氷帝での出会い編
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突然の声に振り返ると、そこには跡部先輩がいた。
よ、よかった…戻ってきてくれた。
髪とか制服、すごく乱れてるけど…。
「よう、手間取ったみてぇだな、跡部」
「大変でしたね」
「遅かったC~」
先輩たち…さらっとしてるなぁ。
跡部先輩が女の子に囲まれるなんて日常茶飯事だからかな。
でも、私はちゃんと謝らないと…。
『あの…跡部先輩、すみませんでした。
大変なことになってしまって…』
「アーン?
なんでお前が謝るんだ」
『だ、だって私のせいで…』
「待って、名無しさんのせいじゃないよ。
跡部さん、さっきはすみませんでした」
鳳くんが私をかばうようにスッと跡部先輩の前に歩みでた。
そんな鳳くんを見て、跡部先輩はなぜかかすかに笑った。
「鳳、なかなかやるじゃねぇの」
「えっ?」
「この俺を利用するとはな。
いい度胸だ。見直したぜ」
「…で、でも」
「これくらいのことでいちいち謝罪なんざいらねぇよ。
お前も名無しも、俺を誰だと思ってる」
跡部先輩は鳳くんと私を見て、フッと笑った。
跡部先輩…。
…先輩のこういうところ、本当にかっこいい。
「は、はいっ」
『はい!』
私たちは揃って返事をした。
「……跡部、後輩からの尊敬を集めとるところに水差すようで悪いねんけど」
「なんだ、忍足」
忍足先輩が真顔で跡部先輩に話しかけた。
………?
どうしたのかな。
「髪と服、めっちゃ乱れたままやで」
「っ!」
向日先輩と芥川先輩、宍戸先輩がププッと吹きだすなか、慌てて身なりの乱れを整える跡部先輩。
「こっ、これくらいのことはたいした問題じゃねぇんだよ、この俺にとっては」
「それならべつにええんやけどな。
ちなみにまだネクタイ曲がってんで」
「…!!」
ププーッ!!
一斉に吹き出す先輩たち。
……………………。
思わず鳳くんと顔を見合わせる。
「クスッ」
『ふふっ』
おかしくて、私たちも笑ってしまった。
見ると、日吉くんと樺地くんも笑っていて。
みんなが笑っているのがなんだか嬉しくて、そんな中に自分が一緒にいることがやっぱりちょっと不思議だった。
「ったく…。
お前も笑いすぎだ、名無し」
ずっと笑っていておなかが痛くなってきた頃、跡部先輩はすっかりいつもの見た目に戻っていた。
『す、すみません』
スタスタと私のところに歩いてくる跡部先輩。
さすがに笑いすぎちゃったかな、と思っていると。
―――クシャ
スッと私の頭に手を伸ばしたかと思うと、髪をクシャクシャにされてしまった。
『えっ』
びっくりして跡部先輩を見つめると、先輩はククッと笑った。
「お前の髪も乱れてるぜ。
俺を笑うからだ」
そう言って私を見る跡部先輩の顔は、言葉とは裏腹にすごく優しい顔だった。
「あー!跡部、ひどいC~」
「女の髪そんなふうにしたらかわいそうだろ!」
「ハッ、いいんだよ」
芥川先輩と向日先輩の抗議にも、跡部先輩はなんだか楽しそう。
「ほんまにしゃあないな、跡部は。
ななしちゃん、ちょっと髪さわるで」
あっけにとられてそのままにしてしまっていた髪を、忍足先輩がそっと直してくれる。
『え?あっ、すみません。
ありがとうございます』
「ええよ。
嫌やったら遠慮なく言うてな」
嫌なんてことないけど…。
よく考えたら…こんなに近くで、しかも髪を触られるなんて…。
うー…。
は、恥ずかしいなぁ…緊張するし…。
すぐ断ればよかったんだけど、びっくりしてて頭が回らなかった…。
めちゃくちゃ恥ずかしいけど、もうおとなしくしていよう…。
「…よし、完成や。
元通り、かわいなったで。
まぁ、あのままでも可愛らしかったけど」
『は、はぁ…。
あの…ありがとうございます』
まだ近いままの距離でニコッと微笑まれて、思わず顔が熱くなる。
や、やっぱりこういうの…慣れない…。
「忍足…、お前、よくそういうことスラスラ言えるな。
他の女子にはそんなふうに言わなくねぇか」
私たちの様子を見ていた宍戸先輩が、頬杖をついてあきれたように言った。
「そらそうや。
俺はほんまに可愛い思った子にしか言わへんし」
「そ、そうかよ。
……まぁ、そりゃそうか。どっかの誰かじゃあるまいし」
…??
