿編
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「……………。
なぁ、侑士…。
何やってるんだ、こいつら…」
「ふふ、そう言わんと。
好みの合う者同士のやりとりやねんから、暖かく見守ってやり」
「そんなに気になってたんなら、さっさと食っちまえばいいのによ」
「まぁいいじゃないですか、宍戸さん」
しばらくすると、芥川先輩は何かを思いついたように「あ!」と声をあげた。
「そうだ!
それじゃあ二人で一緒に開けようよ」
嬉しそうにお菓子の箱を私に差し出す先輩。
…うーん、ここまで言ってくれるなら…。
『はい、ありがとうございます。
それじゃ一緒に開けましょう』
「うん、開けよう開けよう!
はい、ここ持って~…」
『はい』
二人でパッケージの開き口に手をかける。
「よし、開けるよ~。準備はいい?」
『はいっ』
うわー、ドキドキするー!
「…せーのっ!」
ペリペリと少しずつフタを開けていく。
すると中にはいつものとはちょっと雰囲気が違うアルミの包装が。
『わー、中の包装も凝ってる!』
「期間限定バージョンだC~!」
ワクワクしつつ、今度はその包装に二人で手をかけた。
そしてゆっくり開いていく。
と同時に広がるいい匂い。
『うわー!
すっごくいい匂い!』
「んー、いい匂いだC~!」
先輩と二人で辺りの空気を胸いっぱいに吸い込む。
はー、本当にいい匂い…。
もうこの匂いだけでおいしいこと確定だ…。
「……食うまでにめちゃくちゃ時間かかってるな…。
俺ならもう食い終わってるぜ」
「せやけど確かにええ匂いや」
「まだ食ってねぇのにここまで感動してるやつらがいるってこと、つくってる人たちに教えてぇな」
「本当にそうですね、宍戸さん。
きっと喜んでくれますよ」
あー、なんか緊張してきた。
ついに味わえるんだ…。
「ななしちゃん、いよいよ食べてみよう!」
『は、はい!』
そっとひとつずつ手にとって、顔を見合わせる。
先輩が真剣な表情でうなずいたのを見て、私もうなずいた。
ゴクリ……。
ゆっくり口に運ぶ。
そして噛みしめる。
…………………。
『何これっ!
ホントにすっごくおいしー!!』
「何これっ!
マジマジスッゲーおいC~!!」
完全にシンクロした芥川先輩と私の声。
またまた顔を見合わせると、今度は笑ってしまった。
「エヘヘー、声かぶっちゃったね~」
『はいっ』
「でもでも、マジマジおいC~ね!コレ!」
『はいっ。ホントにおいしいです!』
「甘いけどしつこくなくて、通常バージョンよりちょっと大人な味って感じだね~」
『そうですね!
甘さも上品っていうか…深い味ですね!』
「うんうん、深いC~」
あー、本っ当においしいなぁ…。
――モグモグモグモグ…
『………………………………………………………………………………』
「………………………………………………………………………………」
…ついつい黙りこんじゃうね、こういうときは。
これ食べるのはたぶん人生最後だもんね。
「今度は無言で食い始めたぞ…」
「よっぽどおいしいんやなぁ」
「ついさっきまで大騒ぎしてたのに、二人して急に静まりかえられると…なんか怖ぇな」
「でも二人とも幸せそうですよ、宍戸さん」
感動………。
なんて幸せなんだろう…。
『…芥川先輩、本当にありがとうございます。
もうすっかり諦めてたのに、先輩のおかげで食べることができました』
この幸せをくれた先輩に心を込めてお礼を言うと、芥川先輩は口のまわりにお菓子を少しくっつけたまま、ニコッと笑った。
「ななしちゃん。
合宿に来てくれて、ありがとね」
『えっ…』
「ななしちゃんと一緒にいられて、俺、ホントにたのC~よ」
『先輩…』
「だから、ありがと~、ななしちゃん」
目の前で無邪気にほほえむ芥川先輩。
………。
ありがとうなんて言われるようなこと、私まだ何もしてないのに…。
「ジロー、気ぃ早すぎるぞ?
まだ合宿始まってねーのに」
「いや、もう始まっとるんちゃう?
よう言うやろ、家に帰るまでが遠足やって」
「ハハッ、確かにそうだな」
「もう出発してますしね」
芥川先輩の言葉に戸惑ってしまって何も言えずにいた私に、先輩はもう一度ニコッと笑って、そして今度は向日先輩たちにお菓子の箱を差し出した。
「みんなも食べて食べて!」
「えっ、いいのか?でもよー」
「俺らまで食べたらだいぶ減ってしまうで」
「俺たちのことはいいから二人で食べろよ」
「気持ちだけいただきます」
みんなはそれを遠慮したけど…。
「そんなのいいから食べて食べて~。
みんなで食べたらきっともっとおいしくなるC~。
ね、ななしちゃん!」
私に笑顔でバッと振り向く先輩。
芥川先輩ってホントに…すごくまっすぐな人だなぁ。
『…はいっ、私もそう思います』
それからみんなにお菓子を渡した芥川先輩は、跡部先輩たちにもあげてくると言って席を立った。
『あ、先輩、ちょっと待ってください』
「ん?なに?ななしちゃん」
私はティッシュを持って立ち上がると、先輩へと歩み寄った。
「えっ、ななしちゃん?」
先輩が不思議そうに私を見つめる。
『あっ、すみません。
口のそばにお菓子がついてるので、とってもいいですか?』
「え、ホント?はずかC~!
