氷帝での出会い編
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なんの取り柄もない…か。
分かってはいたけど…。
…やっぱりはっきり言われると、結構ショックだったなぁ。
声をかけてくれたのが嬉しかったから、余計に…。
人から言われたことが全てだとは思わないけど…。
でも……。
……………………。
…あー、もうやめよう。
こんなこと考えて暗くなったって意味ないし、それに……謝ってくれた。
私のことよく知らないのに決めつけてたって…それを口にしたこと自体も…。
後悔して、その気持ちを伝えてくれた。
たぶん…すごく勇気がいっただろうなと思う。
しゃべってみたら面白い子だったし、楽しかったし。
それに、あんなふうに思う人がいても不思議じゃないとは思ってた。
テニス部のみんなは人気があって有名人だし、私はこれといった特徴もない地味な一生徒だし。
もともと男子とそんなに仲よくするほうでもない私が、全然接点がないみんなと親しくなることなんてあるはずもなくて。
偶然のいくつかのきっかけがなかったら、きっと何を思うこともなくそのまま卒業まで過ごしていたと思う。
毎日のように同じ学校に通っていても、毎日のように何かしらの話題が聞こえてきていても、テニス部のみんなは私からすれば直接何の関わりもない、ただ知っているだけの存在だったんだから。
でもみんなと知り合って、話すようになって…。
そしたら、話に聞いていたよりもみんなずっと普通だった。
…正確に言うと、普通じゃないなと思うときも、ちょっとだけ…あるけど。
でも、いいなって思うところがみんなにそれぞれあって…ただテニスが好きな人達だった。
私がみんなと一緒にいること、端からみて納得いかないと思われたとしても不思議じゃないって分かってるし、みんながこの学園でどういう存在なのか分かってるけど…。
みんなといると面白いし、なんか……楽しいなって…。
……………………。
「そうだな。今回は名無しもいるしな」
「別にこいつがいるからって、たいして何も変わりませんよ」
「また日吉は…すぐそういうこと言う」
「…フン」
「まぁとにかく、二人とも気合いいれていこうぜ。
名無しも今日の放課後のミーティング、忘れてねぇだろうな」
…とにかく、みんなにはこの間の事は知られたくない。
もし知られたら、責任を感じさせるかもしれないし、気をつかわせたりしてしまうかもしれない。
みんなのせいじゃないのに。
そんなの……絶対、絶対、イヤ!
…べつに、普通にしてれば気づかれないと思うんだ。
私だってもう平気だし。
うん、…平気。
「名無し?」
…でもこうしてみんなといると、みんながいつもどおりだからなんだか気持ちが楽になるなぁ。
……ん?
みんなといると?
……………………あ。
「名無し。聞いてるのかよ」
気がつくと、日吉くんに…だけじゃなかった、宍戸先輩と鳳くんにも思いっきり見られていた。
『あ、ごめん…聞いてなかった…』
今日は教室で四人でお昼ごはんのお弁当を食べることになった。
最初は鳳くんと宍戸先輩との三人だったんだけど、そこにちょうど日吉くんが来たから、じゃあ一緒に食べようっていうことになって。
日吉くんは普段は鳳くんのところに時々来るぐらいで、だからこの教室で私達とごはんを食べようとし始めたときには少しクラスの女の子たちがザワザワしたけど、それもようやく落ち着いてきたんだった。
それで私はつい、気になっていたこの間のことを考え出しちゃって…。
「名無しさん、もしかして何かあった?」
――ギクッ!
鳳くん…、なんて鋭いんだ。
『う、ううん、大丈夫。
えーっと、何の話だっけ』
「放課後のミーティングの話だよ。
忘れないでねって、宍戸さんが」
「そんな言い方じゃなかったけどな」
「うるせぇぞ、日吉」
そうだ。今日は放課後、ミーティングがある。
もうすぐ始まる合同合宿についてのミーティングだ。
『もちろん忘れてないですよ。
放課後に部室で、ですよね』
「ああ。
急に参加することになってお前も大変だろうけどよ、まぁ頼むぜ」
うーん、いよいよって感じがするなぁ。
やっぱりちょっと緊張する…。
…緊張といえば。
……チラッ。
私の斜め前にいる日吉くんは、鳳くんの向かいで、淡々とお弁当を食べてる。
まさか一緒にごはん食べることになるなんて思わなかった。
…私がいてイヤじゃないのかな。
一緒に食べようって最初に誘ったのは宍戸先輩だし、鳳くんもいるから我慢してるのかな…。
日吉くんの様子が気になりつつなんとなく視線を下げたとき、日吉くんのお弁当に目がとまった。
うわー、すっごくきれい!
