新しい日常編
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『早く室町くん来ないかな~』
一人でつぶやきながら辺りを見回す。
今日は室町くんにテニスを教えてもらう約束をした日。
連絡を取り合って、テニスコートがある広い公園で待ち合わせをした。
約束の時間より少し早く待ち合わせ場所に到着した私は、花壇のそばのベンチに腰をおろして室町くんを待っていた。
なんとなく室町くんは早めに来そうだったから、私も待たせないように来たんだけど、結局そのまま約束の時間になった。
天気もいいし花も綺麗だし、待つのは全然構わないんだけど、何かあったとかじゃないといいな。
でもまだ時間になったばっかりだし、そのうち来るよね。
そうだ、あとで室町くんにきのうのこと話してみよう。
橘さんたちのこと聞いたら、きっと室町くんもびっくりするだろうなー。
そういえば、きのうびっくりしたことといえば、木更津さんから電話がかかってきたのもそうだよね。
今まではメッセージでやり取りしてたから、ちょっとびっくりしちゃった。
でも、久しぶりに声が聞けたのはなんだか嬉しかった。
やっぱりメッセージでのやり取りとは全然違うよね。
また六角のみんなとしゃべれたらいいな。
そんなことを考えつつ、きちんとお世話されているらしい花壇を眺めていると、こちらに近づいてくる足音が聞こえてきた。
あ、室町くんだ!
そう思って顔を向けたけど、そこにいたのは少し年上くらいの知らない男の子二人組だった。
…違った。残念。
その二人はそのまま私の前を歩いて通りすぎていく。
…と思った、けど。
なぜか私の前で立ち止まった。
えっ、と思って顔をあげると、二人とも私をまじまじと見ている。
…な、何?
『あの…、な、何か私にご用ですか?』
おずおずと尋ねると、二人は顔を見合わせて、ニッと笑った。
「いいんじゃね?」
「まぁまぁだな」
………な、何?
なんか……嫌な感じがする。
「なぁ、俺たちとどっか遊びに行かねぇ?」
『えっ…』
あ、遊びに…行く?この人たちと?
「俺たちさっきから君のこと可愛いなと思って見てたんだけど、ずっとひとりだったよな?」
『あ、あの…』
こ、これって…もしかして…。
「そんなに警戒しないでよ。
大丈夫だって、俺たち君と遊びたいだけだから」
「そうそう。
なぁ、どこ行きたい?今日は3人で楽しく過ごそうぜ。おごるからさ」
まさか…。
な、ナンパ……!?
「そうと決まれば、さぁ行こうぜ」
「君、名前は?教えてよ」
ど、どうしよう…。
えぇっと、えぇっと……。
こういうとき、どうしたらいいの?
こんな経験ないし、分かんないよ…!
む、無視すればいいのかな。
いや、でも、ハッキリ断ったほうがいいのかな?
ああ、分からない……!
「はは、おびえちゃって。可愛いじゃん。
俺、君みたいなおとなしい子が好きなんだよね~」
「分かる分かる。そそられるんだよな」
う…。
な、なんだか気持ち悪い…。
ニヤニヤしながら私をなめるように見てくる二人の視線に、背中を冷や汗がつたっていく。
早くこの場を離れてしまいたい。
なのに、どうしてか身体が動いてくれない。
どうしよう…、どうしよう。
怖い、怖いよ…。
誰か…助けて…。
「さ、行こうぜ」
「だな、時間もったいねぇし。ほら」
グイッと、腕を捕まれた。
『ちょっと、や、やめてください』
「大丈夫、大丈夫。
俺たちこう見えても優しいから」
「そうそう、安心しなって」
そのまま無理矢理立たされてしまう。
どうしよう、このままじゃ…。
『わ、私、待ち合わせしてるんですっ。もうすぐその人が来るので…遊びに行くのは無理なんです!』
「えー?ウッソだぁ」
「ずっとひとりだったじゃん」
『だからちょっと遅れてて…』
「なになに?もしかして彼氏?」
「女の子待たせるような男なんかロクなヤツじゃないって。そんなクズ男捨てて、俺たちと遊ぼうよ」
『く、クズなんかじゃないです。きっと何か事情があって…』
「うわ、かばったりなんかしちゃって健気だね~。ますます気に入ったよ」
「そうだ、どうせならそいつ来るまで待ってて、見せつけてやろうぜ」
「お、いいねぇ」
!!!
