氷帝での出会い編
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芥川先輩が少し照れくさそうにそう言った瞬間、女の子の黄色い声で教室が埋めつくされた。
(可愛い~!!)
(来ちゃった、だって!)
(芥川先輩のあんな顔、初めて見たー!)
す、すごい………。
アイドルが来たみたいになってる。
「ジロー!?
お前、何しにきたんだよ?」
「あれ?
宍戸、いつのまに来たの?
全然気がつかなかったC~。早ワザだC~」
「早ワザだC~、じゃねぇよ!
最初からいたっつーの!」
「A~、ホント?
あ、鳳と日吉もいたんだ~」
…マイペースだなぁ。
あっ、そうだ。
『芥川先輩。
この席空席なので、良かったら座ってください』
「ありがと~、ななしちゃん」
先輩は私がすすめた席にストンと座った。
「もしかして、みんなでお昼ごはん?」
『はい、そうですよ』
「A~、そうなんだ。
いつも一緒に食べるの?」
『いえ、そんなことないですよ。
今日は偶然みんなお弁当だったので、一緒に食べることにしたんです』
「そっか~。
俺も持ってくればよかったC~」
こころなしかシュンとする芥川先輩。
「そういや、ジロー。
お前、メシは?」
宍戸先輩の言葉を聞いて、そういえば、と思った。
まだ昼休みが始まってからそんなに時間たってないし。
「もう食べちゃったC~」
「ホントかよ?早いな」
「今日はななしちゃんに会いに行こうって決めたから、パパーッと食べたんだ~。
早くここに来たかったC~」
………うっ。
真横でそんなニコニコされると…。
そんなこと言われると、照れちゃうよ。
で、でもそれじゃ…もしかして芥川先輩、ちゃんとごはん食べてないのかな。
『あの…芥川先輩。
もしよかったら少し食べますか?』
私は自分のお弁当を先輩のほうに差し出した。
まだ手をつけてないところがあるし、芥川先輩はいらなければいらないって言いそうな気がする。
「えっ、マジマジ?いいの?」
『はい、いいですよ』
「ありがとー!うれC~!」
私の提案を芥川先輩はすごく喜んでくれた。
こんなに喜んでくれるとは思ってなかったから、なんだか嬉しい。
『こっちのほうはまだ手をつけてないので…あ、あとこれ使ってください』
お箸を忘れたとき用の予備の割り箸を先輩に手渡す。
「ありがと~」
あっ、そうだ、忘れてた。
『すみません、この玉子焼き以外でお願いします。
これは私が作ったんですけど、私の好みどおりに甘くしすぎちゃったので』
あぶない、あぶない。
これはちゃんと言っておかなきゃ。
万が一先輩が食べちゃったら大変だ。
他のはどれもおいしいのに、こんな激甘のを先輩に食べさせるわけにいかないし。
「じゃあ、俺これがE~!」
…えっ!?
ダメだって言ったのに、芥川先輩は玉子焼きをつまんでパクッと食べてしまった。
『あっ、芥川先輩!』
ど、どうしよう!?
「ん~、あまーい」
そ、それはそうだよ!
だから言ったのに…あぁ~。
「おいC~!!」
……………え?
「やっぱり玉子焼きはこれだC~!」
私と全く同じ感想を……。
『あ、あの…』
「この玉子焼き、すっごくおいC~ね!」
芥川先輩にパッと笑顔を向けられて、戸惑ってしまった。
も、もしかして、私に気をつかってるのかな…?
自分が選んだ手前、みたいな…。
うーん…。
「……言っておくけど」
芥川先輩の言葉を素直に受け取っていいものかどうか迷っていると、ふいに日吉くんが口を開いた。
「芥川さんは気をつかって世辞や嘘を言う人じゃないぜ」
『え?』
「芥川さんがうまいっていうなら、少なくとも芥川さんにとってはうまかったんだよ」
『日吉くん…』
私のほうを見ないまま、日吉くんはまたごはんを食べ始めた。
…日吉くん、私が芥川先輩の気持ちを気にしてたこと、分かってくれたんだ。
「ねぇねぇ、ななしちゃん。
俺、もっと食べたい」
『あっ、はい。
先輩さえよければ好きなだけどうぞ』
「わーい、やったー!」
芥川先輩は小さくガッツポーズを作って、残りの玉子焼きを嬉しそうに全部食べてくれた。
眠くないときの先輩って、目がキラキラしてて無邪気で…年上なのに、なんだかかわいい。
…あれ?
