氷帝での出会い編
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*二年生女子side
『えっと、私に何か用なんだよね?』
カフェテリアで席につくと、名無しさんが話を切りだしてきた。
私の前にはミルクティー、彼女の前にはレモンティー。
「具体的に何か用がある訳じゃないわ。
ただあなたと話がしてみたかっただけ」
『えっ。そうなんだ?』
「ええ」
『そっか』
…?
彼女は一口紅茶を飲んで、少し微笑んだ…ように見えた。
『ありがとう』
「えっ?」
どうしてか分からないけど、お礼を言われたわ。
なんなのかしら。
『声かけてくれて、ありがとう。
なんか嬉しいな』
嬉しい?
「どうして?」
『だって、あんまり関わったことない子から話しかけられたら、嬉しくない?
私、話してみたいなーと思うことがあっても、声かけるのって結構勇気いるからなかなかできないんだ』
「……」
『だから、ありがとう』
そう言うと、彼女は少し照れくさそうに、でもニッコリと笑った。
そしてもう一口レモンティーを飲む。
『紅茶、おいしいね』
…………。
そんなふうに笑わないでよ。
私は…。
私は、あなたがどんな子か探りに来たっていうのに。
純粋に話がしたかったわけじゃない。
あなたが私より下だってことを確かめるために誘ったのよ。
跡部様たちにいくら可愛がられていても、そんなのきっとただの気まぐれだって確認するために…誘ったのよ。
なのに…。
『…?
どうかした?』
名無しさんが心配そうに私を見る。
………胸が、痛いわ。
……………。
…でも。
「……あなた、勘違いしてるわ」
『え?』
「私は…あなたを品定めするために誘ったの。
何の取り柄もないあなたが跡部様たちと親しいことに納得できなくて、一体何が私と違うのかを知りたかったのよ」
無意識のうちに語気が強くなっていた。
そんな私の言葉を聞いて、名無しさんの表情がどんどん曇っていくのが分かる。
…さぁ、どんな反応をするの?
泣くの?
怒るの?
それとも…偽善者ぶって、許すの?
名無しさんはうつむいていたけれど、しばらくすると顔をあげた。
『そうだったんだ…。
……そっか、残念』
何を言うかと思ったら…。
…残念、ですって?
「それだけ?」
『えっ?』
「腹が立たないの?
不快にならないの?
悔しくないの?」
私は思ったことをそのまま目の前の名無しさんにぶつけた。
本当にただ残念がっているだけのように見える彼女が解せなかったから。
ただの一言の文句も言わない彼女を見ていて、なぜか私のほうが苛立ったから。
『あ、えーっと…うん、そうだよね。
そりゃあ、嬉しくはないけど…。
それよりも、あまりにもハッキリ言われてびっくりしたっていうか…』
あはは、と苦笑いする彼女。
『そういうふうに思う人もいるだろうなって、思ってたし…。
だから、頭にはこないよ。
ほんと、それよりびっくりしちゃった』
「……………」
『…それと、やっぱり残念だな。
話しかけてくれたの、本当に嬉しかったから』
…なんなの、この子。
残念とか嬉しかったとか…。
そんなこと…この状況でどうして言えるの?
………。
この子が私より下?
…バカみたい。
下なのは………私のほう。
「………ごめんなさい」
『…え?』
「私…ひどいことを言ったわ。
…それに、あなたに対して失礼なことを考えていたわ。
あなたのこと、何も知らないのに勝手に…決めつけていたの」
…名無しさんならきっと、私みたいに決めつけたりしないでしょうね。
ろくに知りもしない人のことを、何の取り柄も無いだなんて…。
だから私が話しかけたことも、嬉しいって思ってくれたんだわ…。
私…、なんてくだらないことを考えていたのかしら…。
情けなくて…顔を、あげられないわ…。
『ね、甘いもの、好き?』
名無しさんに明るい調子で話しかけられて、ハッとする。
「え?ええ…好きだけど…」
『ホント?じゃあ、あれ、一緒に食べない?』
彼女が指差す先には、今週からの期間限定のケーキのお知らせ。
私も食べてみたいと思っていたけれど…。
『ね、行こ行こ?』
名無しさんは勢いよく席を立つと、笑顔で私に手招きした。
それから私は名無しさんとケーキを食べながら、いろいろな話をした。
私は最初そんな気分にはなれなかったけれど…。
名無しさんはまるで何もなかったかのような態度で接してきた。
だから私も少しずつ話をするようになって。
彼女の口からは、私の価値観とは全く合わないような話が次から次へと出てきて、彼女も私の話を興味深そうに聞いては呆気にとられたような顔をしていた。
話の内容はあまり噛み合わなかったけれど。
でも…どうしてかしら。
なんだか…楽しかったわ。
「樺地くん」
次の日の朝、私は教室に来た樺地くんに声をかけた。
「きのう話したの、名無しさんと」
樺地くんがじっと私を見る。
「樺地くんの言った通りだったわ。
話してみて分かったの」
「……」
そう、今なら分かるわ。
跡部様たちが名無しさんを気に入った理由が。
とても単純なこと。
跡部様たちにはそれがちゃんと見えていたのね。
だけど…私の目は曇っていたから、だから私には見えていなかった。
「……彼女、いい子ね。とっても」
「…ウス」
「私も仲良くなれたらいいなと思っているわ。
ありがとう、樺地くん」
「ウス」
樺地くんはいつも無表情だとずっと思っていたけれど、今の樺地くんの目はとても優しかった。
今までの私なら、その小さな変化に気がつくことはできなかったわ。
…きっと、名無しさんのおかげね。
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