氷帝での出会い編
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「けど、今は違うぜ?」
『え…?』
かけられた言葉の意味が分からなくて向日先輩を見ると、先輩は少しだけいたずらっぽく笑った。
「今はもう、侑士たちの話は関係ねーんだ」
……?
「会ってみたいって思ったきっかけにはなったけど、今日おまえのクラスに行ったのは違う理由なんだよ」
『違う理由…ですか?』
そんなの全然思い浮かばない。
うーん…。
私がつい考え込んでしまっていると、先輩がおかしそうに笑う声が聞こえてきた。
「跡部ん家で会ったときに、なんか面白そうなやつだなーって思ったから」
……えっ。
「だから、もっとしゃべってみたくてさ。
あいつらの話とかじゃなくて、ななしと会って、そう思ったんだぜ」
向日先輩はあの日のことを思い出すように、楽しそうにそう話してくれた。
確かにそんな感じのことを、あのとき言ってたけど…。
あれはその場の流れでそんなふうに感じただけだと思ってた。
私も確かに変なこと言っちゃったりしたし。
…そっか。
あの日のやりとりで、私のこと面白いって思ってくれたんだ…。
…………ん?
でも、あのやりとりで興味もたれるって…。
…喜んでいいんだろうか。
うーむ…。
でも…、まぁいっか。
私はまだ向日先輩がどんな人なのかよく知らないけど、先輩のほうこそ面白い人だし、一緒にいて楽しい気持ちになる。
だから、こんなふうに話せるようになって…知り合えて、よかったなと思う。
「俺さ、侑士たちと違ってななしと知り合ったの、ついこの間だろ?」
『はい、そうですね』
「だからおまえのこと、俺まだよく知らねーし…おまえもそうだろ?」
『えっ…あ、はい』
び、びっくりした。
今考えてたことと同じこと、先輩が言うから…。
「けどさ、さっきも言ったけどななしのこと面白いやつだなーと思うし、しゃべってて…楽しいし。
だから…」
そこまで言うと、向日先輩は私からスッと視線を外した。
「…会えてよかったなーって、思ってるんだ」
『えっ…』
微かに頬を赤くした向日先輩は、私の方を見ないまま顔を横に背けた。
そんな先輩を見て、私も顔が熱くなっていくのを感じた。
先輩が自分と同じように思ってくれてるなんて…考えたこともなかった。
びっくりした…。
でも…嬉しい。
そのことを伝えようとしたとき、先輩のほうが先に口を開いた。
「ななしからしたら俺のこと、鳳とか侑士みたいにはまだ思えないだろーけどさ…」
向日先輩はいつもより少し小さな声で、静かに話してくれた。
「でも、ちょっとずつ…みんなみたいになれたらなーとか思ってさ。
ななしと…えぇっと……仲良く、なりたいんだ」
最後のほうはもっと声が小さくなって聞き取りづらかったけど、でもちゃんと聞こえてきて…。
向日先輩が本当にそう思ってくれてることが伝わってきて、すごく嬉しくなった。
そっか…。
だから今日も教室まで来てくれたんだ。
今までだって、何度も私のところに来ようとしてくれてたし…。
『あの…向日先輩』
声をかけると、先輩は少し落ち着かない様子で私を見た。
『…私もです』
「えっ…?」
『向日先輩のこと…、面白いし…楽しい人だなって思ってました。
さっき先輩が言ったみたいに、私もまだ先輩のことよく知らないですけど、でも…』
うっ……。
先輩、ものすごくこっち見てる。
こんなにじっと見られると、緊張しちゃうし…恥ずかしい。
で、でも…。
それは先輩だって同じだったはずだ。
それでも、先輩は言ってくれた。
私がどう思ってるかなんて知らないのに、先に伝えてくれた。
そのぶん、私よりもっと緊張したはず…。
……………。
私も、思ってることちゃんと先輩に伝えよう。
『…でも、こんなふうに話せるようになってよかったなって、思ってます。
だから私も、向日先輩と…な、仲良く…なりたいです』
静まり返った部屋の中、私はなんとか言いきった。
……もうダメだ、すっごくドキドキする!
