氷帝での出会い編
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今、私は平静をよそおっているけど、実はものすごく胸が高鳴っている。
ここは外だし周りに人がいるから、精一杯隠してるけど…。
本当はドキドキワクワクしてる。
もうすぐ、もうすぐだ…。
時間が気になって、つい何度も時計を確認してしまう。
そんなにしょっちゅう見たって時間は決まった速さでしか進まないんだけど…。
だって、もうすぐ私が待ちに待った瞬間が訪れるんだから。
あー、なんか緊張してきた。
きのうはあんまり眠れなかった。
今日は早く起きて準備しなきゃって思ってたし、楽しみだったから、なんだかソワソワしてなかなか寝つけなくて。
だから結構寝不足…。
でも大丈夫。
このままここで待っていれば、そんな眠気なんて吹き飛ぶような幸せな瞬間がくるんだから!
じ、時間だ…。
…ドキドキ。
キター―――――――!
来た来たっ!
店員さん、来たーっ!!
今日は日曜日。
私は今、今日オープンするケーキ屋さんの前にいる。
というか、並んでいる。
ちょっと早すぎるかなってくらいの時間に家を出発したのに、着いたときにはもう結構人がいてびっくりした。
ある程度は覚悟してたけど、予想以上で。
もう少し遅かったら危なかったかもしれない。
アレが手に入らなかったかも…。
アレの為にわざわざ混むと分かっている今日、私はここに来たんだ。
はー、本当に良かったー。
開店の時間になって店員さんがドアを開けて、少しずつ列が動き始めた。
でもそれは私の少し前で止まってしまった。
結構広いお店だけど、一気には入れないからある程度の人数で一旦区切るみたい。
まぁしょうがないよね。
あんまりたくさん入ってもぎゅうぎゅうになっちゃうし…。
次には私も入れそうだし、楽しみだなぁ。
なんて考えていたら、列の後ろのほうが急にザワザワし始めた。
何だろうと思って振り返ってみた私の目にうつったのは………リムジン。
リムジンをこんなところで見かけることなんて滅多にないから、みんな珍しそうだ。
氷帝に入ってから、跡部先輩の送り迎えで学校に来てるのをよく見るようになったから、私はずいぶん慣れたけど…。
やっぱり目立つなぁ。
そんなことを考えている間にも、リムジンはどんどんこっちに近づいてくる。
えっ、まさかこの道このまま通るつもりなのかな?
ここ、そんなに広い道じゃないのに…大丈夫なのかな。
私の心配をよそに、ものすごく正確な運転技術で進むリムジン。
そしてあっという間に私のすぐ横あたりまで来た。
こんな長細い車でよくこんな運転できるなー、すごい!と感動していると、通りすぎていくとばかり思っていたリムジンは、なぜか私の真横でスッと停車した。
静かに開くドア。
「名無し、やっと見つけたぞ。
乗れ」
聞き慣れた声がすると同時に姿を見せたのは、リムジンを見て思い浮かべていたその人だった。
『あ、跡部先輩!?
な、なんでこんな所にいるんですか?』
ここ、大通りからちょっと入った場所だし…。
偶然通りかかるなんてことは無いよね。
あ、そっか!
『先輩もケーキ、買いに来たんですね!』
「アーン?」
跡部先輩は、車の中から私の背後の建物を見上げた。
「違う。やっと見つけたと言ったじゃねぇか。
お前を探してたんだ」
『え、私をですか?
