合同合宿編
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合同合宿当日の朝。
今日からいよいよ二泊三日の合宿が始まる。
緊張するけど、みんなのおかげですごく楽しみ。
みんながテニスをしてるところをちゃんと見るの、初めてだな。
他校の人たちはどんな人たちなんだろう。
仲良くなれそうな人がいるといいなぁ、特に女の子!
…とかのんきに考えてたら。
うわっ、もうこんな時間!?
しまった!
予定の時間よりも早く起きられたからって、のんびりしすぎちゃった!
どうりでこんなにごはんがおかわりできたわけだ…。
めちゃくちゃおいしかったもんね、この鮭。
ごはんがすすむすすむ。
……って、違う違う!
早く行かなきゃ。
せっかく早く起きたのに、遅刻しちゃったら大変だ!
もし遅れたりしたら…。
…もしかしたら跡部先輩のことだから、家まで迎えに来ちゃったりするかもしれない…。
……………………。
あり得る…。
と、とにかく、急ごう!
『お母さん、行ってきます!
あっちに着いたら電話するねー!』
私は荷物を持って家を出ると、全力で走った。
集合場所は学校。
合宿所へは男子テニス部専用のすっごく大きなバスで向かう。
今回の合宿所は跡部先輩の家の持ち物らしいけど…。
私が想像してるような合宿所とは絶対全然違うんだろうなぁ…。
あの豪邸を見たあとじゃ、とても普通の中学生が部活で使うような所だとは思えない。
ま、まぁ……あんまり深く考えないでおこう。
とりあえず学校に早く行かなきゃね。
ジャージだし、身軽身軽!
よーし、行くぞー!
…ハァハァ、ゼェゼェ。
よ、よかった…3分前だ。
なんとか間に合った…。
学校の門までたどり着いた私は、棒のようになった足をポンポンと軽く叩きながら、すぐそこまで迫った集合場所に目をやった。
すると、そこにはすでにあの大きなバスがとまっていて、人影もあった。
慌ててその人影を確認してみると…。
…やっぱり、みんなそろってる!
ということは……私待ち?!
た、大変だ!
…って、もう時間なんだから、全員そろってなかったらそれはそれでまた大変なんだけど…。
「あっ!
ななしちゃんだC~!」
「おっ、ホントだ。
おーい、ななしー!」
私に気づいて、芥川先輩と向日先輩が手をふってくれる。
『す、すみません!
遅くなりました!』
みんなのところに到着した私は、頭を下げた。
みんなを待たせるなんて…。
あ゛ぁぁぁぁ、スタートから大失敗だ…。
「…お前、よくこんなギリギリに来られるな」
うっ…。
日吉くんの視線が痛い…。
『ご、ごめんなさい…』
やっぱりもっと早くに家を出ればよかった…。
「おい。遅刻したわけじゃないんだし、いいじゃねーか。
日吉、おまえ言い方キツイぞ」
「まぁまぁ、岳人。
日吉もななしちゃんのこと気にしとったんやで。
なぁ、日吉」
「……別に」
『ほ、本当にすみません…』
あぁ、やらかしてしまった…。
「名無しさん…。
おはよう…ございます」
「おはよう、名無しさん」
『あ、おはよう…樺地くん、鳳くん』
申し訳なくてオロオロしていると、樺地くんと鳳くんが声をかけてくれた。
いつも通りの二人になんだか救われたような気持ちで挨拶を返すと、後ろから誰かに肩をポンと叩かれた。
振り返ると、そこには宍戸先輩がいた。
「いよいよだな。緊張してねぇか?」
『は、はい…ちょっと。でも大丈夫です。
…ありがとうございます、宍戸先輩』
「なんだよ、表情が固いな。
もっとリラックスしていこうぜ」
そう言って肩をほぐすようなしぐさをする宍戸先輩。
『はい、ありがとうございます』
「よし、やっとお前らしい顔になったな」
先輩は私の顔を見て、安心したように笑ってくれた。
「でも、俺はななしちゃんが遅刻してくれてもよかったC~」
『えっ。どうしてですか?』
「遅刻だったら、みんなでななしちゃんのお迎えに行けたC~」
えっ!
