新しい日常編
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*向日side
「おーい、跡部ー」
昼メシを食べた俺は、暇つぶしに生徒会室に来てみた。
ここならたぶん跡部がいるはず。
跡部がいなくても、副会長か誰かしらいるはず。
そう思って、ガチャリとドアを押し開けた。
「おい、ノックくらいしろといつも言ってるだろうが。何回言わせるんだ、お前は」
「ワリー、ワリー!」
「ったく…」
パソコンの向こうであきれたようにため息をつく跡部。
やっぱりいたぜ!
暇つぶし相手に決定!
「せやから、なんも無いわけないやろ」
「そう言われても…」
「火のないところに煙は立たんて言うやん」
「いや、だから、本当に何もないんだって」
……ん?
跡部のところに行こうとすると、違う方向から言い合う声が聞こえてきた。
見ると、侑士が尋問するような感じで副会長に詰め寄っていた。
ラッキー!こいつらもいたのか!
…けどなんか、空気が不穏だな……。
「なぁ、跡部。侑士たち、何やってんだ?」
「さぁな」
「侑士、珍しく怒ってねーか?」
「ハッ。あいつもまだまだだってことだ」
「?
どういうことだ?」
跡部は薄く笑みを浮かべるだけで、それ以上何も答えない。
???
一体何があったんだ?
「おい、侑士、副会長」
二人に声をかけると、なぜか侑士からは不機嫌そうな、副会長からはキラキラした目を向けられた。
「なんや、岳人か」
「あっ、向日!いいところに!」
?
本当に何なんだ?一体。
「どうしたんだよ。何かあったのか?」
「それが、忍足がなんだか誤解してるみたいで…」
「誤解ちゃうわ。目撃証言もちゃーんとあるんやで」
「だから、それは何かの見間違いだってば」
「ほぉ?
何をどう見間違ったら生徒会室でイチャイチャしとるなんて噂が立つんや。納得いく説明してもらおか。ななしちゃんの名誉がかかっとるんやで」
えっ…。
なんか今、一気にいろんな情報が飛び込んできたような…?
「ちょ、ちょっと待てよ。今のどういうことだ?
ななしの名誉って?つーか、イチャイチャって…」
頭の中でバラバラにぐるぐる回っていた情報が、やっとまとまった。
「ま、まさか、ななしと副会長がイチャイチャしてたってことか!?」
「せや」
「いやいや、だから違うって」
「往生際が悪いで」
「だから…あぁ、困ったな。何て言えば信じてもらえるんだろう…」
ななしと…こいつが?
えぇ…?マジかよ?
予想外のことに、ビックリして言葉が出なくなる。
けど…。
うーん……。
なんかちょっと違う気がするんだよなー。
「それさー、副会長の言うとおり、何かの間違いなんじゃね?」
俺がそう言うと、侑士が無表情でゆっくり振り返った。
「…何を根拠に」
怖っ!
声、低っ!
「向日…!」
手を合わせて、希望という名がついてそうな眼差しを向けてくる副会長を横目に、俺は思ったことを単刀直入に言ってみることにした。
「だ、だってさー、ななしも副会長も、いつ人が来るかも分からねーこんなところでイチャつくような、迷惑なことする奴じゃないだろ?」
「それは…」
「向日…!信じてくれるんだね…!」
「まーな。
どうせ何かの理由で近くにいたときにイチャついてるみたいにみられたんじゃねーの?心当たりねーのかよ」
「心当たり…。…あ!」
副会長はパンッ、と手を叩いた。
「そう言えばこの前名無しさんと二人で仕事をしてたときに、少し疲れたからコーヒーでも飲もうかってことになって…、名無しさんに煎れ方を簡単に教えたんだった。たぶんあの時だよ。
その時、名無しさんの髪が俺のシャツのボタンに引っ掛かっちゃって、外すのに少し手間取ったから…。たぶんそこを見られたんじゃないかな」
「ほらなー、やっぱり。そんなことだろうと思ったんだよ。な?侑士。納得したか?」
「まぁ…せやな」
侑士はまだちょっと不服そうだけど、ひとまずうなずいた。
それを見て、副会長がホッとしたみたいに息をはいた。
「あぁ、よかった…。
でも、困ったな。忍足の話だと噂になってるんだろう?俺はいいけど、名無しさんが嫌な思いしてるならこのままにはしておけないし、なんとかしないと…」
「そうだな。けど、噂をなんとかするって言ったってどうすりゃいいんだ?」
副会長と二人、うぅーん…と考え込む。
「放っておけ」
ずっとパソコンで作業していた跡部が、何かのキーを強めにたたいて、顔をあげた。
「けどよー、それじゃななしが困っちまうじゃねーか」
「火は本物じゃなかったんだ。煙もすぐに消える。下手に騒ぎ立てると余計に燃え広がるぞ」
「確かにそうだけど…名無しさん、大丈夫かな」
「ハッ。あいつも今頃同じ事を言ってるかもしれねぇぞ」
「え?」
「“私はいいけど、副会長大丈夫かな。先輩に迷惑がかかってたらどうしよう…”とかな」
ななしの口調を真似して、面白そうに笑う跡部。
確かにななしなら、自分のことより副会長のことを気にしてそんなこと言ってそうだ。
眉毛をハの字にしてるななしの顔が目に浮かぶ。
なんかおかしくなってきて、つい吹き出してしまった。
副会長も同じだったのか、くすくすと笑っていた。
「跡部の言うとおり、ななしはたぶん自分のことよりお前のこと気にしてるだろーな。あとでその辺のこと話しあえば大丈夫なんじゃねーか」
「そうだね、そうするよ。ちょうど今日の放課後、用事があって会う予定だから。
…にしても跡部、さすがだね」
「アーン?」
「名無しさんのこと、やっぱりよく分かってるなって。
名無しさんと俺の噂も本当のことじゃないって、最初から分かってたんでしょ?」
「えっ!マジかよ」
「たいしたことじゃねぇよ。
まぁ誰かさんはすっかり動揺しちまって、いつものキレが影を潜めてたみてぇだがな」
「…うるさいわ」
からかうような跡部の視線の先で、侑士は頬杖をついて、不機嫌そうだ。
「なんだよ、侑士。まだ疑ってるのか?」
「ちゃう。ただ…」
???
