合同合宿編
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他校のみんなを見送って、私たちもいよいよ帰路につく。
ここに来たときと同じ大きなバスが、玄関前につけられた。
みんなを見送る前には寂しい気持ちが胸いっぱいにあったけど、今はもうずいぶん落ち着いていた。
寂しいと正直に言葉にした事、同じようにそう言ってくれた人たちがいた事、そして何より…みんなと話しているうちに必ずまた会えると心から思えた事、そのおかげだと思う。
大きな荷物をみんなで協力してバスに積み込む。
あとは私たちがバスに乗るだけだ。
私、帰りはどこに座ろうかな。
疲れてて寝ちゃうかもしれないし、一人のほうがいいかも…。
そんなことを考えていると、後ろから腕をグイッとつかまれた。
「ねぇねぇ、ななしちゃん。
帰りも一緒に座ろ?」
『あ、芥川先輩…』
ニッコニコの芥川先輩が私に笑いかける。
ど、どうしよう。
なんとなく、ちょっとまだ…芥川先輩と二人になるのは恥ずかしい。
ミーティングでの事は、深い意味は無かったんだと分かってるけど…。
「ななしちゃん?ダメ?」
うっ…。
先輩は何も悪くない…。
でもやっぱり…。
「ジロー、今回は諦めたほうがええで。先約がおるからな」
「A~?」
『あっ、忍足先輩』
先約?
…って、誰?
私、そんな約束なんてしてないけど…。
戸惑っている私をよそに、忍足先輩は辺りを見回すと、少し離れたところで宍戸先輩と話していた鳳くんを強引に引っ張ってきた。
「ななしちゃんは鳳と一緒に座る約束しとるんや。なぁ、鳳?」
急に話をふられた鳳くんは、えっ、と言って目を丸くした。
「俺、そんな約束してませーー」
「しとるよな?」
「えっ?あ、あの…?」
「しとるよな??」
「は、はい…、してます…」
「と、いうわけや、ジロー」
鳳くん…、めちゃくちゃ目が泳いでる…。
忍足先輩が私のために芥川先輩を遠ざけようとしてくれたんだと、ようやく悟る。
先輩に気を遣わせてしまって申し訳ないと思うと同時に、鳳くんはこういう嘘が苦手だから、鳳くんに対しても悪いことをしちゃったなと思った。
「さぁ、ジローは俺と座ろか」
「A~、忍足となんてイヤだC~」
「…ハッキリ言うなぁ、自分。
俺かて人並みに傷つくんやで」
「イヤなものはイヤだC~」
「…………………」
…すみません、忍足先輩………。
ポツンと残された鳳くんと私は、顔を見合わせてアハハ…と笑った。
「えーっと……」
『巻き込んじゃってごめん…、鳳くん』
「えっ、いいよ、気にしないで。俺のほうこそ状況をすぐ飲み込めなくてごめん。
それで…本当に一緒に座る?」
『うん、鳳くんさえよければ』
「いいに決まってるよ。
じゃあ、一緒に座ろっか」
鳳くんは私の乗り物酔いとかを気にかけつつ、座席を選んでくれた。
全員乗り込んだのを跡部先輩が確認して、バスが動き出す。
私は窓から合宿所を見て、心のなかでお礼を言った。
ここで過ごして得たものは、かけがえのない大切なものだから…。
「名無しさん、その…大変だったね、いろいろと」
鳳くんがおそるおそる、という感じでそう言った。
たぶん、芥川先輩と千石さんとのことを言ってるんだと思う。
『う、うん…そうだね。あはは…』
当たり前だけど一連の出来事は全部鳳くんにも見られていたわけで、今さらかもしれないけどやっぱり恥ずかしい。
「ごめんね。
名無しさんが戸惑ってるって分かってたのに、俺びっくりするだけで何もできなくて」
『えっ』
「後から考えたら、情けないなと思ったんだ。
もっと頼って、みたいなことを合宿前に自分から言ったのに」
まさか鳳くんがそんなことを考えているとは夢にも思わず、すぐには言葉が出なかった。
鳳くんは本当に優しいから、こんなふうに自分を責めるほうに考えてしまうんだと思う。
『鳳くん、絶対にそんなことないよ。
私、鳳くんが頼ってって言ってくれて、すごく心強かった。
この合宿中だって鳳くんが同じ場所にいると思うから、安心できたし。
だから、ずっと鳳くんに頼ってたようなものだよ』
本当にそうだった。
合宿中はお互いにやるべき事があっていつもみたいには話したりできなかったけど、鳳くんが頑張っている姿を見かけると、それだけでなんだかホッとしたし元気づけられた。
「…ありがとう、名無しさん。
俺も、名無しさんが合宿に来てくれたから、いつもの合宿より気合いが入ったよ。
名無しさんが頑張ってるのを見ただけで、俺も頑張ろう!って自然とそんな気持ちになれたんだ」
『鳳くん…。そっか、ありがとう。
そう言ってもらえて嬉しい』
「ううん、俺のほうこそ。
名無しさんにそんなふうに思ってもらえてたなんて、嬉しいよ。ありがとう」
なんとなく気恥ずかしくなって、鳳くんと二人、照れ笑いを浮かべた。
それから鳳くんといろんな事を話した。
合宿中のこと、これからのこと…。
やっぱり鳳くんとは何を話していても楽しくて、落ち着いた。
次から次へと言いたいことや聞きたいことが口をついて出てきて、あっという間に時間が過ぎて、バスに揺られているうちにふと気がつくと私は強い眠気に襲われていた。
ふわぁ…、とあくびが出る。
あぁ、やっぱり眠くなっちゃった…。
「眠い?」
隣からクスッと笑う声がした。
『あっ、ごめん。あくびしたりして…』
「ううん。疲れてるときにバスの揺れは眠くなっちゃうよね。
何かあったら起こしてあげるから、よかったら寝てて?」
『えっ、でも…』
正直、すごく眠い。
鳳くんの言うとおり、疲れとバスの揺れ、そして一緒にいるのが鳳くんだから、余計に眠くなるんだと思う。
すっかり安心しちゃって…。
でも一人で眠りこけていいのだろうか…隣に座った鳳くんに失礼なんじゃ…。
それにもしかしたら、いびきかいたり、最悪の場合ヨダレたらしちゃったりするかもしれないし…。
そもそも寝顔を見られてしまうこと自体が恥ずかしい。
「本当に俺のことは気にしないで。ね?」
『う、うん。ありがとう…。
実はさっきからもう眠くて眠くて…。
お言葉に甘えて寝ちゃってもいい?』
「もちろんだよ」
『ありがとう。それじゃ…』
「おやすみ、名無しさん」
『おやすみ…、鳳くん…』
鳳くんの、繊細で穏やかな声を聞きながら目を閉じる。
すると、不思議とヨダレやら寝顔やらいろいろと考えていたことがあまり気にならなくなってしまった。
鳳くんにだったら、ちょっとみっともないところを見られてもいいと思う。
鳳くんならきっと、分かってくれるから…。
そして、またたく間に私は深い眠りに落ちていったのだった。
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