ま、まさか…。
冷や汗がにじんでくるのを感じていた私の耳に、跡部先輩の声が聞こえてきた。
「あと5分待って来なかったら、お前の自宅まで迎えに行くかって話してたんだよ」
うぉぅ……。
危ないところだった…。
家までなんて困るよ…って、早く行かない自分が悪いんだけど。
「よし、時間だな。
お前ら!出発するぞ!」
その跡部先輩の声を合図に、みんながバスへと乗り込む。
榊先生がいないと一瞬思ったけど、そういえば先生は一足先に合宿所に行ってるんだっけ。
えーっと……。
どこに座ろうかな。
座席とか決まってるのかな?
乗ったはいいものの、どこに座ればいいか迷ってしまってバスの中でキョロキョロしていると、後ろからクイッとジャージの上着を引っ張られた。
「ななしちゃん、俺と一緒に座ろ?」
見ると、そこには笑顔で私のジャージを掴んでいる芥川先輩が。
『あ、えっと…席って自由なんですか?』
「うん、どこでもE~よ」
そうなんだ、それじゃあ遠慮なく一緒に座っちゃおうかな。
先輩から声かけてもらえて、かえって助かっちゃったなぁ。
『ありがとうございます。
それじゃ、お言葉に甘えて――』
「うんっ!甘えて甘えて!」
『わぁっ』
最後まで言い終わる前に、芥川先輩は私の背中をグイグイ押して真ん中あたりの窓側の座席へと座らせた。
「ななしちゃんはここね!
俺はー…、こっち!」
私の隣にぴょいっと座る芥川先輩。
「えへへー、合宿所まで一緒だね」
『は、はい』
「俺、うれC~!」
先輩は小さな子どもみたいに足をバタバタさせながら、キラキラした目を私に向けた。
「ジロー、おまえ強引だなー」
「なんや岳人、自分もななしちゃんの隣がよかったん?なら早よ言わな。
こういうんは早い者勝ちやで」
「は!?
な、なんでそうなるんだよ」
「あれ、岳人は違うん?
せっかくななしちゃんがおるんやから一緒に座りたかったけど、ジローに先越されてしもたから…、俺はここに座らせてもらうわ」
私たちの後から向日先輩と忍足先輩が来て、忍足先輩が私の後ろの席にスッと座った。
「じゃ、じゃあ俺は…ここに座ってやるぜ。
侑士一人だとさみしいだろーしな。しょうがねーなー」
ぶつぶつ言いながら忍足先輩の隣に座る向日先輩。
「それじゃあ俺はここに座ろうかな」
「俺もそうするぜ」
今度は鳳くんと宍戸先輩が私たちの前の座席に来た。
それはいいけど…。
このバスの中ってすごく広いのに、なんでこんなに固まって座るんだろう。
いつもこうなのかな?
このほうがしゃべりやすいからかなぁ。
…………。
それにしても、芥川先輩の荷物…すっごく大きいなぁ。
私は隣に座る芥川先輩が持ってきたバッグに目を向けた。
私の中の先輩のイメージとは真逆の、すごく大きなバッグ。
しかもみんなバスの下のところに積んだのに、ここまで持ってきてるし。
勝手なイメージなんだけど芥川先輩って物に執着なさそうだから、こういうときもむしろ手ぶらで来ちゃったりとか、自分の荷物もその辺に適当に放っておいてそうだったから、ちょっと意外…。
そんなことを考えているうちに、バスは動き始めた。
「動き出したねー、ワクワクするC~」
『はい、そうですね』
すごく楽しそうだなー、芥川先輩。
やっぱりテニスが好きなんだ。
合宿、よっぽど楽しみなんだなぁ。
「ジロー、今日は珍しくバッチリ目が覚めてるじゃねーか」
「本当ですね」
「いつもならこの時点で目ぇ半開きだしな」
「下手したら寝た状態のままバスに運び込まれとるところやで」
…………………………違うみたい。
「A~、そうだっけ。
そんなことより、ねぇ、ななしちゃん。一緒にお菓子食べよ?
ななしちゃんと食べようと思って、俺いーっぱい持ってきたんだ~」
『え、いいんですか?
ありがとうございます。嬉しいです』
わーい、お菓子だ。
私もちょっとだけど持ってきたから、交換しようかな~。
隣でいそいそとあの大きなバッグをあけていく芥川先輩。
あ、なるほど。
こんなに荷物が大きいのは、お菓子も入ってるからなんだね。
先輩のことだから、半分くらいお菓子だったりして。
……なーんて。
いくらなんでも、そんなことあるわけない――
「はいっ!
