氷帝での出会い編
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きのう、初めて鳳くんのピアノを聞いた。
前に想像したよりもずっと、鳳くんにピアノは似合っていて…奏でられる音はきれいで。
技術的なことは全然分からないけど…鳳くんみたいな音だった。
…優しくて、繊細な音。
リクエストを聞かれたけど曲名が分からなくて、鼻歌で歌ったらそれをちゃんと弾いてくれた。
すごく感動したから、すごい!カッコいい!って思ったままに言ったら、鳳くんは照れたようにありがとうって言ってくれて。
…本当に鳳くんは優しい。
もう関わらないって言われたときものすごくショックで、でもそれで自分の気持ちに気がついた。
もう私はとっくに鳳くんのこと、友達だと思ってたんだなって。
そして鳳くんも私のこと友達だと思ってくれてて、だからこそ私のために関わらないようにするって言って…。
嬉しい気持ちと悲しい気持ちと自分を責める気持ちが一緒になってあふれてきて、泣きたくなかったのにどうしても涙を止められなかった。
泣いてる間、鳳くんはそっと私の頭や背中を撫でてくれてた。
言葉はなかったけど、その手から優しさが伝わってきて、それを意識するとますます涙がこみあげてきて…。
泣き止むのに時間がかかってしまった。
あんなに誰かの前で泣いたのは小さい頃以来だったから、今日の朝、鳳くんと会うのがなんだか恥ずかしかった。
ハンカチを返すときも照れくさくて…。
でも自分の気持ちを全部話したら、なんだかスッキリしたような気がする。
鳳くんが聞いてくれて、それを受け入れてくれたから…。
鳳くんと会えてよかった。
友達になれてよかった。
――――――――ポカッ
『イタッ』
「何ボケッとしてんだ、アーン?」
『な、何するんですか』
「お前が気の抜けた顔してるからだろうが」
『今休憩中なんだから、いいじゃないですか』
「そんな顔で俺の視界に入るな。目障りだ」
『ひ、ひどい…』
丸めた小冊子を手に、私を見下ろす跡部先輩。
昼休み、私は仕事をするために生徒会室に来た……のはいいんだけど。
今日はなんだか気分がよくて、ごはんをいっぱい食べ過ぎた。
だから作業がはかどらなくて…。
先にここに来ていた跡部先輩にそれをあっさり見抜かれて、呆れられながら少し休んでろと言われた。
その少しあとに忍足先輩も来て、今は三人で休憩中。
「ったく、どうせくだらねぇこと考えてたんだろ」
『く、くだらなくないですよ!
私は、おお…』
…ハッ。
あ、あぶなかったー。
鳳くんとの友情について考えてたって、言っちゃうところだった。
きのうのこともあるし、もし詳しく突っ込んで聞かれたら恥ずかしい。
先輩達は鳳くんと同じ部活だから、余計に…。
「おお…?なんだ、最後まで言え」
うっ…。
聞き流してくれればいいのに…。
跡部先輩のことだから、何か言わないと解放してくれなさそう。
えーっと、えーっと…。
『おお…おお…………大きな、こ、志について…』
「アーン?」
『…大きな志!
そう、大志について考えてました!
わ、私達は中学生ですから、大志を抱かないとっ!』
「…………………」
やめてー!
そんなあわれむような目で見ないでー!
「……ななしちゃん…。
…自分、疲れとるんちゃう?大丈夫なん?」
忍足先輩…。
言葉は優しいけど…跡部先輩と同じ目してます…。
「…まぁいい。
今回は特別に見逃してやる」
いや、跡部先輩、もう遅いですから。
もう醜態晒しちゃってますから。
それにしても、名前で呼ばれるのって、なんかやっぱり不思議な感じ。
この前、忍足先輩に名前で読んでいいかどうか聞かれたとき、つい頷いちゃったんだよね。
先輩があまりにもさらっと言うから…。
べつに嫌じゃないからいいけど…。
普段男の子に名前で呼ばれることなんてないから、なんかちょっと、くすぐったい感じ。
…まぁ、いいや。
そろそろ仕事はじめよう。
仕事仕事………。
…って、跡部先輩に聞かなきゃいけないことあったんだ!
