氷帝での出会い編
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「着いたぜ」
『は、はい』
…なんだったんだろう。
門からこの玄関までの距離は…。
今回は跡部先輩の家でお昼ごはんをごちそうになるらしく、観念した私はあれからおとなしく車に乗ってきたわけだけど…。
し、信じられない。
本物の豪邸だ…。
思わず呆然とその大きな建物に見入ってしまう。
「なに呆けてる。ついてこい」
『あ、はい』
こんな大きな家に入るのは初めてだ。
なんかちょっと緊張する。
自分の家なんだから当たり前なんだけど、跡部先輩は堂々としてて…なんだか頼もしい。
前を歩く跡部先輩が、玄関へと入っていく。
「おかえりなさいませ、景吾様」
「ああ。今帰った。出迎え、ご苦労」
うわっ!!
中から一斉にたくさんの人の声が揃って聞こえてきた。
け、景吾様って…跡部先輩のことだよね?
先輩、普通に答えてるし…いつものことなんだ…。
うわぁ、なんかすごい…。
ていうか…広い。とにかく、広い…。
なんだか落ち着かなくて跡部先輩の背中にくっつくようにして歩いていた私は、少し距離をとっておそるおそる辺りを見回してみた。
するとそこにはズラリと並んだメイドさんとか執事さんみたいな人達がいた。
……テレビとかマンガの中の世界だ…。
はー………。
「こいつが今日のメインゲストの名無しだ。
話してあったとおり、丁重にもてなせよ」
「かしこまりました、景吾様」
それから、一旦部屋に戻るという跡部先輩と別行動をとることになった。
跡部先輩は私をみんなのいるところへ案内するようにと、一人のメイドさんに指示をだした。
だから今はそのメイドさんと二人で、長くて広い廊下を歩いてる。
手入れが行き届いてるのがよく分かる、きれいな廊下。
そういえば門からここに来るまでも、どこもきれいだった。
珍しいわ緊張するわで、あんまり意識する余裕なかったけど…。
キョロキョロしながら歩いていると、ひとつの扉の前でメイドさんが静かに立ち止まった。
「名無し様、こちらでございます。
皆様お待ちですよ」
メイドさんがにっこりと微笑む。
優しそうな人だなぁ。
しかも美人。
「さ、どうぞ」
メイドさんが扉を開けてくれる。
その瞬間、部屋の中からガヤガヤと賑やかな声が聞こえてきた。
なんか異常に盛り上がってる。
は、入りづらい。
「あっ、名無しさん!」
なかなか部屋に入れずにいると、鳳くんが私に気づいた。
鳳くんの声に、みんなが一斉にこっちを見る。
う…。
なんか…ドキドキするなぁ。
「名無しさん、来てくれたんだね。嬉しいな」
集まる視線に戸惑っていると、鳳くんが駆け寄ってきて声をかけてくれた。
いつもと同じ、鳳くんの笑顔。
ここに来るまで現実離れしたことの連続だったせいか、鳳くんに会えてすごくほっとした。
鳳くんには前にいろいろ話をしたから、私がテニス部の人達の中に一人混じることを、気にしていてくれたのかもしれない。
『鳳くん、ありがとう』
私の言葉に、鳳くんは何も言わずに微笑んだ。
「名無し、本当に来てくれたんだな」
「ななしちゃん、待っとったで」
宍戸先輩と忍足先輩も呼びかけてくれてる。
「名無しさん、行こう?」
『うん』
私は案内してくれたメイドさんにお礼を言って、部屋に一歩入った。
メイドさんが扉を閉めてくれたのを見て、前を向きなおす――――
!!
息が止まりそうなくらいにびっくりした。
すぐ目の前に顔があったから。
…向日先輩の顔が。
向日先輩はその大きな目で、私を真っ正面から見ていた。
いつの間に…。
全然気がつかなかった。
本当は退きたいんだけど、後ろは扉だし、そもそも驚きすぎて動けない。
そうしている間にも、向日先輩はますます顔を近づけてくる。
ちょ、ち、ちちち近い近い!
