新しい日常編
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『ふたりとも、ここだよー、ここ!』
目的のお店の前で、私は二人を振り返った。
少し遅れて歩いていた二人が、お店の中に目を向ける。
「アクセサリー?」
『うん、ここに来たかったんだー』
ここは主にアクセサリーを扱っているお店で、友達とこの辺りに遊びに来たときにはよく寄るお店だ。
価格も手頃だからおこづかいの範囲でも手が届くし、何よりデザインも可愛くて種類も豊富で、見ているだけでも幸せな気分になれる。
『そろそろ新作が並んでるはずだから、見てみたくて』
なんて言いつつ、三人で店内に入る。
いつも新作が置かれている場所へとたどり着くと、そこには期待どおり、まだ見ていなかった商品が綺麗に陳列されていた。
『あ!あったよ、新商品!』
「本当?よかったね」
『うん!』
嬉しくて思わず鳳くんの腕をつかむと、鳳くんはニコッと笑ってくれた。
でも、その隣にいる宍戸先輩はなんだか居心地が悪そうにキョロキョロしている。
う…。
や、やっぱり宍戸先輩はこういうところ興味ないよね……というよりむしろ嫌いだったり…?
それぞれの行きたいところに行こうという話に決まったとき、真っ先にここが思い浮かんだ。
でも次の瞬間、宍戸先輩はあんまり興味がないだろうなと思って、迷った。
それでも結局、私が好きな場所を二人に知ってほしい気持ちもあって、行くことにした。
~~♪~~♪~~~
「あ、俺だ」
端末の着信音が鳴った。
どうやら宍戸先輩のものらしく、先輩がカバンの中から取り出して端末を確認する。
「ワリィ、親から電話だ。ちょっとはずすぜ」
「はい。俺たちこの辺りにいますね」
先輩は軽くうなずくと、店の外へと出ていった。
その背中を見ながら、やっぱりお店を変えたほうがいいのかなとしつこく考えてしまう。
だけどそんな思考を鳳くんの明るい声が断ち切ってくれた。
「ねぇ、名無しさんはどういうのが好きなの?」
『あ、えっとね…』
その声に促されてアクセサリーに目を落とす。
すると、花のモチーフが付いたネックレスに目がとまった。
控えめにキラキラ光るそのモチーフが、すごく可愛い。
それを指差そうとして、直前のところで手を止めた。
そうだ、せっかくだし、ちょっと聞いてみよう。
『鳳くんはどれだと思う?』
「えっ、うーん、そうだなぁ…」
綺麗に並べられたアクセサリーを一通り確認すると、鳳くんは少し迷いながらも手を伸ばした。
「これかな……でもこっちも名無しさんが好きそうだし…」
2番目に指差したのは、まさに私が気になっていたネックレスだった。
『すごい!2番目に言ったのが当たりだよ!』
「えっ、本当!?」
『うん!』
「すごい!」
『うんっ、すごい!』
なんだか可笑しくなってきて、顔を見合わせて笑った。
『私が好きそうだってよく分かったね!鳳くんの前でアクセサリーつけてたことなかったと思うけど』
「ううん、一回だけあるよ」
『えっ、そうだっけ?』
「ほら、跡部さんの家でみんなでご飯食べたとき」
『あ!そういえば!』
確かにあのときアクセサリーつけてたな、と思い出す。
『よく覚えてたね』
「初めて見たから何だか印象的だったんだ。あのときつけてたのも可愛かったよ」
『ホント?ありがとう!』
「そうだ、これ試しにつけてみたら?」
鳳くんがあの花のモチーフのネックレスをそっと手にとる。
「俺でよかったらつけてあげるよ」
『いいの?』
せっかくだし、つけてみよう。
そう思った私は、鳳くんに背を向けた。
『じゃあお願いします』
「うん、任せて。
あっ、ごめん。ちょっと髪よけてもらっててもいいかな」
『あ、そうだね、ごめん』
「ううん。
ええと、ちょっと待ってね…」
鳳くんの腕が私の首もとでスッと動く。
そしてすぐに後ろから声がかけられた。
「はい、できたよ」
『ありがとう、鳳くん』
言いながら、脇に置かれている小さな丸い鏡をのぞき込む。
『うわぁ…、可愛い!』
思わず小さく声をあげてしまった。
飾られていた状態でも充分目を引く可愛さだったけど、実際に身につけてみるとさらにその可愛さが増したように思える。
つい鏡に映る自分の胸元を凝視してしまう。
だけど、次の鳳くんの言葉で我に返った。
「うん、本当に可愛いね。よく似合ってるよ」
鏡越しに鳳くんと目が合う。
鳳くんはニッコニコの笑顔で私を見ていた。
……………ハッ!
こ、これは…勘違いされてるような!?
『ち、違うよ?!可愛いっていうのはこのネックレスのことで、私のことを言ったんじゃないからね?!』
慌てて訴えかけると、鳳くんはおかしそうに、クスッと笑った。
「そうなの?俺はてっきり自分のことを言ってると思ったよ」
『い、言ってない、言ってない!』
「本当かなぁ~」
『本当だってば!』
「えー?そうかなぁ~」
『そうなの!』
必死に弁解する私に、鳳くんは吹き出すように笑いながら言った。
「分かったよ、ごめんごめん。
でも本当に似合ってるし、ネックレスだけじゃなくて…名無しさんも可愛いって、俺は思ったから」
かすかに頬を赤くしてはにかむ鳳くん。
…こんなふうに言われると、こっちまで恥ずかしくなって何も言い返せなくなる。
『ひ、卑怯だよ、鳳くん』
動揺しながらつぶやいた小さな声は、鳳くんには聞こえなかったらしい。
「ねぇ、名無しさん。せっかくだしもっといろいろ試してみない?
今のもすごく良いけど、きっと他にも名無しさんに似合うのがあると思うんだ。
例えば…ほら、これとか。あ、こっちもいいかも。絶対可愛いと思うなぁ」
まるで自分のことみたいに熱心にアクセサリーを物色する鳳くん。
…ううん、もしかしたら自分のことより一生懸命になってくれてるかもしれない。
それが素直に嬉しくて、でも男の子に、鳳くんに、自分のアクセサリーを選んでもらっているこの状況が今さらながらに照れくさくて…。
楽しい気持ちとソワソワした気持ちを両方抱えながら、私は鳳くんと過ごしたのだった。
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