氷帝での出会い編
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*日吉side
生徒会室を出た俺は、教室へと足を進めた。
昼休みだからかなり多くの生徒が廊下に出ているが、視界には入っていても意識には誰も入ってこない。
俺の頭の中は、たった一人のことで埋めつくされていた。
昼食後、跡部さんに確認したいことがあった俺は、生徒会室にいると知ってさっそく向かうことにした。
生徒会室の前まで来て、扉をノックしようとしたその時、中から何人かの話し声が聞こえてきた。
その中でたぶん唯一の女だろうそいつの声は、ひときわ目立っていて、すぐに誰の声なのか分かった。
出しかけていた手を、反射的に引っ込める。
…あいつも、いるのか。
一瞬、迷った。
このまま引き返すかどうか。
だがすぐに思い直してノックした。
あいつがいるからといって、なぜ俺が引き返さなきゃならない?
俺には…関係ない。
生徒会室に入ると、跡部さんと忍足さん、そして…予想通り、名無しななしがいた。
いつもと同じ、警戒心が見え隠れする目を俺に向けている。
跡部さんに用があると言うと、それまで跡部さんと一緒にいた忍足さんが名無しの隣に移動した。
俺に気を使ってくれたんだと思うが…。
あまりにも自然に名無しの隣に座った忍足さんに、少し驚いた。
この人はしょっちゅう女子に囲まれていて、その接し方にもトゲがないが、すりよってくるやつに対しては一定の距離をおいて悟られない程度に上手くあしらっている。
それ以外の女子に対しても割とドライに接していて、自分から近づいていくことなんて無い印象だ。
その忍足さんが、こんなにあっさり名無しのそばに行くなんて。
その名無しも、忍足さんがあんなに近くにいることを何の抵抗もなく受け入れている。
こいつはすぐ顔に出るから、簡単に分かる。
まだ知り合ってそれほど時間もたっていないはずだ。
それなのに…。
いつの間にこんなに親しくなったんだ。
俺には……そんな顔、見せないだろ…。
跡部さんとの話が終わると、俺はさっさと生徒会室を出た。
あの空間に居たくなかった。
あいつのあの目を見ていたくなかった。
それなのに…どうしても…。
…どうしても、あいつのほうに目がいってしまう。
「…チッ」
イライラするぜ…。
なんで俺がこんな気持ちにならないといけないんだ。
俺はきっと、あいつのことが嫌いなんだろう。
そうでもないと、この気持ちに説明がつかない。
特に何か言われたりされたりしたわけじゃないが…。
生理的に、というやつかもしれない。
顔を見ただけで、声を聞いただけで、あいつを思い出すだけで…。
今もまた、こんなにも心がざわつくんだから…。
2年になったときのクラス替えで、鳳が名無しと同じクラスになったと知った。
最初はたいして気にしてもいなかった。
ただ同じ教室にいるだけだろうと思っていた。
たが鳳と名無しは席が隣同士で、俺があいつらのクラスに行ったときにはもう随分打ち解けていた。
鳳は人当たりがいいやつだから、まぁあり得ない話じゃないが…。
だがそれからあいつはうちのレギュラーと知り合って、どんどん仲良くなっていった。
あの宍戸さんが俺達との食事に誘うくらいに。
あの忍足さんが名前で呼ぶくらいに。
あの跡部さんがそばにおいておくくらいに。
宍戸さんがあいつを誘ったと聞いたあのとき、俺は驚いて…。
誰かに何か話しかけられても、ほとんどまともに返せていなかったと思う。
忍足さんがあいつを名前で呼ぶのを聞いたときも、跡部さんがあいつを自分の仕事の補佐役にしたと聞いたときも…。
鼓動が速く打つのが分かって…。
たまらなく、イライラした。
他のやつらにはあんな無警戒な顔で接するくせに、俺にはいつも怯えの滲んだ、探るような顔しか見せない。
……あのとき。
…あの、去年のクリスマスの日も……。
初めて会ったはずの男にすら、俺に向けるようなそんな目はしてなかったじゃないか。
………………………。
あのとき…本当なら俺が…。
…俺があいつを助けるはずだったんだ。
…あの人よりも先に、俺が…今にも泣き出しそうだったあいつに、俺が手を差し伸べるはずだったんだ。
俺が……。
―――――キーンコーンカーンコーン―――
昼休みの終わりを告げるチャイムがなって、俺はハッとした。
…何を考えてるんだ、俺は。
………………。
…まったく、くだらないな。
あんな女、俺には関係ない。
関係ないやつにどう思われようとどうでもいい。
……どうでも、いいんだ…。
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