仲良くなりたいって誰かに直接宣言することなんて、なかなか無い…というより人生初かも!?
すっごく恥ずかしい!
あぁぁ、恥ずかしいよー。
「ななし」
向日先輩に名前を呼ばれたけど、絶対赤いはずの顔を堂々と先輩に向けることがことができなくて、うつむきながらなんとかチラリと先輩のほうを見た。
すると先輩も顔が赤くて、でもまっすぐに私に笑いかけてくれた。
「ヘヘッ、サンキューな。
スゲー嬉しいぜ!」
『先輩…』
「俺たち、同じこと考えてたんだな。
これからもっと、仲良くなれるよな!
つーか、なろうぜ、ななし!」
『…はい!』
やっぱり、向日先輩が笑ってくれると気持ちが明るくなる。
それはきっと、先輩自身の気持ちがすごく明るいから。
でも、それだけじゃない。
この部屋に来る前に、わざわざ忍足先輩に確認をとったこと…。
あのときは理由が分からなかったけど、今は分かる気がする。
きっと向日先輩は、知り合って間もない自分より忍足先輩が言うことのほうが、私が信じられると思ったんだ。
あのとき、この部屋に入っていいのかどうか、私が迷ってたから。
だから私を安心させる為に…。
そのとき、みんながいる隣の部屋との間の扉がノックされて、忍足先輩が入ってきた。
「見学は終わったん?岳人」
「お、侑士。
もう終わったぜ。な、ななし」
『はい』
向日先輩が笑顔で私を見てくれて、私も自然と笑顔になる。
「ふふ、そらよかった」
すると忍足先輩はなぜか少し笑って私たちを見た。
「?
侑士、なんで笑ってるんだ?」
「つられてしもたんや」
「つられた?」
「ななしちゃんと岳人が二人そろってニコニコしとったから。
よっぽど楽しい見学やったんやなぁ思って」
そう言って、忍足先輩は微笑んだ。
う…。
さっきのこと思い出して、また顔が熱くなってきちゃった。
チラリと向日先輩を見ると、先輩も同じみたいで…。
「べっ、べつに!
ちょっとしゃべってただけだぜ!」
「はいはい、分かっとる分かっとる」
「ホントかよ!」
「ほんまやて。
ななしちゃんとおしゃべりして、楽しかったんやろ?」
「そっ、そんなこと言ってねーだろ」
「じゃあつまらんかったん?」
「そんなことねーよ!
スゲー楽し……」
「ほら、合っとったやん」
「~~っ!!
くそくそ、侑士!」
うー…、顔の熱がなかなか引かないよ。
忍足先輩、すぐこうやってからかうんだから。
だけど……。
もしかして、忍足先輩、気づいてたのかな?
向日先輩が私に気を遣ってたこと。
だから私たちの様子を気にかけてくれてたのかも…。
…………………。
テニス部の人達って、みんな本当に優しいな…。
言葉にするわけじゃなくても、みんながお互いのことを大切に思ってるのが伝わってくる。
みんなが自然にお互いのことを気にかけて、助けてあげてる。
考えてみたら私がここにいるのだって、そういうことがきっかけのひとつになってる。
跡部先輩が樺地くんのことを思って、生徒会に人を増やそうとしたから。
みんなといて楽しいなって思うのは、みんながそんな人達だから…自然に思いあえる人達だからなのかもしれない。
隣の部屋に戻った私たちは、みんなでしばらく跡部先輩を待っていたんだけど、なかなか戻ってこない。
『跡部先輩、遅いですね…』
「せやなぁ」
「まぁ大丈夫だろ。跡部だし」
「それにしても、平和だなぁ。
さっきの騒ぎが嘘みたいだぜ」
「そうですね。
でもこの平和は跡部さんの犠牲の上に成り立っているんですよ。
だから、俺は跡部さんに誠心誠意謝らないと…」
ソファーに座ってみんなと跡部先輩のことを話していると、ようやく待っていたその声が入口のほうから聞こえてきた。
「誰が犠牲だ、アーン」
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