ど、どうしよう。
このままじゃ、室町くんまで巻き込んじゃう…!
そ、そんなの…嫌…!
だけど、この人たちと一緒に行くのも嫌…。
ど、どうしたら…。
「…おい」
!!?
どこからか、低い声が聞こえてきた。
一瞬私の聞き間違いかと思ったけど、違う。
二人組も辺りをキョロキョロ見回してるから。
「…ガタガタガタガタうるせぇんだよ。寝れやしねぇだろうが」
声と同時にガサッと草を分けるような音がして、花壇の中から人が上半身を起こした。
その人は可愛らしい花壇の花たちとは真逆のオーラをまとっていて、ギロリと二人組を睨み付けた。
…いや、なんでそんな所で睡眠とろうとしてたんですか、と思ったけど、今はそれどころじゃない。
「その女はお前らとは行かねぇって言ってんだろ。女遊びしてぇなら、とっとと他をあたりやがれ」
歳はたぶん二人組と同じくらいだと思うけど、バックの花とのギャップも手伝って、迫力がすごい。
その迫力に気圧されていたらしい二人組が、ようやく言い返す。
「うるせぇのはそっちだ。邪魔すんじゃねぇよ」
「俺たちはこの子が気に入ったんだよ。第一、アンタに口出しされる筋合いは無いってもんだぜ。アンタの女じゃねぇんだろ」
捕まれていた腕をさらにグッと引き寄せられる。
『やっ、やめて…!ちょっと…!』
精一杯力を込めて抵抗するも、簡単に抑え込まれてしまう。
こんな人たちに好きなようにされてしまうのが悔しくて、涙がにじんできた。
「チッ…」
突然現れたその人は、小さく舌打ちすると、その場に立ち上がった。
座っていたときにははっきり分からなかったけど、ものすごく背が高くて体格がいい。
そして気だるげにこちらに歩いてくると、私の捕まれていないほうの腕をとった。
「こいつは今から俺の女だ。だから手ぇ出すんじゃねぇ」
「はぁ?」
「な、何言ってんだ?」
『えぇっ!?』
な、な、な……………!?
「女、お前が決めろ」
『えっ、な、何を…ですか…?』
「こいつらと行くか、俺の女になるか。どっちにすんだ」
『は…。え…』
訳のわからない展開すぎて、訳のわからない声が出てしまう。
「おい、何チンタラしてんだ。さっさと決めろ。めんどくせぇ」
………………………。
『あ、あなたの女になります…』
………………………。
私は一体何を言っているのだろうか…。
「決まりだな。こいつはもう俺の女だ。
分かったらとっととその手、離せ」
「そ、そんなのありかよ」
「いいから離せっつってんだよ、ああ!?」
鼓膜が破れそうなほどの凄みがある声が響き渡る。
「くそっ、何なんだよ」
「も、もういい、行こうぜ」
二人組は私から手を離して去っていった。
……………………………。
一体、何がなんだか……。
で、でも…とにかく助かった…。
室町くんも来なかったし、巻き込まずに済んだ…。
よかった、本当に…。
ホッとして息をつく。
助けてくれた人も、私の腕を離した。
『あ、あの…助けてくれて、ありがとうございました。本当に…助かりました』
深く頭を下げてお礼を言う。
すると、その人は不機嫌そうな顔で私を見やった。
「やめろ。礼なんざいらねぇ。
…あんな奴ら、ブン殴っちまえば一発だったんだがな」
ブン殴っちまえばって…。
け、ケンカとかよくする人なのかな?
確かにちょっとそういう雰囲気はあるけど…でもわざわざ赤の他人の私を助けてくれたんだし、きっといい人だよね。
それにもしかしたら私がいた手前、殴らずにいてくれたのかも。
私が怖がるとか、私があの人たちに逆恨みされるかもしれないとか考えてくれたのかもしれない。
「んなことより、さっき言ってたのは本当なのか?」
『さっき…ですか?』
「男と待ち合わせしてるってやつだ」
『はい、本当です。あ、でも…』
「?なんだ」
『あの人たちは勘違いしてたみたいですけど、彼氏じゃなくて友達なんです』
「んなことはどうでもいいんだよ!」
『す、すみませんっ』
なぜか怒鳴られて、思わず肩がビクッとはねた。
チッ、という舌打ちと、小さなため息が聞こえてくる。
「…相手が男だってことが重要なんだろうが。万が一あいつらが戻ってきた場合のことを考えろ」
…あっ、そうか。
もしあの人たちが戻ってきて、そのとき私が女の子と一緒にいたら、また何か嫌がらせされちゃうかもしれないもんね。
そんなことまで考えてくれたんだ…。
「そいつと約束したのは何時なんだ」
『あ、えっと…』
約束の時間を伝える。
「…遅ぇな」
『何かあったんじゃないといいんですけど…』
「連絡もねぇのか」
『はい…』
「さっきの奴らじゃねぇが、女を待たせて連絡もしねぇなんざ、ロクな男じゃねぇな。
そもそもそいつが遅れなかったら、こんなことになってなかっただろうが」
『そ、そんなことないです!