一体何の用で…』
「いいからさっさと乗れ」
『わぁっ』
跡部先輩に腕をぐいっと引っ張られて、無理矢理車に乗せられた。
「出せ」
「かしこまりました」
動き出した車の中。
私は跡部先輩の腕の中。
………………………。
…何だこれ。
「この俺に探し回らせるとはな。
なかなかやるじゃねぇの」
事態が飲みこめず、跡部先輩によりかかるような状態で抱きとめられたまま固まっていた私は、耳のすぐそばから先輩の声が聞こえてきて、反射的に後ろにバッと飛び退いた。
…のはよかったんだけど。
ドンッ、と背中をドアに思い切りぶつけてしまった。
『ッター!イタタタ…』
「なにやってんだ、アーン」
『そんなこと言ったって…』
あんな体勢になったら普通誰だって…。
跡部先輩は何もなかったみたいに涼しい顔してるけど…。
「なに赤くなってやがる」
『!だ、誰だってなりますよ。
あんなことになったら、誰だって!』
「アーン?
じゃあ受け止めずにその辺に放置しておけばよかったってのか」
『い、いえ。ありがとうございます…本当に助かりました……はい…。
………って、違いますよ!』
「なんだ、うるせぇな」
跡部先輩は腕を組みながら、眉間にシワを寄せた。
『うるせぇ、じゃないですよ。これはどういうことですか?
私、用があって…』
「ケーキだろ?
またいつでも買えるだろうが」
『今日じゃないとダメなんです!』
「チッ、しょうがねぇな。
今から手配して、あとでいくらでも持たせてやる」
『それじゃダメなんですってば!
……はぁ、でももう今から戻っても遅いだろうな…』
私の後ろに並んでいた人数を思い出して、ガックリする。
はぁ…。
「俺に引きずられるほうがいいと言ったのはお前だろうが」
『え?』
「なんだ、忍足のお姫様だっこのほうがよかったのか?」
忍足先輩のお姫様だっこ…。
ま、まさか………。
「やっと分かったか。
これから俺達テニス部レギュラーと昼食だ」
『えぇぇぇぇぇぇーっ!』
「拒否権は無いと忠告したはずだぜ」
いや、そんな上から目線で楽しげに言われても…。
『せ、せめて事前に言ってくださいよ。
びっくりするじゃないですか!』
「事前に言ったらお前は逃げるだろうが」
うっ。
た、確かに…。
「お前の自宅に迎えにいったら、この辺りに外出したと聞いてな。
探すのに手間取ったんだぜ」
『えっ!
うちに行ったんですか?』
「あぁ」
…すごい行動力。
たぶんお母さんが出たんだろうけど…びっくりしただろうなぁ。
リムジンから生徒会長だもんね。
…というか、当たり前のように私の家の場所知ってるし。
まぁ跡部先輩だから、これくらい不思議じゃないと言えばそうなんだけど。
「他のやつらはもう全員集まってる。
お前が最後だ」
『…はぁ、そうですか…』
あぁ…気が進まないなぁ。
テニス部の人達がそろってるところに一人で混じっても、なに話せばいいのか分からないよ。
しかもこんなに急に…。
でも鳳くんも宍戸先輩もいるし、大丈夫かな…?
あっ、でも全員ってことは、向日先輩と芥川先輩もいるんだよね。
会うの初めてだから、緊張しちゃうな…。
それに、日吉くんも…。
あー、どうしよう…。
「今日の為に、密かにお前の好む料理と味の傾向を調べさせてもらった」
『え?』
「今日はお前の好みに合う料理にするよう、シェフに伝えてある。
楽しみにしてろ」
…えっ。
私の好みに合う料理?
『ほほほ本当ですか!?』
―――――ハッ。
うわーっ!
つい食いぎみに言ってしまった!
わわわ私ってなんて単純なんだろう。
さっきまで怒ってたのに、食べ物につられるとは…。
プロの料理人さんが自分の好みに合わせた料理を作ってくれるなんて、今まで想像したこともなかったから、つい…。
ふと気がつくと、跡部先輩が隣でククッと笑ってる。
う……運転手さんまで…。
………こんな恥ずかしいことが、そうそうあるだろうか…。
…………………。
…はぁ、もう観念するしかないか…。
あんなに食いついておいて今さら何か言っても、恥の上塗りだし…。
もう、おとなしくついていこう…。
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