氷帝での出会い編
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……………。
立派な部室だなぁ…。
初めてテニス部の部室に入った私は、さっきの騒動からようやく落ち着いてきて、今更ながらにその設備の整いように驚いていた。
ずっと帰宅部だったし他の部の部室も見たことないけど…。
みんなこんなにすごい部室なのかな?
…あれ?
あっちの部屋ってどんな部屋だっけ。
さっき一回通ったけど、逃げてきたばっかりでそれどころじゃなかったから…。
「ななし、どうかしたか?」
『あ、向日先輩。
あっちの部屋、さっき通ってきた部屋ですよね』
「あぁ、そうだぜ。
プロジェクターとかあって、他の学校の試合映像みたりするんだ」
へぇ、そんな部屋が別にあるのか…。
「行ってみるか?」
『え?』
実は結構興味あるけど…いいのかな。
『いいんですか?
私テニス部員じゃないのに、そんな研究するための部屋に入ったりして…』
「ヘーキヘーキ。
普段は見られちゃマズイもんなんて置いてねーし。
それにななしは確かにテニス部員じゃないけどさ、同じ氷帝の生徒だろ?」
確かにそうだけど…。
同じ学校に通ってて、私は向日先輩のこと知ってたけど、それは本当にただ一方的に知ってるだけだった。
だからこんなふうに言われると…なんだか不思議な感じ。
向日先輩も私のこと、知ってるんだなーって…。
「ななし?」
『あ…、いえ、すみません。
ありがとうございます、行ってみたいです』
「そっか。じゃあ行こうぜ。
…あ、ちょっと待ってくれ」
『?はい』
?
どうしたんだろう。
向日先輩はソファーに座っていた忍足先輩に歩み寄って声をかけた。
「侑士。
あっちにななし連れていってもいいか?」
「ん?
あぁ、ええんちゃう?構わへんと思うで」
「サンキュー。
じゃあちょっと行ってくるぜ」
忍足先輩は向日先輩を見送ると、私に微笑んで、いってらっしゃいと手をふってくれた。
向日先輩についていって隣の部屋に入ると、そこには先輩が言っていたとおりプロジェクターがあった。
それと、たくさんの資料みたいなものが入った棚も。
大きな机と椅子が並んでいて、みんないつもここで自分達や他校のことを研究して頑張ってるんだなぁと、なんだかしみじみ考えてしまった。
私はテニスをしているときのみんなのことは全然知らないから。
「…ななし、あのさ」
向日先輩は並んだ椅子のひとつに座った。
……あれ?
先輩、気のせいか表情が暗いような…。
「…あ、ななしも適当に座れよ」
『は、はい。
ありがとうございます』
どうしたのかな…。
向日先輩がこんな顔するなんて。
「その……ごめんな」
『えっ?』
急に謝られたけど、理由が分からない。
私、別に何もされてないけど…。
「…こんなことになったの、やっぱり俺のせいだよな」
『あ…』
もしかして…。
教室が大騒ぎになったこと…?
「俺がおまえの教室に行くと迷惑かけるから行っちゃダメだって、侑士に言われてたのに…、なのに行っちまったから…。
騒ぎになんかならねーよって思ってたけど、侑士の言うとおりだった。
……ごめん、ななし…」
そう言って、向日先輩はうつむいた。
先輩、こんなに気にしてたんだ…。
『…先輩、私は迷惑だなんて思ってないです。
ちょっとびっくりしましたけど、向日先輩が教室まで来てくれたこと…嬉しかったです』
これは本当の気持ち。
次から次へと先輩たちが来てびっくりしたし、ちょっと具合も悪くなっちゃったけど、私のところに行こうと思ってくれたその気持ちは素直に嬉しい。
「ななし……」
『だから、気にしないでください。
もしまた来てくれるなら…って、もうあんまり来たくないですよね、すみません』
「…えっ。
また行ってもいいのか?」
『あ、はい。もちろんです。
向日先輩さえよければまた来てください。
でも騒ぎになるのは先輩にも悪いので…、次からはそーっと入ってきてもらえますか?
最初はそれでも騒がれると思いますけど、だんだん収まってくると思います。
宍戸先輩もそうでしたし』
うーん…。
人気者って本当に大変なんだなぁ。
向日先輩はあんまり自覚してなさそうだけど。
「ななし…サンキュ」
先輩はホッとしたような表情で笑った。
よかった…やっと笑ってくれた。
向日先輩は知り合う前も初めて顔を合わせたときもいつも明るくて元気だったから、笑ってるのを見るとなんだか安心する。
向日先輩は…芥川先輩もだけど、初対面のときからすごく気さくに接してくれた。
いつも私に笑顔を向けてくれて、明るい気持ちにしてくれて…。
どうしてなのか、ずっと不思議だった。
『あの…向日先輩。
ちょっと聞きたいことがあるんですけど…』
今は二人だけだし、思いきって聞いてみよう。
こういうことって、本当は聞かないものなんだろうけど…。
「ん?なんだ?」
『あの、向日先輩は初めて会ったときからすごく気さくに接してくれましたよね。
私ずっと不思議だったんです。
…どうしてですか?』
知り合ってから間もないのに、こんなこと聞いて変に思われるかな…。
聞いてはみたものの少し心配で、でも向日先輩はなんだかケロッとしてる。
「えっ。
……そうだったか?」
………………。
調子くるうなぁ。
「ていうか、聞きたいことってそんなことか?」
『あ、はい。
すみません、変なこと聞いて』
「いや、別にいいけどさ」
向日先輩は私が心配していたようなことは全然気にしてない様子で、腕組みをして、うぅーん、と考え始めた。
「俺は特に気さくにしたとかそんなつもりねーけど、もしそういうふうにおまえが思ったんなら…。
まぁ、会う前に侑士たちからいろいろ話を聞いてたからだろーな」
そう言って向日先輩は腕組みをといた。
そっか、やっぱり。
普通に考えたら理由はそれしかないんだけど…。
それにしても、今日みたいにわざわざ教室まで会いに来ようとしてくれたり…。
なんていうか、どうしてこんなに私に関わろうとしてくれるのかが不思議だった。
もちろん、忍足先輩たちから私のことを聞いてたことは知ってたから、最初に興味を持つきっかけになったのは分かってたけど…。
一回会ったらそういう興味も無くなるんじゃないかなって思ってた。
だって私はそんな変わったところもない、普通の人だし。
でも、そうじゃなかった。
…………………。
向日先輩、本当にみんなのこと信頼してるんだなぁ。
忍足先輩たちは私のことをすごくいいふうに言ってくれてたみたいだから、向日先輩も芥川先輩もそれを信じてくれたんだと思う。
だから私にこんなによくしてくれてるんだ。
なるほどー。
やっと納得がいったよ。
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