すごくいい人なんです。きっと何か訳があるんです…!』
室町くんのことを悪く言われてしまって、つい語気が強くなってしまった。
ハッとして、慌てて謝る。
『す、すみません』
「…まぁ、俺には関係ねぇ話だしな。どうでもいい。
それより、お前から連絡してみろよ」
『は、はい』
室町くんに連絡をとる為に改めて端末を持ち直した、その瞬間。
~~♪~~♪~~~~~
『あ!
ちょうど電話がかかってきました!』
良かった!
『もしもし?』
ーー“あっ、名無しさん?室町だけど、ごめん、待たせちゃって”
『あぁ、よかったー、連絡取れて!
私は大丈夫だから気にしないで』
「…何が気にするなだ。全然大丈夫じゃなかっただろうがよ」
『ちょっと!余計なこと言わないでください!』
室町くんに聞かれると困る内容だったから、慌てて制する。
ーー“?
もしかして、誰かと一緒?”
『あ、うん、ちょっと。あとで話すね。
それより、大丈夫?何かあったの?』
ーー“うん、実は電車の遅延があったんだ。事故があったみたいで”
『えっ!大丈夫なの!?』
ーー“俺が乗ってた電車はなんともないんだ。何本か前の電車でアクシデントがあったんだって。ケガ人とかはいないみたいなんだけどね”
『あ、そうなんだ、それなら良かった…』
ーー“うん、本当に。
それで名無しさんに電話しようと思ったんだけど、こんなときにかぎってなんか端末の調子が悪くてさ。なかなかかけられなかったんだ。本当にごめん、迷惑かけて”
『ううん、全然気にしてないから平気』
「泣いてたくせに、よく言うぜ」
ーー“えっ、泣いて…?”
『!!
ちょっ、余計なこと言わないでって言ったじゃないですか!』
「ククッ、お前の言うことに従う義理はねぇな」
からかうような笑みを浮かべられてムッとするも、大恩人なので強くも言い返せない。
第一、言い争ってると室町くんに聞こえちゃうかもしれないし。
ここは我慢、我慢。
『な、何でもないよ、本っ当に気にしなくていいからね?』
ーー“えっ…、まぁ…分かった。くわしい話はあとで。
とにかく今からそっちに向かうよ。大体10分くらいで行けると思う”
『うん、分かった。でも急がないでね、危ないから』
ーー“ありがとう。それじゃあまた”
『うん、またね』
電話を切った私は、クククとおかしそうに笑っているその人を無言の抗議の意味を込めて見つめた。
「なんだ、その目は」
『だって…』
「言っとくが、その男のせいで面倒事が起きたのは事実だぞ」
『違います。声をかけてきたあの二人のせいです』
「あんなクズ野郎どもはハナから論外だ。男じゃねぇ。
んなことより、ずいぶんその男をかばうじゃねぇか。本当にダチなのか」
『友達です、まだ知り合って間もないですけど。
かばうのは当たり前です。その人のせいじゃないんですから』
「…まぁ、ならいいか」
?
ならいいって、どういう意味だろう?
「それで、あとどれくらいで来るんだ」
『あ、えっと、10分くらいって言ってました』
「10分か…。しょうがねぇな」
そう言うと、その人はドカッとベンチに腰をおろした。
「そいつが来るまで付き合ってやる」
…あ、そっか。
私が一人でいるあいだにさっきの人たちが戻ってくる可能性もあるもんね…。
『あの、ありがとうございます。心強いです』
「そうかよ」
『はい。
あの…、私もここに座ってもいいですか?』
「好きにしろ」
『は、はいっ』
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