新しい日常編
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*不二side
週末、僕はテニス部のみんなと一緒にショッピングモールへとやってきた。
大勢の人達が思い思いに休日を楽しんでいて、その賑わいが心を浮き立たせる。
「今日こそ勝たせてもらいますよ、英二先輩!」
「ヘヘーン、負っけないもんね~」
「おいおい、俺がいることを忘れてないか?」
「そうだね、大石がいるから勝つのはなかなか骨が折れるよ」
今日はみんなでボウリングをしに行くことになっている。
その前にショッピングモールに少し寄っていこうという話になって、今はみんなと気の向くまま見て回っているところだ。
「?あれって…」
「どうした、越前」
「なになに?何かあったの?おチビ」
吹き抜けを挟んでちょうど反対側のフロアが見える場所で、ふいに越前が足を止めた。
フェンスに手を乗せてジッとその反対側のフロアを見つめる越前のところに、みんなが集まる。
僕もそこへ行って、越前の視線の先をたどってみると、そこにはアクセサリーショップがあった。
「あの店か?アクセサリーがあるみたいだな」
「越前、あのお店に行きたいの?だったら行こうか」
「いや、そうじゃなくて…あそこにいるの、鳳さんじゃない?」
「えっ、鳳?」
言われてもう一度見てみると、確かにそこには氷帝の鳳がいた。
隣に誰かいるけど、ここからだと顔がよく見えない。
だけど、服装からしてたぶんあれは…。
「ねぇ、みんな!鳳っちと一緒にいるの、女の子じゃない?!」
「うわ、マジだ!くそー、あいつ彼女いたのかよー!羨ましいなぁ、羨ましいぜ!」
こっちの騒ぎを知るよしもない鳳は、二人で選んだらしいネックレスを女の子の後ろにまわってつけてあげていた。
わずかに赤くなった女の子の頬と鳳の楽しげな笑顔、二人の距離の近さ。
それらを目の当たりにすれば、誰もが桃と同じように受け取ると思う。
あの二人は、初々しい恋人同士。
…と、思った瞬間、ネックレスをつけてもらった女の子が、少し恥ずかしそうな控えめな笑顔で鳳のほうを振り返った。
今まで僕たちからははっきり見えていなかったその顔が、思いきりこっちを向く。
「あーーーーーーーーーっっ!!!」
全員(手塚以外)の声が重なった。
ヤバイ!と誰かが言ったのを合図に、一斉にその場にしゃがみこむ。
フェンスの陰になって、向こうからは僕たちの姿は見えなくなったはずだ。
「い、今のって名無しさんだったよね!?」
「確かにそうだったな」
「まさかあの二人がそういう関係だったとは…」
「うん、驚いたね」
「合宿のときには友達だって言ってたのによー」
「まぁ別に俺たちに本当のこと言う義理もないし」
「ところで…俺たちはなぜ隠れているんだ」
手塚の素朴な疑問に、みんなが黙り込む。
…そういえば、僕もつられてなんとなく隠れちゃったな。
隣にいた手塚も巻き添えにして。
「桃城。てめぇがヤバイとか何とかでけぇ声で言いやがるからだ」
「俺のせいかよ!」
「うーん、確かによく考えてみれば隠れる必要はなかったね」
「俺たちもあの二人も、別に悪いことはしてないしな」
「でもでも、なんかちょっと気まずくない?あんなにラブラブなところ見ちゃったんだし」
「まぁ…そうっすね」
「じゃあこのまま行こうか?見つからないうちに」
「うん、そうだね」
大石の提案に、みんな(手塚以外)がうなずく。
そしてかがんだ状態のまま、鳳と名無しさんから見えなくなる場所まで移動した。
「ここまで来ればもう安心だ」
「ふー、なんか疲れたな」
「ちょっとハラハラしちゃったね」
「よし、もうボウリング行こうか」
「行こー行こー!」
「はぁ、あいつらマジで付き合ってんのかなぁ」
「残念だったね、桃先輩」
「潔く諦めるんだな」
「みんなー、桃が失恋して落ち込んでるから励ましてあげよー!」
「ちょ、英二先輩!べつに失恋したわけじゃないっすよ!」
ワイワイと騒ぎながらみんなが歩きだす。
僕も一緒に歩きつつ、でもさっき見た光景が少し引っ掛かっていた。
合同合宿が行われると決まった頃、街のテニスコートで鳳と偶然会って、話をしたことがあった。(→番外編・鳳編参照)
あのとき鳳はたぶん後々のことに配慮して固有名詞をふせていたんだろうけど、あれは間違いなく合同合宿と名無しさんのことだったと思う。
だとしたら、鳳と名無しさんは友達…親友同士のはず。
今あのときの話の内容や合同合宿中の様子を思い返してみても、間違いないと思うんだけど…。
あの二人、本当に付き合ってるのかな?
もちろん付き合っていたとしても何の問題もないんだけど、こういうのってやっぱりちょっと気になっちゃうよね。
僕も結構、野次馬っぽいな。
…あれ?
ふと気がつくと、隣にいたはずの手塚の姿がない。
足を止めて振り返ると、手塚はひとり、仲良さそうにほほえみあう鳳と名無しさんのほうを見ていた。
「手塚、どうしたの?」
「…何故か分からないが、妙に懐かしくてな」
「名無しさんのこと?」
「ああ。
不思議だな。あれからまださして時間もたっていないというのに。元気そうで、何よりだ」
その横顔には、いつくしむような…何とも言い表せない感情がにじんでいるように見える。
…珍しい、と思った。
手塚がこんなふうに何かに思いを馳せるのも、その姿を無防備に人に見せるのも。
「おーい、手塚ー、不二ー!
早く来ないと置いてっちゃうよー!」
先を行く英二が、僕たちに向かって大きく手を振っている。
「行くか」
「うん、そうだね」
歩き出した手塚からは、さっきの憂いはすっかり消えていた。
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