取って取って~」
『はい、分かりました』
先輩の答えを聞いて、もう一歩だけ近づくと、私は先輩の口元にそっと手をのばした。
『それじゃ、ちょっとだけじっとしててくださいね』
「あ…、う、うん」
こういうのってなんだか芥川先輩らしいような気もするけど、このままにしておくわけにもいかないしね。
『…よし、全部とれました。
これで大丈夫です』
「う、うん…。
えっと…、ななしちゃん、ありがと~」
『いえ、気にしないでくださ…』
……………………って。
うわっ、どどどどうしよう!
ずっとニコニコしてる芥川先輩がなんだかかわいくて子どもみたいで、つい取っちゃったけど…。
なにも直接取らなくてもよかったよね?!
口元にお菓子ついてますって言って、ティッシュ渡せばよかったのに…。
『す、すみません、芥川先輩。
失礼なことをしてしまって…』
先輩に対して、小さな子にするみたいに…。
うぅ~…。
「どうして謝るの?
失礼って、なんのこと?」
きょとんとした様子で首をかしげる芥川先輩。
『え?
いえ、あの…その……』
「???
よくわからないけど、謝らなくてE~よ。
…………あ、でも」
……えっ。
でも…?
ななな何だろう?!
やっぱり本当はちょっとムカついた、とか?
あ゛ぁぁぁぁぁぁー…。
そんなこと芥川先輩に言われたら……ショックすぎる………。
「俺、ちょっと…」
あぁー、その先は言わないで…。
「ドキッとしちゃった」
……え?
なぜか照れくさそうに笑う芥川先輩。
…あ、そっか。
急に近づかれてびっくりしたっていうことだよね?
私もそうだったもんね、最初に芥川先輩に会ったとき。
『すみません…、驚かせてしまって』
でも、怒ってなくてよかった…。
「…………。
ななし、めちゃくちゃ勘違いしてるな」
「せやなぁ。
ななしちゃんらしいけど。
…ん?宍戸、顔赤いで」
「べっ、別に赤くなってなんかねぇよ」
「宍戸さん、わかりますよ。
見ていて俺も少し気恥ずかしくなりましたし」
芥川先輩は「だからなんで謝るのー?」と不思議そう。
…本当に全然気にしてないみたい。
よかったー…。
「それじゃあ、跡部たちのところに行ってくるね~」
お菓子の箱を抱えて、うれしそうに一歩踏み出した芥川先輩。
『はい。行ってらっしゃい』
…でもすぐにピタッと立ち止まってしまった。
『先輩?
どうしたんですか?』
私が声をかけると、芥川先輩はものすごい速さで振り返った。
うわっ、びっくりした。
……?
なんかすっごくまじまじと見られてるけど…。
な…なに?
『あのー…、先輩?
な、なにか…?』
「今の、もう一回言って?」
『え?今の…?』
私の目をじっと見つめて、うんうんとうなずく芥川先輩。
“今の”って…。
『行ってらっしゃい…?』
…だよね?
でも、なんでもう一回?
不思議に思いながらも頼まれたとおりにもう一度言うと、芥川先輩の顔がパァァッとみるみる輝いていった。
「うんっ、行ってきます!」
満面の笑みでそう言うと、先輩は走っていってしまった。
???
一体なんだったんだろう。
「ジローのやつ、今の完全に気に入ったな」
「ジローやなくても今のはあかんわ。
…ん?宍戸、顔赤いで」
「べっ、別に赤くなんかなってねぇよ」
「分かりますよ、宍戸さん。
俺もまた少し気恥ずかしくなりました…」
しばらくすると、みんなにお菓子を渡し終わった芥川先輩が戻ってきた。
「ななしちゃん、ただいま!」
『先輩、おかえりなさい』
「………」
…?
な、なに?
また、じーっと見てるけど…。
「ななしちゃん、もう一回言って?」
『え?もう一回、ですか?』
「うん、お願い!」
『は…はい。えーっと…。
…先輩、おかえりなさい』
「うん、ただいま!」
???
先輩、ものすごく嬉しそう…?
どうしてだろう?
行ってらっしゃいとかおかえりなさいとか言われるのが好き…なのかな?
…あ、もしかして合宿でしばらく家から離れるからかな。
先輩って、意外とさみしがり?
「ねぇ、日吉ってお菓子キライだっけ」
突然不思議そうな顔になった芥川先輩が、向日先輩たちをぐるりと見回した。
「ん?なんだよ、急に」
「嫌いやなかったと思うけど」
「跡部ん家でも普通に食ってるよな」
「日吉に何か言われたんですか?」
みんなの言葉に、うーん、と首をかしげる芥川先輩。
「なんかねー、すごく機嫌が悪かったC~」
『え、そうなんですか?』
「お菓子は渡してきたけどねー」
………ハッ!
もしかして、私が一番最後に来たせい…?
『あの…すみません、それ私のせいかもしれません』
「違うよ、ななしちゃん」
『でも…』
「だって俺、にらまれたC~」
『に、にらまれた?』
「うん。気のせいかなー?」
にらむ…日吉くんが芥川先輩を?
うーむ…。
「ふーん。
そういえば、なーんかあいつ朝からイライラしてるよな」
「………。
せやけど、まぁ…ジローのせいでもななしちゃんのせいでもないと思うで」
「あいつのことだから合宿のことでいろいろ考えてるんだろ。
ま、気にすんな、ジロー」
「虫の居所が悪かったのかもしれませんね」
日吉くんが不機嫌な理由が少し気になりつつも…。
「ななしちゃん!ななしちゃん!
次はどれ食べるー?」
楽しそうに話しかけてくれる芥川先輩や他の先輩たちと一緒にお菓子を食べたり話したりしながら、合宿所までの時間は過ぎていった。
お菓子はおいしいし、先輩たちの話は面白いし…。
あぁ、平和って素晴らしい…。
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