氷帝での出会い編
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忍足先輩のお姫様だっこを全力で拒否した私は、仕事を再開した。
その忍足先輩は今、跡部先輩と何か話し込んでいる。
たぶん部活の話だと思う。
私は最初、なんとなく忍足先輩が副部長だと思ってたんだけど、違うらしい。
そもそも副部長はいないんだって聞いた。
「せやけどななしちゃん。
自分、ほんま俺らと縁あるなぁ」
あ、先輩達、話が終わったみたいだ。
『はい、そうですね。
私も驚いてます』
「そうやろうなぁ。
ついこの間まで知らん者同士やったんに」
『私は先輩達のこと、前から知ってましたよ』
「え、そうなん?」
『もちろんですよ。
先輩達は有名ですから』
「まあ、跡部は有名やろうけど…。
俺のことも知っとってくれたんやな。
俺もこうしてななしちゃんのこと知ることができて、嬉しいわ」
そう言うと、忍足先輩は優しく笑った。
な、なんかこういうの…照れるなぁ。
「まぁ、縁ってのはそういうもんだ。
そんなつもりがなくても自然と引き寄せられる。
お前と俺達には、それがあったってことだ」
「他のメンバーともきっと仲ようなると思うで。
岳人もジローも興味津々やったし。
ななしちゃんなら、間違いないわ」
『そ、そうでしょうか』
そんなふうに言われると嬉しいけど…もし本当に会うときが来たらと思うと、ちょっと緊張する。
――――――コンコン
あ、誰か来た。
「失礼します」
あ…。
日吉くんだ。
「なんや、日吉やん。
跡部に用事なん?」
「ええ、練習メニューのことでお話が」
すると、さっきの流れでそのまま跡部先輩の近くにいた忍足先輩は、私の隣の椅子に座りなおした。
たぶん日吉くんに遠慮したんだと思う。
そのまま忍足先輩は片手で頬杖をついて、二人のほうを見てる。
それを見て、私もなんとなく二人に目をやると、日吉くんは忍足先輩の方を見ていた。
そしてその視線は次に私のほうに向けられて…。
ま、まただ…。
また…見られてる。
あの目で…。
やっぱり日吉くん、私のこと…。
嫌い、なんだな…。
学校にはたくさんの人がいるし、その中に私のことを嫌いな人がいたって全然不思議じゃないんだけど…。
でもこんなふうに、はっきりその感情を向けられると…やっぱり悲しい。
初めて教室で会ったあのときもそうだった。
あの日までは話したこともなかったせいか全然気がつかなかったし、それからも考えすぎかもしれないと思ってあんまり気にしないようにはしてたけど…。
…ふと目が合うと、日吉くんはいつも、今みたいな目をしてる。
イラついてるような、わずらわしく思ってるような…そんな目。
それから日吉くんは跡部先輩と話をして、用が済むと生徒会室を出ていった。
帰り際、また私をじっと見ていたような気がする。
ちょっと…胸が苦しい。
「………ふーん。なるほどなぁ」
生徒会室の扉が閉まると、隣で忍足先輩が何かつぶやいた。
『何ですか?先輩』
「ん?なんでもあらへんで」
『えっ、そうですか…?』
今何か言ったような気がしたけど…一人言かな?
「…………。
お前、日吉とは親しくねぇんだな」
ふいに、跡部先輩が聞いてきた。
『…親しいどころか、たぶん……嫌われてると思います』
「そう思う理由はなんだ」
『だって…私を見るときの目で分かります。
何か直接言われたわけじゃないですけど…』
「…………」
跡部先輩は何も答えずに、小さく息をはいた。
…よく考えたら、こんなこと先輩達に言うの、よくないことだったな。
日吉くんのいない所で…告げ口みたい。
先輩達だって嫌な気持ちになるだろうし…。
私が何か言われてもしょうがないけど、もし日吉くんに迷惑がかかったらどうしよう。
ずっと気になってたことだけど、なかなか人に言えなかったから…つい先輩達に甘えちゃった…。
「チッ、しょうがねぇな…」
…うっ。
跡部先輩…怒ってる?
というより…困ってる、のかな…。
「名無し」
『は、はいっ』
「…あのな、人が何かや誰かをじっと見るとき……そこにその人間の感情が含まれていることがある」
『?は、はぁ』
「人ってのは様々な理由で凝視する。
だがその理由が何なのか本人でも分かっていない場合もあるし、分かっていたとしても、外から見ている人間が違うように受けとる場合もある」
???
「跡部。
俺もたぶんお前の考えとる通りやと思うけど、そんな言い方しても、ななしちゃん、分からへんで」
忍足先輩に言われて、今度は大きくため息をつく跡部先輩。
……?
先輩達、何を言おうとしてるんだろう。
「そうだとしても、これ以上口を出すのは野暮ってもんだ」
「せやなあ。
頼まれたわけでもないし、それに…あいつも自分でも分からへんのやろうし」
「…ああ。
ここから先はあいつが自分で何とかすべきことだ。
まずあいつ自身がもがいて答えを見つけないことには、何も始まらねぇ」
「やんなあ。
それまではしんどいやろうけど…二人とも」
「それまでで済めばいいがな。
…しょうがねぇ、ある程度は気にかけてやるか。
世話のかかるやつらだ」
…結局よく分からないままなんだけど…いいんだろうか。
二人で話が進んでるから、いい…のかな?
…あ、でもこれだけはちゃんとお願いしておかないと。
今さらかもしれないけど…。
『あの、日吉くんのことなんですけど…。
日吉くんは何も悪くないので、その……今さら遅いんですけど、こんなふうに先輩達に話したこと、日吉くんに悪いことしちゃったなって思ってて』
私が思い当たらないだけで、何か嫌われて当然なことしたのかもしれないし…。
「心配するな。
俺達は全部分かってる」
「そうそう。
ななしちゃんは何も気にせんでええ。
日吉とのことも、そのうちきっとええ方向に向いていくと思うで」
『…はい、ありがとうございます』
二人とも…、優しいな。
跡部先輩と忍足先輩にこんなふうに言われると、すごくほっとする。
「せやけど自分、つくづく俺らと縁あるなぁ」
「まったくだ」
え?
つくづく…?
よく、分からないけど…。
…いつか日吉くんとも、普通に話すようになれたら…いいな。
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