おいしそう!
「…なんだよ」
私の視線に気がついた日吉くんが、眉間にシワをよせてこっちを向いた。
『ご、ごめん。
日吉くんのお弁当がすごくきれいでおいしそうだったから、つい…』
「……」
黙ったままじっと見られて、ドキドキする。
気分、悪くしたかな…。
「…お前も作るのか、弁当」
『えっ。…あ、ううん、全然。
手伝ったほうがいいって分かってるんだけど、結局いつもお母さんまかせになっちゃって』
「…ふうん」
つぶやくようにそう言うと、日吉くんは視線を自分のお弁当へと戻した。
……ほっ。
「名無しさんのお弁当は、いつも可愛いよね」
「だな。
女子の弁当って感じするぜ」
『そうですか?ありがとうございます。
お母さんが喜びます』
さっそく帰ったらお母さんに言おうっと。
きっと喜ぶだろうなー。
でも、実は今日のお弁当、ひとつだけ自分で作ったおかずがあるんだ。
それは、この……。
玉子焼き!!
ジャジャーン!
今日はちょっと早く目が覚めたから、これだけ私が担当したんだ。
お母さんはいつもお弁当に玉子焼きを入れてくれる。
お母さんの玉子焼きはおいしいんだけど、私はもっと甘いのが好み。
家族みんなが食べるものだから私だけの好みに合わせてもらうわけにもいかないし、私は料理上手くないし、だからいつもは手を出さないんだけど…。
たまにはいいよね?
っていうことで、お父さんたち、ごめん!
今日の玉子焼きは激甘です!
ちょっと多めにつめた玉子焼きをひとつ、口に運ぶ。
ん~、あまーい!
おいしーい!
やっぱり玉子焼きはこれだなー!
「…クスッ。
名無しさん、おいしい?」
『えっ。
う、うん…、おいしい…』
ふと気がついて隣を見ると、鳳くんが私を見てほほえんでいた。
…は、恥ずかしい。
玉子焼きを満喫してるところ、鳳くんに見られちゃってた。
…まぁ、そんなの今更かもしれないけど。
恥ずかしいところなんて、散々見られてるもんね…特に鳳くんには。
でもこうして見ると、お弁当ってみんな違っててなんだか面白いなぁ。
鳳くんのは洋風なお弁当で、彩り豊かですごくおしゃれな感じ。
宍戸先輩のはボリュームがあって、元気が出そうなお弁当。
日吉くんのは和風のお弁当で、すごく身体によさそう。
うーん…。
どれもおいしそう。
そして、作るの大変そう。
作る人の気持ちがこもってるんだよね、お弁当って。
みんなのお弁当にも、私のお弁当にも。
…お母さん、いつもありがとう。
私もこれからは、もうちょっと手伝おうかな。
お弁当を食べながらそんなふうに考えてたら、突然廊下が騒がしくなった。
というより…これは隣のクラス?
「なんだ?
あっちのほう、急に騒がしくなったな」
「そうですね。
まったく…子供じゃないんだ。
食事中くらいもう少し静かにしてろよ」
「隣のクラスだね。何かあったのかな」
その騒ぎが気になりつつもごはんを食べていると、今度は私たちの教室の入口から大きな声が聞こえてきた。
「あーーーっ!!
ななしちゃん、みーつけた!」
………えっ!?
名前を呼ばれて、反射的にそっちに顔を向けた。
「こっちの教室だったんだね~。
間違えて、隣のクラスに入っちゃったC~。恥ずかCー!」
…………あ、芥川先輩!!?
な、なんでここに…。
一気にざわつく教室内。
芥川先輩が私たちの学年の教室に来るのなんて、初めて見た…。
芥川先輩は周りの騒ぎなんて全然気にしてない様子で、ニコニコしながら私たちのところまで来た。
「エヘヘ~。来ちゃった」
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