氷帝での出会い編
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それから跡部先輩が来て、お昼ごはんが始まった。
この部屋に入るなりすぐにあんなことがあったから、意識してる暇がなくて気がつかなかったけど…。
通されたこの部屋は、博物館とか美術館みたいな部屋だった。
天井がすごく高いし、テーブルも大きい。…というか、長い。
いくらこんな大きな家だっていっても、お昼ごはんだし、もっと簡単なのを想像してたんだけど…。
そこに運ばれてきた料理は結構本格的な感じで、ちょっと緊張した。
マナーとか分からないしどうしようと戸惑っていた私に、跡部先輩が俺たち以外には誰もいないから好きなように食べろと言ってくれて、少し気が楽になったけど。
確かに他のみんなもそれぞれ自由に食べてるみたいだったから、お言葉に甘えて、私も細かいことは気にしないでおくことにした。
自由にっていっても、跡部先輩とか忍足先輩、鳳くん達はきちんとマナー守って食べてる感じだけど…。
私は目の前のきれいな料理をおそるおそる口に運んだ。
そのひとくちは最高においしくて、思わず「おいしいっ!」と声に出してしまっていた。
なんだか少し恥ずかしくなって周りをそっと見渡すと、みんななぜか嬉しそうにしていた。
…日吉くんをのぞいて、だけど。
忍足先輩がしてくれた話によると、みんな、私が楽しんでくれるかどうかを気にしてくれていたらしい。
私に何も知らせずに連れてくることを、どうやら全員知ってたみたいで。
鳳くんや宍戸先輩、忍足先輩は反対したらしいけど、跡部先輩や向日先輩に押しきられたんだって。
向日先輩が言ってた、やっと会えた、の意味も分かった。
最初の頃、向日先輩は私のクラスまで来ようとしてたらしいけど、忍足先輩が止めてくれたみたい。
向日先輩はきっと騒がしくするから、そしたら教室とかが騒ぎになって私に迷惑がかかるからって。
だから部活がお休みで、かつ私が生徒会室にいるときに会いにくるつもりだったんだけど、そういうときにかぎってお母さんに早く帰ってくるように言われたり、宿題を忘れて居残りさせられたりしてたらしい。
…宿題は、自業自得だと思うけど…。
だから、やっと、だったんだ。
そこまでして会わなきゃならないような人でもないけどなぁ、私。
たぶん、忍足先輩達が私のこと話してるのを聞いて気になったんだろうけど…。
芥川先輩は次のごはんのときに会えるだろうからっていうことで、機会があっても寝てたって言ってた。
…うーん、芥川先輩のイメージ通りの行動だなぁ。
「でも俺、ななしちゃんが来てくれてほんとに嬉しいC~」
「ななしにはギリギリまで内緒にしてたもんな。
ぜってー断ると思ったぜ」
「…岳人、自分はノリノリで跡部に賛成しとったやろ」
私に会ったことがなかった向日先輩と芥川先輩は、みんなから私について聞いていて今日を楽しみにしてくれていたようで、だから私が来たときあんなに盛り上がってたらしい。
来たのが私でガッカリしなかったのかなと思ったけど、二人ともそんなふうには見えないからよかった。
会ってみたいと思ってた相手にとりあえず会えたから、満足してくれてるのかもしれない。
「おい、おまえら。
初めて会ったってのに、さっきからなに勝手に名無しのこと名前で呼んでるんだよ」
宍戸先輩が、ふと手を止めて芥川先輩と向日先輩のほうを向いた。
あ、そういえば…。
二人があんまり当たり前みたいに呼ぶから気がつかなかった。
「A~。だって、もうずーっと前から知ってたみたいな感じだC~」
「そうそう。おまえらが話してんのずっと聞いてたからかな。
なんかななしのほうがしっくりくるんだよなー」
「だからってなぁ…」
宍戸先輩は渋い顔だ。
先輩、こういう事にすごくきちんとしてるもんね。
「侑士だって、ななしちゃん、とか呼んでるしよー」
「ん、俺?
俺はちゃんと先にななしちゃんの意思、確認したで」
「じゃあ、俺も確認するC~」
「俺も俺も!確認するぜ!」
バッと勢いよくこっちへと顔を向けた先輩達と目が合った。
「ななしちゃん。名前で呼ばれるの、イヤ?」
『えっ』
「なぁ、いいだろ?ななしって呼んでも」
う…。
ものすごく見つめられてる…。
な、なんでそんなに名前で呼びたいんだろう。
でもよく考えてみたら、呼び慣れてた呼び方を急に変えろって言われたら、確かにちょっと困っちゃうかもしれない。
向日先輩と芥川先輩の中では、ずっと私のことは名前で呼んでたっていうことなんだろうな、きっと。
だとしたら…。
『べ、べつに…嫌じゃないですけど…。
…いいですよ、先輩達がそのほうが呼びやすいなら。
あ、でも、すみません。
学校ではあんまり大きな声で呼ばないでくれると助かります』
忍足先輩も名前で呼ぶから、だいぶ慣れてきてたし…。
学校で大きな声で呼ばれるとすごく目立つだろうから、困るけど。
私が答えると、芥川先輩は目を輝かせて、向日先輩はピョンピョン飛びはねだした。
「ありがと~。
ななしちゃんも、みんなみたいにジローって呼んでEよ~」
「俺も岳人でいいぜ!」
『…それは遠慮しておきます』
遠慮なんていらねーのに、とか先輩達は言ってくれてるけど、それはさすがにちょっと…。
…うん、やっぱり急に呼び方変えろって言われても困っちゃうね。
「でもさ~、そんなこと言うなら、宍戸もななしちゃんのこと名前で呼べばEのに~」
「ばっ!そっ、そんなことできるか!」
「なんでだよ。
試しに一回言ってみそ?」
うわ。
二人とも、無茶なこと言ってるなぁ。
宍戸先輩が私のこと名前で呼んだりするわけないよ。
宍戸先輩、固まってるし…。
な、なんか…悪いなぁ。
『あの、宍戸先輩。
私は名字でも名前でもいいので、無理しないでください。
先輩が呼びたいほうで呼んでください』
困ってる宍戸先輩を助けたくて言ったつもりだったんだけど、なぜか先輩は照れたように顔をそむけた。
あれ?