どれでも好きなの選んでE~よ!」
…って。
えぇーーーーーーーーーっ!!!
う、うそーーーーーー!!
ぜ、全部……お菓子…?!
うそ…でしょ?
だって芥川先輩…、荷物これしか持ってなかったよ…?
「ププッ。
ビックリしてる、ビックリしてる」
向日先輩は芥川先輩の席の背もたれに両肘を乗せて、私たちの様子をのぞきこんでいた。
いやいや、笑ってる場合じゃないよ…。
だって、荷物…。着替えとか色々必要で…。
…う~、ダメだ。
びっくりしすぎて言葉が出てこない。
「ななしちゃん、心配せんでも大丈夫やで」
「そうそう。
パッと見わからねぇけど、端のほうに入ってっから」
「ちゃんと一式揃ってるよ。
すごく小さくまとめられてるんだ」
『そ…、そうですか…』
何も言ってないのに伝わってる…。
初めて見たときに思うことはみんな同じなんだな…。
でも、よかったー…。
ちゃんと持ってきてるんだ。
……ほっ。
「けど、いつもよりさらに多くねーか」
「せやな。
ななしちゃんがおるから気合い入っとるなぁ」
「小遣いつぎこむってのがすげぇよな」
「でもその為にちゃんと計画的に貯めてるんですからすごいですよ。
芥川先輩は意志が強いですね」
鳳くんに誉められて、「それほどでもないC~」と照れ笑いをうかべる芥川先輩。
…本当に素直だなぁ、芥川先輩って。
私が作った激甘玉子焼きを喜んでくれたこと、思い出すな…。
「さ、ななしちゃん。
どれがE~?」
『あっ、はい。ありがとうございます。
それじゃあ…、えーっと…』
…うーん、どれにしよう。
こんなにたくさんあると迷っちゃうなぁ。
『あーっ!
こっ、これは……!!』
私はバッグいっぱいのお菓子の中から、目にとまったひとつを手に取った。
『テレビのCMでやってたやつですよね!?
期間限定の!人気ありすぎで売り切れ続出だった!
私、あちこちお店まわったんですけど買えなかったんですよー!
もう販売終了しちゃったので、諦めてたんです。
よく手に入りましたね!』
おおー!
テンションあがるーっ!!
「ななしちゃんも?
俺もねー、それは結構苦労したんだ~!
自転車で何軒もはしごしたC~」
『そうなんですかー!
不屈の精神で手に入れたわけですねっ。
スゴイ!芥川先輩!』
「エヘヘー、そうかな~。
ありがとー、ななしちゃん!」
ホントにスゴイ!
まさかこんな形でお目にかかれるとは…!
「俺もそれ知ってるぜ。
そんなに人気だったのか」
「一時期ようテレビで見たわ」
「言われてみりゃ見たことあるな」
「そういえばそうですね」
これ…食べたい…!
…う~、でもこれは……。
「じゃあじゃあ、さっそくこれ食べよ~!」
……えっ。
『で、でもこれは芥川先輩が苦労して…』
「ん?うん、マジマジスッゲー苦労したよ~」
『だからその…これは遠慮します。
こんなこと言っても、今更かもしれませんけど…』
「A~、一緒に食べてくれないの?
苦労したから一緒に食べたいのに」
『え?』
苦労…したから?
「だってななしちゃんと分けっこして食べたほうが、一人で食べるより絶対もっとおいC~もん」
そう言って、パッと笑顔になる芥川先輩。
『先輩…』
「だからね、一緒に食べよ?」
『…はい、ありがとうございます!』
「わーい、やった~!
じゃあ早く開けちゃおう!」
芥川先輩は待ちきれない様子でパッケージの封をあけようとした。
……けど。
ピタッとその手を止めた。
?
先輩、どうしたのかな。
「これ、ななしちゃんが開けて?」
『え?』
「ななしちゃん、すっごく喜んでくれたから。
だからー、はい!」
お菓子を私に勢いよく差し出す芥川先輩。
『えっ。
ダメですよ、そんな。
これは芥川先輩の努力の結晶じゃないですか。
だから先輩があけてください』
「A~、でもやっぱりななしちゃんにあけてほしいC~」
『いやいや、ここは絶対先輩があけるべきですよ』
「いやいや、ななしちゃんが~」
『いやいや、先輩が…』
芥川先輩と私の間を行ったり来たりする、努力の結晶。
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