氷帝での出会い編
主人公(あなた)の姓名を入力してください。
ご利用の端末、あるいはブラウザ設定では夢小説機能をご利用になることができません。
古いスマートフォン端末や、一部ブラウザのプライベートブラウジング機能をご利用の際は、機能に制限が掛かることがございます。
た、大変だった…。
跡部先輩も忍足先輩も、鳳くんと私は友達だって分かってるのにあんな冗談言うから。
なんとかおさまったけど…。
向日先輩と芥川先輩の誤解を解ききれたかどうか、自信がない。
はあ…。
「そういえば、名無しさん。
今日は私服だから、なんだか雰囲気が違うね」
…そうだった。
鳳くんに言われて、今思い出した。
ここに来てからバタバタしてて意識の彼方に追いやられてしまってたけど、今日はみんなも私も私服なんだ。
みんなの私服姿を見るのは初めてだから、すごく新鮮。
「せやな。
ななしちゃん、その服よう似合っとるで」
『そ、そうですか?
ありがとうございます』
いつもはもっとあっさりした服を着ることが多いけど、今日の目的地は可愛いケーキ屋さんのはずだったから、気分的になんとなく可愛い感じの服を選んだ。
知ってる人に会うと思ってなかったから、こんなふうに誉められるとは思わなかったけど…やっぱり嬉しいなぁ。
忍足先輩って、こういうときいつも一言声かけてくれるんだよね。
すごく小さい事にも気づいてくれて、さりげなく励ましてくれたり、今みたいに誉めてくれたり。
そういうところ、忍足先輩のすごいところだなって思う。
「…いつもそんな感じなのか?」
ふと問いかけてきた宍戸先輩は、なぜか遠慮がちな様子だ。
『?そんな感じ…?』
「あ、いや。
…なんか思ってたのと違ってたからよ」
先輩はチラッと私を見ながら、頬をかいた。
……?
ああ、わかった!
『今日はいつもとちょっと違うのを着てきたんです。
こういう服も好きなんですけどね』
宍戸先輩はきっと、私が着てるのが思ったより可愛い雰囲気の服だったから意外だったって言いたかったんだ。
たぶん、宍戸先輩の中の私のイメージと違ってたんだろうな。
「でもさ、いつもと違う服着てるってことはなんか予定とかあったんじゃねーの?」
向日先輩の鋭い質問に耳がピクッと反応する。
予定…。
ありましたとも…。
「ななし?」
私が何も言わずにいるからか、だんだんバツが悪そうになっていく向日先輩。
「や、やっぱ内緒にしたままだったのはまずかったよな。
どうせならびっくりさせたいなーとか思ってさ。
その…悪かったよ」
向日先輩がすごくしゅんとしてる。
…予定が狂っちゃったことは確かに残念だけど、ここまで気にされるとなんだか悪いような気がしてくる。
なんだかんだ言って、私もこの場を結構楽しんでるわけだし……ごはん、こんなにもりもり食べちゃってるわけだし…。
そう思って、向日先輩にもう大丈夫です、気にしてないですって答えようとした瞬間、横から声が割り込んできた。
「アーン?
たいした予定なんざ無さそうだから連れてきたんだぜ」
……イラッ。
「なぁ、名無し。そうだろ」
…………………イラッ。
『予定…ありましたよ』
「アーン?」
『…私、並んでたじゃないですか、ケーキ屋さんに』
「なんだ、まだ言ってやがるのか。
俺が手配してやると言ったじゃねぇか」
『そういう問題じゃないって言いましたよね』
「確かにそう言ってたな。
だが、ケーキ屋にケーキ以上のどんな目的があるっていうんだ」
…あぁ、もう!
結局家にお邪魔してお世話になってるんだし、みんなもいるから言わないつもりだったけど。
私だって私なりに今日は大事な予定があったのに。
『…今日じゃなきゃ意味がない目的があったんです!