…なんか変なこと言ったかな。
「…………ななし」
『えっ』
………………。
気のせいか、今、宍戸先輩に名前呼ばれたような…。
いやいや、そんなはずないよね。
うーん……………空耳?
…だけど、テーブル越しに見る宍戸先輩の顔は真っ赤だ。
ということは…聞き間違いじゃなかったってこと…?
…………な、なんか…私まで恥ずかしくなってきちゃったよ。
まさか宍戸先輩が名前呼ぶなんて思わなかったから…不意討ちすぎて…。
向日先輩に言われたから、言ってみただけだろうけど…。
『あの…、宍戸先輩?』
「…っ!い、今のはちょっと試しに呼んでみただけだ!ききき気にすんな!」
『は、はい』
「……ったく、呼びたいほうでって言われても……あいつらみたいにできねぇよ」
宍戸先輩は頬をかきながら何か小さな声で言ってたけど、よく聞き取れなかった。
「そういや鳳、おまえもななしのこと名字で読んでるよな。
仲いいんだろ?
名前で呼ばねーの?」
「え、俺ですか?
うーん…、俺は名無しさん、のほうがいいですね。
ずっとそう呼んでたので、そのほうが馴染んでますし。
ね、名無しさん」
向日先輩に答えながら、鳳くんは私を見た。
『うん、そうだね。
長太郎くんっていう名前も好きだけど、私も名字のほうが鳳くんって感じがしていいかな』
私がそう答えると、鳳くんは少し驚いたみたいで、でもすぐに微笑んだ。
「ありがとう。
俺も…ななしちゃんっていう名前、好きだよ」
『えっ。
あ…う、うん。こちらこそ…ありがとう』
鳳くんがちょっとだけ恥ずかしそうに言うから、なんだか私にまでそれがうつったみたい。
もともと私が言い出したことなんだけどさ…。
…なんか鳳くんと宍戸先輩って、こういうところ少し似てるかもしれない。
恥ずかしそうにしつつも、いつもまっすぐっていうか…。
こんなふうに接してくれるのは嬉しいけど…照れる。
こればっかりは、なかなか慣れそうにないよ。
「よく考えてみたら、名無しさんが俺の名前言ってくれたの、初めてじゃない?」
『鳳くんこそ』
「ははっ、そうだね」
『うん、そうだよ』
…やっぱり鳳くんと話してると、なごむなぁ。
「おい、いつまでやってんだ。そこのバカップル」
…え?バカップル?
「跡部の言うとおりやで、お二人さん。
仲ええのはよう分かったけど、そないに目の前で好き好き言い合われたら、なんや疎外感感じてさみしなってしもたわ」
「!カ、カップルって…。ち、違いますよ。
それに好きっていうのは名前の話ですし…。
あ、いえ、もちろん名無しさんのことは、その…好きですけど、それはお互いに友達としてでっ」
頬を少しだけ赤くした鳳くんは、慌てた様子で反論した。
……今の、鳳くんは真面目に受け取ったみたいだけど…。
跡部先輩と忍足先輩の顔からすると……二人とも、絶対分かっててからかってるな。
この先輩達が、それくらい見抜けないはずないし。
もう…。先輩達らしいといえばらしいけど。
もし誰かに本当だと思われちゃったら大変だよ。
「おまえらいつの間にそんなことになってたんだよ!
くそくそ、俺としたことが全然知らなかったぜ!」
「A~!マジマジ?
あれ?でもそういえば、ななしちゃんは宍戸の彼女なんじゃなかったっけ?」
「ブーーーーーッ!!
ジ、ジロー!それはこの前、違うって何回も言っただろ!
ちゃんと聞いてろよ!」
………………。
ほら、さっそく…。
…しかも、知らないうちにすでに別の誤解されてたみたいだし。
違うって、ちゃんと分かってもらわなきゃ。
そうじゃないと、宍戸先輩と鳳くんに迷惑がかかっちゃうよ。
…もうかかってるけど。
目の前には、ワーワーと言い合ってる先輩達。
…口を挟む隙もない。
跡部先輩と忍足先輩は、どことなく楽しげな顔でごはんを食べてる。
……うーん。
誤解とくの、大変そう。
だ、大丈夫かなぁ…。
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