新しい日常編
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鳳くんといくつかのネックレスを見ていると、宍戸先輩が戻ってきた。
「宍戸さん、大丈夫でした?」
「ああ、たいした用じゃなかったぜ」
「そうですか、良かった。
今名無しさんのネックレスを見てたんです。宍戸さんも一緒に見ませんか?」
楽しげに話す鳳くんとは対称的に、宍戸先輩は少し戸惑いがちにうなずいた。
「あ、ああ…」
やっぱりどう見ても楽しくはなさそうで、申し訳なく思ってしまう。
つまらないとは言えないだろうし…。
「あっ、そうだ。
名無しさん、帽子どう?黒いのもいいでしょ?」
『う、うん。自分で思ってたよりよかった』
「でしょ?どんな帽子を被ってるかで似合うアクセサリーも変わりそうで、いろいろ考えると楽しいね!宍戸さんはどれが名無しさんに似合うと思いますか?」
「えっ、ああ、そうだな…」
意識的になのか無意識なのか、鳳くんは自然な流れで宍戸先輩に話を振ってくれた。
先輩はきれいに並んでいるネックレスへと視線を落とす。
あまり興味がないはずなのに、ひとつひとつじっくりと見てくれていて、真面目な宍戸先輩らしいなと思う。
「…あ」
「いいと思うもの、ありました?」
あるネックレスに目を止めた宍戸先輩に鳳くんが声をかけると、先輩はそのネックレスへと手を伸ばした。
…けど、途中でその手を引っ込める。
「?
宍戸さん?」
「ああ、いや、なんつうか…。
そもそも俺の意見なんか参考にならないんじゃねぇか?女子のアクセサリーを選ぶなんて慣れてねぇ…どころか初めてだし…」
だんだん声が小さくなっていく宍戸先輩。
「それなら俺だってそうですよ。
それでも名無しさんは宍戸さんがどれをいいと思ったのか知りたいでしょ?俺も聞いてみたいし」
『う、うん、もちろん!』
こんな機会もなかなか無いし、宍戸先輩がどれが私に似合うと思うのか、本当はすごく知りたかった。
だけどそれは苦手なことを無理強いするみたいで、今の先輩には聞きづらくて言えずにいた。
鳳くん、ありがとう…!
宍戸先輩の背中を押してくれた鳳くんに、心の中で手を合わせる。
「そこまで言うなら…分かった。
けど、適当に聞き流してくれていいからな」
言いながら、ためらいがちにネックレスにもう一度手を伸ばす。
そして…。
「…これ、だな」
「えっ」
『えっ』
思わず鳳くんと顔を見合わせた。
「あー…、やっぱなんか違うか?
俺はこれを見た瞬間、名無しっぽいと思ったんだが…」
鳳くんと私が黙り込んだのを悪いほうに解釈したのか、宍戸先輩は所在なさげにおずおずとネックレスを戻そうとする。
私はそれをすぐさま手で阻止した。
『ちょっと待ってくださいっ!』
「な、なんだ?」
『それ、それなんです!
私も鳳くんも、それがいいと思ったんです!』
「え!そうなのか?!」
「そうですよ!みんな同じのを選ぶなんて、すごいですよね!」
本当にすごい…!
まさか宍戸先輩までこれを選んでくれるなんて…!
『先輩、それ、ちょっといいですか?』
宍戸先輩からネックレスを手渡してもらう。
私の気持ちはもう決まっていた。
『これ、買います!』
「えっ、いいの?急に決めちゃって」
『大丈夫!
気に入ったのがあったら買おうと思って、おこづかい持ってきたんだー。じゃ、買ってくるね!』
「そっか、分かった。
俺たちここで待ってるね」
『うん!』
私はネックレスを大切に持って、レジに向かった。
そうだ!
買ったらすぐつけちゃおう!
