新しい日常編
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『うー……、眠いよー……』
合宿から帰って来た、次の日の朝。
目覚まし時計とお母さんの声で強制的に起こされる。
きのうの夜は連絡先を交換したみんなとメッセージのやりとりをしていて、すっかり夜更かししてしまった。
みんなは大丈夫かなぁ。
ちゃんと起きられたかな。
そんなことを考えつつ、端末をチェックする。
すると、新しくメッセージが来ていた。
きのう寝る前にみんなとのやりとりは終えたはずで、今はまだ朝早い。
一体誰だろうと思いながら見てみると。
『あっ、木更津さんだ!』
もちろん、木更津さんとも深夜までやりとりをしていた。
早起きなんだなぁと感心しつつ確認すると、送られてきていたのは写真だった。
『うわぁ……!』
無意識に、声がもれる。
それは綺麗な海の写真だった。
ほんの少しピンクっぽいような、水色っぽいような、何色にも当てはまらない本当に綺麗な色の空と、誰もいない砂浜、誰もいない広い海。
『すごい……きれい……』
思わず、ポーッとしてしまう。
…これはもしかして、今朝の海の写真だろうか。
木更津さんは毎日早朝に海を見に行くと言っていたから、今日も行ったのかもしれない。
写真を撮るとまでは聞いてないけど…、もしかしてわざわざ撮ってくれたのかな?
のんきにそんなことを考えていたとき、私の名前を呼ぶお母さんの声が聞こえてきた。
『あーっ!ヤバイ!』
時間!!
は、早く準備しなきゃ!
家じゅうを転がりまわるように準備をして、朝ごはんを食べる。
よかった…、なんとか間に合いそう。
それにしても、さっきの写真、本当に綺麗だったなぁ…。
やっぱり木更津さんが撮ったのかな?
よく考えてみれば、さっきはあまりにも綺麗なその写真に目を奪われて、メッセージを見ていなかった。
メッセージには何か書かれているかもしれない。
脇に置いてあるカバンから端末を取り出して、確認してみる。
でもそこには写真に関する説明は無くて、たった3文字があっさりと並んでいるだけだった。
“おはよ”
………………。
か、簡潔すぎる…。
木更津さんらしいけど…。
…うーん、どうしよう。
誰が撮ったかはともかく、私も何か写真送りたいなぁ。
せっかくだし、朝らしい写真がいいな。
えーっと、えーっと…。
そう思い立って、考えを巡らせる。
朝らしい写真。
朝らしい写真……。
………あっ、そうだ!
今食べてるじゃん!
朝ごはん!
これならバッチリ!
もう半分くらい食べちゃったけど、まぁいっか!
私はいそいそと食べかけの朝食の写真を撮ってから、残りを急いで口に運んだ。
そして、昼休み。
今日のお昼ごはんは、鳳くん、宍戸先輩、日吉くんと一緒に私たちの教室で食べる約束をしている。
午前の授業が終わったから、鳳くんと
二人でみんなの分の席を用意し始めた。
『あぁ…まだお昼なのに、もう疲れちゃった…』
「た、大変だったね…朝から…」
今日は朝から合宿のことについて友達やクラスの子たちからいろいろと追求を受けていた。
どんな人が来てたのか、どんな事があったのかを、それはもう根掘り葉掘り…。
『あっ、そうだ!
ねぇ鳳くん、ちょっとこれ見て』
「ん?」
私はカバンの中から端末を取り出して、あの海の写真を見せた。
「うわー、綺麗だね。これどうしたの?」
『今朝、木更津さんが送ってくれたんだよ。たぶん木更津さんが撮ったんだと思う』
「えっ、木更津さんが?」
『うん、実はね…』
事の経緯を簡単に説明すると、鳳くんは感心したようにうなずいた。
「へぇ、木更津さんてロマンチストなんだね」
『本当にそうだよね。
それでね、私も写真を送ったんだー』
「そうなの?どんな?」
『えっとね…。
あっ、これだよ。ほら、見て見て~』
端末を鳳くんのほうに向けて、今朝撮った朝ごはんの写真を見せた。
「えっ、こ、これは…」
写真を見た瞬間、顔がひきつって固まる鳳くん。
『?