あのお店、今日オープンだから、先着で記念品がもらえたんです!』
そう、私はその記念品を手に入れるために、あのケーキ屋さんに並んでいたんだ。
もちろんケーキも目的ではあるけど、それだけならわざわざ初日に行く必要もないもんね。
そう!
私は記念品とか粗品とか、そういう類いのものが大好きなのだ。
雑貨屋さんとかだと、オリジナルの非売品だったりして、なんだかウキウキしちゃう。
だから今日も、すごく楽しみだったのに…。
「記念品?…なにかと思えば」
…………………………………………………………………イラッ。
『…跡部先輩には分からないでしょうけど、私はすごく楽しみにしてたんですっ!』
私は無意識に、バッと席から立ち上がっていた。
『何時に起きれば間に合うかなーとか、どんなのもらえるのかなーとか考えてるときの、あのワクワク感!』
「…ななしちゃん?
ど、どうしたの~」
『お店に着いて、前に並んでる人の数をそれとなく数えてるときのハラハラ感!』
「お、おい…ななし?」
『いざ列が動き出して、無事にこの手にすることができたときの、安堵感!』
「………………」
『そしてそれを持って家に帰るときの、充実感!』
「…………………………」
『どれかひとつ欠けてもダメなんですっ。
全部含めてひとつのイベントなんです!
跡部先輩にはたいしたことじゃなくても、私には一大イベントなんですっ!』
ハァ、ハァ………。
……。
―――――――――ハッ!
や、やってしまった…!
跡部先輩が私の気持ちも知らずに、たいしたことじゃないとか言うから、つい…。
ここまで言うつもりじゃなかったのにー!
…う。
みんな……こっち見てる。
樺地くんも、日吉くんまで…目、丸くしてるし…。
あ゛あああああああー!
穴があったら、迷わず飛び込みたい…。
ダッシュしてジャンプして入りたい…。
「…プッ、あはははっ!
お前って変なやつーー!」
「マジマジすげー面白いC~!!」
突然、向日先輩と芥川先輩がせきをきったように大笑いし始めた。
二人ともテーブルをバンバン叩いてお腹かかえて笑ってる。
「ななし、お前、何一人で熱く語ってんだよ。
はー、くそくそ、腹いてぇー」
「ななしちゃんて、こんな変な子だったんだね~。
もっと真面目な子かと思ってたC~。…ププッ!」
……は、恥ずかしすぎる…。
「ななしちゃんは真面目な子やで。
せやけどこういうところもある子やねん」
「そうですね」
「だな」
忍足先輩に鳳くんと宍戸先輩が頷いて答えてるけど…。
三人とも…思いっきり笑うの我慢してるね…。
ていうか私、そんなふうに思われてたのか…。
「俺、これからは生徒会室に遊びに行くC~」
「俺も俺も!
もっとお前としゃべってみたいぜ!」
え。
……………えーっと…。
これは喜んでいいことなのかどうか…。
ほとんど初対面であんな変なことした私に引かずにいてくれたのはありがたいけど…。
「チッ。また生徒会室が騒がしくなるな」
う…。
「……名無し」
『はっ、はい』
跡部先輩、怒ってる…?
で、でも、そもそも跡部先輩があんなふうにつれて来たりするから…。
「………悪かったな」
『えっ』
「次からはできるかぎり、事前に話すようにしてやる」
『跡部先輩…』
……できるかぎり、だって。
なんだか跡部先輩らしいな。それに…。
―――“次からは”
次…。
次が、あるんだ…。
……………なんだか、嬉しい。
…やり方はともあれ、私をこの場に呼ぼうと思ってくれたこと自体は、すごく嬉しいと思う。
みんな歓迎してくれたのに…私もちょっと…大人げなかったな。
それに、予定してたこととは違っちゃったけど、これはこれで…楽しい。
…うん、そうだよね。
跡部先輩にもみんなにも、後でちゃんと今日のお礼を言おう。
ありがとうって、言おう。
.