『どっかの…誰か?』
「他校の三年生にね、ちょっと…そういう人がいるんだよ。
今度の合宿にも来るんだけど」
『そういう人…?』
鳳くんが教えてくれたけど…。
なんだか言葉をにごしてるし、困ったような顔してる…?
鳳くんの様子を不思議に思っていると、宍戸先輩がため息をついた。
「…今忍足がお前に言ったようなこと、女子相手なら誰にでも言う奴がいるんだよ」
『えっ、あ、そうなんですか…』
それってつまり、誰にでも可愛いって言うってことだよね。
うーん…。
なんかすごそうな人だなぁ…。
「大丈夫だよ、名無しさん。
悪い人じゃないから」
『あ、う、うん』
「確かに長太郎の言うように、悪いやつってわけじゃねぇが…。
…名無し、気をつけろよ。
絶対に間違いなく、100%…いや200%、お前にもちょっかい出してくるぜ、あいつ」
「…ま、そうやろな」
前かがみ気味で力説する宍戸先輩と、遠い目をする忍足先輩。
『そんなまさか。大げさですよ。
その人にだって好みっていうものがあるでしょうし』
「いーや!甘い!!
好みなんてもんはあいつには存在しねぇ!
いいか、名無し。
ぜっっったいに、簡単に気ぃ許すんじゃねぇぞ!」
『は…、はい』
「あ゛~、そうかー、あいつも合宿に来ること忘れてたぜ…。
頭痛くなってきた…」
うぅー、とうなりながら頭を抱える宍戸先輩。
そ、そんなにすごい人なのか…。
「…ま、今度の合宿にはいろんなやつが来るけど、きっと面白いと思うで。
ななしちゃんなら、すぐ馴染めると思うし」
『そうだといいんですけど…』
「馴染まなくていいやつもいるけどな…」
「まぁまぁ、ええやん。
宍戸もななしちゃんが合宿楽しめたほうがええと思うやろ?
せっかく参加するんやし」
「そりゃまぁ…そうだけどよ」
うーん…。
参加したくてするんだけど、知らない人ばっかりだからやっぱりちょっと心配。
時間がたてば慣れるとは思うけど…。
「ねぇねぇ、なんの話?なんの話?」
芥川先輩たちが私たちのほうに身を乗り出してきた。
「合宿の話ですよ。
名無しさんならきっと他校の人たちにもすぐ馴染めるし、楽しいよって話してたんです」
「なんだ、そんな話かよ。
そんなの当たり前だろ」
『えっ』
「?なんだよ、そのリアクション」
不思議そうに私を見る向日先輩。
私ってそんなに人見知りとかしないように思われてるのかな?
あんまりしないほうかなっていうだけで、無縁なわけじゃないんだけど…。
「まぁ、こいつらの言うとおりだろうな。
なぁ、樺地」
「ウス」
「俺もそう思うC~」
『え、えっ。
そ、そんなことないですよ。
私だって人並みに緊張しますし』
慌てて首をふった私に、鳳くんが微笑みかけてくれた。
「もちろんそうだろうけど、きっと大丈夫。俺たちの言うとおりになるよ。
名無しさんのことよく知ってる俺たちが言うんだから。ね?」
『うん…、ありがとう』
心配な気持ちはあるけど…みんながそう言ってくれるなら、そうだって思っていようかな。
今から心配しててもしょうがないもんね。
「な、日吉もそう思うだろ?」
無言のままでいた日吉くんは、鳳くんに問いかけられて、一瞬私を見た。
「…さぁ。どうだろうな」
興味がなさそうに答える日吉くん。
なんだかさみしくて、私は思わずうつむいてしまった。
「………。
遊びに行くんじゃないんだ。
馴染むも馴染まないも、別にどうでもいいだろ」
確かにそうだけど…。
二泊三日の合宿の間、一日中一緒にいるわけだし…。
やっぱり気にはなっちゃう。
「…素直やないなぁ、自分。
わざわざそんな回りくどい言い方選ばんでもええやん」
「日吉らしいとも言えるがな」
…………?
忍足先輩と跡部先輩、何のこと言ってるんだろう?
「名無しさん。
今のはね、日吉なりのエールなんだよ」
「なっ…」
鳳くんの言葉になぜか思いっきり動揺した様子の日吉くん。
『エール…?』
よく意味が分からなくて私が戸惑っていると、鳳くんは「そうだよ」と言ってクスッと笑った。
「分かりやすく訳してみるね」
『え?う、うん』
訳す…って……。
???
「“馴染めるかどうかなんて、心配する必要はない。
お前なら大丈夫だ。
もし万が一馴染めなかったとしても、それならそれで構わないだろ。
俺たちがいるんだから。
だから、もっと気楽にしてろよ”」
………………………。
え………。
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