そのまま今日は過ごすんだ~。
ルンル~ン。
「ふふっ、名無しさん嬉しそうですね。宍戸さんも同じのを選んでくれたから」
「いや、俺じゃなくて三人同じだったからじゃねぇか?」
「それはそうかもしれませんけど…。
ちなみに俺はあのネックレス、2番目に当てたんです。宍戸さんは1番目だったじゃないですか。すごいです」
「それは偶然で…」
「こんなにたくさんある中から最初に選んだんだし、ただの偶然なんかじゃないですよ。それがよっぽど嬉しかったんだと思います。
名無しさん、宍戸さんのこと気にしてましたから」
「あー、やっぱそうだよな。
こういう店はなんか俺には場違いな気がしちまって…嫌いってわけじゃねぇんだが、苦手なんだ。
せっかくあいつが選んで連れてきてくれたんだし、そういう感じは出さねぇようにしようとはしたんだが…」
「えーっと…、少しだけ、出てたかもしれないです。
名無しさんはそういうところ、敏感なので…」
「いや、気を遣わなくてもいいぜ、長太郎。自分でも分かってたんだ、隠しきれてないって。
はぁ、あいつに悪いことしちまったな」
「大丈夫ですよ!結果的にはすごく喜んでくれてましたし」
「まぁ…そうだな。
それにしても、長太郎は楽しそうだったな」
「はい!すっごく楽しかったです!
宍戸さんが電話してる間に名無しさんにいろいろつけてあげてたんですけど、どれも本当に似合うんですよ。例えばこれとか…。あ、これも!」
「つ、つけてあげたって…長太郎がか?」
「はい、そうですよ」
「………………」
「?
宍戸さん?」
「あ、いや…。よくそんなことできるなと思ってよ」
「そんなに難しくないですよ?
こういうのは大体留め具の仕組みが似かよってますから」
「そういう意味じゃねぇんだ。
その…、き、緊張しねぇか?首につけるわけだろ」
「え?
…あ、あぁ、そういう意味ですか。
そ、そうですね。緊張はしますけど…名無しさんが喜んでくれるから、嬉しくて…」
「な、なるほどな…」
「は、はい…」
『お待たせしてすみません!』
お会計が終わって、私は二人のところへと急ぎ足で戻った。
「えっ、あ、大丈夫だよ、大丈夫!ね、ねぇ、宍戸さん?」
「あ、あぁ、な、何も気にしなくていいぜ!ハハハ」
???
なんだか様子がおかしいような…?
『何かあったんですか?
二人とも、なんかちょっと変だよ?』
そう言うと、二人は揃えたようにギクリと肩を震わせた。
…うーん、やっぱり何かあったみたい。
でもこの様子だと私には触れられたくない話題みたいだし…、これ以上は追求しないであげたほうがいいよね、きっと。
『あ、そうだ、鳳くん。お願いがあるんだけど、いい?』
「えっ、う、うん。なに?」
『あのね、これをつけてほしくて』
今包んでもらったばかりの袋を開く。
自分でつけてもいいんだけど、ちょっとモタモタしちゃうんだよね。
鳳くんならサッとつけてくれるし、悪いけどお願いしちゃおう。
「えっ!!」
鳳くんがなぜかものすごくびっくりした様子で声をあげた。
『?』
「あ、えっと…、う、うん、いいよ」
『ほんと?ありがとう!
じゃあ、これ。よろしくお願いします』
「う、うん…」
不思議に思いながらも、ネックレスを鳳くんに手渡した。
それからさっきみたいに鳳くんに背中を向ける。
だけど、なかなかつける気配がしない。
『鳳くん?』
振り返ると、鳳くんはネックレスを持ったまま、固まっていた。
そしてなぜか、その頬が少し赤い。
『どうしたの?何かあった?』
「あ、ううん、えっと…。
あっ、そうだ!今回は宍戸さんにつけてもらうっていうのはどう?!」
「なっ!!?」
神妙な面持ちで成り行きを見守っていた宍戸先輩の身体が、ビクッと跳ねる。
「長太郎!?何言い出すんだよ!?」
「す、すみません、宍戸さん。
なんか…さっきまでみたいにできなくなっちゃって…。お、お願いします!はい、どうぞっ!」
「はぁ?!ひ、卑怯だぞ、長太郎!」
「すみません!でも無理なんです…!なんだか恥ずかしくて…」
「それは俺だって同じだ!」
全然話がつかめないんだけど、なんかめちゃくちゃもめてる…。
これってもしかしなくても私のせい、だよね?