私の今日の朝ごはんだよ』
「朝ごはん…」
『うん、そう』
「食べかけ…だね」
『うん、そう』
「………………」
『?』
「………………………ププッ」
『!?』
い、今…笑ったような…?
よく状況が飲み込めずにいると、そこに宍戸先輩と日吉くんが来た。
「よう、来たぜ」
「?何見てるんだ、お前ら」
『あ、うん…』
笑いをかみ殺しているらしい鳳くんを不思議に思いつつ、今度は二人に写真を見せる。
すると、二人はけげんな表情で口をそろえた。
「なんだよ、これ」
「なんだこりゃ」
『えっと、これは……』
まさか私はおかしな写真を撮って送ってしまったのだろうかという疑念を胸に抱きつつも、ここに至る経緯を二人に説明した。
すると、宍戸先輩は笑いを堪えきれない様子で顔をそらして口もとを抑え、日吉くんはあきれたようにため息をついた。
「…お前、バカじゃないのか」
『えっ!そ、そんなに変かな…?』
「変かな…?じゃない。変だ。むしろ変でしかない」
『えぇ!?』
「今ごろ木更津さんも他の誰かにこのバカ写真を見せて、みんなで笑ってるだろうぜ」
『えー!』
「いや、笑ってるならまだマシか。
あきれてるか引いてるか…」
『えー、そんなのイヤだよ!どうしよう?!』
私は日吉くんの言葉を信じたくなくて、慌てて鳳くんと宍戸先輩に目をやる。
だけどやっぱり二人ともさっきと同じ様子で…。
『そんなに…おかしいんだ…。
うぅ、どうしよう。恥ずかしいよ…』
「だ、大丈夫だよ、名無しさん!……………プッ」
「そ、そうだぜ!いいじゃねぇか、朝らしくて!……………プッ」
…やっぱりすごく変みたい……。
「いつもお前の味方でいてくれるこの二人ですらこうなんだ、あきらめろ」
『うぅ…』
「だいたい、あの海の写真にこの食べかけの朝食の写真なんかよく送れるよな。
あぁ、一応言っておくが朝食の内容が悪いんじゃないぜ。寝坊したのがバレバレの、食べ散らかした状態なのが問題なんだからな」
『えっ、そんなことまで分かるの!?』
「当たり前だ。…ほら、ここ見てみろ」
日吉くんが端末を私の前にかざして、指を指す。
「ここにも、ここにも。あと…ここにも。ごはん粒とか野菜の欠片が落ちてるだろ。
お前は普段の食べ方が汚いわけでもないのにこうなってるってことは、寝坊して急いでいた以外にない。
どうせ合宿で知り合った人たちと遅くまでメッセージのやりとりでもしてたんだろ」
何から何までバレている……。
この調子じゃきっと木更津さんにも……。
「…………。
…そもそも、なんで木更津さんはお前にこんな写真送ったりしてきたんだ」
ひとりごとみたいな日吉くんのその声に、一応答える。
『それはさっき言ったとおりだよ?
合宿のときにそういう話になったから、覚えててくれて』
「……………」
日吉くんは木更津さんが送ってくれた写真をジッと見つめる。
「…たったそれだけでわざわざこんな写真撮って送ったりするか?普通」
つぶやきながら眉間にシワをよせる日吉くんの様子を見ていて、ピンときた。
『分かった!日吉くんも海の写真が欲しいんだね?』
「……は?」
『だったらそう言えばいいのに。木更津さんにお願いすれば日吉くんにも送ってくれるよ。
これからもまた撮って送ってくれるかもしれないし、私から伝えておこうか』
私にしては珍しく気のきいたことを言ったつもりだったけど、日吉くんの眉間のシワは消えない。
「…いらない。
お前ももういらないって言えよ」
『え、なんで?』
「似合わないだろ」
『そういう問題!?
嫌だよ、私はもっと見たいもん』
「……フン、そうかよ」
なぜか不機嫌になった日吉くんに首をかしげつつ、ようやく笑いが収まったらしい宍戸先輩、鳳くんと4人でお昼ごはんを食べ始めたのだった。
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