私が必死に扉に後頭部を押し付けていたそのとき、向日先輩が口を開いた。
「やーっと会えたぜ」
へへッと笑う向日先輩。
…やっと?
そのとき、向日先輩の背後にものすごいスピードで誰かが回り込んだのが見えた。
「ぐえっ」
向日先輩が変な声を出して私から遠ざかっていく。
な、何…?
「ガハッ、ゴホッ。
な、何するんだよ、宍戸!く、首…ケホッ……一瞬完全にしまったぞ…ゴホッ」
それは宍戸先輩だった。
どうやら向日先輩を私から引き離してくれたみたいだ。
…首根っこをつかんで。
向日先輩…すごく咳き込んでるけど…大丈夫かな。
さっき変な声出してたし。
でも方法はともかく…助かった…。
「それはこっちのセリフだぜ!
おまっ、何やってんだよ!
あんなに顔、…ち、ちちちち近づけるなよ!」
「ゲホッ…。
別にいいだろ、あれくらい。なんでダメなんだよ」
「だ、駄目に決まってるだろ!
あいつは女子なんだぞ!」
「そんなの知ってるぜ。
やっと会えたから、どんなやつかちゃんと見たかっただけだっての。
なんだよ、うるせぇなー」
「うるさくねぇよ!」
宍戸先輩が顔を赤くしてどなってる。
向日先輩にはあんまり通じてないみたいだけど…。
―――――――――!!
ほっとしていた私の視界に、また誰かの顔がいっぱいに入ってきた。
こ、今度は…。
…芥川先輩だ。
「ふーん…。
キミが名無しななしって子?」
『は、はい…』
頷きながら答えると、芥川先輩は珍しいものを見るようにぐぐっと近づいてきた。
って、ちょっ…近い近い!
「うーん…。なんか、初めて会う気がしないC~」
絶対、気のせいです。
だから早く離れて――。
「ぐえっ」
あれ?
今の声……デジャヴ?
宍戸先輩に引っ張られて、私から遠ざかる芥川先輩。
軽く白目むいてるような…。
「お前もかよっ!ジロー!」
「ガハッ、ゴホッ…。
く、首…首が…。
…宍戸、ひどいC~。一瞬気が遠くなったC~…ケホッ」
「お前な、ついさっき俺があいつに言ったこと聞いてなかったのかよ!」
ビシッと向日先輩を指差す宍戸先輩。
「A~。宍戸、何か言ってた?
全然聞いてなかったC~」
「…………」
宍戸先輩…がっくり肩おとしてる。
向日先輩も芥川先輩も全然こたえてないもんね…。
「そ、そうだ、長太郎!
お前はどう思う?こいつらの行動。
非常識だと思うだろ?!思うよな?な?」
宍戸先輩は必死な顔でガシッと鳳くんの肩をつかんだ。
鳳くん、ちょっと困ってるみたい。眉がハの字になってるし。
「俺は…先輩達と名無しさんが仲良くしてるのを見るのは嬉しいですけど…」
「………長太郎。
あれは仲いいとかそういうのとは別の話だろ…」
「えっ。そ、そうですか?」
もう一度がっくりうなだれる宍戸先輩の肩に、ポンとおかれる手。
忍足先輩だ。
「宍戸、あきらめたほうがええ。
常識人は無邪気と天然には勝たれへん」
そのあと私が宍戸先輩にお礼を言いに行くと、「気にすんな、あいつらがバカなことするから」と少し照れたように笑いながら言ってくれた。
宍戸先輩って、なんだか頼れるお兄ちゃんって感じだなぁ。
それにしても…。
はー、…さっきは本当にびっくりした。
向日先輩と芥川先輩がいきなりあんなことするから。
部屋に入るまでは二人に会うことに緊張してたけど、それも吹っ飛んじゃった。
…というより、それどころじゃなかったっていうほうが正しいけど。
うーん…。
テニス部って個性が強い人が多くて、なんだか……。
ちょっと、面白いなぁ。
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