『や、やっぱり私、自分でつけるよ。ごめんね、頼んだりして…』
慌てて鳳くんからネックレスを受け取ろうとする。
だけど、その前に宍戸先輩がネックレスを取ってしまった。
「だ、大丈夫だ。俺がつける…!」
先輩、ものすごく無理して言ってる…。
『宍戸先輩、ありがとうございます。でも大丈夫ですから、気にしないでください』
手を先輩に差し出すけど、先輩はネックレスを私から遠ざけてしまった。
「いや、その…。
お、お前さえ良ければ俺にやらせてくれ」
ここまで言ってくれてるのに断るのも悪いような…。
でも、そもそもなんでここまで熱心に言ってくれるんだろう?
やっぱり私がレジに行ってる間に何かあったんだろうけど、いくら考えたって分からないし、この様子だと聞かないほうがいいよね…。
よ、よし。
ここは素直にやってもらおう…!
先輩につけてもらうなんて、すごく緊張するけど…。
『わ、分かりました。よろしくお願いします』
「あ、ああ」
私はドキドキしながら宍戸先輩に背を向けた。
そして鳳くんのときと同じように、邪魔にならないように髪をよけた。
はぁ、緊張する…。
まさか宍戸先輩にネックレスをつけてもらうことになるなんて、想像もしてなかったよ。
「が、頑張ってください!宍戸さん!」
「わ、分かってる」
しばらくして、めちゃくちゃぎこちなく先輩の手が私の首の前に回された。
心なしかカタカタ震えてるような…。
そのとき、首筋に宍戸先輩の指がほんの少し、触れた。
「!!?」
『!!!』
「わ、ワリィ!」
『い、いえ…!』
「痛くなかったか?!」
『は、はいっ、大丈夫です!全然平気ですっ!』
「本当か…?」
『は、はい!』
「本当にすまねぇ。
嫌だったら遠慮なく言ってくれよ」
『あ、はい…。
でも全然嫌じゃないですから』
「そ、そうか…」
『はい…』
ど、どうしよう…。
ドキドキして身体が震えちゃうよ…!
私の後ろで先輩が一生懸命つけようとしてくれているのが分かる。
鳳くんより明らかに時間がかかっていて、宍戸先輩の不器用さが伝わってくる。
だけどそれがかえって宍戸先輩らしいような気がして、胸が暖かくなるような苦しくなるような、不思議な気持ちになった。
「よ、よし!できたぜ!」
息を吐くようなその声と同時に、先輩が私から離れた。
私もようやく緊張が解ける。
そっと胸元を見ると、花のモチーフが可愛らしく揺れていた。
なんだか嬉しくなって、宍戸先輩を振り返って尋ねた。
『宍戸先輩、ありがとうございます。あの…、ど、どうですか?』
少し恥ずかしいけど、可愛いネックレスをつけてもらった姿を見てほしいような気持ちになって、感想を聞いてみたくて、思いきって先輩に向き合った。
すると宍戸先輩は私をチラチラと落ち着かない様子で何度も見たあと、真っ赤になりながら言ってくれた。
「に、似合うと思う。その…思ったとおりだ」
『あ、ありがとうございます』
「いや…」
先輩は頭に手をやって、照れくさそうに顔を背けた。
先輩がネックレスをつけてくれて、それを似合うと言ってくれたことが、自分でも想像していた以上に嬉しい。
「よかったね!名無しさん」
『うん!』
鳳くんに笑顔で返す。
近くにあった鏡を覗いてみると、そこにうつる私は本当に幸せそうで…、なんだか胸がいっぱいになった。
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