『あの、跡部先輩』
「せや、跡部」
あ。
忍足先輩と声かぶっちゃった。
『すみません。
忍足先輩、お先にどうぞ』
「ええよ。
ななしちゃんこそお先にどうぞ。レディーファーストや」
『あ、ありがとうございます』
それじゃ遠慮なく…。
『明日、テニス部はミーティングなんですよね?
跡部先輩も手が離せないでしょうし、もし何かする事があれば事前に指示を聞いておこうと思って』
「なんや、自分ら連携ばっちりやん。
ミーティングのことまで把握しとるんやな」
「いや、俺は教えてねぇぞ。
忍足、お前じゃねぇのか」
「?俺もちゃうで」
「…おい、名無し。
お前ミーティングのこと誰から聞いたんだ」
『え?あの、えっと…。
もしかして私が知ってちゃいけないことでしたか…?』
先輩達が真顔で聞いてきたから、少し不安になる。
何か極秘のミーティングとかだったのかな…?
もしそうなら教えてくれた人の名前も言いづらい。
「いや、知ってること自体は構わねぇが…」
「誰から聞いたん?
レギュラーしか知らへんことなんに」
あれ?
なんでこんなに不思議がってるんだろう、先輩達。
『えっと、あの…宍戸先輩ですけど…』
「……………」
「……………」
えっ。
なんか二人とも固まってる…なんで??
「まさか…。ほんまかいな」
忍足先輩…なんかびっくりしてる?
「名無し、確認したいことがある」
『?はい、なんですか?』
「お前は鳳と同じクラスだったな。
隣の席は誰だ」
『鳳くんですけど。反対側は空席です』
「……3年の宍戸と話したことはあるんだな」
『ありますよ』
「宍戸から食事に誘われたことは?
俺達との昼食だ」
うわっ。
つ、伝わってたんだ、その事。
知らないと思ってた。
ちょっと気まずいなぁ。
『あ、あります。
その節は失礼なことをしてしまってすみません。
先輩達とごはん食べるだなんて、あまりにも光栄なことで、恐縮しちゃうと言いますか何と言いますか…』
「ハーーッハッハッハッハ!!」
――――――ビクッ。
び、びっくりした。
跡部先輩が急に笑いだしたりするから…。
はー、心臓に悪いよ。
「まさか、お前が宍戸が言ってた女だったとはな」
「ほんまや。
俺ら、どんな子やろう思っとったんやで」
……………よく状況が飲み込めない。
二人とも…もしかして私が宍戸先輩と顔見知りだって知らなかったのかな?
あれ?
てことは宍戸先輩も知らないのかな?
よく考えたら、私が生徒会に入ったこともまだ言ってないような…。
それから先輩達と話して、やっと分かった。
先輩達は、私の存在は宍戸先輩と鳳くんから聞いて知っていたけど、名前は知らなかったらしい。
つまり、宍戸先輩が誘った相手が私だとは知らなかったと…。
またこの間みたいにごはんを食べるときに、私を連れてくるっていうことで話はまとまってたんだって…。
…そんなことになってたのか…。
「名無し、もうお前に拒否権はねぇぞ」
『え』
「次の機会には引きずってでも連れていく」
えーっ!
そ、そんな理不尽な…。
「跡部、女の子にそんな乱暴なこと言ったらあかん」
忍足先輩ー!
「ななしちゃん、安心しい。
俺が優しゅうお姫様だっこして連れていったるわ」
『引きずられるほうでお願いします』
忍足先輩は残念がってたけど、お姫様だっこなんて絶対、ゼーッタイにイ・ヤ!
特に忍足先輩にそんなことされたりしたら、もうこの学校にいられなくなっちゃうよ。
もう…、とんでもないこと言い出す先輩達だなぁ。
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