もしかして侑士、拗ねてる…とか?
「分かった!ななしのこと分からなかったから、悔しいんだろ!」
「それと、反省してるってところかな?珍しく冷静さを欠いちゃったから。
でも俺はそれもいいと思うよ。そんな忍足、なかなか見られないし」
「…はぁ、なんやちょっと落ち込むわ」
「ふふっ、忍足も名無しさんのこととなるとクセ者具合が薄まっちゃうね」
「ハッ、言えてるな」
「跡部もだけどね」
「言えて……ハァ!?おい、待て。どさくさにまぎれて何言ってやがる」
「あはは」
おぉー、めっずらしー。
跡部と侑士がいつもとなんか違う。
なんていうか…普通っぽい?
おもしれー。
「ねぇ、向日」
「なんだ?」
「向日はどう思った?俺と名無しさんがイチャイチャしてたって聞いたとき」
副会長に改めて聞かれて、少し考える。
「どうって…そうだなー。
ビックリはしたけど、うーん…」
「嫌じゃなかった?」
「嫌?なんでだ?」
「なんでって…」
「お前がもしチャラい奴だったらめちゃくちゃ嫌だけど、違うし。真面目じゃん、お前」
「それだけ?」
「?
他に何があるんだよ。
とにかく俺は、ななしが軽い奴にテキトーに扱われるのが嫌なんだ。ななしを大事にする奴ならいいけどさ」
「…そっか。
向日はなんだか平和だね」
「???」
平和?
「どういう意味だ?」
「お子様だってことだ」
すかさず話に割り込んできた跡部の声。
「はぁ!?」
「お子様やってことや」
すかさず話に割り込んできた侑士の声。
「くり返すな!」
「お、俺はそういうつもりで言ったんじゃないんだけど…。ただまっすぐで向日らしいなと…」
「つまりはガキだってことだ」
「小学生みたいってことやな」
「誰が小学生だ!俺はガキなんかじゃねーぞ!」
「あははは…」
あー、くそくそ!
最後いっつもこうなるんだよなー。
けど…。
ななしと副会長がイチャイチャしてたっていうのが本当じゃなくて、ちょっと…。
嬉しいような気もする…ような?
なんでだろ?
うーん……。
「ねぇ、それより合宿での話をもっと聞かせてほしいな」
「アーン?もう話しただろうが」
「好きやなぁ、自分」
「まだ聞きたりないんだよ。楽しい話はいくら聞いても飽きないものだし。
向日、何かない?面白かったこととか、楽しかったこととか」
ななしのことを考えてる途中で副会長に話しかけられたから、合宿中のななしのことが反射的に思い浮かんだ。
その記憶の中にはななしが虫を怖がって、俺に抱きついてきたときのこともあって…。
「ん?向日、顔が赤くない?」
ドキッ!
「べっ、べつに!ぜ、全然平気だぜ!」
「そう?」
何も知らない副会長は、不思議そうに首をかしげてる。
そしてこの状態で、全てを知っている二人に勘づかれないはずもなく…。
「それはもう、とっておきの楽しいことがあったもんなぁ、岳人は」
!!!
「お、おい侑士!」
「とっておきの楽しいこと?」
「せや。
男なら一度は夢見るキラッキラの青春全開なことや。赤くもなるで」
「へぇ、なんだろう。ぜひ聞きたいな。
もしかして名無しさんも関わってる?」
「もちろんや。というよりむしろななしちゃんの要素しかないわ」
「そうなんだ。それはなんだか楽しそうな話だね。向日、俺にも教えてよ」
「い、イヤだ」
「じゃあ特別にこの俺様が教えてやる。俺はこの目で全て見ていたからな」
「跡部!?余計なことすんなよ!」
「いいじゃねぇか。
あれくらいのことでガタガタ騒ぎすぎなんだよ、お前は」
「あれくらいって…」
脳裏に浮かぶ、あのときのななし。
俺もビックリしてたから、はっきりとは覚えてないけど…。
ななしって、めちゃくちゃーー。
「ふふっ、また赤くなった」
!!!
「思い出して赤くなるとか、やらしいなぁ自分」
「ったく、あれっぽっちで。だからガキだと言ってるんだ」
「なんだかよく分からないけど、いいじゃない。向日らしくて。ふふっ」
「う、うるせーな!!ほっとけよ!!」
あー、くそくそ!
あのことはあんまり思い出さないようにしてたのに!
思い出すと、なんていうか…そわそわしちまうんだよなー。
ななしの顔を見るのが恥ずかしくなるっていうか、照れるっていうか…。
からかうように笑う三人をキッと睨みつけるも、顔に集まった熱はなかなか引いてくれそうにない。
だ、だって、しょうがねーじゃん!
あのことを“あれくらい”とか、“あれっぽっち”とか、俺はそんなふうには思えねーもん。
べっ、別にいいし!
俺は俺だし!
周りのことは、気にしない!
「ククク…」
「っははは」
「ふふふ」
~~~~~~~!
「笑うな!」
くそー!
やっぱ腹立つ!
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