よく考えたら私、自分が作ったものを男の子に食べてもらうのって生まれて初めてだ。
いつかそういう事があるとしたら、すごく気合いいれて作ったりとかするのかなーって思ってたけど…。
まさか思いっきり自分の好みに走った玉子焼きになるとは…。
…人生って、何が起きるかわからないものだなぁ。
「ジロー、お前なぁ。
名無しが玉子焼きは駄目だって言ったのに、よくそれピンポイントで食えるな」
「A~?
だってななしちゃんが作った玉子焼きがあるなら、俺絶対それがいいC~」
「…お前はいいな、気楽で」
…でも、よかった。
それが芥川先輩で。
こんなにおいしいって喜んでくれる芥川先輩で、よかった。
先輩のおかげで、私もすごく嬉しい。
「うーん、なんだかちょっと残念だな。
そう思いませんか、宍戸さん。日吉も」
ん?なんだろう。
三人が顔を見合わせてる。
『なに?どうしたの?』
「もし名無しさんが作ったって知ってたら、俺も食べてみたかったなって。
玉子焼き」
『えっ』
「ま、まぁ…。
お前の手作りなら、どんなやつか俺も興味あるな」
「…試しに食べてみてやるぶんには構わなかったんだぜ」
ええっ?
イヤイヤイヤイヤ、ないないないない!
『だっ、ダメだよ、それは』
「どうして?」
『どうしてって…。
私、普段料理しないし、上手くないし…。
今回は偶然、芥川先輩の好みの味が私と一緒だっていう奇跡が起きたからよかったけど…』
「そうか?
そんな奇跡なんて起きなくても、じゅうぶんうまいんじゃねぇの?
ジローがそんだけうまいって言ってるんだしよ」
『いえ、奇跡は必要です』
「そ、そうか?」
……ふう。
なんとか納得してくれたみたい。
料理はお母さんのお手伝いで時々するけど…。
お母さんに言われたとおりにただ切ったり炒めたりするくらいで、上手じゃない。
自分でもたまに作るけどそれはあくまで自分用で、せいぜい家族にあげるくらいだし。
「それより…名無し。
おまえ、さっき俺が聞いたときには全然弁当作らないって言ってたよな」
ほっとしていたのもつかの間、日吉くんに鋭い指摘を受けてしまった。
うっ…。
そういえば…。
『い、いつもは作らないんだよ。
今日は本当に偶然で』
「へぇ…」
な、なんか…。
日吉くん、機嫌悪い…?
私がきちんと答えなかったから、怒ってるのかも…。
はぁ……。
やっぱり、なかなかうまくいかないな…。
日吉くんともっと普通に話せるようになりたいのに。
そもそも嫌われてるんだから、そう簡単には変えられないだろうけど…。
でも……。
…さっき私が芥川先輩に気をつかわせてるんじゃないかって心配になったとき、そうじゃないって教えてくれた。
…………………。
…やっぱり、私……。
日吉くんと今のままなんて、イヤだな。
どうして嫌われちゃったのかいろいろと考えてみても、どうしても思い当たることがない。
だけど自覚なしにっていうことだってあり得る。
もし何か嫌な思いをさせるような事をしてしまっていたなら、ちゃんと謝りたい。
もし生理的に嫌いとかだったら…どうしようもないかもしれないけど…。
とにかく、今のままの状態がイヤなら、日吉くんと二人で話せる機会をなんとか作らなきゃいけない。
でも…。
嫌われてるって分かってて声かけるのって……。
すっごく勇気がいるんだよ~!
だからなかなか行動に移せなくて、こうしてチラチラ様子をうかがってるだけの、情けない日々。
…………………。
はぁー…。
今だって、こんなに近くにいるのにな…。
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